アスパラガス茎エキスとは…成分効果と毒性を解説



・アスパラガス茎エキス
キジカクシ科植物アスパラガス(学名:Asparagus officinalis 英名:Common Asparagus)の茎から水、エタノール、BG、またはこれらの混液で抽出して得られる抽出物(植物エキス)です。
アスパラガスは、南ヨーロッパからロシアを原産とし、ヨーロッパでは古代ギリシャ時代から栽培され、現在は中国を筆頭にペルー、メキシコといった中南米やドイツ、スペインといったヨーロッパを中心に栽培されています(文献1:2017;文献2:2011;文献3:2019)。
日本においては、食用としては1871年に北海道に導入されたのが始まりとされていますが、最初は缶詰用を目的としたホワイトアスパラガスの栽培が主であり、それから食生活の洋風化や健康志向の高まりにともなってグリーンアスパラガスが普及し、現在は北海道を筆頭に長野県、佐賀県、熊本県などで栽培されています(文献4:2019)。
アスパラガス茎エキスは天然成分であることから、地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、
分類 | 成分名称 | |
---|---|---|
アミノ酸 | アスパラギン、アスパラギン酸、バリン、アルギニン、アラニン、ロイシン、グルタミン酸 など | |
無機質 | カリウム、カルシウム など | |
フラボノイド | フラボノール | ルチン |
テルペノイド | ステロイドサポニン | プロトジオシン |
これらの成分で構成されていることが報告されています(文献1:2017;文献5:2019)。
アスパラガスの茎の化粧品以外の主な用途としては、食品分野において若茎が青果として用いられているほか、加工品としてはホワイトアスパラガスが缶詰に用いられます(文献1:2017)。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、シート&マスク製品、化粧下地製品などに使用されています。
角層水分量増加による保湿作用
角層水分量増加による保湿作用に関しては、まず前提知識として皮膚最外層である角質層の構造と役割について解説します。
直接外界に接する皮膚最外層である角質層は、以下の図のように、
天然保湿因子を含む角質と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造となっており、この構造が保持されることによって、外界からの物理的あるいは化学的影響から身体を守り、かつ体内の水分が体外へ過剰に蒸散していくのを防ぐとともに一定の水分を保持する役割を担っています(文献6:2002;文献7:1990)。
一方で、老人性乾皮症やアトピー性皮膚炎においては、角質細胞中のアミノ酸などの天然保湿因子が顕著に低下していることが報告されていることから(文献8:1989;文献9:1991)、角質層の水分量を増加することは、肌の乾燥の改善、ひいては皮膚の健常性の維持につながると考えられています。
このような背景から、角質層の水分量が低下している場合において角質層の水分量を増やすことは、肌の乾燥の改善ひいては皮膚の健常性の維持につながると考えられています。
アスパラガス茎エキスは、アスパラギン酸やアルギニンをはじめ様々なアミノ酸の含有量が高く(文献5:2019)、乾燥を防ぐ保湿効果目的でスキンケア製品に使用されています(文献10:2020)。
ただし、保湿効果を裏付ける試験データはみつけられておらず、みつかりしだい追補します。
チロシナーゼ活性阻害による色素沈着抑制作用
チロシナーゼ活性阻害による色素沈着抑制作用に関しては、まず前提知識としてメラニン色素生合成のメカニズムおよびチロシナーゼについて解説します。
以下のメラニン生合成のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、
皮膚が紫外線に曝露されると、細胞や組織内では様々な活性酸素が発生するとともに、様々なメラノサイト活性化因子(情報伝達物質)がケラチノサイトから分泌され、これらが直接またはメラノサイト側で発現するメラノサイト活性化因子受容体を介して、メラノサイトの増殖やメラノサイトでのメラニン生合成を促進させることが知られています(文献11:2002;文献12:2016;文献13:2019)。
また、メラノサイト内でのメラニン生合成は、メラニンを貯蔵する細胞小器官であるメラノソームで行われ、生合成経路としてはアミノ酸の一種かつ出発物質であるチロシンに酸化酵素であるチロシナーゼが働きかけることでドーパに変換され、さらにドーパにも働きかけることでドーパキノンへと変換されます(文献11:2002;文献13:2019)。
ドーパキノンは、システイン存在下の経路では黄色-赤色のフェオメラニン(pheomelanin)へ、それ以外はチロシナーゼ関連タンパク質2(tyrosinaserelated protein-2:TRP-2)やチロシナーゼ関連タンパク質1(tyrosinaserelated protein-1:TRP-1)の働きかけにより茶褐色-黒色のユウメラニン(eumelanin)へと変換(酸化・重合)されることが明らかにされています(文献11:2002;文献13:2019)。
そして、毎日生成されるメラニン色素は、メラノソーム内で増えていき、一定量に達すると樹枝状に伸びているデンドライト(メラノサイトの突起)を通して、周辺の表皮細胞に送り込まれ、ターンオーバーとともに皮膚表面に押し上げられ、最終的には角片とともに垢となって落屑(排泄)されるというサイクルを繰り返します(文献11:2002)。
