カリンエキスとは…成分効果と毒性を解説

保湿 抗炎症
カリンエキス
[化粧品成分表示名称]
・カリンエキス

[医薬部外品表示名称]
・カリンエキス

バラ科植物カリン(学名:Pseudocydonia sinensis = Chaenomeles sinensis 英名:Chinese quince)の果実からエタノールBG、またはこれらの混液で抽出して得られる抽出物植物エキスです。

カリン(花梨)は中国を原産とし、現在も主に原産地の中国で栽培されており、日本においては元禄時代(1688-1704年)に中国から渡来し、現在では主に山形県、香川県、愛媛県などで栽培されています(文献1:2017;文献2:2018;文献3:-)

カリンエキスは天然成分であることから、地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、

分類 成分名称
糖質 単糖 フルクトース
少糖 スクロース
有機酸 クエン酸リンゴ酸酒石酸
フラボノイド フラボノール ルチン
フラバノール カテキン、エピカテキン
フェニルプロパノイド クロロゲン酸

これらの成分で構成されていることが報告されています(文献2:2018;文献4:2016)

カリン果実(生薬名:光皮木瓜)の化粧品以外の主な用途としては、食品分野において砂糖漬け(シロップ漬け)、蜂蜜漬け、ジャム、果実酒(カリン酒)などに用いられ(文献1:2017;文献2:2018)、漢方分野においては湿(∗1)を除き筋肉の緊張を緩める効能から筋肉けいれんやリウマチの麻痺、脚気などに用いられます(文献5:2016)

∗1 湿とは、体内に滞留する水分のうち最も濃度や密度が薄いものを指します。体内で発生したものは内湿といい、主に胃腸に作用し泥状便で残便感があったり、ガスが腸内に滞留して腹脹および食欲不振などの症状を呈し、湿度の高い環境に起因する外湿は、身体の表面に滞留し、四肢倦怠や軽い浮腫といった症状を呈します(文献6:2016)。

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、スキンケア化粧品、メイクアップ化粧品、化粧下地製品、シート&マスク製品、ボディケア製品、洗顔料、洗顔石鹸、クレンジング製品、ボディソープ製品などに使用されています。

皮表柔軟化による保湿作用

皮表柔軟化による保湿作用に関しては、まず前提知識として皮膚最外層である角質層の構造と役割について解説します。

直接外界に接する皮膚最外層である角質層は、以下の図のように

角質層の構造

天然保湿因子を含む角質と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造となっており、この構造が保持されることによって、外界からの物理的あるいは化学的影響から身体を守り、かつ体内の水分が体外へ過剰に蒸散していくのを防ぐとともに一定の水分を保持する役割を担っています(文献7:2002;文献8:2001)

一方で、老人性乾皮症やアトピー性皮膚炎においては、角質細胞中のアミノ酸などの天然保湿因子が顕著に低下していることが報告されています(文献9:1989;文献10:1991)

このような背景から、皮表を柔軟化することは肌の乾燥の改善ひいては皮膚の健常性の維持につながると考えられています。

2000年に資生堂によって報告されたカリンエキスの肌荒れにおける影響検証によると、

以下の判定基準に基づいて肌荒れと判断された60人(5-50歳)の女性被検者のうち20人に2%カリンエキス(50%エタノール抽出)配合化粧水を、別の20人に1%カリンエキス配合化粧水を1日1回2週間にわたって顔面に塗布してもらい、別の20人には対照としてカリンエキス未配合化粧水を同様に塗布してもらった。

2週間後に肌荒れ改善レベルとして「レベル5:皮溝・皮丘が鮮明で整っている」「レベル4:皮丘が鮮明」「レベル3:皮溝・皮丘は認められるが、平坦」「レベル2:皮溝・皮丘が不鮮明、角層のめくれが認められる」「レベル1:皮溝・皮丘の消失、広範囲の角層のめくれが認められる」の5段階で評価したところ、以下の表のように、

試料 濃度(%) 被検者数 肌荒れレベル
5 4 3 2 1
カリンエキス配合化粧水 2.0 20 2 9 6 3 0
1.0 20 2 6 8 4 0
化粧水のみ(対照) 20 0 2 8 7 3

1%濃度以上のカリンエキス配合化粧水は、肌荒れの改善に対して良好な効果が確認された。

このような試験結果が明らかにされており(文献11:2000)、カリンエキスに肌荒れ改善効果が認められています。

カリンエキスの肌荒れ改善効果は、皮膚にうるおいを付与する保湿効果であると考えられます(文献12:2012;文献13:2020)

リパーゼ阻害による抗炎症作用

リパーゼ阻害による抗炎症作用に関しては、まず前提知識として皮膚常在菌、アクネ菌およびリパーゼについて解説します。

皮膚表面および皮脂腺開口部には多数の微生物が存在しており、その中でも健康なヒトの皮膚に高頻度で検出される病原菌をもたない微生物を皮膚常在菌と呼んでいます(文献14:1986;文献15:1994)

