トコトリエノールの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | トコトリエノール |
---|---|
INCI名 | Tocotrienols |
配合目的 | 退色防止 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
脂溶性ビタミンであるビタミンEの一種であり、以下の化学式で表されるα、γ、δ-トコトリエノールの混合物です[1a][2]。
α | ![]() |
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γ | ![]() |
δ | ![]() |
1.2. トコフェロールとトコトリエノールの違い
ビタミンEは抗酸化物質であり、代表的なビタミンEとしてトコフェロール(tocopherol)が知られていますが、トコフェロールとトコトリエノール(tocotrienols)の違いは以下の化学式をみてもらうとわかるように、
トコフェロール | ![]() |
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トコトリエノール | ![]() |
環状部分であるクロマン骨格の側鎖に3つの二重結合をもつものがトコトリエノール、もたないものがトコフェロールとなっており、3つの二重結合をもつトコトリエノールはトコフェロールと比較して非常に不安定(酸化しやすい)な構造であると考えられます。
それぞれの抗酸化活性は、以下の表のように、
種類 | 抗酸化活性 | 生物活性 |
---|---|---|
α-トコフェロール | 100 | 100 |
γ-トコフェロール | 47 | 11 |
α-トコトリエノール | 100 | 30 |
トコフェロールとトコトリエノールは、in vitro(試験管)試験においては同様に強い抗酸化活性を示しますが、動物を用いた生物活性はα-トコフェロールが最も高く、トコトリエノールはin vitro試験から期待されるほどは高くないことが知られています[3]。
1.3. 分布
トコトリエノールは、自然界においてはとくに植物油に多く含まれていることが知られており、植物油のトコトリエノール含有量としては一例として以下の表のように、
植物油 | 含有量(μg/g) | |||
---|---|---|---|---|
α | β | γ | δ | |
パーム油 | 143 | 32 | 286 | 69 |
パーム油 | 274 | – | 398 | 69 |
パーム油 | 205 | – | 439 | 94 |
米ヌカ油 | 236 | – | 349 | – |
小麦胚芽油 | 24 | 165 | – | – |
植物油中においてはγおよびα-トコトリエノールの含有量が多いことが明らかとなっています[4]。
1.4. 化粧品以外の主な用途
トコトリエノールの化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
---|---|
食品 | 動物性油脂の酸化防止剤として用いられています[5]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 退色防止
- 配合目的についての補足
主にこれらの目的で、メイクアップ製品、化粧下地製品、クレンジング製品、スキンケア製品などに使用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 退色防止
退色防止に関しては、トコトリエノールは292-298nmのUVB領域に紫外線吸収極大をもつことが明らかにされており[6]、紫外線曝露による色素の退色・変色、香料の変臭、高分子化合物の分解ならびに解重合、油脂類の酸化などを防ぎ、製造から使用を終えるまでの長期間にわたって化粧品の安定性を保つ目的で、様々な製品に使用されています[1b]。
2.2. 配合目的についての補足
代表的なビタミンEであるトコフェロールは製品自体の酸化防止剤として汎用されている一方で、トコトリエノールは製品の酸化防止目的では報告されていません[7a]。
また、皮膚に対する作用としては、in vitro(試験管)試験において皮膚のハリなどに寄与している線維芽細胞増殖作用やヒアルロン酸の産生促進作用などが報告されていますが[8]、ヒト皮膚における使用試験がみあたらなかったため、ヒト皮膚における効果がみつかりしだい追補します。
3. 配合製品数および配合量範囲
配合製品数および配合量に関しては、海外の2013-2014年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗1)。
∗1 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
4. 安全性評価
- 食品添加物の既存添加物リストに収載
- 15年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:5%濃度以下においてほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):5%濃度以下においてほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ[7b]によると、
- [ヒト試験] 30名の被検者に0%,1%,2.5%,5%,7.5%,10%および20%トコトリエノールを含むワセリンを48時間Finn Chamber適用し、ICDRG(International Contact Dermatitis Research Group:国際接触皮膚炎研究グループ)の方法に基づいて適用48および96時間後に皮膚反応を評価したところ、5%以下濃度において48または96時間で皮膚刺激反応は観察されなかった。一方で7.5%濃度で疑わしい紅斑が、20%濃度では明瞭な紅斑が観察され、濃度が高くなるほど皮膚刺激反応の程度も高くなった。これらの結果から5%濃度以下ではヒト反復傷害パッチ試験において刺激物質または感作物質ではなかったと結論づけられた(Hasan ZAA et al,2008)
- [ヒト試験] 25名の被検者に2.5%および5%トコトリエノールを含むワセリンを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、2.5%および5%濃度の両方で無添加溶液よりも低い皮膚累積刺激スコアを示した。チャレンジパッチ後に2名の被検者が48時間の評価で一時的な皮膚反応を示したが、96時間後には反応は観察されなかった(Hasan ZAA et al,2008)
このように記載されており、試験データをみるかぎり5%濃度以下において共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に5%濃度以下において皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
4.2. 眼刺激性
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。
5. 参考文献
- ⌃ab日本化粧品工業連合会(2013)「トコトリエノール」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,675.
- ⌃大木 道則, 他(1989)「ビタミンE」化学大辞典,1872-1873.
- ⌃池田 彩子(2012)「トコトリエノールの代謝とその調節」化学と生物(50)(10),700-701.
- ⌃湊 貞正(2001)「トコトリエノールの機能と健康食品への応用」Fragrance Journal(29)(2),43-48.
- ⌃樋口 彰, 他(2019)「トコトリエノール」食品添加物事典 新訂第二版,241.
- ⌃M. Podda, et al(1996)「Simultaneous determination of tissue tocopherols, tocotrienols, ubiquinols, and ubiquinones」Journal of Lipid Research(37)(4),893-901. PMID:8732789.
- ⌃abM.M. Fiume, et al(2018)「Safety Assessment of Tocopherols and Tocotrienols as Used in Cosmetics」International Journal of Toxicology(37)(2_suppl),61S-94S. DOI:10.1177/1091581818794455.
- ⌃白崎 友美(2004)「米由来トコトリエノールの新たな機能と化粧品への応用」Fragrance Journal(32)(2),74-78.