プロパンジオールの基本情報・配合目的・安全性

プロパンジオール

化粧品表示名 プロパンジオール
INCI名 Propanediol
配合目的 保湿防腐補助溶剤 など

ここで記載される「プロパンジオール」は「1,3-プロパンジオール」を指します。

1. 基本情報

1.1. 定義

以下の化学式で表される二価アルコール(多価アルコール)(∗1)です[1a][2a]

∗1 2個以上のヒドロキシ基(-OH)が結合したアルコールを多価アルコールといい(n個結合したものはn価アルコールともよばれる)、プロパンジオールは2個のヒドロキシ基(-OH)が結合した二価アルコールです。

プロパンジオール

1.2. 物性

プロパンジオールの物性は、

融点(℃) 沸点(℃) 比重(d 20/4) 屈折率(n 20/D)
-32 213.5 1.0529 1.4389

このように報告されています[2b]

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • 角層水分量増加による保湿作用
  • 防腐補助
  • 溶剤

主にこれらの目的で、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ製品、化粧下地製品、マスク製品、日焼け止め製品、洗顔料、クレンジング製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、トリートメント製品、アウトバストリートメント製品、頭皮ケア製品、ボディソープ製品、ヘアスタイリング製品、香水など様々な製品に汎用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. 角層水分量増加による保湿作用

角層水分量増加による保湿作用に関しては、まず前提知識として皮膚最外層である角質層の構造と役割および天然保湿因子と水の関係について解説します。

直接外界に接する皮膚最外層である角質層は、以下の図のように、

角質層の構造

水分を保持する働きもつ天然保湿因子を含む角質と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造になっており、この構造が保持されることによって外界からの物理的あるいは化学的影響から身体を守り、かつ体内の水分が体外へ過剰に蒸散していくのを防ぐとともに一定の水分を保持する役割を担っています[3][4]

角質層において水分を保持する働きをもつ天然保湿因子(NMF:natural Moisturizing Factor)は低分子の水溶性物質であり、以下の表のように、

成分 含量(%)
アミノ酸 40.0
ピロリドンカルボン酸(PCA) 12.0
乳酸 12.0
尿素 7.0
アンモニア、尿酸、グルコサミン、クレアチン 1.5
ナトリウム(Na⁺) 5.0
カリウム(K⁺) 4.0
カルシウム(Ca²⁺) 1.5
マグネシウム(Mg²⁺) 1.5
リン酸(PO₄³⁻) 0.5
塩化物(Cl⁻) 6.0
クエン酸、ギ酸 0.5
糖、有機酸、ペプチド、未確認物質 8.5

アミノ酸、有機酸、塩などの集合体として存在しています[5a]

また、角質層内の主な水分は、天然保湿因子(NMF)の分子に結合している結合水と水(液体)の形態をした自由水の2種類の状態で存在しており、以下の表のように、

角質層内の水の種類 定義
結合水 一次結合水 角質層の構成分子と強固に結合し、硬く乾燥しきった角質層の中にも存在する水です。
二次結合水 角質層の構成分子と非常に速やかに結合するものの、乾燥した状態でゆっくりと解離するような比較的弱い結合をしている水の分子のことをいい、温度や湿度など外部環境によって比較的容易に結合と解離を繰り返す可逆的な水です。
自由水 二次結合水の容量を超えて角質層が水を含んだ場合に液体の形で角質層内に存在する水であり、この量が一定量を超えると過水和となり、浸軟した(ふやけた)状態が観察されます。

それぞれこのような特徴を有しています[5b][6a]

角質層の柔軟性は、水分量10-20%の間で自然な柔軟性を示す一方で、水分量が10%以下になると角層のひび割れ、肌荒れが生じると考えられており、種々の原因により角質層の保湿機能が低下することによって水分量が低下すると、皮膚表面が乾燥して亀裂、落屑、鱗屑などを生じるようになることから、角層に含まれる水分量が皮膚表面の性状を決定する大きな要因として知られています[6b]

