アラントインの基本情報・配合目的・安全性

アラントイン

化粧品表示名 アラントイン
医薬部外品表示名 アラントイン
INCI名 Allantoin
配合目的 刺激緩和細胞賦活 など

アラントインは、医薬部外品抗炎症有効成分として厚生労働省に承認された成分です。

1. 基本情報

1.1. 定義

以下の化学式で表される複素環式化合物です[1]

アラントイン

1.2. 物性・性状

アラントインの物性・性状は、

状態 結晶
溶解性 水、エタノールに微溶

このように報告されています[2][3]

1.3. 分布

アラントインは、動植物界に広く分布し、動物においてはウシやブタなどの血液や尿などに含まれ、植物においてはタバコの種子、甜菜、小麦の芽、コンフリーの葉や根などに存在しています[4a]

1.4. 化粧品以外の主な用途

アラントインの化粧品以外の主な用途としては、

分野 用途
医薬品 肉芽や表皮の形成を促進し、患部の治りを促す組織修復成分として湿疹・皮膚炎、ひび、あかぎれ、やけどなどの外用治療薬に[5a][6a][7a]、収れん作用を示して炎症を抑制することから点眼薬にそれぞれ用いられます[8]。また湿潤、軟化目的の医薬品添加剤として外用剤に用いられています[9]

これらの用途が報告されています。

2. 化粧品および医薬部外品としての配合目的

化粧品および医薬部外品(薬用化粧品)に配合される場合は、

  • 刺激緩和作用
  • 表皮角化細胞増殖促進による細胞賦活作用

主にこれらの目的で、スキンケア製品、メイクアップ製品、化粧下地製品、リップケア製品、マスク製品、ボディケア製品、ハンドケア製品、洗顔料、シャンプー製品、ボディソープ製品など様々な製品に汎用されています。

以下は、化粧品および医薬部外品(薬用化粧品)として配合される目的に対する根拠です。

2.1. 刺激緩和作用

刺激緩和作用に関しては、アラントインは皮膚一次刺激性やアレルギー性を緩和する作用が認められており、皮膚刺激を引き起こす可能性のある成分(∗1)にアラントインを併用することで、製品の一次刺激性やアレルギー性を緩和・軽減することから、主に敏感肌用化粧品、メイクアップ製品、洗浄系製品などに使用されています[4b][10a][11a]

∗1 皮膚刺激を引き起こす可能性のある成分としては、洗浄力の高い界面活性剤、着色剤、パーマ液などが挙げられます。

2.2. 表皮角化細胞増殖促進による細胞賦活作用

表皮角化細胞増殖促進による細胞賦活作用に関しては、まず前提知識としてターンオーバーの仕組みについて解説します。

皮膚は大きく最外層の表皮と表皮を支える真皮に分かれており、ターンオーバーについては以下の表皮の構造図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、

表皮細胞の新陳代謝(ターンオーバー)のメカニズム

ターンオーバー(turnover)とは、血液やリンパなどから栄養素や調節因子などの制御を受けながら、表皮最下層である基底層で生成された角化細胞(表皮細胞:ケラチノサイト)がその次につくられた、より新しい角化細胞によって皮膚表面に向かって押し上げられるとともに分化していき、最後はケラチンから成る角質細胞となり、角質層にとどまった後に角片(∗2)として剥がれ落ちる表皮の新陳代謝のことをいい、正常なターンオーバーによって皮膚の新鮮さおよび健常性が保持されています[12][13]

∗2 角片とは、体表部分でいえば垢、頭皮でいえばフケを指します。

アラントインは、表皮細胞の増殖を促進し患部の治りを促す組織修復成分として湿疹・皮膚炎、ひび、あかぎれ、やけどなどの外用治療薬に用いられており[5b][6b][7b]、化粧品においても表皮細胞の増殖を促進し、肌荒れの防止や唇のひびなどを修復する目的でスキンケア製品、ボディケア製品、ハンドケア製品、リップケア製品などに使用されています[10b][11b]

3. 混合原料としての配合目的

アラントインは混合原料が開発されており、アラントインと以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。

原料名 RonaCare Aluminium Chloride Hydroxide-Allantoin
構成成分 アラントインクロルヒドロキシAl
特徴 アラントインの細胞増殖作用とアルミニウムイオンの収れん作用を兼ねており、収れん剤または脱臭剤として効果を発揮する原料
原料名 Asebiol
構成成分 ピリドキシンHClナイアシンアミドグリセリンパンテノール、加水分解酵母タンパク、トレオニンアラントインビオチンフェノキシエタノールソルビン酸Kリン酸2Naクエン酸
特徴 皮脂の産生に関与する酵素である5α-リダクターゼを阻害することにより頭皮の皮脂量を調整するビタミンおよびアミノ酸の複合体
原料名 ベリーベリーアクネケア
構成成分 プロパンジオールサリチル酸水酸化Naウンシュウミカン果皮エキスユズ種子エキス、キウイ種子エキス、フラガリアチロエンシス果実エキス、マンゴスチン果皮エキス、グリチルリチン酸2Kアラントイン、ブドウ葉/種子/皮エキス
特徴 フルーツ混合抽出物に、さらにアラントイン、グリチルリチン酸ジカリウム、サリチル酸を加えることにより、アクネ菌阻害作用、皮膚ターンオーバー促進作用および抗炎症作用を発揮する複合アクネケアコンプレックス
原料名 P.P.A.A.-C
構成成分 タウリンリシンHClアラニンヒスチジンHClアルギニンセリンプロリングルタミン酸トレオニンバリンロイシングリシンアラントインイソロイシンフェニルアラニン
特徴 プラセンタに含まれるアミノ酸組成を模して構成されたアミノ酸混合物

