アンズ種子エキスとは…成分効果と毒性を解説

保湿 バリア改善 美白 育毛 消臭
アンズ種子エキス
[化粧品成分表示名称]
・アンズ種子エキス

[医薬部外品表示名称]
・キョウニンエキス

バラ科植物アンズ(学名:Prunus armeniaca 英名:Apricot)の種子から30%エタノール溶液で抽出して得られるエキスです。

アンズ種子エキスの成分組成は、抽出方法や天然成分のため国や地域および時期によって変化がありますが、主に、

  • 青酸配糖体:アミグダリン
  • 酵素:エムルシン、バンガミン酸

などで構成されています(文献1:2006;文献2:2017)

アンズの種子は漢方で杏仁(キョウニン)と呼ばれており、今日生薬のキョウニンはほとんどが中国などからの輸入品です。

キョウニンはアーモンドのような形をし、桃仁(トウニン)とよく似ていますが、キョウニンの底は偏平です。

キョウニンには青酸配糖体のアミグダリン、加水分解酵素のエムルシン、バンガミン酸などが含まれ、アミグダリンはキョウニン中の酵素エムルシンにより加水分解されて青酸、ベンズアルデヒドおよびブドウ糖となり、このため多量に服用すると青酸による中毒が現れます(文献3:2011)

日本薬局方にはキョウニンおよびキョウニン水が鎮咳・去痰薬として収載されています。

漢方では止咳・平喘・通便の効能があり、咳嗽、喘息、喉痺、便秘などに用いられ、とくに乾咳や粘稠痰に適しており、肺を潤して去痰します(文献3:2011)

また便秘に関しては腸を潤して排便を容易にする作用があるとされています(文献3:2011)

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、スキンケア化粧品、メイクアップ化粧品、ヘアケア製品、男性用制汗剤などに使用されます(文献1:2006;文献4:1998;文献5:2006;文献7:2006;文献11:2016)

セラミド合成促進による保湿・バリア改善作用

セラミド合成促進による保湿・バリア改善作用に関しては、まず前提知識としてセラミドについて解説します。

以下の角質層の構造および細胞間脂質におけるラメラ構造図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、

角質層の構造

細胞間脂質におけるラメラ構造の仕組み

角質層のバリア機能は、生体内の水分蒸散を防ぎ、外的刺激から皮膚を防御する重要な機能であり、バリア機能には角質と角質の隙間を充たして角質層を安定させる細胞間脂質が重要な役割を果たしています。

細胞間脂質は、主にセラミド、コレステロール、遊離脂肪酸などで構成され、これらの脂質が角質細胞間に層状のラメラ構造を形成することによりバリア機能を有すると考えられています。

セラミドは、細胞間脂質の50%以上を占める主要成分であり、皮膚の水分保持能およびバリア機能に重要な役割を果たしており、バリア機能が低下している皮膚では角質層中のセラミド量が低下していること(文献8:1989)、またアトピー性皮膚炎患者では角質層中のコレステロール量の減少は認められないがセラミド量は有意に低下していることが報告されています(文献9:1991;文献10:1998)

またヒト皮膚には7系統のセラミドが存在することが確認されており、全種類のセラミドが角質層に存在する比率で補われることが理想的ですが、セラミドを適正な比率で補充することは技術的に困難であるため、生体内におけるセラミド合成を促進することが重要であると考えられています。

2006年に日本メナード化粧品によって公開された技術情報によると、

生体内におけるセラミド合成を促進する成分・物質を検討したところ、コメクズ、アンズ、スイカズラユキノシタ、テンチャ、ラフマ、サンザシイザヨイバラ、エゾウコギ、ナツメシソオウレンサイシン、コガネバナ、キハダクワボタンシャクヤクチンピムクロジチョウジユリダイズシロキクラゲの抽出物によりセラミド合成が促進されることを見出した。

in vitro試験において、マウスケラチノサイト由来細胞を培養した培地を用いて、試料未添加のセラミド合成促進率を100とした場合の試料添加時のセラミド合成促進量を計測したところ、以下の表のように、

試料 抽出方法 10μg/mLあたりのセラミド合成促進率(%)
コメ 熱水 110
エタノール 115
クズ 熱水 133
エタノール 145
アンズ 50%BG水溶液 123
エタノール 137
スイカズラ 熱水 116
エタノール 122
ユキノシタ 熱水 121
テンチャ エタノール 115
ラフマ エタノール 114
サンザシ 50%BG水溶液 130
イザヨイバラ 熱水 112
エタノール 115
エゾウコギ 熱水 129
ナツメ 熱水 162
エタノール 152
シソ エタノール 187
オウレン 熱水 150
サイシン 熱水 145
エタノール 165
コガネバナ 50%BG水溶液 118
熱水 121
キハダ 熱水 178
エタノール 195
クワ 熱水 129
エタノール 145
ボタン 熱水 116
50%BG水溶液 126
シャクヤク 熱水 112
チンピ 熱水 111
エタノール 117
ムクロジ エタノール 115
チョウジ 熱水 114
ユリ 50%BG水溶液 115
ダイズ エタノール 120
熱水 129
シロキクラゲ 熱水 125