このような背景から、角層の水分量が低下している場合に角層水分量を増加することは、皮膚の乾燥、ひび割れ、肌荒れの予防や改善において重要なアプローチのひとつであると考えられています。

プロパンジオールは、化学構造に2個のヒドロキシ基をもつきわめて粘稠な液体であり、角層に浸透しケラチンと水分子との間で仲介役を果たすことで保湿性を発揮することから、防腐助剤としての役割を兼ねた保湿剤として広く汎用されています[2c][7][8a]

2009年に岩瀬コスファおよびデュポンによって報告されたプロパンジオールの角層水分量への影響検証によると、

– ヒト使用試験 –

ヒト前腕内側部に10%多価アルコール水溶液と比較対照として精製水のみをそれぞれ5μL/c㎡塗布し、塗布前および塗布5分から60分後の角層コンダクタンス(∗2)を測定し、塗布前のコンダクタンスを1として塗布後経時的に得られたコンダクタンスの変化割合をもとめたところ、以下のグラフのように、

∗2 コンダクタンスとは、皮膚に電気を流した場合の抵抗(電気伝導度:電気の流れやすさ)を表し、角層水分量が多いと電気が流れやすくなり、コンダクタンス値が高値になることから、角層水分量を調べる方法として角層コンダクタンスを経時的に測定する方法が定着しています。

多価アルコールの角層水分量への影響

10%プロパンジオール水溶液の塗布は、塗布直後においては多価アルコールの中で最も角層水分増加量を向上させ、その後はPGBGと同様に経時的に水分量は緩やかに低くなる傾向を示した。

このような検証結果が明らかにされており[8b]、プロパンジオールに角層水分量増加による保湿作用が認められています。

プロパンジオールは増加した角層水分の保持力がほとんどありませんが、グリセリンを併用することでグリセリン単体を上回る角層水分量を示し、持続効果を発揮することが明らかにされています[8c]

2.2. 防腐補助

防腐補助に関しては、プロパンジオールは刺激性が低く、濃度10%程度でグラム陰性菌に対して抗菌活性を示すことが知られており[9a]防腐剤の配合量を低減する目的を兼ねた保湿剤として様々な製品に用いられています。

2012年に御木本製薬によって報告されたプロパンジオールの抗菌活性検証によると、

– in vitro : 保存性効力試験 –

抗菌性原料の強さを表すMIC(minimum inhibitory concentration:最小発育阻止濃度)を基準とし、抗菌性をもつ保湿剤として化粧品として広く使用されている多価アルコールの抗菌性を法定5菌種である下記5菌種を用いて検討した。

  • 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus:Sa)
  • 緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa:Pa)
  • 大腸菌(Escherichia coli:Ec)
  • カンジダ(candida albicans:Ca)
  • コウジカビ(aspergillus brasiliensis:Ab)

培地18mLと10%多価アルコール水溶液2mLをシャーレに流し入れて作成した寒天平板に、108個/mL程度に調整した菌液10μLを接種し培養後にMICを測定したところ、以下の表(∗3)のように、

∗3 表のSa,Pa,Ec,CaおよびAbは菌の英語表記の略語です。またMICは最小発育阻止濃度であるため、数字が小さい(濃度が低い)ほど抗菌力が高いことを意味します。

抗菌剤 MIC:最小発育阻止濃度(%)
Sa Pa Ec Ca Ab
ペンチレングリコール 4 2 2 3 3
BG 16 8 10 14 18
プロパンジオール 20 10 10 15 20

プロパンジオールは各菌種でBGよりやや弱い抗菌抗菌性を示し、とくにグラム陰性菌に対して相対的に高い抗菌性を示した。

このような検証結果が明らかにされており[9b]、プロパンジオールにグラム陰性菌に対する抗菌作用が認められています。

ただし、プロパンジオールは単体では抗菌力が弱く、他の抗菌性多価アルコールと組み合わせることで相乗的な抗菌性を示すことが明らかにされていることから[9c]、一般に他の抗菌性多価アルコールや防腐剤と組み合わせて使用されています。

