オキシベンゾン-4の基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | オキシベンゾン-4 |
---|---|
医薬部外品表示名 | ヒドロキシメトキシベンゾフェノンスルホン酸、オキシベンゾンスルホン酸 |
INCI名 | Benzophenone-4 |
配合目的 | 退色防止、紫外線防御 |
1. 基本情報
1.1. 定義
ベンゾフェノン誘導体の一種であり、以下の化学式で表されるオキシベンゾン-3にスルホ基(-SO3H)が結合した芳香族化合物です[1a]。
1.2. 物性・性状
オキシベンゾン-4の物性・性状は(∗1)、
∗1 融点とは固体が液体になりはじめる温度のことです。また極大吸収波長とは、人体に影響を及ぼす紫外線波長であるUVB-UVAの波長領域(290-400nm)の中で最も吸収する波長のことをいいます。
状態 | 融点(℃) | 極大吸収波長(nm) | 溶解性 |
---|---|---|---|
粉末 | 147 | 285-286(UVB領域) 320-325(UVA領域) |
水、エタノールに可溶 |
このように報告されており[2a][3a]、オキシベンゾン-3のスルホン化によって水溶性として機能します[4a]。
極大吸収波長については、水を溶媒にした場合は285および320が、エタノールを溶媒とした場合は286および325が吸収極大となります。
2. 化粧品としての配合目的
- 退色防止
- UVBおよびUVA吸収による紫外線防御効果
主にこれらの目的で、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、パック&マスク製品、プレスタイリング製品、アウトバストリートメント製品、ボディソープ製品、洗顔料、日焼け止め製品、香水、入浴剤などに使用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 退色防止
退色防止に関しては、オキシベンゾン-4はUVBとUVAにおよぶ吸収能をもち、かつ水溶性であることから[2b][4b]、紫外線曝露による色素の退色・変色、香料の変臭、高分子化合物の分解ならびに解重合、油脂類の酸化などを防ぎ、製造から使用を終えるまでの長期間にわたって化粧品の安定性を保つ目的で、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、パック&マスク製品、プレスタイリング製品、アウトバストリートメント製品、ボディソープ製品、洗顔料、香水、入浴剤などに使用されています[1b][5]。
2.2. UVBおよびUVA吸収による紫外線防御効果
UVBおよびUVA吸収による紫外線防御効果に関しては、まず前提知識として紫外線(ultraviolet:UV)および紫外線の皮膚への影響について解説します。
紫外線とは、以下の図表のように、
紫外線の分類 | 略称 | 波長領域(nm) |
---|---|---|
長波長紫外線 | UVA | 320-400 |
中波長紫外線 | UVB | 290-320 |
短波長紫外線 | UVC | 190-290 |
太陽による光の波長のうち可視光線よりも波長の短いものを指し、生物学的な作用によって3種類に分類されていますが、以下の図が示すように、
300nm以下の波長のものは成層圏のオゾン層に吸収されるため、地上に到達するのは波長領域300-400nm、つまりUVBの一部(300-320nm)とUVAのみであり、人体に作用するのはUVBおよびUVAであることが知られています[6a][7][8a]。
UVBおよびUVAによるヒト皮膚に対する障害は、以下の表のように、
UVB | UVA | ||
---|---|---|---|
皮膚到達度 | 表皮まで | 真皮まで | |
皮膚 外観 変化 |
単回 曝露 |
一過性の炎症(紅斑) 遅延黒化(紅斑消退後) |
一過性の即時黒化 UVBによる紅斑の増強 一過性の紅斑(大量曝露時) |
反復 曝露 |
持続型黒化の増強 | 光老化皮膚の形成 | |
皮膚 内部 変化 |
単回 曝露 |
表皮細胞の損傷 DNAの損傷 メラニン産生の促進 活性酸素(・O2–)の生成 活性酸素(NO)の促進 |
活性酸素(1O2)の生成 |
反復 曝露 |
メラノサイトの増殖 | 真皮細胞外マトリックスの変性 |
皮膚外観および皮膚内部のそれぞれで、主にこれらの変化が報告されています[6b][8b][9a][10a]。
UVBは、単回曝露時の即時的な皮膚反応としていわゆる「日焼け」とよばれる紅斑や浮腫のような炎症反応を引き起こすことが知られており、この炎症が紫外線曝露24時間をピークとして消退したあとに(紫外線曝露から3日後に)各メラノサイト活性化因子の分泌が亢進し、メラノサイトがそれらを受け取ることでメラノサイト内でメラニン産生が促進され、遅延型黒化を引き起こします(∗2)[6c][8c][10b]。