健常な皮膚表面およびの主な皮膚常在菌の種類としては、20-69歳までの健常女性84人の頬より菌を採取し分離同定したところ、以下の表のように(∗2)

∗2 好気性とは、酸素を利用した代謝機構を備えていること、嫌気性とは増殖に酸素を必要としない性質のことです。

分類 名称 性質 検出率(%)
グラム陽性桿菌 アクネ菌(cutibacterium acnes) 嫌気性 100.0
グラム陽性球菌 表皮ブドウ球菌(staphylococcus epidermidis) 好気性 79.1
グラム陽性細菌 ミクロコッカス属(micrococcus) 好気性 41.2
グラム陽性球菌 黄色ブドウ球菌(staphylococcus aureus) 好気性 8.7
グラム陽性細菌 枯草菌(bacillus subtilis) 好気性 6.1

すべての人からアクネ菌が検出され、次いで表皮ブドウ球菌が79.1%の人から検出されたことから、これらが主要な皮膚常在菌であると考えられます(文献15:1994)

皮膚常在菌の平均的な菌数については、被検者の頬1c㎡あたりの平均菌数を検討したところ、以下のグラフのように、

健常皮膚における皮膚常在菌の平均数

最も多く検出されたのはアクネ菌、次いで表皮ブドウ球菌であり(文献15:1994)、この試験結果は従来の試験データ(文献14:1986)とも同様であることから、一般に健常な皮膚状態かつこれらの皮膚常在菌が存在する場合はこれらの皮膚常在菌が大部分を占めていると考えられます。

皮膚常在菌は、皮膚上の皮表脂質(∗3)やアミノ酸などを生育のための栄養源とし、1000種もの菌がお互いに競合と調和関係を構築しながら安定した叢(フローラ)を形成することで、通常は病原性を示すことなく、むしろ外部からの病原菌の侵入を防ぐ一種のバリア機能を発揮していると考えられています(文献14:1986;文献16:2018)

∗3 皮表脂質とは、皮脂腺から分泌される皮脂と表皮細胞由来の脂質であるコレステロール類が皮膚表面で混合したものをいいます。

アクネ菌は嫌気性菌であり、酸素のある環境ではほとんど増殖できないため、毛穴や皮脂腺に存在しており、皮脂分解酵素であるリパーゼ(lipase)を産生・分泌し、皮表脂質の構成成分であるトリグリセリドを脂肪酸とグリセリンに分解することによって皮膚を弱酸性に保ち、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)など病原性の強い細菌の増殖を抑制する役割を担っています(文献17:2011)

一方で、以下のニキビ(尋常性ざ瘡)(∗4)の種類・重症度図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、

∗4 ざ瘡とは、毛を包んでいる毛包と呼ばれる細長い管に生じる様々な炎症を伴った症状の総称であり、尋常性ざ瘡とはニキビの学術的な名称であり、いろいろなざ瘡の中で最も一般的な標準型という意味です(文献18:2002)。

ニキビの種類・重症度

様々な要因から皮脂の分泌量が過剰に増えることにより、毛穴開口部の角層が硬くなって毛穴を塞ぐことや角質細胞と脂質の混合物が毛穴に詰まり狭められて皮脂が溜まることなど、酸素が少なく栄養が多いアクネ菌にとって理想的な環境となった場合に、アクネ菌が過剰に増殖することが知られています。

アクネ菌が増殖するメカニズムとしては、アクネ菌がリパーゼを分泌しトリグリセリドを分解することによって生じる脂肪酸の一種であるオレイン酸が毛穴開口部の角層を硬くし、アクネ菌の生育を促進することから(文献19:1970)、アクネ菌がリパーゼを分泌することでオレイン酸を産生し、閉塞環境を強化しながら増殖していくというものになります(文献15:1994)

アクネ菌は、過剰に増殖しなければニキビの原因菌になりませんが、皮脂の分泌量が増えて何かの理由で毛穴が塞がり過剰に増殖すると、増殖したアクネ菌の数に比例して分泌されるリパーゼによって産生された過剰な脂肪酸や増殖した菌体の成分が毛穴に炎症を引き起こすことから(文献20:1970;文献21:1980;文献22:1972)、ニキビの発生から悪化の要因であると考えられています。

このような背景から、皮膚常在菌がバランスした健常な皮膚状態であればアクネ菌の存在は問題ではありませんが、毛穴開口部の閉塞などによりアクネ菌が増殖し皮膚常在菌バランスが崩れた場合において、過剰に増殖したアクネ菌が分泌するリパーゼを阻害することは、毛穴の炎症の抑制、ひいてはニキビの発生・悪化の抑制にとって重要なアプローチのひとつであると考えられます。

2000年に資生堂によって報告されたカリンエキスの肌荒れにおける影響検証によると、

in vitro試験においてヒト皮膚アクネ菌由来リパーゼ溶液にカリンエキス溶液または比較対照としてリパーゼ阻害薬剤として皮膚外用剤に使用されているテトラサイクリン塩酸塩を、それぞれ0.1%または0.01%濃度で添加した後に様々な処理後に酵素反応を行い、リパーゼ溶液の活性値を酵素活性値100%(阻害率0%)とする阻害率で測定したところ、以下のグラフのように、

