アロエベラ葉エキスとは…成分効果と毒性を解説


・アロエベラ葉エキス
[医薬部外品表示名]
・アロエエキス(2)
ススキノキ科植物アロエベラ(学名:Aloe vera = Aloe barbadensis 英名:Aloe Vera)の葉から水、エタノール、BG、またはこれらの混液で抽出しアロイン(∗1)を除去して得られる抽出物(植物エキス)です。
∗1 アロエベラ葉の表皮のすぐ下に含まれるアントロン配糖体であるアロイン(aloin)は、下剤成分として医薬品に用いられることから化粧品には配合できず(文献1:2011)、アロエベラ葉エキスはアロインを除去して化粧品に用いられます。
アロエベラ(Aloe Vera)は、アフリカを原産とし、16世紀には西インド諸島に、17世紀には中国や南ヨーロッパに伝わり、18世紀には米国で栽培がはじまり、現在は世界各地の温帯地域から亜熱帯地域で主に観賞用・薬用・化粧品用として栽培されています(文献1:2011;文献2:1995;文献3:2007)。
日本においては一般にアロエといえばキダチアロエ(学名:Aloe arborescens)を指し、アロエベラは沖縄県で栽培されているものの、一般的な供給は米国やメキシコに依存しています(文献1:2011)。
アロエベラ葉エキスは天然成分であることから、地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、
分類 | 成分名称 | |
---|---|---|
糖質 | 多糖 | エースマンナン など |
単糖 | マンノース、グルコース など | |
アミノ酸 | アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、ヒドロキシプロリン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、トレオニン、チロシン、バリン |
これらの成分で構成されていることが報告されています(文献4:2006;文献5:2008)。
アロエベラ葉の化粧品以外の主な用途としては、食品分野においてそのゲル状葉肉をヨーグルトや飲料などに入れて用いられ、また加工用としては缶詰やジュースに用いられています(文献1:2011;文献6:2018)。
アロエといえば民間療法分野においてその葉汁が、創傷治癒作用や鎮静作用があることから傷や火傷部位に外用として、医療分野においては下剤成分のアロインが腸煽動運動を活発にすることから便秘などに内服用としてそれぞれ用いられますが、一般にこれらの用途としては欧米においてはアロエベラが、日本においてはキダチアロエが用いられます(文献2:1995;文献6:2018;文献7:1997)。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ製品、化粧下地製品、シート&マスク製品、日焼け止め製品、洗顔料、洗顔石鹸、クレンジング製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、ボディソープ製品、デオドラント製品、ネイル製品など様々な製品に汎用されています。
皮表柔軟化および角層水分量増加による保湿作用
皮表柔軟化および角層水分量増加による保湿作用に関しては、まず前提知識として皮膚最外層である角質層の構造と役割について解説します。
直接外界に接する皮膚最外層である角質層は、以下の図のように、
天然保湿因子を含む角質と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造となっており、この構造が保持されることによって、外界からの物理的あるいは化学的影響から身体を守り、かつ体内の水分が体外へ過剰に蒸散していくのを防ぐとともに一定の水分を保持する役割を担っています(文献8:2002;文献9:1990)。
一方で、老人性乾皮症やアトピー性皮膚炎においては、角質細胞中のアミノ酸などの天然保湿因子が顕著に低下していることが報告されています(文献10:1989;文献11:1991)。
このような背景から、皮表を柔軟化し角層の水分量を増加することは肌の乾燥の改善、ひいては皮膚の健常性の維持につながると考えられています。
1998年に一丸ファルコスによって報告されたアロエベラ葉エキスおよびクロレラエキスの乾燥肌・肌荒れに対する影響検証によると、
また、頭皮や髪の生え際に同様の皮膚疾患がみられる60名の被検者(20-40歳)のうち20名に3%アロエベラ葉エキスおよび3%クロレラエキス配合ヘアトニックを、別の20名に3%アロエベラ葉エキスのみを配合したヘアトニックを、残りの20名に対照としてアロエベラ葉エキスおよびクロレラエキス未配合ヘアトニックをそれぞれ毎日洗髪後の頭皮に2ヶ月にわたって塗布してもらった。
それぞれ2,3ヶ月後に「有効:湿疹、乾燥肌、肌荒れが改善された」「やや有効:湿疹、乾燥肌、肌荒れがやや改善された」「無効:使用前と変化なし」の3段階で評価したところ、以下の表のように、
試料 | 被検者数 | 有効 | やや有効 | 無効 |
---|---|---|---|---|
アロエベラ葉エキスおよびクロレラエキス配合乳液 | 20 | 12 | 7 | 1 |
アロエベラ葉エキス配合乳液 | 20 | 3 | 8 | 9 |
乳液のみ(対照) | 20 | 0 | 2 | 18 |
アロエベラ葉エキスおよびクロレラエキス配合ヘアトニック | 20 | 6 | 12 | 2 |
アロエベラ葉エキス配合ヘアトニック | 20 | 3 | 7 | 10 |
ヘアトニックのみ(対照) | 20 | 0 | 1 | 19 |
3%アロエベラ葉エキスおよびクロレラエキス配合乳液またはヘアトニックの塗布により、湿疹、乾燥肌、肌荒れなどの皮膚・頭皮疾患に対して良好な効果が確認された。
このような試験結果が明らかにされており(文献12:1998)、アロエベラ葉エキスに皮表柔軟化および角層水分量増加による保湿作用が認められています。
ただし、試験データをみるかぎりではアロエベラ葉エキス単体での保湿効果は高くはなく、実際の製品への配合においては一般に相乗効果が得る目的で他の植物エキスと併用して用いられています。
効果・作用についての補足 – メラニン生成抑制による色素沈着抑制作用
アロエベラ葉エキスは、単独では有意といえる色素沈着抑制作用は有していませんが、以下の表に記載する植物エキスいずれか一種との併用系におけるヒト使用試験において色素沈着抑制効果が認められています(文献13:2003)。
アロエベラ葉エキスと併用することで色素沈着抑制効果が得られる植物エキス |
---|
オリーブ葉エキス、クズ根エキス、カワラヨモギ花エキス、クララ根エキス、ダイズ種子エキス、ボタンエキス、ホップエキス、ユキノシタエキス などからいずれか一種 |
複合植物エキスとしてのアロエベラ葉エキス
アロエベラ葉エキスは、他の植物エキスとあらかじめ混合された複合原料があり、アロエベラ葉エキスと以下の成分が併用されている場合は、複合植物エキス原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | バイオアンテージ B |
