デキストランの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | デキストラン |
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医薬部外品表示名 | デキストラン、デキストラン40 |
INCI名 | Dextran |
配合目的 | 保水、賦形、結合 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
ショ糖を基質としロイコノストック属細菌Leuconostoc meseteroidesによって醗酵して得られる産生粘質物であり、以下の化学式で表されるグルコースのα-1,6結合を主鎖とし、0.5-60%の割合で側鎖にグルコースが結合( α-1,3, α-1,4, α-1,2結合)した構造の繰り返し単位で構成されたα-グルカン(分枝多糖)かつ微生物系水溶性高分子です[1a][2][3a]。
医薬部外品表示名「デキストラン40」は、医薬品分野において分子量約4万前後に調整された低分子デキストランのことをいいます。
1.2. 分布
デキストランは、自然界において主にロイコノストック属細菌(学名:Leuconostocaceae)(∗1)の発酵産物として存在しています[4]。
∗1 デキストランを産生する代表的なロイコノストック属細菌(Leuconostoc)としては、Leuconostoc meseteroides、Leuconostoc dextranicum、Leuconostoc citrovorumなどが報告されています。
1.3. 化粧品以外の主な用途
デキストランの化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
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食品 | 増粘・増粘安定目的で用いられています[5]。 |
医薬品 | 分子量約4万に調整された低分子デキストラン(デキストラン40)が急性出血時の代用血漿・血漿増量薬として用いられています[6]。また分子量約7万に調整されたデキストランが安定・安定化目的の医薬品添加剤として経口剤に、分子量約4万に調整されたデキストラン(デキストラン40)が安定・安定化、賦形、懸濁目的の医薬品添加剤として経口剤、各種注射に用いられています[7]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 保水
- 賦形
- 結合
主にこれらの目的で、メイクアップ製品、化粧下地製品、スキンケア製品、まつ毛美容液、シート&マスク製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、トリートメント製品、頭皮ケア製品などに使用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 製品自体の保水
製品自体の保水に関しては、デキストランは他の多糖と比較して水溶性に優れ、湿度の変化を受けにくく、低湿度下でも適度な保湿性を維持することから、保水や水分変動抑制目的で様々な製品に配合されています[8a]。
2.2. 賦形
賦形に関しては、デキストランは生体組織との相互作用が少なく安全に使用できることから、医薬品の有効成分量および濃度を均一にしたり、有効成分だけでは分量が少なくそのままだと容量や重量が足りない場合に分量を増やす増量剤として用いられており[8b][9]、化粧品においても同様の目的でパウダー系製品などに使用されています[1b]。
2.3. 結合
結合に関しては、デキストランは粉体原料同士を皿状容器に圧縮成型するとき、粉体原料同士のくっつきをよくしたり、使用時に粉が周囲に飛び散るのを防ぐ目的で主にパウダー系メイクアップ製品などに用いられます[1c][10][11]。
3. 配合製品数および配合量範囲
デキストランは、医薬部外品(薬用化粧品)への配合において配合上限があり、配合範囲は以下になります。
種類 | 配合量 |
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薬用石けん・シャンプー・リンス等、除毛剤 | 12 |
育毛剤 | 配合不可 |
その他の薬用化粧品、腋臭防止剤、忌避剤 | 配合不可 |
薬用口唇類 | 配合不可 |
薬用歯みがき類 | 配合不可 |
浴用剤 | 配合不可 |
染毛剤 | 配合不可 |
パーマネント・ウェーブ用剤 | 上限なし |
化粧品に対する実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2011-2012年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗2)。
∗2 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
4. 安全性評価
- 食品添加物の既存添加物リストに収載
- 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
(デキストラン40のみ) - 薬添規2018規格の基準を満たした成分が収載される医薬品添加物規格2018に収載
(デキストランのみ) - 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
食品添加物の既存添加物リスト、医薬品添加物規格2018、日本薬局方および医薬部外品原料規格2021に収載されており、20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
4.2. 眼刺激性
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。
5. 参考文献
- ⌃ab日本化粧品工業連合会(2013)「デキストラン」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,654-655.
- ⌃有機合成化学協会(1985)「デキストラン」有機化合物辞典,565.
- ⌃ab日光ケミカルズ株式会社(2016)「高分子」パーソナルケアハンドブックⅠ,106-134.
- ⌃藤原 脩雄・篠田 晃(1967)「デキストラン」高分子(16)(11),1192-1196. DOI:10.1295/kobunshi.16.11_1192.
- ⌃樋口 彰, 他(2019)「デキストラン」食品添加物事典 新訂第二版,233-234.
- ⌃浦部 晶夫, 他(2021)「低分子デキストラン」今日の治療薬2021:解説と便覧,548.
- ⌃日本医薬品添加剤協会(2021)「デキストラン」医薬品添加物事典2021,397-399.
- ⌃ab加藤 一郎(2005)「デキストランの化粧品分野への応用」Fragrance Journal(33)(3),59-64.
- ⌃薬科学大辞典編集委員会(2013)「賦形剤」薬科学大辞典 第5版,1337.
- ⌃日光ケミカルズ株式会社(1982)「結合剤」化粧品製剤実用便覧,24.
- ⌃霜川 忠正(2001)「結合剤」BEAUTY WORD 製品科学用語編,216.