セリシンの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | セリシン |
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医薬部外品表示名 | 加水分解シルク末 |
部外品表示簡略名 | 水解シルク末 |
INCI名 | Sericin |
配合目的 | 保湿、毛髪補修、毛髪保護 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
カイコガ科カイコ(学名:Bombyx mori 英名:Silkworm)の繭から得られる絹繊維(シルク)から分離したタンパクです[1]。
1.2. 構造と物性
シルクは、以下のシルク断面図をみるとわかりやすいと思いますが、
中心部のコアに相当するフィブロインタンパク質(約70-80%)とそのまわりを囲むように存在するセリシンタンパク質(約20-30%)から成る2層で構成されています[2a]。
化粧品原料として抽出されたセリシンは、平均分子量が数万の水溶性タンパク質であり、アミノ酸組成は、
アミノ酸 | 組成比(mol%) |
---|---|
アスパラギン酸 | 17.8 |
トレオニン | 8.0 |
セリン | 31.0 |
グルタミン酸 | 4.4 |
プロリン | 0.4 |
グリシン | 19.1 |
アラニン | 3.8 |
シスチン | <0.05 |
バリン | 3.1 |
メチオニン | <0.05 |
イソロイシン | 0.4 |
ロイシン | 0.8 |
チロシン | 3.3 |
フェニルアラニン | 10.2 |
ヒスチジン | 1.0 |
リシン | 2.7 |
アルギニン | 3.9 |
セリシンのアミノ酸組成は、皮膚アミノ酸組成と類似していることから皮膚親和性が高く、またセリン含量の高さやトレオニンを含めるとヒドロキシ基(-OH)をもつアミノ酸の割合が40%に達することから、優れた保湿性を示すといった特徴があります[2b]。
さらに、皮膚に適用した場合は分子量に応じた皮膜を形成し(∗1)、この皮膜は最初は粘着性をもち乾燥するとなめらかな感触を示すことが報告されています[2c]。
∗1 分子量が高くなるほど皮膜形成能も高くなります。
2. 化粧品としての配合目的
- 皮表水分保持による保湿作用
- 引張強度増加による毛髪補修作用
- ドライヤー熱に対する毛髪保護作用
主にこれらの目的で、スキンケア製品、洗顔料、洗顔石鹸、クレンジング製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、ボディソープ製品、化粧下地製品、メイクアップ製品、アウトバストリートメント製品、ボディ&ハンドケア製品、ネイル製品など様々な製品に使用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 皮表水分保持による保湿作用
皮表水分保持による保湿作用に関しては、まず前提知識として皮膚最外層である角質層の構造と役割および天然保湿因子と水の関係について解説します。
直接外界に接する皮膚最外層である角質層は、以下の図のように、
水分を保持する働きもつ天然保湿因子を含む角質と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造になっており、この構造が保持されることによって外界からの物理的あるいは化学的影響から身体を守り、かつ体内の水分が体外へ過剰に蒸散していくのを防ぐとともに一定の水分を保持する役割を担っています[5][6]。
また、角質層内の主な水分は、天然保湿因子(NMF)の分子に結合している結合水と水(液体)の形態をした自由水の2種類の状態で存在しており、以下の表のように、
角質層内の水の種類 | 定義 | |
---|---|---|
結合水 | 一次結合水 | 角質層の構成分子と強固に結合し、硬く乾燥しきった角質層の中にも存在する水です。 |
二次結合水 | 角質層の構成分子と非常に速やかに結合するものの、乾燥した状態でゆっくりと解離するような比較的弱い結合をしている水の分子のことをいい、温度や湿度など外部環境によって比較的容易に結合と解離を繰り返す可逆的な水です。 | |
自由水 | 二次結合水の容量を超えて角質層が水を含んだ場合に液体の形で角質層内に存在する水であり、この量が一定量を超えると過水和となり、浸軟した(ふやけた)状態が観察されます。 |
角質層の柔軟性は、水分量10-20%の間で自然な柔軟性を示す一方で、水分量が10%以下になると角層のひび割れ、肌荒れが生じると考えられており、種々の原因により角質層の保湿機能が低下することによって水分量が低下すると、皮膚表面が乾燥して亀裂、落屑、鱗屑などを生じるようになることから、角層に含まれる水分量が皮膚表面の性状を決定する大きな要因として知られています[7b]。
このような背景から、肌荒れやバリア機能の低下やなどによって角層の水分量が低下している場合に、皮膚表面に皮膜を形成し、皮膚の水分蒸散を防止することは、皮膚の乾燥、ひび割れ、肌荒れの予防や改善において重要なアプローチのひとつであると考えられています。
