アセチルヒアルロン酸Naとは…成分効果と毒性を解説


・アセチルヒアルロン酸Na
[医薬部外品表示名称]
・アセチル化ヒアルロン酸ナトリウム
[慣用名]
・スーパーヒアルロン酸
生体内に存在する酸性ムコ多糖類の一種であるヒアルロン酸Na(ヒアルロン酸ナトリウム塩)をアセチル化処理したヒアルロン酸誘導体です。
ヒアルロン酸Naは、生体内において細胞間、繊維間の結合組織を埋めるゲル状高分子接合物質として多量に存在しており、皮膚においては、以下の皮膚の構造図をみてもらうとわかるように、
真皮に多量に存在し、また表皮でも真皮の約半分量の存在が確認されています(文献1:1985)。
真皮においては、規則的に配列したコラーゲンとエラスチンの繊維間を充たし、水分を大量に保持することで、皮膚に弾力性と柔軟性を与えており(文献2:2002)、また表皮層・角質層においては、密接に隣接した細胞間に網目状に存在し、酸素、イオン、栄養成分、生理活性成分、代謝老廃物などの移動や拡散に関わっていると考えられています(文献3:2009)。
ヒアルロン酸Naの保水性は、1gで6Lの水を保持する強力な保水性と多量に存在する結合水(∗1)による相対湿度の変化を受けにくいことによるものですが、この保水性は分子量が大きくなるにしたがって低下し、分子量が80万以上でほぼ一定になることが報告されています(∗2)(文献4:1986)。
∗1 結合水とは、たんぱく質分子や親液コロイド粒子などの成分物質と強く結合している水分であり、純粋な水であれば0℃で凍るところ、角層中の水のうち33%は-40℃まで冷却しても凍らないのは、角層内に存在する水のうち約⅓が結合水であることに由来しています(文献5:1991)。
∗2 一般的なヒアルロン酸Naの分子量は5-150万ほどで、分子量が大きいほど粘度(とろみやベタつき)は上がりますが、保水性は上がりません。
アセチルヒアルロン酸Naは、このヒアルロン酸Naの水酸基の一部をアセチル基に置き換えることにより、疎水性と親水性の両方の性質を持たせることで、皮膚への吸着性を約7倍、保水性を約2倍に高めたものです。
言い換えると、ヒアルロン酸Naは水溶性のため水には溶けますがエタノールなどの有機溶媒に対する溶解性は低いのですが、水酸基(親水性:水に溶ける性質)の一部をアセチル基(疎水性:水に溶けない性質)に置き換えることで、皮脂(疎水性)で覆われている皮膚表面に保持されやすくし、結果としてエタノール溶解性、皮膚への親和性が向上し、またヒアルロン酸Naに比べてさっぱりした使用感を有し、かつ高分子が本来持つ保水性をさらに発揮させたものになったということです(文献6:1998)。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、スキンケア化粧品、メイクアップ化粧品、ボディ&ハンドケア製品、洗浄製品、洗顔料&洗顔石鹸、シート&マスク製品など様々な製品に使用されます(文献1:2016;文献6:1998;文献7:2006)。
角質層柔軟化、水分保持および皮表水分蒸散抑制による保湿作用
角質層柔軟化、水分保持および皮表水分蒸散抑制による保湿作用に関しては、1998年に資生堂によって公開されたアセチルヒアルロン酸Naの角質柔軟効果検証によると、
アセチルヒアルロン酸Naの角質柔軟効果を検討するために、比較として代表的な保湿剤であるグリセリン、ヒアルロン酸Naを用いて100分までの角質層の男性を測定(数値が小さいほど角質柔軟性が高く、肌を柔らかくする)したところ、以下のグラフのように、
角質層に水を塗布した場合、水分浸透により角質層はいったん柔軟化するが、水分蒸発に伴い徐々に初期値まで戻る挙動を示す。
この挙動は程度の差はあるが、グリセリンおよびヒアルロン酸Naにも示されており、これに対し、アセチルヒアルロン酸Naは角質柔軟効果を長時間維持できることがわかる。
このような検証結果が明らかにされており(文献6:1998)、アセチルヒアルロン酸Naに角質層柔軟化による保湿作用が認められています。
また2006年に公開された資生堂のアセチルヒアルロン酸Naにおける角質層における結合水量測定によると、
角質層の柔軟性は角質層中に含まれる結合水量に依存することが知られている。
アセチルヒアルロン酸Naと角質層が共存したときの角質層の水和能に関して検討するために、試料溶液中に浸漬処理した乾燥角質層シートに一定量の水を添加したあと密閉し、角質層中の欠道水量を算出し、また比較対照として無添加またはヒアルロン酸Naでも算出したところ、以下のグラフのように、
