PEG-75の基本情報・配合目的・安全性

PEG-75

化粧品表示名 PEG-75
医薬部外品表示名 ポリエチレングリコール4000
部外品表示簡略名 PEG(80)、PEG4000
INCI名 PEG-75
配合目的 保水溶剤 など

1. 基本情報

1.1. 定義

以下の化学式で表される、酸化エチレンの重合体(∗1)かつ多価アルコール(∗2)です[1a][2]

∗1 重合体とは、複数の単量体(モノマー:monomer)が繰り返し結合し、鎖状や網状にまとまって機能する多量体(ポリマー:polymer)のことを指します。

∗2 2個以上のヒドロキシ基(-OH)が結合したアルコールを多価アルコールといいます。

PEG-75

1.2. 物性

PEG(polyethylene glycol:ポリエチレングリコール)の物性は(∗3)(∗4)

∗3 PEGは医薬部外品表示名の数値がそのまま平均分子量を表しており、表の「PEG」における数字は、性質を反映してわかりやすいことから医薬部外品表示名であるポリエチレングリコールの数字部分を記載しています。

∗4 表中の「1500(ポリエチレングリコール1500)」は「PEG-6」と「PEG-32」の混合物であることから、物性が他とは異なります。

PEG 平均分子量 水酸基価(∗5) 粘度(mm²/s) 吸湿性
300 285-315 356-393 5.0-6.2


4000以上はほとんどなし

400 380-420 267-295 6.0-8.0
600 570-630 178-196 10-12
1000 950-1050 107-118 17-20
1500 500-600 187-224 13-18
1540 1300-1600 70.0-86.2 25-32
2000 1800-2200 51.0-62.0 36-46
4000 2700-3400 33.0-41.0 75-85
6000 7400-9000 12.5-15.2 700-900
20000 18000-25000 5.2-6.2 11500-15000

∗5 水酸基価とは、試料中の水酸基(ヒドロキシ基:-OH)の含有量を表す指標であり、分子中に水酸基の占める割合いが多いほど水酸基価は大きくなります。ポリエチレングリコールにおいては水酸基価が大きくなるにつれて保湿性・吸湿性および水への溶解性が高くなり、一方で水酸基価が小さいほど保湿性・吸湿性および水への溶解性は低くなります[3]

このように報告されています[4]

「ポリエチレングリコール1500」は「PEG-6」と「PEG-32」の等量混合物であるため例外となりますが、PEGは分子量の増加とともに水酸基価および吸湿性が低下し、一方で粘度は増加する性質を示します。

1.3. 化粧品以外の主な用途

PEG-75の化粧品以外の主な用途としては、

分野 用途
医薬品 ポリエチレングリコールの浸透圧効果により腸管内の水分量が増加することによる浸透圧性下剤として用いられています[5]。また安定・安定化、可塑、滑沢、可溶・可溶化、基剤、結合、懸濁・懸濁化、光沢化、コーティング、湿潤、糖衣、等張化、粘稠化、賦形、分散、崩壊・崩壊補助、除湿、溶剤、溶解・溶解補助目的の医薬品添加剤として経口剤、各種注射、外用剤、眼科用剤、耳鼻科用剤、口中用剤などに用いられています[6a]

これらの用途が報告されています(∗6)

∗6 医薬品・医薬品添加物分野においてはポリエチレングリコールは「マクロゴール(macrogol)」として区別されており、PEG-75(ポリエチレングリコール4000)は「マクロゴール4000」とよばれています。

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • 保水
  • 溶剤

主にこれらの目的で、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、マスク製品、洗顔料、洗顔石鹸、クレンジング製品、ボディソープ製品など様々な製品に汎用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. 製品自体の保水

製品自体の保水に関しては、PEG-75は保水性を有していることから、製品自体の水分を保留し、乳化系や可溶化系の安定性を保持する目的で様々な製品に配合されています[1b][7a][8]

2.2. 溶剤

溶剤に関しては、PEG-75はに溶けやすいことから[6b]、水に溶けにくい薬剤を水溶性基剤などに分散させる目的で広く用いられています[1c][7b]

3. 配合製品数および配合量範囲

配合製品数および配合量に関しては、海外の2008-2009年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。

PEG-75の配合製品数と配合量の調査結果(2008-2009年)

4. 安全性評価

PEG-75の現時点での安全性は、

  • 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 50年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
  • 皮膚感作性(皮膚炎を有する場合):ほとんどなし

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

4.1. 皮膚刺激性

日本薬局方および医薬部外品原料規格2021に収載されており、50年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般に皮膚刺激性はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

4.2. 眼刺激性

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[9a]によると、

  • [動物試験] ウサギの眼の結膜にPEG-75を点眼し、点眼後に眼刺激性を評価したところ、この試験物質はウサギの眼の損傷を引き起こさなかった(Carpenter and Smyth,1946)

このように記載されており、試験データをみるかぎり眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。

4.3. 皮膚感作性(アレルギー性)

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[9b]によると、

– 健常皮膚を有する場合 –

  • [ヒト試験] 200名の被検者に固形石鹸をDraize法に基づいて使用してもらったところ、1名の被検者が感作反応を示した。石鹸の個々の成分を対象にパッチテストを実施したところ、1%および3%PEG-75およびPEG-150で陽性反応を示した(Maibach,1975)

– 皮膚炎を有する場合 –

  • [ヒト試験] 100名の被検者に50%PEG-75を7日間適用し、10日間の休息期間後に再適用したところ、最初の7日間で3名の被検者に軽度の皮膚刺激反応が、再適用で4名の被検者に軽度の感作反応がみられた(Smyth et al,1942)
  • [ヒト試験] 200名の被検者にPEG-75を含む製品を対象にパッチテストを実施したところ、いずれの被検者も皮膚反応を示さなかった(Smyth et al,1950)

このように記載されており、ごくまれに皮膚感作を引き起こすことはあるものの、共通してほとんど感作なしと報告されており、一般に健常な皮膚を有する場合および皮膚炎を有する場合において皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

5. 参考文献

  1. abc日本化粧品工業連合会(2013)「PEG-75」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,27.
  2. 大木 道則, 他(1989)「ポリエチレングリコール」化学大辞典,2243.
  3. 田村 健夫・廣田 博(2001)「保湿剤」香粧品科学 理論と実際 第4版,130-133.
  4. 日光ケミカルズ株式会社(2016)「多価アルコール」パーソナルケアハンドブックⅠ,95-101.
  5. 浦部 晶夫, 他(2021)「マクロゴール4000」今日の治療薬2021:解説と便覧,806-807.
  6. ab日本医薬品添加剤協会(2021)「マクロゴール4000」医薬品添加物事典2021,617-618.
  7. ab日光ケミカルズ株式会社(1977)「多価アルコール類」ハンドブック – 化粧品・製剤原料 – 改訂版,76-94.
  8. 尾沢 達也(1969)「保湿剤(Humectant)」ファルマシア(5)(10),685-690. DOI:10.14894/faruawpsj.5.10_685.
  9. abS.N.J. Pang(1993)「Final Report on the Safety Assessmentof Polyethylene Glycols (PEGS)-6, -8,-32, -75, -150, -14M, -20M」Journal of the American College of Toxicology(12)(5),429-457. DOI:10.3109/10915819309141598.

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