4. 配合製品数および配合量範囲

アラントインは、医薬部外品(薬用化粧品)への配合において配合上限があり、配合範囲は以下になります。

種類 配合量 その他
薬用石けんシャンプーリンス等除毛剤 0.50 すべてのアラントイン誘導体をアラントインに換算して、アラントインとして合計。
育毛剤 0.20
その他の薬用化粧品、腋臭防止剤、忌避剤 0.20
薬用口唇類 0.20
薬用歯みがき類 0.20
浴用剤 0.20
染毛剤 0.5
パーマネント・ウェーブ用剤 0.5

また、アラントインは医薬品成分であり、化粧品に配合する場合は以下の配合範囲内においてのみ使用されます。

種類 最大配合量(g/100g)
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流すもの 0.50
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流さないもの 0.3
粘膜に使用されることがある化粧品 0.20

実際の化粧品における配合製品数および配合量に関しては、海外の2007年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。

アラントインの配合製品数と配合量の調査結果(2007年)

5. 安全性評価

アラントインの現時点での安全性は、

  • 局外規2002規格の基準を満たした成分が収載される日本薬局方外医薬品規格2002に収載
  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 医薬部外品有効成分に承認
  • 20年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:ほとんどなし
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし

このような結果となっており、化粧品および医薬部外品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

5.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[14a]によると、

– 健常皮膚を有する場合 –

  • [ヒト試験] 12名の被検者にアラントインを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、いずれの被検者においても皮膚反応はみられず、この試験物質は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(S.B. Mecca,1959)
  • [ヒト試験] 105名の被検者に0.095%アラントインを含む製剤0.2mLを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を吸収パッドにて実施したところ、試験期間においてまれにほとんど知覚できないものから中程度までの浮腫または乾燥を伴った皮膚反応が観察されたが、アレルギー性接触感作の兆候はみられず、この試験製剤は臨床的に有意な皮膚刺激およびアレルギー性接触感作の可能性を示していないと結論づけられた(Consumer Product Testing Co,2007)
  • [ヒト試験] 主観性敏感肌を含む33名の被検者に0.5%アラントインを含むベビータルクを対象とした21日間皮膚累積刺激性試験を実施したところ、皮膚累積刺激スコア0-630のスケールにおいてスコアは0.0であり、この試験製剤は皮膚累積刺激剤ではなかった(Personal Care Products Council,2008)
  • [ヒト試験] 214名の被検者に0.5%アラントインを含むベビータルクを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、誘導期間において2名の被検者に最小限の皮膚反応がみられたが、チャレンジ期間において皮膚反応はみられず、この試験製剤は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(Personal Care Products Council,2008)

– 皮膚炎や敏感な皮膚を有する場合 –

  • [ヒト試験] 18名の被検者(アレルギー11名、敏感肌7名)にアラントイン2-5mg/cmを含む絆創膏を24時間適用し、除去後および72時間後に皮膚刺激性を評価したところ、いずれの被検者においても皮膚刺激の兆候はなかった(H. Tronnier,1996)
  • [ヒト試験] 主観性敏感肌の35名の被検者に0.5%アラントインを含むベビータルクを対象とした21日間皮膚累積刺激性試験を実施したところ、皮膚累積刺激スコア0-630のスケールにおいてスコアは8.9であり、この試験製剤は皮膚累積刺激剤ではないと結論付けられた(Personal Care Products Council,2008)

このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

5.2. 眼刺激性

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[14b]によると、

  • [動物試験] 6匹のウサギの片眼にアラントイン100mgを適用し、適用1,24,72および96時間後に眼刺激性を評価したところ、この試験物質は眼刺激剤ではなかった(Centre International de Toxicoligie,1989)

このように記載されており、試験データをみるかぎり眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。

6. 参考文献

  1. 日本化粧品工業連合会(2013)「アラントイン」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,154.
  2. 大木 道則, 他(1989)「アラントイン」化学大辞典,94.
  3. 有機合成化学協会(1985)「アラントイン」有機化合物辞典,72.
  4. ab日光ケミカルズ株式会社(2016)「刺激緩和・抗炎症剤」パーソナルケアハンドブックⅠ,599-601.
  5. ab小林 秀樹(2021)「湿疹・皮膚炎治療薬」今日のOTC薬 改訂第5版:解説と便覧,332-351.
  6. ab新倉 卓(2021)「しもやけ, ひび, あかぎれ用薬」今日のOTC薬 改訂第5版:解説と便覧,362-371.
  7. ab鈴木 小夜(2021)「やけど用薬」今日のOTC薬 改訂第5版:解説と便覧,390-397.
  8. 折井 孝男・田邉 直人(2021)「眼科用薬」今日のOTC薬 改訂第5版:解説と便覧,428-459.
  9. 日本医薬品添加剤協会(2021)「アラントイン」医薬品添加物事典2021,28-29.
  10. abAkema Fine Chemicals(2019)「Allantoin」Product Data Sheet.
  11. ab鈴木 一成(2012)「アラントイン」化粧品成分用語事典2012,406.
  12. 朝田 康夫(2002)「表皮を構成する細胞は」美容皮膚科学事典,18.
  13. 朝田 康夫(2002)「角質層のメカニズム」美容皮膚科学事典,22-28.
  14. abL.C. Becker(2010)「Final Report of the Safety Assessment of Allantoin and Its Related Complexes」International Journal of Toxicology(29)(3_suppl),84S-97S. DOI:10.1177/1091581810362805.

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