キイチゴエキスとは…成分効果と毒性を解説





・キイチゴエキス
[医薬部外品表示名称]
・キイチゴエキス
バラ科植物キイチゴ(学名:Rubus idaeus 英名:raspberry)の果実から水で抽出して得られるエキスです。
キイチゴエキスは天然成分であることから、国・地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、
などで構成されています(文献1:2006;文献2:2011)。
キイチゴ(ラズベリー)は、ヨーロッパを原産とし、果樹として広く栽培されており、ジャムやジュースなどによく用いられています。
キイチゴの果実には、ビタミンやミネラルのほか、ルテイン、エラグ酸、アントシアニンなどのポリフェノールが含まれています(文献2:2011)。
2002年にはクラシエホールディングスによって、キイチゴの果実の香気成分であるラズベリーケトンに脂肪燃焼効果があることが発見され、ダイエット素材として注目されています(文献2:2011)。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、スキンケア化粧品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ化粧品、洗顔料、洗浄製品、シート&マスク製品など様々な製品に使用されます(文献1:2006;文献3:1999;文献7:2001;文献8:2013)。
一酸化窒素(NO)およびスーパーオキシド(O₂⁻)抑制による抗酸化作用
一酸化窒素(NO)およびスーパーオキシド(O₂⁻)抑制による抗酸化作用に関しては、まず前提知識として一酸化窒素(NO)およびスーパーオキシド(O₂⁻)について解説します。
スーパーオキシド(O₂⁻)は、体内で発生する代表的な活性酸素のひとつで、具体的には以下のように、
酸素(O₂) → スーパーオキシド(O₂⁻) → 過酸化水素(H₂O₂) → ヒドロキシラジカル(・OH)
活性酸素がより強力になっていく過程の最初に発生します。
スーパーオキシド(O₂⁻)は、最初に大量に発生する活性酸素でエネルギーの産生の過程で必然的に発生しますが、発生したスーパーオキシドは活性酸素分解酵素であるSOD(スーパーオキシドジスムターゼ)によって水に分解され、その過程で分解しきれない場合に過酸化水素が発生します。
ただし、30代になると活性酸素分解酵素の発現が減少することが明らかになっており、活性酸素を分解しきれずに活性酸素が強力になっていきやすくなります。
一酸化窒素(NO)は、反応性の高い活性酸素・フリーラジカルのひとつで、生体内においても産生されており、低濃度の場合は一酸化窒素受容体である可溶性グアニル酸シクラーゼに結合することにより、血管拡張、殺菌、神経伝達などの生理作用を発揮しますが、紫外線により発生が増えると、持続的に発生し、メラニン生合成を促進するチロシナーゼの活性を促進することが明らかになっています(文献3:1999;文献4:-;文献6:1997)。
1999年にクラシエホールディングス(旧カネボウ)によって報告されたラズベリー果実中に含まれるメラノジェネシス抑制物質の研究によると、
メラニン生合成(メラノジェネシス)を誘発することが示唆されている一酸化窒素に着目し、ラズベリーケトンを用いて一酸化窒素の発生に及ぼす影響を調べたところ、ラズベリーケトンには一酸化窒素の捕捉効果が認められた。
次にラズベリーケトンの活性酸素スーパーオキシドの抑制効果を調べたところ、以下のグラフのように、
ラズベリーケトンは濃度依存的にスーパーオキシド抑制効果を有することがわかった。
また、脂質の可酸化効果の認められた。
このような研究結果が明らかにされており(文献3:1999)、キイチゴエキスに含まれるラズベリーケトンに一酸化窒素およびスーパーオキシド抑制による抗酸化作用が認められています。
キイチゴエキスに含まれる成分はラズベリーケトングルコシドですが、ラズベリーケトングルコシドはヒト表皮中に存在する分解酵素であるβ-グルコシターゼによってラズベリーケトンに分解され、皮膚中でラズベリーケトンとしての効果を発揮することが明らかにされており、またラズベリーケトングルコシドを塗布した場合でも皮膚角質層で同様に分解されることが確認されています(文献3:1999)。
チロシナーゼ活性抑制による色素沈着抑制作用
チロシナーゼ活性抑制による色素沈着抑制作用に関しては、まず前提知識としてメラニン生合成のメカニズムおよびチロシナーゼについて解説します。
以下のメラニン合成の構造図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、
紫外線を浴びるとまず最初に活性酸素が発生し、様々な情報伝達物質(メラノサイト活性化因子)をメラノサイトで発現するレセプター(受容体)に届けることで、メラノサイト内でメラニンの生合成がはじまり、ユーメラニン(黒化メラニン)へと合成されます。
メラノサイト内でのメラニン生合成は、まずアミノ酸であるチロシンに活性酵素であるチロシナーゼが結合することでドーパ、ドーパキノンへと変化し、最終的に黒化メラニンが合成されます。
キイチゴエキスのラズベリーケトンには一酸化窒素(NO)およびスーパーオキシド(O₂⁻)抑制による抗酸化作用で解説したように、一酸化窒素消去能が認められており、また紫外線による一酸化窒素の持続的な発生は、チロシナーゼの活性を促進することが明らかにされています。
1999年にクラシエホールディングス(旧カネボウ)によって報告されたラズベリー果実中に含まれるメラノジェネシス抑制物質の研究によると、
一酸化窒素を活性化させるSNAP(200μM)をヒト正常メラノサイトに添加した後、1,10および100μg/mLのラズベリーケトンを添加し、一酸化窒素の刺激により活性化されるチロシナーゼ活性を調べたところ、以下のグラフのように、