1998年にペンタファームによって報告されたセリシンの保湿性検証によると、
– ヒト使用試験 –
健康な皮膚を有する6名の被検者の前腕内側部にセリシン224μLを単回適用し、適用1,2および3時間後に適用部位の加水率を算出したところ、以下のグラフのように、
セリシン適用の1時間後に加水率が7%まで増加し、2および3時間後ではそれぞれ6および5%まで増加した。
次に、同試験において経表皮の水分蒸散量を測定したところ、以下のグラフのように、
セリシン適用の1時間後に経表皮水分蒸散量が7%減少し、2時間後には減少率14%の最大効果に達し、3時間後では10%の減少率を示した。
このような試験結果が明らかにされており[2d]、セリシンに皮表水分保持による保湿作用が認められています。
2.2. 引張強度増加による毛髪補修作用
引張強度増加による毛髪補修作用に関しては、2019年に一丸ファルコスによって報告されたセリシンの毛髪強度への影響検証によると、
– 毛髪引張強度試験 –
長さ10cmのアジア人毛約180本を1束として市販シャンプーにて洗浄し、水洗、自然乾燥したあと2,5および10%セリシン溶液に、また対照として精製水にそれぞれ毛髪を浸漬した。
浸漬したあとに毛髪を水洗、自然乾燥し処理毛髪の最大応力(引張強度)を算出したところ、以下のグラフのように、
セリシン溶液は、濃度依存的に毛髪の引張強度を増加することがわかった。
このような試験結果が明らかにされており[9a]、セリシンに引張強度増加による毛髪補修作用が認められています。
2.3. ドライヤー熱に対する毛髪保護作用
引張強度増加による毛髪補修作用に関しては、2019年に一丸ファルコスによって報告されたセリシンのドライヤー熱に対する毛髪強度への影響検証によると、
– 毛髪引張強度試験 –
ブリーチ液に30分浸漬し水洗および自然乾燥したアジア人毛50本を1束として、セリシン溶液または対照として5%BG溶液に20分間浸漬した。
毛髪を取り出し、水洗後に自然乾燥もしくは500Wのドライヤーにて熱風乾燥した後に各処理毛髪と未処理毛髪の引張強度をそれぞれ算出したところ、以下のグラフのように、
BG溶液処理毛髪は、自然乾燥と比較してドライヤー乾燥で引張強度が低下したが、セリシン溶液処理毛髪はドライヤー乾燥でも毛髪の引張強度が低下せず、逆に自然乾燥よりも引張強度が向上していることがわかった。
この結果から、セリシンは熱処理で毛髪保護効果がより強化する可能性が認められた。
このような試験結果が明らかにされており[9b]、セリシンにドライヤー熱に対する毛髪保護作用が認められています。
3. 配合製品数および配合量範囲
化粧品に対する実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2015年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗2)。
∗2 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
4. 安全性評価
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
4.2. 眼刺激性
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。
5. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「セリシン」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,307.
- ⌃abcdRainer Voegeli(1998)「セリシンの皮膚保湿・抗シワ効果」Fragrance Journal(26)(4),70-74.
- ⌃加藤 範久(2001)「セリシンの機能特性とその利用」製糸夏期大学(54),25-32.
- ⌃N. Kato, et al(1998)「Silk Protein, Sericin, Inhibits Lipid Peroxidation and Tyrosinase Activity.」Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry(62)(1),145-147. DOI:10.1271/bbb.62.145.
- ⌃朝田 康夫(2002)「保湿能力と水分喪失の関係は」美容皮膚科学事典,103-104.
- ⌃田村 健夫・廣田 博(2001)「表皮」香粧品科学 理論と実際 第4版,30-33.
- ⌃ab日光ケミカルズ株式会社(2006)「水」新化粧品原料ハンドブックⅠ,487-502.
- ⌃武村 俊之(1992)「保湿製剤の効用:角層の保湿機構」ファルマシア(28)(1),61-65. DOI:10.14894/faruawpsj.28.1_61.
- ⌃ab高橋 達治(2019)「シルクの内外美容効果」Fragrance Journal(47)(1),41-46.