オレンジ果実エキスとは…成分効果と毒性を解説


・オレンジ果実エキス
[医薬部外品表示名]
・オレンジエキス
ミカン科植物オレンジ(学名:Citrus sinensis 英名:orange)の果実を圧搾・ろ過し得られたオレンジ果汁を濃縮して得られる、またはBGあるいはPGで抽出して得られる抽出物(植物エキス)です。
オレンジ(甜橙)は、インドを原産とし、現在は主にブラジル、中国、インド、アメリカ、メキシコ、スペインなどを中心に世界各地で広く栽培されています(文献1:2017;文献2:2019)。
日本においてはオレンジの多くが日本の気候に適さず、1889年に渡来したネーブルオレンジのみが主に静岡県、広島県などで栽培されていますが、供給のほとんどは米国のフロリダ州やカリフォルニア州からの輸入に依存しています(文献1:2017;文献3:2020)。
オレンジ果実エキスは天然成分であることから、地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、
分類 | 成分名称 | |
---|---|---|
糖質 | 少糖 | スクロース |
単糖 | グルコース、フルクトース | |
有機酸 | クエン酸、リンゴ酸 | |
ビタミン | アスコルビン酸 | |
アミノ酸 | アスパラギン、アスパラギン酸、プロリン、γ-アミノ酪酸、アルギニン など |
これらの成分で構成されていることが報告されています(文献1:2017)。
オレンジ果実の化粧品以外の主な用途としては、食品分野においてそのほとんどが生食用として用いられ、そのほか加工食品としてジュースやソースなどに用いられています(文献1:2017)。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ製品、シート&マスク製品、洗顔料、洗顔石鹸、クレンジング製品、ボディソープ製品、ネイル製品など様々な製品に汎用されています。
また、フルーツ(果物)、シトラス(柑橘類)またはオレンジをコンセプトにした製品にも配合されています。
皮表柔軟化による保湿作用
皮表柔軟化による保湿作用に関しては、まず前提知識として皮膚最外層である角質層の構造と役割について解説します。
直接外界に接する皮膚最外層である角質層は、以下の図のように
天然保湿因子を含む角質と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造となっており、この構造が保持されることによって、外界からの物理的あるいは化学的影響から身体を守り、かつ体内の水分が体外へ過剰に蒸散していくのを防ぐとともに一定の水分を保持する役割を担っています(文献4:2002;文献5:2001)。
一方で、老人性乾皮症やアトピー性皮膚炎においては、角質細胞中のアミノ酸などの天然保湿因子が顕著に低下していることが報告されています(文献6:1989;文献7:1991)。
このような背景から、皮表を柔軟化することは肌の乾燥の改善ひいては皮膚の健常性の維持につながると考えられています。
オレンジ果実エキスは、スクロース、グルコース、フルクトースなど糖類の含有量が多いことから、皮膚を柔軟化する保湿効果を目的としてスキンケア製品、ボディケア製品、ハンドケア製品、メイクアップ製品、シート&マスク製品、洗顔料、洗顔石鹸、クレンジング製品、ボディソープ製品、ネイル製品など様々な製品に使用されています(文献8:2012)。
ただし、オレンジ果実エキスの皮膚塗布に対する保湿効果を裏付ける試験データはみつけられておらず、みつかりしだい追補します。
実際の使用製品の種類や数および配合量は、海外の2013-2015年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
オレンジ果実エキスの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
- [ヒト試験] 100名の被検者に1.2%オレンジ果実エキスを含む夜用保湿剤を対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を開放パッチにて実施したところ、この試験物質は皮膚刺激および皮膚感作を誘発しなかった(AMA Laboratories Inc,2012)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、皮膚刺激および皮膚感作性なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
詳細な試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
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オレンジ果実エキスは保湿成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
参考:保湿成分
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参考文献:
- 杉田 浩一, 他(2017)「オレンジ」新版 日本食品大事典,138-139.
- 中央果実協会(2019)「オレンジ」, <http://www.japanfruit.jp/Portals/0/resources/JFF/kaigai/jyoho/jyoho-pdf/KKNJ_138.pdf> 2021年2月7日アクセス.
- 静岡県(2020)「ネーブルオレンジ産出額・出荷量日本一」, <https://www.pref.shizuoka.jp/j-no1/ne-buruorenzisansyutugaku.html> 2020年1月30日アクセス.
- 朝田 康夫(2002)「保湿能力と水分喪失の関係は」美容皮膚科学事典,103-104.
- 田村 健夫, 他(2001)「表皮」香粧品科学 理論と実際 第4版,30-33.
- I Horii, et al(1989)「Stratum corneum hydration and amino acid content in xerotic skin」British Journal of Dermatology(121)(5),587-592.
- M. Watanabe, et al(1991)「Functional analyses of the superficial stratum corneum in atopic xerosis」Archives of Dermatology(127)(11),1689-1692.
- 鈴木 一成(2012)「オレンジ果実エキス」化粧品成分用語事典2012,247-248.
- Cosmetic Ingredient Review(2015)「Safety Assessment of Citrus Fruit-Derived Ingredients as Used in Cosmetics」Final Report.