PEG-6の基本情報・配合目的・安全性

PEG-6

化粧品表示名 PEG-6
医薬部外品表示名 ポリエチレングリコール300
部外品表示簡略名 PEG-6、ポリエチレングリコール
INCI名 PEG-6
配合目的 保水溶剤

1. 基本情報

1.1. 定義

以下の化学式で表される、酸化エチレンの重合体(∗1)かつ多価アルコール(∗2)です[1a][2]

∗1 重合体とは、複数の単量体(モノマー:monomer)が繰り返し結合し、鎖状や網状にまとまって機能する多量体(ポリマー:polymer)のことを指します。

∗2 2個以上のヒドロキシ基(-OH)が結合したアルコールを多価アルコールといいます。

PEG-6

1.2. 物性

PEG(polyethylene glycol:ポリエチレングリコール)の物性は(∗3)(∗4)

∗3 PEGは医薬部外品表示名の数値がそのまま平均分子量を表しており、表の「PEG」における数字は、性質を反映してわかりやすいことから医薬部外品表示名であるポリエチレングリコールの数字部分を記載しています。

∗4 表中の「1500(ポリエチレングリコール1500)」は「PEG-6」と「PEG-32」の混合物であることから、物性が他とは異なります。

PEG 平均分子量 水酸基価(∗5) 粘度(mm²/s) 吸湿性
300 285-315 356-393 5.0-6.2


4000以上はほとんどなし

400 380-420 267-295 6.0-8.0
600 570-630 178-196 10-12
1000 950-1050 107-118 17-20
1500 500-600 187-224 13-18
1540 1300-1600 70.0-86.2 25-32
2000 1800-2200 51.0-62.0 36-46
4000 2700-3400 33.0-41.0 75-85
6000 7400-9000 12.5-15.2 700-900
20000 18000-25000 5.2-6.2 11500-15000

∗5 水酸基価とは、試料中の水酸基(ヒドロキシ基:-OH)の含有量を表す指標であり、分子中に水酸基の占める割合いが多いほど水酸基価は大きくなります。ポリエチレングリコールにおいては水酸基価が大きくなるにつれて保湿性・吸湿性および水への溶解性が高くなり、一方で水酸基価が小さいほど保湿性・吸湿性および水への溶解性は低くなります[3]

このように報告されています[4]

「ポリエチレングリコール1500」は「PEG-6」と「PEG-32」の等量混合物であるため例外となりますが、PEGは分子量の増加とともに水酸基価および吸湿性が低下し、一方で粘度は増加する性質を示します。

1.3. 化粧品以外の主な用途

PEG-6の化粧品以外の主な用途としては、

分野 用途
医薬品 安定・安定化、可溶・可溶化、基剤、コーティング、湿潤、乳化、分散、溶剤、溶解補助目的の医薬品添加剤として経口剤、外用剤、静脈内注射に用いられています[5]

これらの用途が報告されています(∗6)

∗6 医薬品・医薬品添加物分野においてはポリエチレングリコールは「マクロゴール(macrogol)」として区別されており、PEG-6(ポリエチレングリコール300)は「マクロゴール300」とよばれています。

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • 保水
  • 溶剤

主にこれらの目的で、スキンケア製品、洗顔料、クレンジング製品、化粧下地製品、ボディ&ハンドケア製品、マスク製品、ヘアスタイリング製品、香水などに汎用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. 製品自体の保水

製品自体の保水に関しては、PEG-6は吸湿性・保水性を有していることから、製品自体の水分を保留し、乳化系や可溶化系の安定性を保持する目的で様々な製品に配合されています[1b][6a][7a]

1969年に資生堂研究所によって報告されたPEG-6の吸湿性検証によると、

– 吸湿性試験 –

室温23℃における代表的な保湿剤の吸湿力を、湿度0%時点の重量を1,000mgとして各湿度における重量増加(mg)を平衡値で示したところ、以下の表のように、

保湿剤 湿度(%) 室温23℃の場合
0 20 40 60 80 100
ソルビトール(80%) 1,000 1,000 1,000 1,030 1,030 2,470
PG 1,000 1,000 1,000 1,030 1,030 2,470
ポリエチレングリコール300
(PEG-6)
1,000 1,010 1,040 1,070 1,220 2,230
ポリエチレングリコール400
(PEG-8)
1,000 1,000 1,030 1,060 1,180 2,100
ポリエチレングリコール1500
(PEG-6,PEG-32)
1,000 1,000 1,000 1,020 1,100 2,000
ポリエチレングリコール4000
(PEG-75)
1,000 1,000 1,000 1,020 1,160 1,360
グリセリン 1,000 1,000 1,050 1,218 1,380 2,473

各保湿剤は、湿度に比例した吸湿性を示した。

このような検証結果が明らかにされており[7b]、PEG-6に吸湿性が認められています。

2.2. 溶剤

溶剤に関しては、PEG-6はエタノール、エステル油、脂肪酸などを溶解することから[6b]、水に溶けにくい薬剤を水や水溶性基剤などに分散させる目的で広く用いられています[1c]

3. 配合製品数および配合量範囲

配合製品数および配合量に関しては、海外の2008-2009年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。

