ジグリセリンの基本情報・配合目的・安全性

ジグリセリン

化粧品表示名 ジグリセリン
医薬部外品表示名 ジグリセリン
INCI名 Diglycerin
配合目的 保湿保水 など

1. 基本情報

1.1. 定義

以下の化学式で表されるグリセリンの二量体(∗1)であり、4個のヒドロキシ基(-OH)が結合した多価アルコール(∗2)です[1a][2a]

∗1 複数の分子結合がまとまって機能する複合体を多量体(重合体)といい、n個の分子結合がまとまって機能する多量体をn量体ともいいます。ジグリセリンは2個のグリセリンが脱水縮合して(まとまって)機能しているため二量体として働きます。グリセリンが2個結合(縮合)していることから、ギリシャ語で「2」を意味する「ジ(di)」をつけて「ジグリセリン」と命名されています。

∗2 2個以上のヒドロキシ基(-OH)が結合したアルコールを多価アルコールといい(n個結合したものはn価アルコールともよばれる)、ジグリセリンは4個のヒドロキシ基(-OH)が結合した四価アルコールです。

ジグリセリン

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • 角層水分量増加による保湿作用
  • 保水

主にこれらの目的で、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、マスク製品、洗顔料、メイクアップ製品、シャンプー製品、クレンジング製品、アウトバストリートメント製品、洗顔石鹸、ボディソープ製品など様々な製品に汎用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. 角層水分量増加による保湿作用

角層水分量増加による保湿作用に関しては、まず前提知識として皮膚最外層である角質層の構造と役割および天然保湿因子と水の関係について解説します。

直接外界に接する皮膚最外層である角質層は、以下の図のように、

角質層の構造

水分を保持する働きもつ天然保湿因子を含む角質と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造になっており、この構造が保持されることによって外界からの物理的あるいは化学的影響から身体を守り、かつ体内の水分が体外へ過剰に蒸散していくのを防ぐとともに一定の水分を保持する役割を担っています[3][4]

角質層において水分を保持する働きをもつ天然保湿因子(NMF:natural Moisturizing Factor)は低分子の水溶性物質であり、以下の表のように、

成分 含量(%)
アミノ酸 40.0
ピロリドンカルボン酸(PCA) 12.0
乳酸 12.0
尿素 7.0
アンモニア、尿酸、グルコサミン、クレアチン 1.5
ナトリウム(Na⁺) 5.0
カリウム(K⁺) 4.0
カルシウム(Ca²⁺) 1.5
マグネシウム(Mg²⁺) 1.5
リン酸(PO₄³⁻) 0.5
塩化物(Cl⁻) 6.0
クエン酸、ギ酸 0.5
糖、有機酸、ペプチド、未確認物質 8.5

アミノ酸、有機酸、塩などの集合体として存在しています[5a]

また、角質層内の主な水分は、天然保湿因子(NMF)の分子に結合している結合水と水(液体)の形態をした自由水の2種類の状態で存在しており、以下の表のように、

角質層内の水の種類 定義
結合水 一次結合水 角質層の構成分子と強固に結合し、硬く乾燥しきった角質層の中にも存在する水です。
二次結合水 角質層の構成分子と非常に速やかに結合するものの、乾燥した状態でゆっくりと解離するような比較的弱い結合をしている水の分子のことをいい、温度や湿度など外部環境によって比較的容易に結合と解離を繰り返す可逆的な水です。
自由水 二次結合水の容量を超えて角質層が水を含んだ場合に液体の形で角質層内に存在する水であり、この量が一定量を超えると過水和となり、浸軟した(ふやけた)状態が観察されます。

それぞれこのような特徴を有しています[5b][6a]

