アスパラギン酸とは…成分効果と毒性を解説



・アスパラギン酸
[医薬部外品表示名称]
・L-アスパラギン酸
生体内に存在するアミノ酸の一種であり、詳しくは以下のタンパク質を構成するアミノ酸の分類と物性表をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
分類 | 分類 | アミノ酸名 | 分子量 | 体内合成 |
---|---|---|---|---|
中性アミノ酸 | 脂肪族アミノ酸 | グリシン | 75.07 | 可(非必須) |
アラニン | 89.09 | 可(非必須) | ||
バリン | 117.15 | 不可(必須) | ||
ロイシン | 131.17 | 不可(必須) | ||
イソロイシン | 131.17 | 不可(必須) | ||
オキシアミノ酸 | セリン | 105.09 | 可(非必須) | |
トレオニン | 119.12 | 不可(必須) | ||
含硫アミノ酸 | システイン | 121.16 | 可(非必須) | |
シスチン | 240.30 | 可(非必須) | ||
メチオニン | 149.21 | 不可(必須) | ||
芳香族アミノ酸 | フェニルアラニン | 165.19 | 不可(必須) | |
チロシン | 181.19 | 可(非必須) | ||
トリプトファン | 204.23 | 不可(必須) | ||
イミノ酸 | プロリン | 115.13 | 可(非必須) | |
酢酸アミノ酸アミド | アスパラギン | 133.10 | 可(非必須) | |
グルタミン | 146.14 | 可(非必須) | ||
酸性アミノ酸 | アスパラギン酸 | 133.10 | 可(非必須) | |
グルタミン酸 | 147.13 | 可(非必須) | ||
塩基性アミノ酸 | アルギニン | 174.20 | 可(非必須) | |
ヒスチジン | 155.15 | 可(非必須) | ||
リシン | 146.19 | 不可(必須) |
酸性アミノ酸であり、体内で合成される非必須アミノ酸です(文献7:2016;文献2:1974)。
また表皮角質層に遊離の形で存在し、天然保湿因子(NMF)の主成分であるアミノ酸の構成成分でもあります(文献1:2016)。
生体内では、エネルギーを産生するためのクエン酸回路という代謝回路が存在しており、クエン酸回路が一周することによってATPなどのエネルギーを産生しますが、個々のアミノ酸は代謝分解によって、クエン酸回路における中間体として組み込まれ、この中間体が変化をともなって一周することでATPなどのエネルギーを産生します(文献3:2013)。
アスパラギン酸は、以下のように、
アスパラギン酸 → オキサロ酢酸
トランスアミナーゼという酵素を触媒としてオキサロ酢酸(中間体)になり、クエン酸回路に組み込まれます(文献3:2013)。
またアンモニア代謝や尿素サイクルに深い関係があり、体内の老廃物の処理、肝機能の促進、疲労回復などの作用があります(文献1:2016)。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、スキンケア化粧品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ化粧品、ヘアケア製品、洗浄製品、シート&マスク製品など様々な製品に使用されます(文献1:2016;文献6:2004)。
角質層の水分量増加による保湿作用
角質層の水分量増加による保湿作用に関しては、まず前提知識として天然保湿因子について解説します。
天然保湿因子は、以下の画像のように、
角質層の角質に存在する水溶性の保湿成分であり、その構成成分は、以下の表のように、
成分 | 含量(%) |
---|---|
アミノ酸類 | 40.0 |
ピロリドンカルボン酸 | 12.0 |
乳酸Na | 12.0 |
尿素 | 7.0 |
アンモニア、尿酸、グルコサミン、クレアチン | 1.5 |
ナトリウム | 5.0 |
カリウム | 4.0 |
カルシウム | 1.5 |
マグネシウム | 1.5 |
リン酸Na | 0.5 |
塩化物 | 6.0 |
クエン酸Na | 0.5 |
糖、有機酸、ペプチド、未確認物質 | 8.5 |
アミノ酸が40%を占めており、ピロリドンカルボン酸や尿素などアミノ酸の代謝物を含めると60%にも及びます。
またアミノ酸の組成は、以下の表のように、
アミノ酸の種類 | 含量(%) |
---|---|
アスパラギン + アスパラギン酸 | 1.09 |
トレオニン | 0.64 |
セリン | 20.13 |
グルタミン + グルタミン酸 | 3.88 |
プロリン | 6.09 |
グリシン | 13.27 |
アラニン | 9.87 |
バリン | 3.61 |
メチオニン | 0.41 |
イソロイシン | 0.83 |
ロイシン | 1.74 |
フェニルアラニン | 0.78 |
チロシン | 0.98 |
リシン | 1.70 |
ヒスチジン | 1.73 |
アルギニン | 9.18 |
16種類のアミノ酸が含まれていることが明らかになっています(文献4:1983)。
これらの成分が角質層の水分を保持しており、こういった背景から天然保湿因子であるアスパラギン酸は角層と親和性が高く、角質層の水分量増加が認められているため、他の天然保湿因子と併用して配合されます(文献1:2016)。
メラニン生成抑制による色素沈着抑制作用
メラニン生成抑制による色素沈着抑制作用に関しては、まず前提知識としてメラニン生合成のメカニズムについて解説します。
以下のメラニン生合成のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、
紫外線を浴びるとまず最初に活性酸素が発生し、様々な情報伝達物質(メラノサイト活性化因子)をメラノサイトで発現するレセプター(受容体)に届けることで、メラノサイト内でメラニンの生合成がはじまり、ユーメラニン(黒化メラニン)へと合成されます。
メラノサイト内でのメラニン生合成は、まずアミノ酸であるチロシンに活性酵素であるチロシナーゼが結合することでドーパ、ドーパキノン、ドーパクロムへと変化し、最終的に黒化メラニンが合成されます。
