アスパラギン酸とは…成分効果と毒性を解説

保湿
アスパラギン酸
[化粧品成分表示名称]
・アスパラギン酸

[医薬部外品表示名称]
・L-アスパラギン酸

化学構造的に1個のアミノ基(-NH2)と2個のカルボキシル基(-COOH)をもつ双性イオン化合物(∗1)であり、酸性アミノ酸に分類される分子量133.10の疎水性アミノ酸(∗2)(∗3)です(文献2:1994)

∗1 双性イオン化合物とは、両性イオン化合物とも呼び、一つの分子内にプラス電荷とマイナス電荷の両方を持ち、全体としては中性イオンを示す化合物を指します。アスパラギン酸は電荷が全体として0となる(中性を示す)ときのpH(等電点)が2.77であることから(文献2:1994)、溶液のpHが2.77以下なら陽イオンに、2.77以上なら陰イオンとなります。

∗2 疎水性とは水に溶けにくい性質のことで、アスパラギン酸は水にやや難溶なため疎水性に分類しています。

∗3 一般にアミノ基(-NH2)とカルボキシル基(-COOH)の両方の官能基をもつ有機化合物をアミノ酸と呼びます。分子中に存在するアミノ基とカルボキシル基の割合によって中性アミノ酸、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸に分類され、アスパラギン酸は酸性アミノ酸に分類されます。

一般的な用途としては、医薬品分野においては水分や電解質などを点滴静注により投与するための輸液(点滴)、経口・経腸栄養剤、総合アミノ酸剤などに使用されています(文献3:2016)

化粧品に配合される場合は、

これらの目的でスキンケア化粧品、ヘアケア製品、シート&マスク製品、シャンプー製品、ヘアトリートメント製品、頭皮ケア製品、ボディ&ハンドケア製品、クレンジング製品、洗顔料など様々な製品に使用されています。

角質層水分量増加による保湿作用

角質層水分量増加による保湿作用に関しては、まず前提知識として皮膚最外層である角質層の構造と役割および角質細胞におけるアミノ酸の役割について解説します。

直接外界に接する皮膚最外層である角質層は、以下の図のように、

角質層の構造

角質と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造となっており、この構造が保持されることによって、外界からの物理的あるいは化学的影響から身体を守り、かつ体内の水分が体外へ過剰に蒸散していくのを防ぐとともに一定の水分を保持する役割を担っています(文献4:1990;文献5:2002)

また、角質細胞中に存在し水分を保持する働きをもつ水溶性物質は、天然保湿因子(NMF:natural Moisturizing Factor)と呼ばれており、以下の表のように、

成分 含量(%)
アミノ酸類 40.0
ピロリドンカルボン酸(PCA) 12.0
乳酸 12.0
尿素 7.0
アンモニア、尿酸、グルコサミン、クレアチン 1.5
ナトリウム(Na⁺) 5.0
カリウム(K⁺) 4.0
カルシウム(Ca²⁺) 1.5
マグネシウム(Mg²⁺) 1.5
リン酸(PO₄³⁻) 0.5
塩化物(Cl⁻) 6.0
クエン酸 0.5
糖、有機酸、ペプチド、未確認物質 8.5

アミノ酸、有機酸、塩などの集合体として存在していますが、天然保湿因子の約40%はアミノ酸類で構成されており(文献6:1985)、ピロリドンカルボン酸(PCA)や尿素などアミノ酸の代謝物を含めると約60%を占めることから、角層の水分保持にアミノ酸およびその関連物質が重要な役割を担っていると考えられています。

さらに、この天然保湿因子において約40%を占めるアミノ酸の組成は、以下の表のように、

アミノ酸の種類 含量(%)
プロリン 5.6
アスパラギン + アスパラギン酸 0.8
トレオニン 0.4
セリン 19.7
グルタミン + グルタミン酸 2.3
グリシン 14.7
アラニン 10.4
バリン 3.4
メチオニン 0.2
イソロイシン 0.5
ロイシン 1.5
チロシン 0.8
フェニルアラニン 0.7
リシン 1.1
ヒスチジン 1.4
アルギニン 10.3

16種類で構成されており(文献7:1983)、中でもセリン、グリシン、アラニンおよびアルギニンが大部分を占めています。

このような背景から、角質層の水分保持にアミノ酸が重要であると考えられています。

アミノ酸は天然保湿因子(NMF)の主要成分であることから皮膚の潤いを保つ目的でスキンケア化粧品に使用されていますが、一方で低分子の両性イオン化合物であり、一般的に電荷を有した物質は皮膚や生体膜を透過しにくく、その透過率は電荷を持たない物質と比較して1/1000といわれています(文献8:1984)

