ソルビトールの基本情報・配合目的・安全性

ソルビトール

化粧品表示名 ソルビトール
医薬部外品表示名 ソルビット、ソルビトール
INCI名 Sorbitol
配合目的 保湿保水、透明化 など

1. 基本情報

1.1. 定義

以下の化学式で表される糖アルコール(∗1)かつ六価アルコール(多価アルコール)(∗2)です[1a][2a]

∗1 糖アルコールとは、還元糖のカルボニル基(−C(=O)−)が還元されてヒドロキシ基(-OH)になった多価アルコールの総称であり、その名称は糖の接尾語である「-ose」を「-itol」または「-it」に変えて命名されています。代表的なものとして、マルトース(maltose)の糖アルコールはマルチトール(maltitol)、グルコース(glucose)の糖アルコールはソルビトール(sorbitol)またはソルビット(sorbit)などとよばれています。糖アルコールには還元基がないため、熱やpHの変化に対して安定であり、またアミノ化合物(アミノ酸、ペプチド、タンパク質)との褐変反応による着色が生じないという特徴があります。

∗2 2個以上のヒドロキシ基(-OH)が結合したアルコールを多価アルコールといい(n個結合したものはn価アルコールともよばれる)、ソルビトールは6個のヒドロキシ基(-OH)が結合した六価アルコールです。

ソルビトール

1.2. 分布

ソルビトールは、自然界において藻類から植物に広く存在しており、植物ではナナカマド(学名:Sorbus commixta)の実をはじめ柑橘類以外の果実に1-10%程度含まれ、藻類では紅藻(学名:Rhodophyta)に多く存在しています[2b][3a]

1.3. 化粧品以外の主な用途

ソルビトールの化粧品以外の主な用途としては、

分野 用途
食品 ソルビトール液はグリセリンより放湿吸湿速度が少なく、保湿効果が大きいため、保湿や品質改良目的で各種食品に用いられるほか、タンパク質の冷凍変性を防止する効果があるため冷凍のすり身に多量に用いられています[3b]
医薬品 経口的栄養補給剤や浸透圧性下剤として用いられています[4]。また安定・安定化、可塑、甘味、矯味、結合、懸濁・懸濁化、コーティング、湿潤、等張化、乳化、賦形、分散、保存、溶解補助目的の医薬品添加剤として経口剤、各種注射、外用剤、眼科用剤、口中用剤などに用いられています[5]

これらの用途が報告されています。

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • 角層水分量増加による保湿作用
  • 保水
  • 固形石鹸の透明化

主にこれらの目的で、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ製品、洗顔料、洗顔石鹸、シャンプー製品、コンディショナー製品、トリートメント製品、ボディソープ製品、ボディ石鹸、マスク製品、クレンジング製品、化粧下地製品、まつ毛美容液、ネイル製品など様々な製品に汎用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. 角層水分量増加による保湿作用

角層水分量増加による保湿作用に関しては、まず前提知識として皮膚最外層である角質層の構造と役割および天然保湿因子と水の関係について解説します。

直接外界に接する皮膚最外層である角質層は、以下の図のように、

角質層の構造

水分を保持する働きもつ天然保湿因子を含む角質と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造になっており、この構造が保持されることによって外界からの物理的あるいは化学的影響から身体を守り、かつ体内の水分が体外へ過剰に蒸散していくのを防ぐとともに一定の水分を保持する役割を担っています[6][7]

角質層において水分を保持する働きをもつ天然保湿因子(NMF:natural Moisturizing Factor)は低分子の水溶性物質であり、以下の表のように、

成分 含量(%)
アミノ酸 40.0
ピロリドンカルボン酸(PCA) 12.0
乳酸 12.0
尿素 7.0
アンモニア、尿酸、グルコサミン、クレアチン 1.5
ナトリウム(Na⁺) 5.0
カリウム(K⁺) 4.0
カルシウム(Ca²⁺) 1.5
マグネシウム(Mg²⁺) 1.5
リン酸(PO₄³⁻) 0.5
塩化物(Cl⁻) 6.0
クエン酸、ギ酸 0.5
糖、有機酸、ペプチド、未確認物質 8.5

アミノ酸、有機酸、塩などの集合体として存在しています[8a]

また、角質層内の主な水分は、天然保湿因子(NMF)の分子に結合している結合水と水(液体)の形態をした自由水の2種類の状態で存在しており、以下の表のように、

角質層内の水の種類 定義
結合水 一次結合水 角質層の構成分子と強固に結合し、硬く乾燥しきった角質層の中にも存在する水です。
二次結合水 角質層の構成分子と非常に速やかに結合するものの、乾燥した状態でゆっくりと解離するような比較的弱い結合をしている水の分子のことをいい、温度や湿度など外部環境によって比較的容易に結合と解離を繰り返す可逆的な水です。
自由水 二次結合水の容量を超えて角質層が水を含んだ場合に液体の形で角質層内に存在する水であり、この量が一定量を超えると過水和となり、浸軟した(ふやけた)状態が観察されます。

それぞれこのような特徴を有しています[8b][9a]