2.3. 溶剤

溶剤に関しては、プロパンジオールはおよびエタノールに任意の割合で混合し[2d]、抗菌性をもつことから、植物エキスをはじめとする原料の溶剤として広く用いられています[1b]

3. 配合製品数および配合量範囲

実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2016-2018年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗4)

∗4 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。

プロパンジオールの配合製品数と配合量の調査結果(2016-2018年)

4. 安全性評価

プロパンジオールの現時点での安全性は、

  • 10年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:濃度50%以下においてほとんどなし
  • 眼刺激性:ほとんどなし
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[10a]によると、

  • [ヒト試験] 100名の被検者に5%,25%および50%プロパンジオール水溶液を対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、この試験物質はいずれの濃度においても皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(L.A. Belcher et al,2010)
  • [ヒト試験] 207名の被検者に25%,50%および75%プロパンジオール水溶液を対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、濃度75%のみで4名の被検者に軽度の紅斑がみられた。この試験物質はいずれの濃度においても皮膚感作剤ではなかった(L.A. Belcher et al,2010)

このように記載されており、試験データをみるかぎり濃度50%以下において共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に濃度50%以下において皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

4.2. 眼刺激性

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[10b]によると、

  • [動物試験] 6匹のウサギの片眼に100%プロパンジオール0.1mLを点眼し、眼はすすがず、点眼24,48および72時間後および7日後に眼刺激性を評価したところ、6匹中4匹にわずかな結膜発赤が観察されたが点眼48時間までに消失した。この試験物質はこの試験条件下において眼刺激剤ではないとみなされた(European Chemical Agency,2015)
  • [動物試験] 4匹のウサギの片眼に100%プロパンジオール0.2mLを点眼し、2匹の眼はすすぎ、残りの2匹の眼はすすがず、点眼30分後および1,2,3および7日後に眼刺激性を評価したところ、4匹中3匹(眼をすすいだ2匹と眼をすすがなかった1匹)に一過性の軽度の結膜発赤が観察されたが点眼48時間までにすべて消失した。この試験物質はこの試験条件下において眼刺激剤ではないとみなされた(European Chemical Agency,2015)

このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。

5. 参考文献

  1. ab日本化粧品工業連合会(2013)「プロパンジオール」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,855.
  2. abcd大木 道則, 他(1989)「1,3-プロパンジオール」化学大辞典,2069.
  3. 朝田 康夫(2002)「保湿能力と水分喪失の関係は」美容皮膚科学事典,103-104.
  4. 田村 健夫・廣田 博(2001)「表皮」香粧品科学 理論と実際 第4版,30-33.
  5. ab武村 俊之(1992)「保湿製剤の効用:角層の保湿機構」ファルマシア(28)(1),61-65. DOI:10.14894/faruawpsj.28.1_61.
  6. ab日光ケミカルズ株式会社(2006)「水」新化粧品原料ハンドブックⅠ,487-502.
  7. 平尾 哲二(2017)「保湿 温故知新」日本香粧品学会誌(41)(4),277-281. DOI:10.11469/koshohin.41.277.
  8. abc馬奈木 裕美・賀来 群雄(2009)「植物由来プロパンジオールの特性と化粧品への応用」Fragrance Journal(37)(5),61-64.
  9. abc御木本製薬株式会社(2012)「皮膚外用剤」特開2012-036121.
  10. abL.N. Scott & M. Fiume(2018)「Safety Assessment of Alkane Diols as Used in Cosmetics(∗5)」, 2021年8月27日アクセス.
    ∗5 PCPCのアカウントをもっていない場合はCIRをクリックし、表示されたページ中のアルファベットをどれかひとつクリックすれば、あとはアカウントなしでも上記レポートをクリックしてダウンロードが可能になります。

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