∗2 紫外線曝露による、炎症のメカニズムについては抗炎症成分カテゴリで、メラニン産生促進による黒化のメカニズムについては美白成分カテゴリでそれぞれ解説しているので併せて参照してください。
また、反復曝露(長期間の曝露)による主な皮膚反応としてメラノサイトの増殖によってメラニン量が増加することによる皮膚の持続的な黒化や部分的な色素沈着があります[8d][9b]。
一方で、UVAは単回曝露時の即時的な皮膚反応として、曝露した直後に皮膚が黒化する即時黒化を引き起こしますが、この即時黒化反応は2-3時間で消失する一時的な皮膚の外観変化であり、メラニンの生成促進によって引き起こされたものではなく、皮膚にすでに存在している淡色のメラニン(還元メラニン)の光酸化によるものであると考えられています[9c][10c]。
また、反復曝露(長期間の曝露)による主な皮膚反応として真皮に存在する細胞外マトリックスの変性による皮膚の老化(ハリや弾力の低下)が促進されることが知られています(∗3)[6d][8e]。
∗3 皮膚の老化(光老化)のメカニズムについては、抗老化成分カテゴリで解説しているので、併せて参照してください。
このような背景から、過剰なUVBおよびUVAの曝露から皮膚を保護することは、健常な皮膚の維持や光老化の予防という点で重要であると考えられています。
オキシベンゾン-4は、以下の紫外線吸収スペクトル図をみてもらうとわかりやすいと思いますが(∗4)、
∗4 吸光度(absorbance:abs)とは、溶液に吸収される光の量のことを指し、Lambert-Beerの法則を用いた場合、光透過率100%の吸光度0.0、31.6%の吸光度0.5、10%の吸光度1.0、1%の吸光度2.0となり、吸光度が大きいほど光透過率は低くなります。ただし、濃度依存的に吸光度は高くなるため、吸光度はあくまでもスペクトルを示すための参考値です。
吸光度はあまり大きくないとはいえ、UVB領域である285-286nmおよびUVA領域である320-325nmに吸収極大を示すUVBとUVAにおよぶ吸収能を有しており、水溶性であることから[2c][4c]、UVBおよびUVA吸収による紫外線防御目的で日焼け止め製品などに使用されています。
3. 配合製品数および配合量範囲
ヒドロキシメトキシベンゾフェノンスルホン酸は、医薬部外品(薬用化粧品)への配合において配合上限があり、配合範囲は以下になります。
種類 | 配合量 | その他 |
---|---|---|
薬用石けん・シャンプー・リンス等、除毛剤 | 1.0 | 日焼け止め剤のみ10。紫外線吸収剤の合計は10以下とする |
育毛剤 | 1.0 | |
その他の薬用化粧品、腋臭防止剤、忌避剤 | 1.0 | |
薬用口唇類 | 0.10 | |
薬用歯みがき類 | 0.10 | |
浴用剤 | 1.0 | |
染毛剤 | オキシベンゾン、ヒドロキシメトキシベンゾフェノンスルホン酸及びヒドロキシメトキシベンゾフェノンスルホン酸(三水塩)の合計として5.0 | |
パーマネント・ウェーブ用剤 | オキシベンゾン、ヒドロキシメトキシベンゾフェノンスルホン酸及びヒドロキシメトキシベンゾフェノンスルホン酸(三水塩)をオキシベンゾンに換算して、オキシベンゾンの合計として1.0 |
また、オキシベンゾン-4は配合制限成分リスト(ポジティブリスト)収載成分であり(∗5)、化粧品に配合する場合は以下の配合範囲内においてのみ使用されます。
∗5 ポジティブリストにおいては成分名「ヒドロキシメトキシベンゾフェノンスルホン酸及びその三水塩」と記載されています。
種類 | 最大配合量(g/100g)(∗6) |
---|---|
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流すもの | 10 |
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流さないもの | 10 |
粘膜に使用されることがある化粧品 | 0.10 |
∗6 ヒドロキシメトキシベンゾフェノンスルホン酸としての合計量とする。
化粧品に対する実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の1983年および2020-2021年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗7)。
∗7 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
4. 安全性評価
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 30年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし-軽度
- 眼刺激性:濃度5%以下においてほとんどなし、濃度8%以下においてほとんどなし-軽度