ラズベリーケトンは、濃度依存的にチロシナーゼ活性の上昇を抑制することがわかった。
このような研究結果が明らかにされており(文献7:2001)、キイチゴエキスに含まれるラズベリーケトンに濃度依存的にチロシナーゼ活性抑制作用が認められています。
エラスターゼ活性阻害による抗老化作用
エラスターゼ活性阻害による抗老化作用に関しては、まず前提知識として皮膚における真皮の構造と役割とエラスチンおよびエラスターゼについて解説します。
以下の皮膚の構造図をみてもらうとわかるように、
皮膚は大きく表皮と真皮に分かれており、表皮は主に紫外線や細菌・アレルゲン・ウィルスなどの外的刺激から皮膚を守る働きと水分を保持する働きを担っており、真皮はプロテオグリカン(ヒアルロン酸およびコンドロイチン硫酸含む)・コラーゲン・エラスチンで構成された細胞外マトリックスを形成し、水分保持と同時に皮膚のハリ・弾力性に深く関与しています。
エラスチンは、2倍近く引き伸ばしても緩めるとゴムのように元に戻る弾力繊維で、コラーゲンとコラーゲンの間にからみあうように存在し、コラーゲン同士をバネのように支えて皮膚の弾力性を保っています(文献9:2002)。
エラスターゼは、エラスチンを分解する酵素であり、通常はエラスチンの産生と分解がバランスすることで一定のコラーゲン量を保っていますが、皮膚に炎症や刺激が起こるとエラスターゼが活性化し、エラスチンの分解が促進されることでエラスチンの質的・量的減少が起こり、皮膚老化の一因となると考えられています。
このような背景から、皮膚のハリ・弾力を維持するエラスチンの変性を防止をするためにエラスターゼの活性を抑制することは重要であると考えられます。
2013年に公開された技術情報によると、
エラスターゼを基質として様々な処理をし、ヒト由来エラスターゼを添加した後に各試料を添加し、エラスターゼ活性を測定したところ、以下の表のように、
キイチゴエキスは、エラスターゼ活性阻害効果が認められた。
次に、キイチゴエキスにヒドロキシプロリンを併用して同様の試験を行ったところ、以下の表のように、
ヒドロキシプロリンは、単体ではエラスターゼ活性を増加させますが、キイチゴエキスとヒドロキシプロリンの併用することによって、エラスターゼ活性阻害の相乗効果が示された。
なお配合量は、0.000001%未満であると効果が十分に発揮されず、1%を超えると製剤化が難しいため、好ましくは0.00001%-0.1%、より好ましくは0.0001-0.01%、最も好ましくは約0.01%である。
このような研究結果が明らかにされており(文献8:2013)、キイチゴエキスにエラスターゼ活性阻害による抗老化作用が認められています。
また、キイチゴエキスとヒドロキシプロリンの併用によって、エラスターゼ活性阻害の相乗効果が認められています(文献8:2013)。
キイチゴエキスの安全性(刺激性・アレルギー)について
ただし、詳細な試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚刺激および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
眼刺激性について
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。
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キイチゴエキスは保湿成分、美白成分、抗酸化成分、抗老化成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
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文献一覧:
- 日光ケミカルズ(2006)「植物・海藻エキス」新化粧品原料ハンドブックⅠ,367.
- 鈴木 洋(2011)「ラズベリー」カラー版健康食品・サプリメントの事典,193-194.
- 横田 朋宏, 他(1999)「ラズベリー果実中に含まれる新規なメラノジェネシス抑制物質について」Fragrance Journal(27)(6),81-84.
- 當舍 武彦, 他(-)「生体内の一酸化窒素動態:NOの産生、授受、消去システムの構造機能解析」, <http://www.riken.jp/lab-www/spectroscopy/MolecularSystem/pdf/seitai_25.pdf> 2018年9月20日アクセス.
- Roméro-Graillet C, et al(1997)「Nitric oxide produced by ultraviolet-irradiated keratinocytes stimulates melanogenesis.」The Journal of Clinical Investigation(99)(4),635–642.
- Weller R, et al(1997)「Nitric oxide–a newly discovered chemical transmitter in human skin.」British Journal of Dermatology(137)(5),665-672.
- 横田 朋宏, 他(2001)「ラズベリーケトングルコシドの持続的美白効果」日本化粧品技術者会誌(35)(2),120-126.
- 株式会社資生堂(2013)「エラスターゼ阻害剤」WO2012017555.
- 朝田 康夫(2002)「真皮の構造は」美容皮膚科学事典,30.
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