2004年に協和発酵キリンによって公開された技術情報によると、
グリシン、トレオニン、ヒドロキシプロリンおよびアスパラギン酸のメラニン生成抑制作用を検討するために、メラノサイト・ケラチノサイト培養系を用いたin vitro試験において、メラニンを誘発させた培地に各アミノ酸を添加し、4日後にメラニン生成度を測定したところ、以下の表のように、
アミノ酸 | 濃度 | 相対メラニン生成度 |
---|---|---|
グリシン | 0.1mmol/l | 74 |
グリシン | 1mmol/l | 66 |
グリシン | 10mmol/l | 35 |
L-トレオニン | 0.1mmol/l | 26 |
L-トレオニン | 1mmol/l | 36 |
L-トレオニン | 10mmol/l | 26 |
L-ヒドロキシプロリン | 0.1mmol/l | 82 |
L-ヒドロキシプロリン | 1mmol/l | 80 |
L-ヒドロキシプロリン | 10mmol/l | 60 |
L-アスパラギン酸 | 0.1mmol/l | 87 |
L-アスパラギン酸 | 1mmol/l | 86 |
L-アスパラギン酸 | 10mmol/l | 70 |
アスパラギン酸を添加した場合には、濃度依存的にメラニンの生成を抑制することが確認された。
なお配合量は0.01%-10%の範囲内で、好ましくは0.1%-5%、より好ましくは0.3%-3%である。
このような検証結果が明らかにされており(文献6:2004)、アスパラギン酸にメラニン生成抑制による色素沈着抑制作用が認められています。
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2012年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
ちなみに表の中の製品タイプのリーブオン製品というのは付けっ放し製品という意味で、主にスキンケア化粧品やメイクアップ化粧品などを指し、リンスオフ製品というのは洗浄系製品を指します。
アスパラギン酸の安全性(刺激性・アレルギー)について
- 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
- 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
- 生体内に存在するアミノ酸の一種
- 10年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:わずか-中等
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
これらの結果から、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ(文献5:2013)によると、
- [ヒト試験] 107人の被検者に0.2%アスパラギン酸を含むアイゲルを閉塞パッチ下で繰り返し適用したところ(HRIPT)、皮膚刺激および皮膚感作はなかった
- [ヒト試験] 102人の被検者に0.2%アスパラギン酸を含むフェイスローションを閉塞パッチ下で繰り返し適用したところ(HRIPT)、皮膚刺激および皮膚感作はなかった
- [ヒト試験] 102人の被検者に0.92%アスパラギン酸を含むヘアマスクを半閉塞パッチ下で繰り返し適用したところ(HRIPT)、皮膚反応はなかった
- [in vitro試験] 正常ヒト表皮角化細胞によって再構築された3次元培養表皮モデル(EpiDerm)を用いて、角層表面に0.2%アスパラギン酸を含むアイゲルを処理したところ、本質的に皮膚刺激性はなかった
と記載されています。
試験データをみるかぎり、共通して皮膚刺激および皮膚感作の報告がないため、皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ(文献5:2013)によると、
- [in vitro試験] 畜牛の眼球から摘出した角膜を用いて、角膜表面に0.2%アスパラギン酸を含むアイゲルを処理した後、角膜の濁度ならびに透過性の変化量を定量的に測定したところ(BCOP法)、わずかに眼刺激性があると予測された
- [in vitro試験] 鶏卵の漿尿膜を用いて、0.2%アスパラギン酸を含むアイゲルを処理したところ(HET-CAM法)、中等の刺激性が予測された
と記載されています。
試験データをみるかぎり、わずか~中等の眼刺激性が予測されているため、わずか~中等の眼刺激性が起こる可能性があると考えられます。
∗∗∗
アスパラギン酸は保湿成分、美白成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
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文献一覧:
- 日光ケミカルズ(2016)「アミノ酸およびペプチド」パーソナルケアハンドブック,399.
- 太田 博之(1974)「アミノ酸工業の展望」有機合成化学協会誌(32)(6),480-486.
- 清水 孝雄(2013)「クエン酸回路:アセチル-CoAの異化代謝」イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書29版,186-193.
- Horii I, et al(1983)「Histidine-rich protein as a possible origin of free amino acids of stratum corneum.」Journal of Dermatology(10)(1),25-33.
- Cosmetic Ingredient Review(2013)「Safety Assessment of α-Amino Acids as Used in Cosmetics」International Journal of Toxicology(32)(6),41S-64S.
- 協和発酵キリン株式会社(2004)「美白剤」特開2004-315384.
- 日光ケミカルズ(2016)「アミノ酸およびペプチド」パーソナルケアハンドブック,403.
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