アセチルヒアルロン酸Naで処理した角質層は、他の試料と比較して角質層中に存在する結合水量を顕著に増加させることがわかった。
アセチルヒアルロン酸Naの角質柔軟効果の発現メカニズムは、両親媒性をもち、肌への親和性に優れ、角質層表面に効率的に保持されると考えられることから、角質層内部から蒸発してくる水分を角質層表面でより多く補足し、その結果として優れた角質柔軟効果が長時間持続されるようになったと推察された。
このような検証結果が明らかにされており(文献7:2006)、アセチルヒアルロン酸Naに角質層柔軟化による保湿作用が認められています。
また2006年に公開された資生堂のアセチルヒアルロン酸Naにおける角質層における水分保持能および皮表水分蒸散量の検証によると、
4人の被検者にドデシル硫酸ナトリウム(SDS)水溶液を用いて人工的に肌荒れを惹起させた後、0.2%アセチルヒアルロン酸Na配合化粧水を7日間にわたって1日1回連用塗布し、塗布の前後で皮表水分量および経皮水分蒸散量(TEWL)を測定し、肌荒れ改善効果を評価したところ、以下のグラフのように、
皮表コンダクタンスは数値が大きいほど皮表水分保持能が高いことを意味しており、他と比較してアセチルヒアルロン酸Na配合化粧水は、角質層中の水分量を顕著に増加させており、肌をみずみずしく保つ効果が高いことがわかった。
また同様の試験で、経皮水分蒸散量(TEWL)を測定したところ、以下のグラフのように、
縦軸の経皮水分蒸散量は、数値が低いほど皮膚から水分の蒸散を抑え、肌をみずみずしく保つことを意味しており、アセチルヒアルロン酸Na化粧水は、皮膚からの水分蒸散を抑制し、肌をみずみずしく保つことがわかった。
このような検証結果が明らかにされており(文献7:2006)、アセチルヒアルロン酸Naに角層水分保持および皮表水分蒸散抑制による保湿作用が認められています。
アセチルヒアルロン酸Naの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 10年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
これらの結果から、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
化粧品配合量および通常使用下において、10年以上の使用実績があり、一般的に皮膚刺激および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
眼刺激性について
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。
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アセチルヒアルロン酸Naは保湿成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
参考:保湿成分
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文献一覧:
- 木花 光(1985)「ヒト表皮中の酸性ムコ多糖の分析および培養ヒト表皮細胞における酸性ムコ多糖の合成」日本皮膚科学会雑誌(95)(9),979-984.
- 朝田 康夫(2002)「真皮の変性と加齢の関係は」美容皮膚科学事典,132-133.
- 井上 紳太郎(2009)「皮膚ヒアルロン酸の不思議」グルコサミン研究(5),4-10.
- 赤坂 日出道, 他(1986)「バイオポリマーとしてりヒアルロン酸の特性と応用」Fragrance Journal(14)(3),42-47.
- G Imokawa, et al(1991)「Stratum corneum lipids serve as a bound-water modulator.」Journal of Investigate Dermatology(96)(6),845-851.
- 岡 隆史, 他(1998)「アセチル化ヒアルロン酸」高分子(47)(10),762.
- 岡 隆史(2006)「高分子保湿剤スーパーヒアルロン酸」高分子(55)(10),802-805.
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