キシリトールの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | キシリトール |
---|---|
医薬部外品表示名 | キシリット |
INCI名 | Xylitol |
配合目的 | 保湿、保水 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表される糖アルコール(∗1)かつ五価アルコール(多価アルコール)(∗2)です[1a][2]。
∗1 糖アルコールとは、還元糖のカルボニル基(−C(=O)−)が還元されてヒドロキシ基(-OH)になった多価アルコールの総称であり、その名称は糖の接尾語である「-ose」を「-itol」または「-it」に変えて命名されています。代表的なものとして、マルトース(maltose)の糖アルコールはマルチトール(maltitol)、グルコース(glucose)の糖アルコールはソルビトール(sorbitol)またはソルビット(sorbit)などとよばれています。糖アルコールには還元基がないため、熱やpHの変化に対して安定であり、またアミノ化合物(アミノ酸、ペプチド、タンパク質)との褐変反応による着色が生じないという特徴があります。
∗2 2個以上のヒドロキシ基(-OH)が結合したアルコールを多価アルコールといい(n個結合したものはn価アルコールともよばれる)、キシリトールは5個のヒドロキシ基(-OH)が結合した五価アルコールです。
1.2. 分布
キシリトールは、自然界においてイチゴ、カリフラワー、プラムなどの果実や野菜に含まれています[3a]。
1.3. 化粧品以外の主な用途
キシリトールの化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
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食品 | 甘味の付与目的でチューインガム、菓子類、ジャム類などに用いられています[3b]。 |
医薬品 | インスリン非依存性であり糖尿病患者の血糖値を上昇させないことから糖尿病および糖尿病状態時の輸液・栄養製剤として用いられています[4]。また安定・安定化、甘味、矯味、等張化、賦形目的の医薬品添加剤として経口剤、各種注射、眼科用剤、口中用剤、吸入剤などに用いられています[5]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 角層水分量増加による保湿作用
- 保水
主にこれらの目的で、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ製品、化粧下地製品、洗顔料、クレンジング製品、マスク製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、トリートメント製品など様々な製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 角層水分量増加による保湿作用
角層水分量増加による保湿作用に関しては、まず前提知識として皮膚最外層である角質層の構造と役割および天然保湿因子と水の関係について解説します。
直接外界に接する皮膚最外層である角質層は、以下の図のように、
水分を保持する働きもつ天然保湿因子を含む角質と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造になっており、この構造が保持されることによって外界からの物理的あるいは化学的影響から身体を守り、かつ体内の水分が体外へ過剰に蒸散していくのを防ぐとともに一定の水分を保持する役割を担っています[6][7]。
角質層において水分を保持する働きをもつ天然保湿因子(NMF:natural Moisturizing Factor)は低分子の水溶性物質であり、以下の表のように、
成分 | 含量(%) |
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アミノ酸 | 40.0 |
ピロリドンカルボン酸(PCA) | 12.0 |
乳酸 | 12.0 |
尿素 | 7.0 |
アンモニア、尿酸、グルコサミン、クレアチン | 1.5 |
ナトリウム(Na⁺) | 5.0 |
カリウム(K⁺) | 4.0 |
カルシウム(Ca²⁺) | 1.5 |
マグネシウム(Mg²⁺) | 1.5 |
リン酸(PO₄³⁻) | 0.5 |
塩化物(Cl⁻) | 6.0 |
クエン酸、ギ酸 | 0.5 |
糖、有機酸、ペプチド、未確認物質 | 8.5 |
アミノ酸、有機酸、塩などの集合体として存在しています[8a]。
また、角質層内の主な水分は、天然保湿因子(NMF)の分子に結合している結合水と水(液体)の形態をした自由水の2種類の状態で存在しており、以下の表のように、
角質層内の水の種類 | 定義 | |
---|---|---|
結合水 | 一次結合水 | 角質層の構成分子と強固に結合し、硬く乾燥しきった角質層の中にも存在する水です。 |
二次結合水 | 角質層の構成分子と非常に速やかに結合するものの、乾燥した状態でゆっくりと解離するような比較的弱い結合をしている水の分子のことをいい、温度や湿度など外部環境によって比較的容易に結合と解離を繰り返す可逆的な水です。 | |
自由水 | 二次結合水の容量を超えて角質層が水を含んだ場合に液体の形で角質層内に存在する水であり、この量が一定量を超えると過水和となり、浸軟した(ふやけた)状態が観察されます。 |