アンズ抽出物は、無添加と比較してセラミド合成促進効果を示した。

このような検証結果が明らかにされており(文献7:2006)、アンズ種子エキスにセラミド合成促進による保湿・バリア機能作用が認められています。

チロシナーゼ活性阻害による色素沈着抑制作用

チロシナーゼ活性阻害による色素沈着抑制作用に関しては、まず前提知識としてメラニン合成のプロセスおよびチロシナーゼについて解説します。

以下のメラニン合成の仕組み図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、

紫外線におけるメラニン生合成までのプロセス

紫外線を浴びるとまず最初に活性酸素が発生し、様々な情報伝達物質(メラノサイト活性化因子)をメラノサイトで発現するレセプター(受容体)に届けることで、メラノサイト内でメラニンの生合成がはじまり、ユーメラニン(黒化メラニン)へと合成されます。

メラノサイト内でのメラニン生合成は、まずアミノ酸であるチロシンに活性酵素であるチロシナーゼが結合することでドーパ、ドーパキノンへと変化し、最終的に黒化メラニンが合成されます。

1998年に大阪府立公衆衛生研究所と富山医科薬科大学薬学部の共同研究によって報告された生薬の皮膚関連酵素に対する阻害作用検証によると、

チロシナーゼに対する阻害作用物質を探索する目的で66種類の生薬の水製エキスについて酵素阻害作用を測定し、また生薬水製エキスからフェノール製物質を除去した分画についても阻害作用を測定したところ、

生薬エキス タンニン量 チロシナーゼ活性阻害率(%)
  (%) 水製エキス 水製エキス(タンニン除去)
アセンヤク 3.10 46 -4
オウヒ 2.90 49 -2
ガイヨウ 1.25 25 7
キジツ 0.60 40 0
キョウニン 0 91 86
ケイケットウ 2.70 69 -17
シソヨウ 1.30 43 27
シャゼンジ 0.45 28 1
ダイオウ 2.90 60 -11
チョウジ 2.15 42 -15
チョレイ 0.50 26 13
トウニン 0.50 66 48

水製エキスについて阻害率50%異常の生薬は、キョウニン(アンズ種子エキス)、ケイケットウ、ダイオウ、トウニンの4種類であった。

また、阻害率20~50%の生薬は、アセンヤク、オウヒ、ガイヨウ、キジツ、シソヨウ、シャゼンジ、チョウジ、チョレイの8種類であった。

アセンヤク、オウヒ、ガイヨウ、ケイケットウ、ダイオウ、チョウジはタンニン量が多い生薬であり、フェノール物質を除去(タンニン除去)した場合では阻害活性が著しく低下したことから、これらの生薬に存在する阻害物質はタンニンであると推察された。

キジツは水製エキスで阻害作用を示し、フェノール物質を除去した場合では阻害作用を失っていたが、タンニン量は0.60%と多くなく、このことからキジツの阻害物質はタンニン以外のフェノール性物質である可能性が考えられる。

フェノール物質を除去(タンニン除去)した場合で阻害率20%異常の生薬はキョウニン、シソヨウ、トウニンの3種類であり、これらの生薬についてはフェノール性物質以外の阻害作用をもつ成分の存在が示唆された。

このような検証結果が明らかにされており(文献4:1998)、アンズ種子エキスにチロシナーゼ活性阻害による色素沈着抑制作用が認められています。

毛乳頭細胞増殖促進による育毛作用

毛乳頭細胞増殖促進による育毛作用に関しては、まず前提知識として毛乳頭細胞について解説しておきます。

以下の毛髪の構造図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、

毛髪の構造

毛根の根元にある毛球部の毛母にあって新しい毛髪をつくりだす細胞を毛母細胞といいますが、毛母細胞は毛髪の発生と成長をつかさどる毛乳頭からの指令で盛んに細胞分裂を行い、分裂した2個のうちひとつは毛母に留まって次の分裂に備え、もうひとつは毛髪の細胞となって角化していき、次々に分裂してできる新しい細胞によって表面に押し上げられ毛髪を形成します(文献12:2002)

2016年にデミコスメティクスによって第33回和漢医学学会学術大会で発表された研究によると、

センキュウエキス、アンズ種子エキス、カワラヨモギエキスの毛乳頭細胞増殖作用を検証したところ、以下のグラフのように、

複合植物エキスの毛乳頭細胞増殖促進作用

水と比べて約2倍の毛乳頭細胞増殖が認められました。

毛乳頭細胞が増殖することにより、毛髪が太くなることが期待されます。

このような研究結果が明らかになっており(文献11:2016)、センキュウエキス、アンズ種子エキスおよびカワラヨモギエキスの併用・相乗効果で毛乳頭細胞増殖による育毛作用が認められています。