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
- 皮膚感作性(皮膚炎を有する場合):まれに皮膚感作を引き起こす可能性あり
- 光毒性(光刺激性):ほとんどなし
- 光感作性(皮膚炎を有する場合):まれに光感作を引き起こす可能性あり
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
ただし、過去に皮膚アレルギーまたは光接触アレルギーの既往歴がある場合や皮膚炎を有する場合は、まれに皮膚感作や光感作を引き起こす可能性があるため、注意が必要であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[3b][11a]によると、
– 健常皮膚を有する場合 –
- [ヒト試験] 14名の被検者に4,8および16%オキシベンゾン-4を含むワセリンを対象に単回皮膚刺激性試験を実施したところ、4名の被検者は濃度16%で皮膚反応を示した。この試験物質は濃度16%で刺激剤に分類された(Industrial Biology Labs,1967)
- [ヒト試験] 50名の被検者に5%オキシベンゾン-4水溶液を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、いずれの被検者も皮膚反応を示さず、この試験物質は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(Industrial Biology Labs,1962)
- [ヒト試験] 100名の被検者にオキシベンゾン-4を含むワセリンを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、いずれの被検者も皮膚反応を示さず、この試験物質は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(A.M. Kligman,1976)
- [ヒト試験] 80名の被検者に2,5および10%オキシベンゾン-4を含むワセリンをICDRG(International Contact Dermatitis Research Group:国際接触皮膚炎研究グループ)のガイドラインに基づいて48時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚刺激性を評価したところ、濃度5%で4名の被検者が、濃度10%で6名の被検者が皮膚刺激を示した(A.C. Kerr et al,2009)
– 皮膚炎を有する場合 –
- [ヒト試験] 光感作の疑いがある402名の患者に10%オキシベンゾン-4を含むワセリンを対象にICDRG(International Contact Dermatitis Research Group:国際接触皮膚炎研究グループ)のガイドラインに基づいて皮膚感作性試験を実施したところ、いずれの被検者においても皮膚感作反応はみられなかった(S. Schauder & H. Ippen,1997)
- [ヒト試験] 553名の患者に10%オキシベンゾン-4を含む製剤を対象に国際的なガイドラインに基づいて皮膚感作性試験を実施したところ、13名の患者が陽性反応を示した(T.M. Hughes & N.M. Stone,2007)
- [ヒト試験] 160名の患者にオキシベンゾン-4(濃度不明)を含む製剤を対象に光感作性試験を伴う皮膚感作性試験を実施したところ、3名の患者が陽性反応を示した(E. Rodriguez et al,2006)
このように記載されており、試験データをみるかぎり健常皮膚を有する場合かつ化粧品配合範囲において皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
皮膚刺激性については、試験データをみるかぎり非刺激-軽度の皮膚刺激が報告されているため、一般に非刺激-軽度の皮膚刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
また、過去に接触皮膚アレルギーの既往歴がある場合や皮膚炎を有する場合においては、試験データをみるかぎり複数の皮膚感作事例が報告されているため、まれに皮膚感作反応を引き起こす可能性があると考えられます。
4.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[3c]によると、
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼に4,8および16%オキシベンゾン-4を含むワセリン0.1mLを適用し、適用1,2,3および7日目に眼刺激性を評価したところ、濃度16%で角膜および結膜刺激が、濃度8%で結膜刺激がみられた(Industrial Biology Labs,1967)
