水溶性プロテオグリカンの基本情報・配合目的・安全性

化粧品表示名 水溶性プロテオグリカン
INCI名 Soluble Proteoglycan
配合目的 保湿 など

1. 基本情報

1.1. 定義

以下の構造で表されるコアタンパク質に1本以上のグリコサミノグリカン(ムコ多糖)側鎖が共有結合した水溶性糖タンパク質の総称です[1][2a]

プロテオグリカンの構造

一般に水溶性プロテオグリカンは、サケ科魚サケ(学名:Oncorhynchus keta 英名:Salmon)の鼻軟骨から抽出して得られるものが用いられますが、植物由来プロテオグリカンとしてアラビアゴムから抽出したものも開発されており、アラビアゴム由来の場合でも表示名称は「水溶性プロテオグリカン」ですが、医薬部外品表示名は「アラビアゴム」となります。

1.2. 分布

水溶性プロテオグリカンは、自然界において動物の皮膚、軟骨、血管、臍帯、角膜などの結合組織に存在しています[2b]

1.3. 皮膚におけるプロテオグリカンの役割

生体におけるプロテオグリカンは、軟骨組織に存在する代表的な大型のプロテオグリカンであるアグリカン(aggrecan)のほか、皮膚に関連するものだけでも以下の図表のように、

プロテオグリカンの種類

種類 グリコサミノグリカン 糖鎖数 局在組織
デコリン デルマタン硫酸 1 真皮層
パールカン ヘパラン硫酸 3 基底膜
バーシカン コンドロイチン硫酸 12-16 真皮層
アグリカン コンドロイチン硫酸
ケラタン硫酸
100以上
60以下
軟骨

局在する部位によって異なる種類のプロテオグリカンが報告されています[3][4][5][6][7]

以下の皮膚構造図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、皮膚上層部は、

皮膚の構造と皮膚の主要成分

直接外界に接する皮膚最外層である角質層を含む表皮と、表皮を支える真皮から構成されていることが知られています。

表皮を下から支える真皮を構成する成分としては、細胞成分と線維性組織を形成する間質成分(細胞外マトリックス成分)に二分され、以下の表のように、

分類 構成成分
間質成分 膠原線維 コラーゲン
弾性繊維 エラスチン
基質 糖タンパク質、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン
細胞成分 線維芽細胞

主成分である間質成分は、大部分がコラーゲンからなる膠原線維とエラスチンからなる弾性繊維、およびこれらの間を埋める基質で占められており、細胞成分としてはこれらを産生する線維芽細胞がその間に散在しています[8a][9a]

細胞間を満たす無定形成分である基質は、親水性が強く水分量の調整、水溶性物質の組織への浸透・拡散に重要な役割を果たすとともにコラーゲンやエラスチンと結合して繊維を安定化させることにより皮膚の柔軟性を保持しています[8b][9b]

この基質は、主に糖タンパク質(glycoprotein)プロテオグリカン(proteoglycan)およびグリコサミノグリカン(glycosaminoglycan)で構成されており、グリコサミノグリカンとしてはヒアルロン酸デルマタン硫酸(コンドロイチン硫酸B)が多いのが特徴です[10a]

プロテオグリカンは、ヒアルロン酸以外のグリコサミノグリカンがコアタンパクを中心に大きな集合体を形成した巨大分子のことであり、真皮においてはデコリン(decorin)とバーシカン(versican)が存在し、それぞれ水分保持能とともに電解質や物質の交換・移動、細胞の移動や分化、コラーゲン繊維形成の制御など重要な役割を果たしています[10b]

また、表皮基底層の基底膜においてはパールカン(perlecan)が存在し、成長因子やサイトカインなどのシグナル分子と相互作用することにより細胞のシグナル伝達を制御しています[11]

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • 皮表水分保持による保湿作用

主にこれらの目的で、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、マスク製品、化粧下地製品、日焼け止め製品、洗顔料、クレンジング製品、ネイルケア製品など様々な製品に汎用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. 皮表水分保持による保湿作用

皮表水分保持による保湿作用に関しては、まず前提知識として皮膚最外層である角質層の構造と役割について解説します。

直接外界に接する皮膚最外層である角質層は、以下の図のように、

角質層の構造

水分を保持する働きもつ天然保湿因子を含む角質と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造になっており、この構造が保持されることによって外界からの物理的あるいは化学的影響から身体を守り、かつ体内の水分が体外へ過剰に蒸散していくのを防ぐとともに一定の水分を保持する役割を担っています[12][13]

