グレープフルーツ果実エキスとは…成分効果と毒性を解説


・グレープフルーツ果実エキス
[医薬部外品表示名]
・グレープフルーツエキス
ミカン科植物グレープフルーツ(学名:Citrus grandis = Citrus Paradisi 英名:grapefruit)の果実から水、エタノール、BG、またはこれらの混液で抽出して得られる抽出物(植物エキス)です。
グレープフルーツは、18世紀に西インド・バルバトス島に生じた自然雑種であり、1810年に米国フロリダ州に伝わったことをきっかけに米国を中心にイスラエル、アルゼンチン、キプロスなどで栽培されはじめ、現在は主に中国、米国、ベトナム、メキシコなどで栽培されています(文献1:2017;文献2:2019)。
日本においては主に静岡県浜松市で栽培されていますが、国内で供給されているグレープフルーツのほとんどはフロリダ州や南アフリカからの輸入に依存しています(文献1:2017;文献3:2020)。
グレープフルーツ果実エキスは天然成分であることから、地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、
分類 | 成分名称 | |
---|---|---|
糖質 | 少糖 | スクロース |
単糖 | フルクトース、グルコース | |
有機酸 | クエン酸、リンゴ酸 | |
ビタミン | アスコルビン酸 | |
アミノ酸 | アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン など | |
フラボノイド | フラバノン | ナリンギン(苦味成分) |
これらの成分で構成されていることが報告されています(文献1:2017;文献4:2016)。
グレープフルーツ果実の化粧品以外の主な用途としては、食品分野において生食として用いられるほか、絞り汁がジュースやカクテル・サワーなどに用いられています(文献1:2017)。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ製品、シート&マスク製品、洗顔料、クレンジング製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、ボディソープ製品など様々な製品に汎用されています。
また、フルーツ(果物)、シトラス(柑橘類)またはグレープフルーツをコンセプトにした製品にも配合されています。
皮表柔軟化による保湿作用
皮表柔軟化による保湿作用に関しては、まず前提知識として皮膚最外層である角質層の構造と役割について解説します。
直接外界に接する皮膚最外層である角質層は、以下の図のように
天然保湿因子を含む角質と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造となっており、この構造が保持されることによって、外界からの物理的あるいは化学的影響から身体を守り、かつ体内の水分が体外へ過剰に蒸散していくのを防ぐとともに一定の水分を保持する役割を担っています(文献5:2002;文献6:2001)。
一方で、老人性乾皮症やアトピー性皮膚炎においては、角質細胞中のアミノ酸などの天然保湿因子が顕著に低下していることが報告されています(文献7:1989;文献8:1991)。
このような背景から、皮表を柔軟化することは肌の乾燥の改善ひいては皮膚の健常性の維持につながると考えられています。
グレープフルーツ果実エキスは、フルクトース、グルコース、スクロースなど糖類の含有量が多いことから、皮膚を柔軟化する保湿効果を目的としてスキンケア製品、ボディケア製品、ハンドケア製品、メイクアップ製品、シート&マスク製品、洗顔料、クレンジング製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、ボディソープ製品など様々な製品に使用されています(文献9:2012;文献10:2020)。
また、2000年に丸善製薬によって報告されたグレープフルーツ果実エキスのヒト皮膚に対する影響検証によると、
入浴直後の皮膚へのしっとり感および2週間後の肌のつやとかさつきについての評価として「スコア5:非常に良い」「スコア4:良い」「スコア3:普通」「スコア2:悪い」「スコア1:非常に悪い」の5段階スコアを合計し平均値を算出したところ、以下の表にように、
試料 | 被検者数 | 入浴直後(平均点) | 2週間後(平均点) | |
---|---|---|---|---|
しっとり感 | 肌のツヤ | 肌のかさつき | ||
グレープフルーツ果実エキス配合入浴剤 | 10 | 4.2 | 4.7 | 4.6 |
入浴剤のみ(対照) | 10 | 3.3 | 3.0 | 3.2 |
5%グレープフルーツ果実エキス配合入浴剤投入グループは、未配合入浴剤投入グループと比較して優れた保湿効果を示した。
このような試験結果が明らかにされており(文献11:2000)、グレープフルーツ果実エキスに皮表柔軟化による保湿作用が認められています。
ただし、この試験データは入浴剤としての保湿作用であり、グレープフルーツ果実エキスの皮膚塗布に対する保湿効果を裏付ける試験データはみつけられておらず、みつかりしだい追補します。
効果・作用についての補足 – 収れん作用について
グレープフルーツ果実エキスは、収れん作用を有していると複数の事典に記載されており(文献9:2012;文献10:2020)、その収れん作用が主に有機酸の一種であるクエン酸に起因するものであると考えられます。
ただし、実際の収れん性に関するヒト有用性試験がみあたらないため、収れん作用の記載は保留とし、試験データがみつかりしだい確定情報として追補します。
複合植物エキスとしてのグレープフルーツ果実エキス
グレープフルーツ果実エキスは、他の植物エキスとあらかじめ混合された複合原料があり、グレープフルーツ果実エキスと以下の成分が併用されている場合は、複合植物エキス原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | フルーツリンクルプロテクトエッセンス |