- [動物試験] 9匹のウサギの片眼に5%オキシベンゾン-4水溶液を点眼し、点眼1,2,3,4および7日目に眼刺激性を評価したところ、いずれのウサギにおいても眼刺激性は認められなかった(Industrial Biology Labs,1962)
このように記載されており、試験データをみるかぎり化粧品配合範囲において非刺激-軽度の眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は非刺激-軽度の眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
4.3. 光毒性(光刺激性)および光感作性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[3d][11b]によると、
– 健常皮膚を有する場合 –
- [ヒト試験] 25名の被検者に0.1%オキシベンゾン-4を含む基礎化粧品を対象に光毒性試験を日光にて実施したところ、いずれの被検者も光刺激を示さなかった(Hill Top Research Labs,1978)
– 皮膚炎を有する場合 –
- [ヒト試験] 光感作の疑いがある402名の患者に10%オキシベンゾン-4を含むワセリンを対象にICDRG(International Contact Dermatitis Research Group:国際接触皮膚炎研究グループ)のガイドラインに基づいて光感作性試験を実施したところ、いずれの被検者においても光感作反応はみられなかった(S. Schauder & H. Ippen,1997)
- [ヒト試験] 1,155名の患者に5および10%オキシベンゾン-4を含む白色ワセリンを対象にICDRG(International Contact Dermatitis Research Group:国際接触皮膚炎研究グループ)のガイドラインに基づいて光感作性試験を実施したところ、濃度5%において2名の患者に、濃度10%において5名の患者に光アレルギー性の接触皮膚炎がみられた(S. Schauder & H. Ippen,1997)
- [ヒト試験] 80名の患者に2,5および10%オキシベンゾン-4を含むワセリンを対象にICDRG(International Contact Dermatitis Research Group:国際接触皮膚炎研究グループ)のガイドラインに基づいて光毒性試験を実施したところ、1名の患者において弱い陽性反応がみられた(A.C. Kerr et al,2009)
このように記載されており、試験データをみるかぎり健常皮膚を有する場合において光刺激および光感作なしと報告されているため、一般に光毒性(光刺激性)および光感作性はほとんどないと考えられます。
また、過去に接触皮膚アレルギーの既往歴がある場合や皮膚炎を有する場合においては、試験データをみるかぎり複数の光感作事例が報告されているため、まれに光感作反応を引き起こす可能性があると考えられます。
5. 参考文献
- ⌃ab日本化粧品工業連合会(2013)「オキシベンゾン-4」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,247.
- ⌃abc日光ケミカルズ株式会社(2006)「紫外線防御剤」新化粧品原料ハンドブックⅠ,445-457.
- ⌃abcdR.L. Elder(1983)「Final Report on the Safety Assessment of Benzophenones-1, 3, 4, 5, 9, and 11」Journal of the American College of Toxicology(2)(5),35-77. DOI:10.1177/1091581803022S303.
- ⌃abcBASF SE(2011)「Uvinul MS 40」UV Filters Technical Information,9.
- ⌃田村 健夫・廣田 博(2001)「安定剤としての紫外線吸収剤」香粧品科学 理論と実際 第4版,235-237.
- ⌃abcd正木 仁(2003)「紫外線」化粧品事典,500-502.
- ⌃磯貝 理恵子・山田 秀和(2021)「太陽光線と皮膚:マクロの変化」臨床光皮膚科学,16-22.
- ⌃abcde錦織 千佳子(2009)「紫外線と光防御」美容皮膚科学 改定2版,31-39.
- ⌃abc日光ケミカルズ株式会社(2016)「紫外線障害予防剤」パーソナルケアハンドブックⅠ,586-594.
- ⌃abc富田 靖(2009)「メラニンと色素異常」美容皮膚科学 改定2版,22-30.
- ⌃abW. Johnson Jr & J. Zhu(2021)「Amended Safety Assessment of Benzophenones as Used in Cosmetics(∗8)」, 2022年4月9日アクセス.
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