角質層の柔軟性は、水分量10-20%の間で自然な柔軟性を示す一方で、水分量が10%以下になると角層のひび割れ、肌荒れが生じると考えられており、種々の原因により角質層の保湿機能が低下することによって水分量が低下すると、皮膚表面が乾燥して亀裂、落屑、鱗屑などを生じるようになることから、角層に含まれる水分量が皮膚表面の性状を決定する大きな要因として知られています[9b]

このような背景から、角層の水分量が低下している場合に角層水分量を増加することは、皮膚の乾燥、ひび割れ、肌荒れの予防や改善において重要なアプローチのひとつであると考えられています。

ソルビトールは、化学構造に6個のヒドロキシ基をもつ六価アルコール(多価アルコール)であり、臨界相対湿度(∗3)20%であることから高い吸湿性を有し、皮膚においてしっとりとした感触を付与するとともに角層に浸透しケラチンと水分子との間で仲介役を果たすことで保湿性を発揮することから、保湿剤として広く汎用されています[10][11][12]

∗3 臨界相対湿度とは、吸湿が起こり始める相対湿度のことであり、ソルビトールは相対湿度20%以上で吸湿が起こり始めることを示しています。

1969年に資生堂研究所によって報告されたソルビトールの吸湿性検証によると、

– 吸湿性試験 –

各湿度における多価アルコールの吸湿性を比較検討したところ、以下のグラフのように、

保湿剤の各相対湿度における吸湿性への影響

50%相対湿度21-27℃における多価アルコールの吸湿性

多価アルコールは、低湿度下において吸湿性は低く、高湿度下において高い吸湿性を発揮する傾向が示された。

ソルビトールは、相対湿度50%においてグリセリンほどではないものの、BGと同等の高い吸湿性を示した。

このような検証結果が明らかにされており[13a]、ソルビトールに相対湿度20%付近から相対湿度に比例した吸湿性が認められています。

ソルビトールの角層水分量への影響に関するヒト試験データはみつけられていませんが、40年以上の使用実績かつ現在でも広く汎用されている保湿剤(ヒューメクタント)であり、角層でケラチンと水分子との間で仲介役を果たすことで保湿性を発揮することから、保湿作用を有していると考えられます(ヒト試験データはみつかりしだい追補します)

2.2. 製品自体の保水

製品自体の保水に関しては、ソルビトールは相対湿度50%以上において相対湿度に比例して高い吸湿性・保水性を有していることから、製品自体の水分を保留し、乳化系や可溶化系の安定性を保持する目的で様々な製品に配合されています[1b][13b]

2.3. 固形石鹸の透明化

固形石鹸の透明化に関しては、従来より枠練石鹸生地に、二糖類であるスクロースや糖アルコールであるソルビトール、多価アルコールであるグリセリンPGまたはこれらの混合物を配合することによって石鹸の結晶化が抑制され、微細結晶化させることで石鹸が透明になることが知られており[14]、透明化目的で洗顔石鹸やボディ石鹸に用いられています。

3. 配合製品数および配合量範囲

実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2018-2019年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗4)

∗4 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。

ソルビトールの配合製品数と配合量の調査結果(2018-2019年)

4. 安全性評価

ソルビトールの現時点での安全性は、

  • 食品添加物の指定添加物リストに収載
  • 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 40年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)

食品添加物の指定添加物リスト、日本薬局方および医薬部外品原料規格2021に収載されており、40年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚刺激および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

4.2. 眼刺激性

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。

5. 参考文献

  1. ab日本化粧品工業連合会(2013)「ソルビトール」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,625.
  2. ab有機合成化学協会(1985)「D-グルシトール」有機化合物辞典,261-262.
  3. ab樋口 彰, 他(2019)「D-ソルビトール」食品添加物事典 新訂第二版,209.
  4. 浦部 晶夫, 他(2021)「D-ソルビトール」今日の治療薬2021:解説と便覧,807.
  5. 日本医薬品添加剤協会(2021)「D-ソルビトール」医薬品添加物事典2021,360-362.
  6. 朝田 康夫(2002)「保湿能力と水分喪失の関係は」美容皮膚科学事典,103-104.
  7. 田村 健夫・廣田 博(2001)「表皮」香粧品科学 理論と実際 第4版,30-33.
  8. ab武村 俊之(1992)「保湿製剤の効用:角層の保湿機構」ファルマシア(28)(1),61-65. DOI:10.14894/faruawpsj.28.1_61.
  9. ab日光ケミカルズ株式会社(2006)「水」新化粧品原料ハンドブックⅠ,487-502.
  10. 戸田 吉紀・高野 晃一(2006)「ソルビトール」糖アルコールの新常識 改訂増補版,10-31.
  11. 平尾 哲二(2017)「保湿 温故知新」日本香粧品学会誌(41)(4),277-281. DOI:10.11469/koshohin.41.277.
  12. 日光ケミカルズ株式会社(1977)「多価アルコール類」ハンドブック – 化粧品・製剤原料 – 改訂版,76-94.
  13. ab尾沢 達也(1969)「保湿剤(Humectant)」ファルマシア(5)(10),685-690. DOI:10.14894/faruawpsj.5.10_685.
  14. 花王株式会社(1975)「透明石鹸の製造法」特開昭50-135104.

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