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構成成分 | サンザシエキス、ナツメ果実エキス、グレープフルーツ果実エキス、リンゴ果実エキス、オレンジ果汁、レモン果汁、ライム果汁 |
特徴 | よどみのないフレッシュな肌への生まれ変わりをコンセプトとし、表皮角化細胞の増殖促進による表皮ターンオーバーの向上、CE強化因子産生促進によるバリア機能の向上、メラノサイト活性化因子の発現抑制による色素沈着抑制、h-BD3発現促進によるニキビの防止といった異なる作用で新鮮な肌(健常な皮膚)への生まれ変わりに総合的にアプローチする7種類の植物抽出液 |
原料名 | citrolumine8 |
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構成成分 | グリセリン、水、レシチン、グレープフルーツ果実エキス、ビターオレンジ果実エキス、アスコルビン酸Na、トコフェロール、ヒマワリ種子油 |
特徴 | チロシナーゼ活性阻害による色素沈着抑制作用および皮膚明度向上効果を有する2種類の柑橘果実から抽出した高濃度シトロフラボノイドをリポソーム化した化粧品原料 |
実際の使用製品の種類や数および配合量は、海外の2013-2015年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
グレープフルーツ果実エキスの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
- [ヒト試験] 206名の被検者の背中に0.16%グレープフルーツ果実エキスを含むトナー0.15mLを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、この試験物質は皮膚刺激および皮膚感作を誘発しなかった(Product Investigations Inc,2006)
- [in vitro試験] 正常ヒト表皮角化細胞によって再構築された3次元培養表皮モデル(EpiDerm)を用いて、角層表面に100%グレープフルーツ果実エキスを処理したところ、皮膚刺激性は予測されなかった(Active Concepts,2014)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、共通して皮膚刺激および皮膚感作性なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
- [in vitro試験] 正常ヒト表皮角化細胞によって再構築された3次元培養角膜モデル(EpiOcular)を用いて、モデル角膜表面に100%グレープフルーツ果実エキスを処理したところ、眼刺激性は予測されなかった(Active Concepts,2014)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、眼刺激性なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。
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グレープフルーツ果実エキスは保湿成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
参考:保湿成分
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参考文献:
- 杉田 浩一, 他(2017)「グレープフルーツ」新版 日本食品大事典,248.
- 中央果実協会(2019)「グレープフルーツ・ブンタン」, <http://www.japanfruit.jp/Portals/0/resources/JFF/kaigai/jyoho/jyoho-pdf/KKNJ_138.pdf> 2021年2月7日アクセス.
- 静岡県(2020)「グレープフルーツの栽培面積、収穫量、出荷量日本一」, <http://www.pref.shizuoka.jp/j-no1/gure-puhuru-tu.html> 2020年1月30日アクセス.
- H. Zheng, et al(2016)「Determination of sugars, organic acids, aroma components, and carotenoids in grapefruit pulps」Food Chemistry(205)(5),112-121.
- 朝田 康夫(2002)「保湿能力と水分喪失の関係は」美容皮膚科学事典,103-104.
- 田村 健夫, 他(2001)「表皮」香粧品科学 理論と実際 第4版,30-33.
- I Horii, et al(1989)「Stratum corneum hydration and amino acid content in xerotic skin」British Journal of Dermatology(121)(5),587-592.
- M. Watanabe, et al(1991)「Functional analyses of the superficial stratum corneum in atopic xerosis」Archives of Dermatology(127)(11),1689-1692.
- 鈴木 一成(2012)「グレープフルーツ果実エキス」化粧品成分用語事典2012,264-265.
- 宇山 侊男, 他(2020)「グレープフルーツ果実エキス」化粧品成分ガイド 第7版,110.
- 丸善製薬株式会社(2003)「浴用剤組成物」特開2003-026562.
- Cosmetic Ingredient Review(2015)「Safety Assessment of Citrus Fruit-Derived Ingredients as Used in Cosmetics」Final Report.