PEG-6の配合製品数と配合量の調査結果(2008-2009年)

4. 安全性評価

PEG-6の現時点での安全性は、

  • 薬添規2018規格の基準を満たした成分が収載される医薬品添加物規格2018に収載
  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 50年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし-軽度
  • 眼刺激性:ほとんどなし
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
  • 皮膚感作性(皮膚炎を有する場合):まれに皮膚感作を引き起こす可能性あり

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

ただし、皮膚炎を有する場合やバリア機能が低下している場合においては、まれに皮膚感作を引き起こす可能性があるため、注意が必要であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

4.1. 皮膚刺激性

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[8a]によると、

  • [ヒト試験] 23名の被検者にPEG-6およびPEG-8を適用し、適用後に皮膚刺激性を評価したところ、2名の被検者に軽度の紅斑がみられた(Smyth et al,1945)
  • [動物試験] 6匹のウサギの剃毛した腹部に未希釈のPEG-6およびPEG-8を4時間適用し、24時間後に皮膚刺激性を評価したところ、いずれのウサギも皮膚刺激の兆候はみられなかった(Smyth et al,1945)
  • [動物試験] 10匹のモルモットの腹部に未希釈のポリエチレングリコール1500(PEG-6およびPEG-32の混合物)を4日間にわたって適用し、適用後に皮膚刺激性を評価したところ、この試験物質はモルモットの皮膚に皮膚刺激を示さなかった(Smyth et al,1942)

このように記載されており、試験データをみるかぎり非刺激-軽度の皮膚刺激が報告されているため、一般に皮膚刺激性は非刺激-軽度の皮膚刺激を引き起こす可能性があると考えられます。

4.2. 眼刺激性

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[8b]によると、

  • [動物試験] ウサギの眼の結膜にPEG-6を点眼し、点眼後に眼刺激性を評価したところ、この試験物質はウサギの眼の損傷を引き起こさなかった(Carpenter and Smyth,1946)

このように記載されており、試験データをみるかぎり眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。

4.3. 皮膚感作性(アレルギー性)

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[8c]によると、

– 健常皮膚を有する場合 –

  • [ヒト試験] 200名の被検者に固形石鹸をDraize法に基づいて使用してもらったところ、1名の被検者が感作反応を示した。石鹸の個々の成分を対象にパッチテストを実施したところ、1%および3%PEG-75およびPEG-150で陽性反応を示したが、3%PEG-6で感作反応を示さなかった(Maibach,1975)

– 皮膚炎を有する場合 –

  • [ヒト試験] 100名の被検者にポリエチレングリコール1500(PEG-6およびPEG32の混合物)を7日間適用し、10日間の休息期間後に再適用したところ、最初の7日間で3名の被検者に軽度の皮膚刺激反応が、再適用で3名の被検者に軽度の感作反応がみられた(Smyth et al,1942)

– 個別事例 –

  • [個別事例] 足の火傷の治療のために女性患者にニトロフラゾンを含むPEG-6、PEG-20、およびPEG-75で構成された基剤を塗布したところ、48時間後に紅斑と浮腫がみられた。個々の成分のパッチテストを実施したところ、PEG-6およびPEG-8に対して強い皮膚反応を示した。対照として6名の被検者にPEG-6およびPEG-8のパッチテストを実施したところ、いずれの被検者も陰性であった(Fisher,1978)
  • [個別事例] 胸の火傷の治療のために男性患者に治療基剤のパッチテストを実施したところ、PEG-6およびPEG-8に対して強い陽性反応を示した(Fisher,1978)

このように記載されており、試験データをみるかぎり健常な皮膚を有する場合において皮膚感作なしと報告されているため、一般に健常な皮膚を有する場合においては皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

皮膚炎を有する場合やバリア機能が低下している場合においては、まれに皮膚感作が報告されているため、一般に皮膚炎を有する場合やバリア機能が低下している場合においては、まれに皮膚感作を引き起こす可能性があると考えられます。

5. 参考文献

  1. abc日本化粧品工業連合会(2013)「PEG-6」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,26.
  2. 大木 道則, 他(1989)「ポリエチレングリコール」化学大辞典,2243.
  3. 田村 健夫・廣田 博(2001)「保湿剤」香粧品科学 理論と実際 第4版,130-133.
  4. 日光ケミカルズ株式会社(2016)「多価アルコール」パーソナルケアハンドブックⅠ,95-101.
  5. 日本医薬品添加剤協会(2021)「マクロゴール300」医薬品添加物事典2021,612.
  6. ab日光ケミカルズ株式会社(1977)「多価アルコール類」ハンドブック – 化粧品・製剤原料 – 改訂版,76-94.
  7. ab尾沢 達也(1969)「保湿剤(Humectant)」ファルマシア(5)(10),685-690. DOI:10.14894/faruawpsj.5.10_685.
  8. abcS.N.J. Pang(1993)「Final Report on the Safety Assessmentof Polyethylene Glycols (PEGS)-6, -8,-32, -75, -150, -14M, -20M」Journal of the American College of Toxicology(12)(5),429-457. DOI:10.3109/10915819309141598.

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