角質層の柔軟性は、水分量10-20%の間で自然な柔軟性を示す一方で、水分量が10%以下になると角層のひび割れ、肌荒れが生じると考えられており、種々の原因により角質層の保湿機能が低下することによって水分量が低下すると、皮膚表面が乾燥して亀裂、落屑、鱗屑などを生じるようになることから、角層に含まれる水分量が皮膚表面の性状を決定する大きな要因として知られています[9b]。
このような背景から、角層の水分量が低下している場合に角層水分量を増加することは、皮膚の乾燥、ひび割れ、肌荒れの予防や改善において重要なアプローチのひとつであると考えられています。
キシリトールは、化学構造に5個のヒドロキシ基をもつ五価アルコール(多価アルコール)であり、角層に浸透しケラチンと水分子との間で仲介役を果たすことで保湿性を発揮することから、保湿剤として一般に他の多価アルコールと併用して使用されています[1b][10][11][12]。
ただし、キシリトール単独での角層水分量への影響に関するヒト試験データがみつけられておらず、みつかりしだい追補します。
2.2. 製品自体の保水
製品自体の保水に関しては、キシリトールは吸湿性・保水性を有していることから、製品自体の水分を保留し、乳化系や可溶化系の安定性を保持する目的で配合されています[1c][13]。
3. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2018-2019年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗3)。
∗3 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
4. 安全性評価
- 食品添加物の指定添加物リストに収載
- 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 40年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[14]によると、
– 健常皮膚を有する場合 –
- [ヒト試験] 119名の被検者に0.115%キシリトールを含む製品を対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、誘導期間において3名の被検者に、チャレンジ期間において1名の被検者に軽度の紅斑がみられたが、いずれの被検者も皮膚感作反応の兆候なしと結論付けられた(Anonymous,2019)
- [動物試験] 6匹のウサギを3匹1群とし1群に5%キシリトール水溶液を、残りの1群に10%キシリトール水溶液をそれぞれ擦過した部位および無傷の部位にパッチ適用し、パッチ除去後に皮膚刺激性を評価したところ、この製剤は非刺激剤に分類された(A.S. Ferreira et al,2009)
– 過敏な皮膚を有する場合 –
- [ヒト試験] 質問票に敏感肌であると回答した110名の被検者に3%キシリトールを含むボディローションを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、いずれの被検者も皮膚感作反応を示さなかった(TKL Research Inc,2018)
このように記載されており、試験データをみるかぎり皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
4.2. 眼刺激性
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。
5. 参考文献
- ⌃abc日本化粧品工業連合会(2013)「キシリトール」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,334.
- ⌃有機合成化学協会(1985)「キシリトール」有機化合物辞典,226.
- ⌃ab樋口 彰, 他(2019)「キシリトール」食品添加物事典 新訂第二版,92-93.
- ⌃浦部 晶夫, 他(2021)「キシリトール」今日の治療薬2021:解説と便覧,538.
- ⌃日本医薬品添加剤協会(2021)「キシリトール」医薬品添加物事典2021,167-169.
- ⌃朝田 康夫(2002)「保湿能力と水分喪失の関係は」美容皮膚科学事典,103-104.
- ⌃田村 健夫・廣田 博(2001)「表皮」香粧品科学 理論と実際 第4版,30-33.
- ⌃ab武村 俊之(1992)「保湿製剤の効用:角層の保湿機構」ファルマシア(28)(1),61-65. DOI:10.14894/faruawpsj.28.1_61.
- ⌃ab日光ケミカルズ株式会社(2006)「水」新化粧品原料ハンドブックⅠ,487-502.
- ⌃平尾 哲二(2017)「保湿 温故知新」日本香粧品学会誌(41)(4),277-281. DOI:10.11469/koshohin.41.277.
- ⌃日光ケミカルズ株式会社(2016)「多価アルコール」パーソナルケアハンドブックⅠ,95-101.
- ⌃Beiersdorf AG(1996)「化粧品及び医薬品の局所用調製物」特表平08-508745.
- ⌃日光ケミカルズ株式会社(1982)「糖類」化粧品製剤実用便覧,140-142.
- ⌃W.F. Bergfeld, et al(2019)「Safety Assessment of Mannitol, Sorbitol, and Xylitol as Used in Cosmetics(∗4)」, 2021年9月8日アクセス.
∗4 PCPCのアカウントをもっていない場合はCIRをクリックし、表示されたページ中のアルファベットをどれかひとつクリックすれば、あとはアカウントなしでも上記レポートをクリックしてダウンロードが可能になります。