1996年に味の素とカリフォルニア大学医学部皮膚科によって報告された水溶性アミノ酸のヒト皮膚での経皮吸収挙動の検証によると(∗4)

∗4 この検証は水溶性アミノ酸のものであり、疎水性アミノ酸であるアスパラギン酸は含まれていませんが、程度の差はあるものの経皮吸収挙動は疎水性アミノ酸も同様であり、アミノ酸のヒト皮膚における経皮吸収挙動が非常に理解しやすいことから記載しています。

ヒト皮膚(角質層、表皮および真皮の一部を含む)上に1%濃度生理食塩水(pH7.4)となるように調製した5種類の水溶性アミノ酸(L-リシン、グリシン、グルタミン酸Na、プロリンおよびトレオニン)溶液をのせ、2-4時間ごとに皮膚透過挙動を評価したところ、以下のグラフのように、

ヒト皮膚角質層に対するアミノ酸の透過性比較

いずれのアミノ酸も経皮吸収にタイムラグがみられ、またアミノ酸によって透過量が異なることがわかった。

次に、ヒト皮膚の角質層を擦って剥いだ肌荒れモデル上に同様のアミノ酸溶液をのせ、2-4時間ごとに皮膚透過挙動を評価したところ、以下のグラフのように、

ヒト擦過皮膚(荒れ肌モデル)に対するアミノ酸の透過性比較

いずれのアミノ酸も経皮吸収のラグタイムが短縮され、また蓄積量も増大した。

この試験結果から、角質層はアミノ酸の経皮吸収に対して最大のバリアとなっていることが明らかとなった。

このような検証結果が明らかにされており(文献9:1996)、水溶性アミノ酸は健常皮膚においては経時的に穏やかな経皮吸収性が、バリア機能が低下した皮膚においては健常な皮膚と比較して優れた経皮吸収性が認められています。

アミノ酸が角質層に経皮吸収されにくいメカニズムは、アミノ酸がイオン性物質であることによる角質層の水和(∗5)が重要な要因であり(文献10:1993)、経皮吸収のラグタイムが長い理由は、アミノ酸と表皮との間の水素結合や静電気的相互作用によるものであると考えられています(文献11:1990)

∗5 水和(hydration)とは、ある化学種へ水分子が付加する現象であり、イオン性化合物や水素結合性化合物が水に溶解し、静電相互作用や水素結合することによって起こります。

一方でアスパラギン酸を含む疎水性アミノ酸の皮膚透過性に関しては、1994年に富山医薬大学によるアミノ酸の皮膚透過機構に関する研究によると(∗6)

∗6 この研究にアスパラギン酸は含まれていませんが、程度の差はあるものの経皮吸収挙動は疎水性アミノ酸であるアスパラギン酸も同様であると考えられるため、この試験データを記載しています。

ラット皮膚を用いて種々の疎水性中性アミノ酸(アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン)のpH3.0-7.0範囲における皮膚透過性を評価したところ、以下のグラフのように、

各pHにおける中性アミノ酸のラット皮膚透過性比較

アミノ酸の透過係数は、アラニン > バリン > イソロイシン = ロイシンの順であった。

また、どの中性アミノ酸も酸性側で高い透過性を示した。

このような検証結果が明らかにされており(文献12:1994)、疎水性アミノ酸に皮膚透過性が認められています。

この試験にアスパラギン酸は含まれていませんが、アスパラギン酸も疎水性アミノ酸であることから皮膚透過性を有していると考えられます。

疎水性アミノ酸の皮膚透過性に関しては、水溶性アミノ酸と同様に、健常皮膚においては経時的に穏やかな経皮吸収性であり、バリア機能が低下した皮膚においては健常な皮膚と比較して優れた経皮吸収性を有していると考えられます。

このような背景から、健常な皮膚においては、角質層がバリアの役割を果たしているため、一般にアミノ酸は経皮吸収されにくく、また経皮吸収に時間がかかることから即時的な保湿効果はほとんどないと考えられますが、一方で経時的に少しずつ経皮吸収されることが示されていることから、持続性のある穏やかな水分保持剤として機能すると考えられます。

また、肌荒れや皮膚炎などを有するバリア機能が低下した皮膚においては、角質層を有した健常な皮膚と比較して格段に高い経皮吸収性を示す傾向があることから、優れた水分保持剤になり得ると考えられます。

複合アミノ酸原料としてのアスパラギン酸

アスパラギン酸は、他のアミノ酸やアミノ酸関連物質とあらかじめ混合された複合原料があり、アスパラギン酸と以下の成分が併用されている場合は、複合アミノ酸原料として配合されている可能性が考えられます。