正常な皮膚においてはメラニンの排泄と生成のバランスが保持される一方で、紫外線の曝露、加齢、ホルモンバランスの乱れ、皮膚の炎症などによりメラニン色素の生成と排泄の代謝サイクルが崩れると、その結果としてメラニン色素が過剰に表皮内に蓄積されてしまい、色素沈着が起こることが知られています(文献11:2002)。
このような背景から、チロシナーゼの活性を阻害することは色素沈着の抑制において重要なアプローチであると考えられています。
1993年にコーセーによって報告されたアスパラガス茎エキスのチロシナーゼおよびヒト皮膚色素沈着に対する影響検証によると、
アスパラガス茎エキスは、濃度依存的にチロシナーゼの活性を阻害することが確認された。
次に、45名の女性被検者(30-40歳)のうち15名に3%アスパラガス茎エキス(水抽出)配合クリームを、別の15名に0.05%アスパラガス茎エキス(60%エタノール抽出)配合乳液を、さらに対照として別の15名にアスパラガス茎エキス未配合クリームを1日2回(朝晩)2週間にわたって洗顔後に顔面に塗布してもらった。
2週間後に「有効:シミ・ソバカスが目立たなくなった」「やや有効:シミ・ソバカスがやや目立たなくなった」「無効:使用前と変化なし」の基準で評価したところ、以下の表のように、
試料 | 濃度(%) | 被検者数 | ヒト皮膚色素沈着改善効果(人数) | ||
---|---|---|---|---|---|
有効 | やや有効 | 無効 | |||
アスパラガス茎エキス配合クリーム | 3.00 | 15 | 10 | 3 | 2 |
アスパラガス茎エキス配合乳液 | 0.05 | 15 | 9 | 5 | 1 |
クリームのみ(対照) | – | 15 | 0 | 4 | 11 |
0.05%および3%アスパラガス茎エキス配合製剤の塗布が、未配合製剤と比較して皮膚色素沈着を改善することを確認した。
このような試験結果が明らかにされており(文献14:1993)、アスパラガス茎エキスにチロシナーゼ活性阻害による色素沈着抑制作用が認められています。
アスパラガス茎エキスの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚刺激および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
眼刺激性について
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。
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アスパラガス茎エキスは保湿成分、美白成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
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参考文献:
- 杉田 浩一, 他(2017)「アスパラガス」新版 日本食品大事典,21-22.
- 鈴木 洋(2011)「アスパラガス」カラー版健康食品・サプリメントの事典,8.
- 東京植物検疫協会(2019)「東京港に輸入される植物類(29)アスパラガス」東京植検だより(206).
- 独立行政法人農畜産業振興機構(2019)「アスパラガスの需給動向」, <https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/yasai/1904/yasai1.html> 2021年2月19日アクセス.
- B. Chitrakar, et al(2019)「Asparagus (Asparagus officinalis): Processing effect on nutritional and phytochemical composition of spear and hard-stem byproducts」Trends in Food Science & Technology(93),1-11.
- 朝田 康夫(2002)「保湿能力と水分喪失の関係は」美容皮膚科学事典,103-104.
- 田村 健夫, 他(1990)「表皮」香粧品科学 理論と実際 第4版,30-33.
- I Horii, et al(1989)「Stratum corneum hydration and amino acid content in xerotic skin」British Journal of Dermatology(121)(5),587-592.
- M. Watanabe, et al(1991)「Functional analyses of the superficial stratum corneum in atopic xerosis」Archives of Dermatology(127)(11),1689-1692.
- 宇山 侊男, 他(2020)「アスパラガス茎エキス」化粧品成分ガイド 第7版,88.
- 朝田 康夫(2002)「メラニンができるメカニズム」美容皮膚科学事典,170-175.
- 日光ケミカルズ株式会社(2016)「美白剤」パーソナルケアハンドブックⅠ,534-550.
- 田中 浩(2019)「美白製品とその作用」日本香粧品学会誌(43)(1),39-43.
- 株式会社コーセー(1993)「化粧料」特開平5-271045.