---|---|
構成成分 | 水、BG、クズ根エキス、アロエベラ葉エキス、クロレラエキス |
特徴 | メラニン生成抑制、経表皮水分蒸散抑制、角質水分量増加、線維芽細胞増殖促進など植物抽出液によってプラセンタ様作用を意図して設計された混合植物抽出液 |
アロエベラ葉エキスの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
- 光毒性:ほとんどなし
- 光感作性:ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性について
- [動物試験] 3匹のウサギの剪毛した背部に固形分濃度0.5%アロエベラ葉エキス溶液を塗布し、塗布24,48および72時間後に紅斑および浮腫を指標として一次刺激性を評価したところ、いずれのウサギも紅斑および浮腫を認めず、この試験物質は皮膚一次刺激性に関して問題がないものと判断された
- [動物試験] 3匹のモルモットの剪毛した側腹部に固形分濃度約0.5%アロエベラ葉エキス溶液0.5mLを1日1回週5回、2週にわたって塗布し、各塗布日および最終塗布日の翌日に紅斑および浮腫を指標として皮膚刺激性を評価したところ、いずれのモルモットも2週間にわたって紅斑および浮腫を認めず、この試験物質は皮膚累積刺激性に関して問題がないものと判断された
と記載されています。
試験データをみるかぎり、共通して皮膚刺激なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。
皮膚感作性(アレルギー性)について
医薬部外品原料規格2021に収載されており、20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
光毒性および光感作性について
- [ヒト試験] 10名の被検者に0.05%アロエベラ葉エキスを含むトナーの光毒性試験を行ったところ、試験部位において照射および未照射にかかわらず皮膚反応は観察されなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,2003)
- [ヒト試験] 10名の被検者に0.05%アロエベラ葉エキスを含む化粧水の光毒性試験を行ったところ、試験部位において照射および未照射にかかわらず皮膚反応は観察されなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,2003)
- [ヒト試験] 26名の被検者に0.05%アロエベラ葉エキスを含む化粧水の光感作性試験を実施したところ、いずれの被検者においても皮膚感作および光感作は観察されなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,2003)
と記載されています。
試験結果をみるかぎり、共通して光毒性および光感作なしと報告されているため、一般に光毒性および光感作性はほとんどないと考えられます。
∗∗∗
アロエベラ葉エキスは保湿成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
参考:保湿成分
∗∗∗
参考文献:
- 鈴木 洋(2011)「アロエ・ベラ」カラー版健康食品・サプリメントの事典,15-16.
- ペネラピ オディ(1995)「Aloe vera(アロエ)」メディカルハーブ – 薬用ハーブ完全図解ガイド,34.
- B.O. Akinyele, et al(2007)「Comparative Study of Vegetative Morphology and the Existing Taxonomic Status of Aloe vera L.」Journal of Plant Sciences(2)(5),558-563.
- M.D. Boudreau, et al(2006)「An Evaluation of the Biological and Toxicological Properties of Aloe Barbadensis (Miller), Aloe Vera」Journal of Environmental Science and Health, Part C(24)(1),103-154.
- J.H. Hamman(2008)「Composition and Applications of Aloe vera Leaf Gel」Molecules(13)(8),1599-1616.
- ジャパンハーブソサエティー(2018)「アロエ」ハーブのすべてがわかる事典,26-27.
- 中西 準治(1997)「アロエ」和薬の本 – 民間療法を支える植物,22-27.
- 朝田 康夫(2002)「保湿能力と水分喪失の関係は」美容皮膚科学事典,103-104.
- 田村 健夫, 他(1990)「表皮」香粧品科学 理論と実際 第4版,30-33.
- I Horii, et al(1989)「Stratum corneum hydration and amino acid content in xerotic skin」British Journal of Dermatology(121)(5),587-592.
- M. Watanabe, et al(1991)「Functional analyses of the superficial stratum corneum in atopic xerosis」Archives of Dermatology(127)(11),1689-1692.
- 一丸ファルコス株式会社(1998)「線維芽細胞増殖促進剤」特開平10-036283.
- 一丸ファルコス株式会社(2003)「グルタミン酸デカルボキシラーゼ活性化剤」特開2003-206225.
- Cosmetic Ingredient Review(2007)「Final Report on the Safety Assessment of Aloe Andongensis Extract, Aloe Andongensis Leaf juice, Aloe Arborescens Leaf Extract , Aloe Arborescens Leaf Juice, Aloe Arborescens Leaf Protoplasts, Aloe Barbadensis Flower Extract, Aloe Barbadensis Leaf, Aloe Barbadensis Leaf Extract, Aloe Barbadensis Leaf Juice, Aloe Barbadensis Leaf Polysaccharides, Aloe Barbadensis Leaf Water, Aloe Ferox Leaf Extract, Aloe Ferox Leaf Juice, and Aloe Ferox Leaf Juice Extract」International Journal of Toxicology(26)(2_Suppl),1-50.