原料名 PRODEW 500
構成成分 PCA-Na乳酸Naアルギニンアスパラギン酸、PCA、グリシンアラニンセリンバリンプロリントレオニンイソロイシンヒスチジンフェニルアラニン
特徴・主な用途 毛髪のNMFをモデル化した保湿剤
原料名 AMINO ACID COMPLEX
構成成分 BGグリシンセリングルタミン酸アスパラギン酸ロイシンアラニンリシンアルギニンチロシンフェニルアラニントレオニンプロリンバリンイソロイシンヒスチジン
特徴・主な用途 皮膚のNMFをモデル化した保湿剤

実際の配合製品の種類や配合濃度範囲は、海外の2012年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。

以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品というのは、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。

アスパラギン酸の配合製品数と配合量の調査結果(2012年)

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アスパラギン酸の安全性(刺激性・アレルギー)について

アスパラギン酸の現時点での安全性は、

  • 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
  • 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
  • 1980年代からの使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:わずか-中程度
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ(文献1:2013)によると、

  • [ヒト試験] 107人の被検者に0.2%アスパラギン酸を含むアイゲルを対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を閉塞パッチにて実施したところ、この試験物質は皮膚刺激および皮膚感作を誘発しなかった(EVIC Romania,2007)
  • [ヒト試験] 102人の被検者に0.2%アスパラギン酸を含むフェイスローションを対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を閉塞パッチにて実施したところ、この試験物質は皮膚刺激および皮膚感作を誘発しなかった(EVIC Romania,2008)
  • [ヒト試験] 102人の被検者に0.92%アスパラギン酸を含むヘアマスクを対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を半閉塞パッチにて実施したところ、この試験物質は皮膚反応を誘発しなかった(Clinical Research Laboratories Inc,2010)
  • [in vitro試験] 正常ヒト表皮角化細胞によって再構築された3次元培養表皮モデル(EpiDerm)を用いて、角層表面に0.2%アスパラギン酸を含むアイゲルを処理したところ、本質的に皮膚刺激性はなかった(Episkin SNC,2007)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

眼刺激性について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ(文献1:2013)によると、

  • [in vitro試験] 畜牛の眼球から摘出した角膜を用いて、角膜表面に0.2%アスパラギン酸を含むアイゲルを処理した後、角膜の濁度ならびに透過性の変化量を定量的に測定したところ(BCOP法)、わずかに眼刺激性があると予測された(EVIC France,2007)
  • [in vitro試験] 鶏卵の漿尿膜を用いて、0.2%アスパラギン酸を含むアイゲルを処理したところ(HET-CAM法)、中程度の刺激性が予測された(Societe EVIC France,2007)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、わずか-中等の眼刺激が予測されているため、一般に眼刺激性はわずか-中等の眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。

∗∗∗

アスパラギン酸は保湿成分にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:保湿成分

∗∗∗

文献一覧:

  1. Cosmetic Ingredient Review(2013)「Safety Assessment of α-Amino Acids as Used in Cosmetics」International Journal of Toxicology(32)(6_suppl),41S-64S.
  2. 大木 道則, 他(1994)「アスパラギン酸」化学辞典,18.
  3. 日光ケミカルズ(2016)「アスパラギン酸」パーソナルケアハンドブックⅠ,399.
  4. 田村 健夫, 他(1990)「表皮」香粧品科学 理論と実際 第4版,30-33.
  5. 朝田 康夫(2002)「角質層のメカニズム」美容皮膚科学事典,22-28.
  6. 尾沢 達也, 他(1985)「皮膚保湿における保湿剤の役割」皮膚(27)(2),276-288.
  7. I Horii, et al(1983)「Histidine-rich protein as a possible origin of free amino acids of stratum corneum」Normal and Abnormal Epidermal Differentiation: Current Problems in Dermatology(11),301-315.
  8. J Swarbrick, et al(1984)「Drug Permeation Through Human Skin Ⅱ: Permeability of Ionizable Compounds」Journal of Pharmaceutical Sciences(73)(10),1352–1355.
  9. 川崎 由明, 他(1996)「In vitroによるアミノ酸のヒト皮膚での経皮吸収挙動の解析」日本化粧品技術者会誌(30)(1),55-61.
  10. M Sznitowska, et al(1993)「In vitro permeation of human skin by multipolar ions」International Journal of Pharmaceutics(99)(1),43-49.
  11. L Wearley, et al(1990)「A Numerical Approach to Study the Effect of Binding on the Iontophoretic Transport of a Series of Amino Acids」Journal of Pharmaceutical Sciences(79)(11),992–998.
  12. 畑中 朋美, 他(1994)「アミノ酸の皮膚透過機構に関する研究」薬物動態(9)(supplement),78-81.

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