トレハロースの基本情報・配合目的・安全性

トレハロース

化粧品表示名称 トレハロース
医薬部外品表示名称 トレハロース、トレハロース液
化粧品国際的表示名称(INCI名) Trehalose
配合目的 保水、消臭 など

1. 基本情報

1.1. 定義

以下の化学式で表される、2分子のD-グルコースが1位同士でグリコシド結合(1,1-グリコシド結合)した構造をもつ二糖(非還元性二糖)(∗1)です[1a][2a]

∗1 二糖とは、糖類の最小構成単位である単糖2分子が脱水縮合し、グリコシド結合を形成して1分子となった糖のことをいいます。

トレハロース

1.2. 分布

トレハロースは、自然界において動植物、菌類、藻類、昆虫の血液などに広く存在しており、植物ではテマリカタヒバ(学名:Selaginella lepidophylla)に約2.5%、昆虫ではサバクトビバッタ(学名:Schistocerca gregaria)や甲虫が分泌するマンナ(∗2)などに、菌類ではシイタケ(学名:Lentinula edodes)や酵母などに含まれています[2b][3][4][5a]

∗2 マンナとは、甲虫が分泌する甘味のある繭であり、トレハロースを23-30%含むことからトレハラマンナともよばれます。

1.3. 生体における働き

昆虫では主な血糖として、微生物では細胞内糖質としてエネルギー源に利用されるだけでなく、外界の熱、乾燥、凍結、浸透圧などのストレスから細胞や生体を保護する作用が知られており、これらの保護作用にはトレハロースのタンパク質や細胞膜の安定化や水との水和(∗3)が関与しています[5b][6]

∗3 水和(hydration)とは、ある化学種へ水分子が付加する現象であり、イオン性化合物や水素結合性化合物が水に溶解し、静電相互作用や水素結合することによって起こります。

1.4. 化粧品以外の主な用途

トレハロースの化粧品以外の主な用途としては、

分野 用途
食品 デンプンの老化防止作用やタンパク質の変性を抑制する作用があることから、デンプン系食品、タンパク質系食品の品質保持や改善の目的で用いられています[7]
医薬品 矯味、賦形目的の医薬品添加剤として経口剤、静脈注射などに用いられています[8]

これらの用途が報告されています。

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • 保水
  • 揮発性アルデヒド生成抑制による加齢臭抑制作用

主にこれらの目的でスキンケア化粧品、洗顔料、洗顔石鹸、マスク製品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ化粧品、化粧下地製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、トリートメント製品、ボディソープ製品、アウトバストリートメント製品、デオドラント製品など様々な製品に汎用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. 製品自体の保水

製品自体の保水に関しては、トレハロース分子はそのヒドロキシ基(-OH)の構造が水分子と類似していることから高い水和力を有しており、製品中の水分を保持する目的で様々な製品に配合されています[1b][9a]

2.2. 揮発性アルデヒド生成抑制による加齢臭抑制作用

揮発性アルデヒド生成抑制による加齢臭抑制作用に関しては、まず前提知識として加齢臭と揮発性アルデヒドの関係について解説します。

中高年者に特有のにおいである加齢臭は、体幹部とくに胸や背中部分から臭ってくる脂臭くて少し青臭い、梅雨時の黴びた古本や古いポマードを連想させる嫌なにおいとして知られており、およそ55歳以上になると不飽和アルデヒドの一種である2-ノネナールを中心に2-ヘキセナール、2-オクテナールなどの揮発性アルデヒドの検出率が大幅に増加することから、これら揮発性アルデヒド類の増加が加齢臭の主な原因であることが明らかにされています[9b][10]

このような背景から、揮発性アルデヒド類を減少させることは、加齢臭の抑制に非常に重要であると考えられます。

2001年に林原生物化学研究所によって報告された揮発性アルデヒド類に対するトレハロースの影響検証によると、

– 消臭性試験 –

48歳以上の17人の男性被検者(平均年齢56.7)に2%トレハロース水溶液を入浴後の上半身にスプレーし、木綿製シャツを着用してもらい、約20時間着用後にそのシャツに付着した揮発性アルデヒド量を定量し、トレハロース使用前の着用シャツから検出される不飽和アルデヒド類(2-ヘキサナール、2-オクテナール、2-ノネナールの合計)と比較したところ、以下の表のように、

年齢
人数
アルデヒドの種類 揮発性アルデヒド量(μg)
スプレー前 スプレー後
55歳未満
9人
2-ヘキサノール 0.06±0.17 0.08±0.23
2-オクタノール 0.89±1.00 0.36±0.56
2-ノネナール 0.33±0.45 0.28±0.46
合計 1.28±0.96 0.71±0.82
55歳以上
8人
2-ヘキサノール 5.44±4.39 0.71±1.65
2-オクタノール 5.11±3.71 2.59±1.92
2-ノネナール 6.61±3.75 2.11±1.87
合計 17.17±10.14 5.40±4.66

揮発性アルデヒドの合計は、年齢55歳未満(9人)ではわずか1.28μgであり、年齢55歳以上(8人)では17.2μgと高値であった。

2%トレハロース水溶液を使用した場合、年齢55歳以上の被検者において揮発性アルデヒド量は有意に低下し、約70%減少した。

この結果から、トレハロースの作用が実際の高齢者の体臭抑制に効果を示すことがわかった。

このような試験結果が明らかにされており[11]、トレハロースに揮発性アルデヒド減少による加齢臭抑制作用が認められています。

2.3. 配合目的についての補足

トレハロースは、非常に優れた水和力を有していますが、皮膚浸透性が低く、皮膚に対する保湿作用という点では効果を発揮しにくいですが、乾燥した状態などバリア機能が低下した皮膚においては浸透性が高まるため、そういった皮膚を対象としたスキンケア製品においては角層の水分量を増加・保持する保湿目的として配合されている可能性が考えられます。