また、角質層内の主な水分は、天然保湿因子(NMF)の分子に結合している結合水と水(液体)の形態をした自由水の2種類の状態で存在しており、以下の表のように、

角質層内の水の種類 定義
結合水 一次結合水 角質層の構成分子と強固に結合し、硬く乾燥しきった角質層の中にも存在する水です。
二次結合水 角質層の構成分子と非常に速やかに結合するものの、乾燥した状態でゆっくりと解離するような比較的弱い結合をしている水の分子のことをいい、温度や湿度など外部環境によって比較的容易に結合と解離を繰り返す可逆的な水です。
自由水 二次結合水の容量を超えて角質層が水を含んだ場合に液体の形で角質層内に存在する水であり、この量が一定量を超えると過水和となり、浸軟した(ふやけた)状態が観察されます。

それぞれこのような特徴を有しています[14a][15]

角質層の柔軟性は、水分量10-20%の間で自然な柔軟性を示す一方で、水分量が10%以下になると角層のひび割れ、肌荒れが生じると考えられており、種々の原因により角質層の保湿機能が低下することによって水分量が低下すると、皮膚表面が乾燥して亀裂、落屑、鱗屑などを生じるようになることから、角層に含まれる水分量が皮膚表面の性状を決定する大きな要因として知られています[14b]

このような背景から、肌荒れやバリア機能の低下やなどによって角層の水分量が低下している場合に、皮膚表面に水分を含んだ膜を形成し、皮膚の水分蒸散を防止することは、皮膚の乾燥、ひび割れ、肌荒れの予防や改善において重要なアプローチのひとつであると考えられています。

2016年に青森県産業技術センターによって報告された水溶性プロテオグリカンの保水性検証によると、

– 保水性試験 –

各質量/体積濃度のサケ由来プロテオグリカン水溶液100mLを透析用セルロースチューブに入れ、上下の口を封じ水中に浮遊させ、4℃の低温室で水に対して透析した。

水は一週間ごとに交換し、吸水した透析用セルロースチューブの重量を不定期に30日間計測し、あらかじめ測定した透析用セルロースチューブ重量を控除し吸水・保水した重量を算出したところ、以下のグラフのように、

サケ由来水溶性プロテオグリカンの保水性

水溶性プロテオグリカンは、いずれの濃度においても吸水・保水量は経過日数にほぼ比例して増えること、また濃度が高くなるほど吸水・保水量が多くなることが明らかとなった。

このような検証結果が明らかにされており[16]、水溶性プロテオグリカンに吸水性および保水性が認められています。

3. 安全性評価

水溶性プロテオグリカンの現時点での安全性は、

  • 10年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

3.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)

プロテオグリカンはヒト皮膚内にも存在しており、10年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

3.2. 眼刺激性

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。

4. 参考文献

  1. 日本化粧品工業連合会(2013)「水溶性プロテオグリカン」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,541.
  2. ab大木 道則, 他(1989)「プロテオグリカン」化学大辞典,2063-2064.
  3. A. Varki, et al(2010)「プロテオグリカンと硫酸化グリコサミノグリカン」コールドスプリングハーバー 糖鎖生物学 第2版,193-208.
  4. Timothy E. Hardingham(1998)「軟骨:アグリカン-リンクプロテイン- ヒアルロン酸の会合」Glycoforum(2)(5). DOI:10.32285/glycoforum.02A5J.
  5. 矢田 俊量(1998)「アグリカンとバーシカン」,2021年11月5日アクセス.
  6. M. Dolan, et al(1997)「Identification of Sites in Domain I of Perlecan That Regulate Heparan Sulfate Synthesis」The Journal of Biological Chemistry(272)(7),4316-4322. DOI:10.1074/jbc.272.7.4316.
  7. 望月由木子, 他(1998)「ロイシンリッチプロテオグリカン」,2021年11月5日アクセス.
  8. ab朝田 康夫(2002)「真皮のしくみと働き」美容皮膚科学事典,28-33.
  9. ab清水 宏(2018)「真皮」あたらしい皮膚科学 第3版,13-20.
  10. ab大塚 藤男(2011)「真皮」皮膚科学 第9版,32-44.
  11. Hiroko Ida-Yonemochi(2013)「Role of perlecan, a basement membrane-type heparan sulfate proteoglycan, in enamel organ morphogenesis」Journal of Oral Biosciences(55)(1),23-28. DOI:10.1016/j.job.2012.12.004.
  12. 朝田 康夫(2002)「保湿能力と水分喪失の関係は」美容皮膚科学事典,103-104.
  13. 田村 健夫・廣田 博(2001)「表皮」香粧品科学 理論と実際 第4版,30-33.
  14. ab日光ケミカルズ株式会社(2006)「水」新化粧品原料ハンドブックⅠ,487-502.
  15. 武村 俊之(1992)「保湿製剤の効用:角層の保湿機構」ファルマシア(28)(1),61-65. DOI:10.14894/faruawpsj.28.1_61.
  16. 青森県産業技術センター(2016)「高保水性プロテオグリカン、化粧料および高保水性プロテオグリカンの製造法」特開2016-029150.

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