カリンエキスのリパーゼ阻害作用

カリンエキスは、従来からリパーゼ阻害剤として知られているテトラサイクリン塩酸塩と比較して、優れたリパーゼ阻害活性を揺することが確認された。

次に、ニキビに悩む40人(17-25歳)の被検者のうち20人に1%カリンエキス(50%エタノール抽出)配合化粧水を1日2-3回4週間にわたって洗浄後の顔面ニキビ部位に塗布してもらい、別の20人には対照としてカリンエキス未配合化粧水を同様に塗布してもらった。

4週間後に「◎:15人以上のニキビ症状が改善された」「○:10-14人のニキビ症状が改善された」「△:5-9人のニキビ症状が改善された」「☓:4人以下のニキビ症状が改善された」の判定基準でニキビ改善効果を評価したところ、以下の表のように、

試料 被検者数 ニキビ改善効果
カリンエキス配合化粧水 20
化粧水のみ(対照) 20

1%カリンエキス配合化粧水は、ニキビの改善に対して良好な効果が確認された。

このような試験結果が明らかにされており(文献23:2000)、カリンエキスにリパーゼ阻害による抗炎症作用が認められています。

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カリンエキスの安全性(刺激性・アレルギー)について

カリンエキスの現時点での安全性は、

  • 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
  • 20年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について

医薬部外品原料規格2006に収載されており、20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚刺激および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

眼刺激性について

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。

∗∗∗

カリンエキスは保湿成分、抗炎症成分にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:保湿成分 抗炎症成分

∗∗∗

文献一覧:

  1. 杉田 浩一, 他(2017)「かりん」新版 日本食品大事典,181-182.
  2. ジャパンハーブソサエティー(2018)「カリン」ハーブのすべてがわかる事典,56.
  3. 農林水産省(-)「特産果樹生産動態等調査」, <https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/tokusan_kazyu/index.html> 2021年2月8日アクセス.
  4. J. Miao, et al(2016)「Chemical Composition and Bioactivities of Two Common Chaenomeles Fruits in China: Chaenomeles speciosa and Chaenomeles sinensis」Journal of Food Science(81)(8),H2049-H2058.
  5. 根本 幸夫(2016)「木瓜(モッカ)」漢方294処方生薬解説 その基礎から運用まで,206.
  6. 根本 幸夫(2016)「気血水(痰・津液)論」漢方294処方生薬解説 その基礎から運用まで,258-262.
  7. 朝田 康夫(2002)「保湿能力と水分喪失の関係は」美容皮膚科学事典,103-104.
  8. 田村 健夫, 他(2001)「表皮」香粧品科学 理論と実際 第4版,30-33.
  9. I Horii, et al(1989)「Stratum corneum hydration and amino acid content in xerotic skin」British Journal of Dermatology(121)(5),587-592.
  10. M Watanabe, et al(1991)「Functional analyses of the superficial stratum corneum in atopic xerosis」Archives of Dermatology(127)(11),1689-1692.
  11. 株式会社資生堂(2000)「プロテアーゼ阻害剤」特開2000-136146.
  12. 鈴木 一成(2012)「カリンエキス」化粧品成分用語事典2012,254.
  13. 宇山 侊男, 他(2020)「カリンエキス」化粧品成分ガイド 第7版,103.
  14. 桑山 三恵子, 他(1986)「健常女性の皮膚常在菌叢と皮膚の性状」日本化粧品技術者会誌(20)(3),167-179.
  15. 末次 一博, 他(1994)「皮膚常在菌の皮膚状態に与える影響」日本化粧品技術者会誌(28)(1),44-56.
  16. 岡部 美代治(2018)「皮膚常在菌の化粧品への応用と今後の展望」Fragrance Journal(46)(12),17-20.
  17. E.A. Grice, et al(2011)「The skin microbiome」Nature Reviews Microbiology(9),244-253.
  18. 朝田 康夫(2002)「ニキビができるメカニズム」美容皮膚科学事典,213-220.
  19. S.M. Puhvel, et al(1970)「Effect of Fatty Acids on the Growth of Corynebacterium Acnes in Vitro」Journal of Investigative Dermatology(54)(1),48-52.
  20. S.M. Puhvel, et al(1970)「Effect of Fatty Acids on the Growth of Corynebacterium Acnes in Vitro」Journal of Investigative Dermatology(54)(1),48-52.
  21. G.F. Webster, et al(1980)「Characterization of serum-independent polymorphonuclear leukocyte chemotactic factors produced byPropionibacterium acnes」Inflammation(4),261-269.
  22. S.M. Puhvel, et al(1972)「The Production of Hyaluronidase (Hyaluronate Lyase) by Corynebacterium Acnes」Journal of Investigative Dermatology(58)(2),66-70.
  23. 株式会社資生堂(2000)「リパーゼ阻害剤」特開2000-226309.

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