PEG-8の基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | PEG-8 |
---|---|
医薬部外品表示名 | ポリエチレングリコール400 |
部外品表示簡略名 | PEG-8、ポリエチレングリコール |
INCI名 | PEG-8 |
配合目的 | 保水、溶剤 |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表される、酸化エチレンの重合体(∗1)かつ多価アルコール(∗2)です[1a][2]。
∗1 重合体とは、複数の単量体(モノマー:monomer)が繰り返し結合し、鎖状や網状にまとまって機能する多量体(ポリマー:polymer)のことを指します。
∗2 2個以上のヒドロキシ基(-OH)が結合したアルコールを多価アルコールといいます。
1.2. 物性
PEG(polyethylene glycol:ポリエチレングリコール)の物性は(∗3)(∗4)、
∗3 PEGは医薬部外品表示名の数値がそのまま平均分子量を表しており、表の「PEG」における数字は、性質を反映してわかりやすいことから医薬部外品表示名であるポリエチレングリコールの数字部分を記載しています。
∗4 表中の「1500(ポリエチレングリコール1500)」は「PEG-6」と「PEG-32」の混合物であることから、物性が他とは異なります。
PEG | 平均分子量 | 水酸基価(∗5) | 粘度(mm²/s) | 吸湿性 |
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300 | 285-315 | 356-393 | 5.0-6.2 | 高 ↑ ↓ 4000以上はほとんどなし |
400 | 380-420 | 267-295 | 6.0-8.0 | |
600 | 570-630 | 178-196 | 10-12 | |
1000 | 950-1050 | 107-118 | 17-20 | |
1500 | 500-600 | 187-224 | 13-18 | |
1540 | 1300-1600 | 70.0-86.2 | 25-32 | |
2000 | 1800-2200 | 51.0-62.0 | 36-46 | |
4000 | 2700-3400 | 33.0-41.0 | 75-85 | |
6000 | 7400-9000 | 12.5-15.2 | 700-900 | |
20000 | 18000-25000 | 5.2-6.2 | 11500-15000 |
∗5 水酸基価とは、試料中の水酸基(ヒドロキシ基:-OH)の含有量を表す指標であり、分子中に水酸基の占める割合いが多いほど水酸基価は大きくなります。ポリエチレングリコールにおいては水酸基価が大きくなるにつれて保湿性・吸湿性および水への溶解性が高くなり、一方で水酸基価が小さいほど保湿性・吸湿性および水への溶解性は低くなります[3]。
このように報告されています[4]。
「ポリエチレングリコール1500」は「PEG-6」と「PEG-32」の等量混合物であるため例外となりますが、PEGは分子量の増加とともに水酸基価および吸湿性が低下し、一方で粘度は増加する性質を示します。
1.3. 化粧品以外の主な用途
PEG-8の化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
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医薬品 | 安定・安定化、界面活性剤、可塑、滑沢、基剤、結合、光沢化、コーティング、湿潤、乳化、粘着・粘着増強、賦形、粘稠、崩壊、溶剤、溶解補助目的の医薬品添加剤として経口剤、外用剤、口中用剤、各種注射に用いられています[5]。 |
これらの用途が報告されています(∗6)。
∗6 医薬品・医薬品添加物分野においてはポリエチレングリコールは「マクロゴール(macrogol)」として区別されており、PEG-8(ポリエチレングリコール400)は「マクロゴール400」とよばれています。
2. 化粧品としての配合目的
- 保水
- 溶剤
主にこれらの目的で、スキンケア製品、洗顔料、クレンジング製品、化粧下地製品、メイクアップ製品、ボディ&ハンドケア製品、シート&マスク製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、トリートメント製品、入浴剤などに汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 製品自体の保水
製品自体の保水に関しては、PEG-8は吸湿性・保水性を有していることから、製品自体の水分を保留し、乳化系や可溶化系の安定性を保持する目的で様々な製品に配合されています[1b][6a][7a]。
1969年に資生堂研究所によって報告されたPEG-8の吸湿性検証によると、
– 吸湿性試験 –
室温23℃における代表的な保湿剤の吸湿力を、湿度0%時点の重量を1,000mgとして各湿度における重量増加(mg)を平衡値で示したところ、以下の表のように、
保湿剤 | 湿度(%) 室温23℃の場合 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
0 | 20 | 40 | 60 | 80 | 100 | |
ソルビトール(80%) | 1,000 | 1,000 | 1,000 | 1,030 | 1,030 | 2,470 |
PG | 1,000 | 1,000 | 1,000 | 1,030 | 1,030 | 2,470 |
ポリエチレングリコール300 (PEG-6) |
1,000 | 1,010 | 1,040 | 1,070 | 1,220 | 2,230 |
ポリエチレングリコール400 (PEG-8) |
1,000 | 1,000 | 1,030 | 1,060 | 1,180 | 2,100 |
ポリエチレングリコール1500 (PEG-6,PEG-32) |
1,000 | 1,000 | 1,000 | 1,020 | 1,100 | 2,000 |
ポリエチレングリコール4000 (PEG-75) |
1,000 | 1,000 | 1,000 | 1,020 | 1,160 | 1,360 |
グリセリン | 1,000 | 1,000 | 1,050 | 1,218 | 1,380 | 2,473 |
各保湿剤は、湿度に比例した吸湿性を示した。
このような検証結果が明らかにされており[7b]、PEG-8に吸湿性が認められています。
2.2. 溶剤
溶剤に関しては、PEG-8は水、エタノール、エステル油、脂肪酸などを溶解することから[6b]、水に溶けにくい薬剤を水や水溶性基剤などに分散させる目的で広く用いられています[1c]。
3. 配合製品数および配合量範囲
配合製品数および配合量に関しては、海外の2008-2009年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
4. 安全性評価
- 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 50年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし-軽度
- 眼刺激性:ほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