角質層の柔軟性は、水分量10-20%の間で自然な柔軟性を示す一方で、水分量が10%以下になると角層のひび割れ、肌荒れが生じると考えられており、種々の原因により角質層の保湿機能が低下することによって水分量が低下すると、皮膚表面が乾燥して亀裂、落屑、鱗屑などを生じるようになることから、角層に含まれる水分量が皮膚表面の性状を決定する大きな要因として知られています[6b]

このような背景から、角層の水分量が低下している場合に角層水分量を増加することは、皮膚の乾燥、ひび割れ、肌荒れの予防や改善において重要なアプローチのひとつであると考えられています。

ジグリセリンは、化学構造に4個のヒドロキシ基をもつ多価アルコールであり、高い吸湿性を示し、皮膚において比較的しっとりとした感触を付与するとともに、グリセリンほどではないものの角層に浸透しケラチンと水分子との間で仲介役を果たすことで保湿性を発揮することから、保湿剤として広く汎用されています[2b][7][8a]

2017年に坂本薬品工業によって報告されたジグリセリンの吸湿性検証によると、

– 吸湿性試験 –

各相対湿度におけるグリセリンとジグリセリンの吸湿性を比較検討したところ、以下のグラフのように、

ジグリセリンの吸湿性

ジグリセリンは、グリセリンほどではないものの湿度に比例して高い吸湿性を示した。

このような検証結果が明らかにされており[8b]、ジグリセリンに湿度に比例した高い吸湿性が認められています。

次に、2016年に坂本薬品工業によって報告されたジグリセリンの角層水分量への影響検証によると、

– ヒト使用試験 –

23℃および相対湿度50%の環境制御された部屋で、健常な皮膚を有する女性被検者の前腕の各領域にそれぞれ10%多価アルコール溶液および水0.03gを40秒間適用し、適用3分,10分,30分,1時間,2時間および8時間で角層水分量の経時変化を静電容量値で測定した。

これらの手順を5回繰り返し、各領域における測定の平均を算出したところ、以下のグラフのように、

多価アルコールの塗布による角層水分量の変化

10%ジグリセリン溶液の塗布は、グリセリンほどではないものの、塗布直後から高い角層水分量の増加を示し、塗布8時間後においても高い角層水分量を保持することが確認された。

このような検証結果が明らかにされており[9]、ジグリセリンに角層水分量増加による保湿作用が認められています。

2.2. 製品自体の保水

製品自体の保水に関しては、ジグリセリンは高い吸湿性・保水性を有していることから[8c]、製品自体の水分を保留し、乳化系や可溶化系の安定性を保持する目的で様々な製品に配合されています[1b]

3. 安全性評価

ジグリセリンの現時点での安全性は、

  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 40年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

3.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)

医薬部外品原料規格2021に収載されており、40年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚刺激および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

3.2. 眼刺激性

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。

4. 参考文献

  1. ab日本化粧品工業連合会(2013)「ジグリセリン」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,474.
  2. ab有機合成化学協会(1985)「ジグリセリン」有機化合物辞典,369.
  3. 朝田 康夫(2002)「保湿能力と水分喪失の関係は」美容皮膚科学事典,103-104.
  4. 田村 健夫・廣田 博(2001)「表皮」香粧品科学 理論と実際 第4版,30-33.
  5. ab武村 俊之(1992)「保湿製剤の効用:角層の保湿機構」ファルマシア(28)(1),61-65. DOI:10.14894/faruawpsj.28.1_61.
  6. ab日光ケミカルズ株式会社(2006)「水」新化粧品原料ハンドブックⅠ,487-502.
  7. 平尾 哲二(2017)「保湿 温故知新」日本香粧品学会誌(41)(4),277-281. DOI:10.11469/koshohin.41.277.
  8. abc坂本薬品工業株式会社(2017)「ジグリセリン801」Technical Data Sheet.
  9. A. Tomiie, et al(2016)「Moisturizing Effects of Diglycerol Combined with Glycerol on Human Stratum Corneum」Journal of Oleo Science(65)(8),681-684. DOI:10.5650/jos.ess15253.

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