また、健常な皮膚においてもトレハロースとヒアルロン酸Naを併用した処方においてトレハロースの皮膚浸透性が高まり、その結果として皮膚に対して優れた保湿作用を発揮することが報告されており[12]、トレハロースとヒアルロン酸Naが併用されている場合は角層の水分量を増加・保持する保湿目的で配合されている可能性が考えられます。

そのほか、医療分野においては皮膚に浸透しない成分を脂質二重膜の親水性部分や脂肪酸鎖部分に充填・内包することで、安定性を保持したまま皮膚内へ浸透させるDDS(drug derivery system:薬物輸送技術)として医療技術に応用されており、現在では化粧品においてもその技術が応用されていますが[13][14]、DDSを用いてトレハロースを内包した原料も存在するため、健常な皮膚に対しても角層の水分量を増加・保持する保湿目的でトレハロースが配合されている可能性も考えられます(DDS処方は以下混合原料として記載しています)

3. 混合原料としての配合目的

トレハロースは、混合原料が開発されており、トレハロースと以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。

原料名 AMC Advancesd Moisture Complex NP
構成成分 グリセリンPCA-Na尿素トレハロースヘキシレングリコールポリクオタニウム-51、トリアセチン、カプリリルグリコールヒアルロン酸Na
特徴 水分結合特性を有する集中保湿の複合体
原料名 Neosome EM Ultrafill
構成成分 トレハロースベタイン、リン脂質、キサンタンガム
特徴 トレハロースとベタインをリポソームに内包し、皮膚の浸透性と持続力を高めた複合保湿剤
原料名 PatcH2O
構成成分 グリセリン、ポリアクリル酸グリセリル、トレハロース尿素セリンペンチレングリコールアルギン酸Naカプリリルグリコールヒアルロン酸Naプルランリン酸2Naリン酸K
特徴 ポリマーネットワークにより角質層に徐々に保湿成分をリリースし即効的かつ持続的な保湿効果を発揮するよう設計された、保湿物質を含むバイオポリマーネットワーク原料
原料名 PG6 active HYDRA FACTOR
構成成分 グリセリンプロパンジオール、ポリグリセリン-6、PCA、トレハロースソルビトールベタインヒアルロン酸Na
特徴 水和力の高い保湿剤の相乗効果によって優れた保湿力を示す持続性の高い100%天然複合保湿剤
原料名 TRI-SOLVE
構成成分 セラミドNS、トレハロースコレステロール水添レシチン
特徴 トレハロースとセラミドをレシチンとコレステロールのカプセルに内包し、皮膚の浸透性を高め、角層のバリア機能および水分量を改善するよう設計された総合保湿剤

4. 配合製品数および配合量範囲

実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2013-2014年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗4)

∗4 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。

トレハロースの配合製品数と配合量の調査結果(2013-2014年)

5. 安全性評価

トレハロースの現時点での安全性は、

  • 食品添加物の既存添加物リストに収載
  • 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 20年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

5.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)

食品添加物の既存添加物リスト、日本薬局方および医薬部外品原料規格2021に収載されており、20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚刺激および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

5.2. 眼刺激性

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。

6. 参考文献

  1. ab日本化粧品工業連合会(2013)「トレハロース」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,717.
  2. ab大木 道則, 他(1989)「トレハロース」化学大辞典,1634.
  3. 有機合成化学協会(1985)「トレハロース」有機化合物辞典,647.
  4. 杉田 浩一, 他(2017)「しいたけ」新版 日本食品大事典,356-357.
  5. abG.G. Birch(1963)「TREHALOSES」Advances in Carbohydrate Chemistry(18),201-225. DOI:10.1016/s0096-5332(08)60243-x.
  6. 櫻井 実・井上 義夫(1997)「糖の水和とトレハロースの生理機能」生物物理(37)(1),326-330. DOI:10.2142/biophys.37.326.
  7. 樋口 彰, 他(2019)「トレハロース」食品添加物事典 新訂第二版,249.
  8. 日本医薬品添加剤協会(2021)「トレハロース水和物」医薬品添加物事典2021,428-429.
  9. ab奥 和之, 他(2002)「トレハロースの機能特性」Journal of Applied Glycoscience(49)(3),351-357. DOI:10.5458/jag.49.351.
  10. 土師 信一郎・合津 陽子(1999)「中高年齢層のための体臭ケア製品の開発」Fragrance Journal(27)(9),42-46.
  11. 奥 和之(2001)「トレハロースによる高齢臭生成抑制」Bio Industry(18)(7),40-44.
  12. 株式会社林原生物化学研究所・アサバ化粧品株式会社(2001)「皮膚外用剤」特開2001-302435.
  13. 内藤 昇, 他(2005)「化粧品とリポソーム」リポソーム応用の新展開,644-650.
  14. 紺野 義一(2011)「リン脂質の化粧品への応用」日本化粧品技術者会誌(45)(2),83-91. DOI:10.5107/sccj.45.83.

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