- 皮膚感作性(皮膚炎を有する場合):ごくまれに皮膚感作を引き起こす可能性あり
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
ただし、皮膚炎を有する場合やバリア機能が低下している場合においては、ごくまれに皮膚感作を引き起こす可能性があるため、注意が必要であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[8a]によると、
- [ヒト試験] 10名のボランティアに3%PEG-8を含む製剤0.3mLを1日1回3週間にわたって23時間閉塞パッチ適用する累積皮膚刺激性試験を実施したところ、この試験物質は軽度の累積皮膚刺激を引き起こす可能性が中程度あると結論付けられた(Hill Top Research Inc,1979)
- [ヒト試験] 23名の被検者にPEG-6およびPEG-8を適用し、適用後に皮膚刺激性を評価したところ、2名の被検者に軽度の紅斑がみられた(Smyth et al,1945)
- [動物試験] 6匹のウサギの剃毛した腹部に未希釈のPEG-6およびPEG-8を4時間適用し、24時間後に皮膚刺激性を評価したところ、いずれのウサギも皮膚刺激の兆候はみられなかった(Smyth et al,1945)
このように記載されており、試験データをみるかぎり非刺激-軽度の皮膚刺激が報告されているため、一般に皮膚刺激性は非刺激-軽度の皮膚刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
4.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[8b]によると、
- [動物試験] ウサギの眼の結膜にPEG-8を点眼し、点眼後に眼刺激性を評価したところ、この試験物質はウサギの眼の損傷を引き起こさなかった(Carpenter and Smyth,1946)
- [動物試験] 4匹のウサギの結膜嚢に35%PEG-8溶液の0.1mLを適用し、2,4,7,26および50時間後に眼刺激性を評価したところ、この試験物質はほとんど眼刺激を引き起こさなかった(Laillier et al,1975)
- [動物試験] ウサギに2つの異なるメーカーのPEG-8を点眼し、点眼から1および24時間後および2,3,4,および7日後に眼刺激性を評価したところ、眼刺激スコアは8.50および9.83であり、角膜の不透明度は観察されなかった。この試験物質は眼刺激剤ではなかった(Guillot et al,1982)
このように記載されており、試験データをみるかぎり眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。
4.3. 皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[8c]によると、
– 健常皮膚を有する場合 –
- [ヒト試験] 90名の被検者に3%PEG-8溶液を対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、誘導期間において75%以上の被検者に最小限-軽度の紅斑が観察され、チャレンジ期間においては22名の被検者に最小限-軽度の紅斑が観察されたが、いずれの被検者も皮膚感作反応はみられなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1980)
- [ヒト試験] 84名の被検者に1%PEG-8を含む製剤を対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、誘導期間において17名の被検者に少なくとも1回以上の最小限-軽度の紅斑がみられ、チャレンジ期間においては1名の被検者にほとんど知覚できない紅斑が観察されたが、いずれの被検者も皮膚感作反応はみられなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1982)
- [ヒト試験] 109名の被検者に1%PEG-8を含む製剤を対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、誘導期間において4名の被検者に少なくとも1回以上のほとんど知覚できない紅斑がみられたが、いずれの被検者も皮膚感作反応はみられなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1982)
- [ヒト試験] 106名の被検者に1%PEG-8を含む製剤を対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、誘導期間において38名の被検者に少なくとも1回以上の最小限の紅斑がみられたが、いずれの被検者も皮膚感作の兆候はみられなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1984)
– 皮膚炎を有する場合 –
- [ヒト試験] 1年の間に湿疹を有する1,556名の患者にPEG-8を20-24時間チャンバー適用し、適用から1,2および4日後に処置部位の皮膚反応を評価したところ、4名(0.3%)の患者に陽性反応がみられた(Hannuksela et al,1975)
– 個別事例 –
- [個別事例] 胸の火傷の治療のために男性患者に治療基剤のパッチテストを実施したところ、PEG-6およびPEG-8に対して強い陽性反応を示した(Fisher,1978)
このように記載されており、試験データをみるかぎり健常な皮膚を有する場合において皮膚感作なしと報告されているため、一般に健常な皮膚を有する場合においては皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
皮膚炎を有する場合やバリア機能が低下している場合においては、ごくまれに皮膚感作が報告されているため、一般に皮膚炎を有する場合やバリア機能が低下している場合においては、ごくまれに皮膚感作を引き起こす可能性があると考えられます。
5. 参考文献
- ⌃abc日本化粧品工業連合会(2013)「PEG-8」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,26.
- ⌃大木 道則, 他(1989)「ポリエチレングリコール」化学大辞典,2243.
- ⌃田村 健夫・廣田 博(2001)「保湿剤」香粧品科学 理論と実際 第4版,130-133.
- ⌃日光ケミカルズ株式会社(2016)「多価アルコール」パーソナルケアハンドブックⅠ,95-101.
- ⌃日本医薬品添加剤協会(2021)「マクロゴール400」医薬品添加物事典2021,612-614.
- ⌃ab日光ケミカルズ株式会社(1977)「多価アルコール類」ハンドブック – 化粧品・製剤原料 – 改訂版,76-94.
- ⌃ab尾沢 達也(1969)「保湿剤(Humectant)」ファルマシア(5)(10),685-690. DOI:10.14894/faruawpsj.5.10_685.
- ⌃abcS.N.J. Pang(1993)「Final Report on the Safety Assessmentof Polyethylene Glycols (PEGS)-6, -8,-32, -75, -150, -14M, -20M」Journal of the American College of Toxicology(12)(5),429-457. DOI:10.3109/10915819309141598.