グルコースの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | グルコース |
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医薬部外品表示名 | ブドウ糖 |
INCI名 | Glucose |
配合目的 | 保水、結合 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表される6個の炭素原子を含む単糖(六炭糖)(∗1)です[1a][2a]。
∗1 単糖とは、それ以上加水分解できない糖のことをいい、単糖の中で6個の炭素原子をもつものを六炭糖(ヘキソース:Hexose)といいます。
1.2. 分布
グルコースは、地球上に最も多量に存在する有機化合物であり、植物界においては樹液や果実(果汁)中に多く、動物界においては血液やリンパ液中に多く含まれています[2b][3]。
1.3. 生体における働き
動物は、植物が光合成によってつくった糖をグルコース(ブドウ糖)として体内に取り入れ、グルコースの化学結合に保持されているエネルギーを利用しています[4a]。
グルコースからエネルギーを産生するメカニズムとしては、以下のATP産生メカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
グルコースが細胞内に輸送されると、細胞内では「解糖系」「クエン酸回路」「電子伝達」とよばれる分解過程のそれぞれで生体のエネルギー伝達物質であるATP(adenosine tri-phosphate:アデノシン三リン酸)を産生することが知られています[4b]。
産生されたATPのエネルギーは、筋肉の収縮やタンパク質など高分子物質の生合成などエネルギー依存的な生体反応過程に使用されています[5]。
1.4. 化粧品以外の主な用途
グルコースの化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
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医薬品 | 経口的栄養補給を必要とする場合または脱水時の水補給剤や低血糖時の糖補給薬として用いられています[6]。また安定・安定化、緩衝、甘味、矯味、結合、コーティング、等張化、賦形、無痛化、溶剤、溶解・溶解補助目的の医薬品添加剤として経口剤、各種注射、眼科用剤、口中用剤、耳鼻科用剤などに用いられています[7]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 保水
- 結合
主にこれらの目的でスキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ製品、化粧下地製品、洗顔料、洗顔石鹸、クレンジング製品、マスク製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、トリートメント製品、アウトバストリートメント製品、ボディソープ製品、入浴剤など様々な製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 製品自体の保水
製品自体の保水に関しては、グルコースは水分蒸発を防ぐことから、製品自体の水分を保持する目的で様々な製品に配合されています[1b][8][9a]。
2.2. 結合
結合に関しては、グルコースは粉体原料同士を皿状容器に圧縮成型するとき、粉体原料同士のくっつきをよくしたり、使用時に粉が周囲に飛び散るのを防ぐ目的で主にパウダー系メイクアップ製品などに用いられます[9b][10]。
3. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2013-2014年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗2)。
∗2 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
4. 安全性評価
- 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 40年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[11]によると、
- [ヒト試験] 100名の被検者に0.08%グルコースを含むヘアスタイリングクリームを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、いずれの被検者も皮膚刺激性および皮膚感作性を示さなかった(BioScreen Testing Services Inc,2013)
- [ヒト試験] 208名の被検者に8%グルコースを含むつけっぱなしのヘア製品0.2mLを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、誘導期間において被検者の1%に+反応が観察されたが、臨床的に有意な反応とは考えられず、皮膚感作剤ではないと結論づけられた(TKL Research Inc,2012)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
4.2. 眼刺激性
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。
5. 参考文献
- ⌃ab日本化粧品工業連合会(2013)「グルコース」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,372.
- ⌃ab大木 道則, 他(1989)「D-グルコース」化学大辞典,647-648.
- ⌃有機合成化学協会(1985)「D-グルコース」有機化合物辞典,260.
- ⌃ab二井 將光(2017)「植物から動物へ。糖を変換してATPエネルギー生産」生命を支えるATPエネルギー メカニズムから医療への応用まで,31-68.
- ⌃大木 道則, 他(1989)「アデノシン5′-三リン酸」化学大辞典,52-53.
- ⌃浦部 晶夫, 他(2021)「ブドウ糖」今日の治療薬2021:解説と便覧,537-538.
- ⌃日本医薬品添加剤協会(2021)「ブドウ糖」医薬品添加物事典2021,517-519.
- ⌃鈴木 一成(2012)「ブドウ糖」化粧品成分用語事典2012,187.
- ⌃ab日光ケミカルズ株式会社(2016)「糖類」パーソナルケアハンドブックⅠ,102-105.
- ⌃霜川 忠正(2001)「結合剤」BEAUTY WORD 製品科学用語編,216.
- ⌃M.M. Fiume, et al(2019)「Safety Assessment of Monosaccharides, Disaccharides, and Related Ingredients as Used in Cosmetics」International Journal of Toxicology(38)(1_Suppl),5S-38S. DOI:10.1177/1091581818814189.