ただし、毛乳頭細胞増殖による育毛作用は、これら3種類の植物エキスを併用したことによるものであり、それぞれ単体のエキスでの作用は現段階では認められていないので注意してください。

また、公開されている試験情報では、濃度や期間などの詳細が不明であり、一般的に化粧品配合量は1%未満であるため、試験よりもおだやかな作用傾向である可能性があると考えられます。

アンドロステノン発生抑制による消臭作用

アンドロステノン発生抑制による消臭作用に関しては、まず前提知識としてアンドロステノンについて解説します。

体臭には、皮脂や垢が皮膚常在菌によって分解されて生じる「分解臭」と皮脂が汗中の鉄イオンによって酸化されて生じる「酸化臭」があり、成分として低級脂肪酸類、ケトン類、アルデヒド類、アミン類、揮発性ステロイド類などを含んでいます。

以下の体毛の構造図をみてもらえるとわかりやすいと思うのですが、

体毛の構造図

アンドロステノンは、アポクリン汗腺から分泌されるアンドロステロン硫酸塩が皮膚常在菌によって分解されることで発生し、汗と混ざることで臭気が有意に増強される揮発性ステロイド類の分解臭です(文献5:2004)

とくに男性の体臭に多く含まれており、男女で臭気の感じ方が大きく異なり、女性にのみ不快に感じる体臭であることが明らかになっています(文献5:2004)

またアンドロステノンは、他の体臭成分と混ざった状態で存在し、低級脂肪酸とアンドロステノンが混ざって存在することで女性の評価における臭気および不快度が有意に増強されることも確認されています(文献5:2004)

2004年にライオンによって報告された植物エキスのアンドロステノン発生抑制検証によると、

皮膚常在菌より女性が不快に感じる男性の体臭原因物質であるアンドロステノンを発生させるモデル実験系を用いて126種類の植物成分について各々のアンドロステノン発生抑制効果を調べたところ、以下のグラフのように、

植物成分によるアンドロステノン発生抑制作用

アンズ種子エキスに非常に高いアンドロステノン発生抑制効果があることを確認した。

またその発生抑制メカニズムは、アンドロステロン硫酸塩が皮膚常在菌によって代謝される過程で、その代謝を抑制していることが確認された。

このような検証結果が明らかにされており(文献5:2004;文献6:2006)、アンズ種子エキスにアンドロステノン発生抑制による消臭作用が認められています。

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アンズ種子エキスの安全性(刺激性・アレルギー)について

アンズ種子エキスの現時点での安全性は、医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方ならびに外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載されており、また10年以上の使用実績があり、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚刺激および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられます。

ただし、詳細な試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について

化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚刺激および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

眼刺激性について

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。

∗∗∗

アンズ種子エキスは保湿成分、バリア改善成分、美白成分にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:保湿成分 バリア改善成分 美白成分

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文献一覧:

  1. 日光ケミカルズ(2006)「植物・海藻エキス」新化粧品原料ハンドブックⅠ,368.
  2. 原島 広至(2017)「キョウニン(杏仁)」生薬単 改訂第3版,240-241.
  3. 鈴木 洋(2011)「杏仁(きょうにん)」カラー版 漢方のくすりの事典 第2版,99.
  4. 沢辺 善之, 他(1998)「生薬の皮膚関連酵素に対する阻害作用」YAKUGAKU ZASSHI(118)(9),423-429.
  5. “ライオン株式会社”(2004)「男性の体臭は女性にとって“不快”である要因の解明 – 世界で初めて男性の体臭の原因物質「アンドロステノン」とその体臭増強作用を解明し、その抑制成分の開発に成功 -」, <https://web.archive.org/web/20041127053032/https://www.lion.co.jp/press/2004090.htm> 2018年9月14日アクセス.
  6. 奥村 隆, 他(2006)「微生物代謝阻害による体臭制御 – キョウニンエキスのアンドロステノン発生抑制作用の解析 -」日本香粧品学会誌(30)(2),63-68.
  7. 日本メナード化粧品株式会社(2006)「セラミド合成促進剤」特開2006-111560.
  8. G Grubauer, et al(1989)「Transepidermal water loss:the signal for recovery of barrier structure and function.」The Journal of Lipid Research(30),323-333.
  9. Imokawa G, et al(1991)「Decreased level of ceramides in stratum corneum of atopic dermatitis: an etiologic factor in atopic dry skin?」J Invest Dermatol.(96)(4),523-526.
  10. Di Nardo A, et al(1998)「Ceramide and cholesterol composition of the skin of patients with atopic dermatitis.」Acta Derm Venereol.(78)(1),27-30.
  11. 高崎 文香(2016)「毛乳頭細胞増殖促進素材およびFGF-7産生促進素材の探索」第33回和漢医薬学会学術大会.
  12. 朝田 康夫(2002)「毛髪をつくる細胞は」美容皮膚科学事典,347-349.

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