水溶性コラーゲンの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | 水溶性コラーゲン |
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医薬部外品表示名 | 水溶性コラーゲン、水溶性コラーゲン液、水溶性コラーゲン液(1)、水溶性コラーゲン液(3)、水溶性コラーゲン液(4) |
部外品表示簡略名 | 水溶性コラーゲン液-1、水溶性コラーゲン液-3、水溶性コラーゲン液-4 |
INCI名 | Soluble Collagen |
配合目的 | 保湿、感触改良 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
イノシシ科動物ブタ(学名:Sus scrofa domesticus)または魚介類、鳥類などの結合組織から得られる(∗1)可溶性の非加水分解天然タンパク質です[1][2a]。
∗1 2001年に国内でもBSE(狂牛病)が問題視された中でウシ由来コラーゲンの使用が控えられ、代替としてブタ、魚介類などのコラーゲンが使用され、現在においてもこれらが使用されている経緯があります。これらの代替生物由来コラーゲンは、熱変性温度(安定性)には多少の差異はありますが、皮膚に対する効果に有意な違いはないため、由来の差異は無視して解説します。
医薬部外品表示名については、それぞれ、
医薬部外品表示名 | 本質 |
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水溶性コラーゲン | イノシシ科動物ブタ(学名:Sus scrofa domesticus)の皮膚、骨髄組織より得られるコラーゲンの乾燥物 |
水溶性コラーゲン液 | キンメダイ科(学名:Berycidae)の魚の皮より得られるコラーゲン水溶液 |
水溶性コラーゲン(1) | イノシシ科動物ブタ(学名:Sus scrofa domesticus)の皮膚、骨髄組織から水、エタノールまたはこれらの混液で抽出したコラーゲン水溶液 |
水溶性コラーゲン(3) | ウシノシタ科(学名:Cynoglossidae)の魚の皮より得られるコラーゲン水溶液 |
水溶性コラーゲン(4) | サバ科魚類キハダ(学名:Thunnus albacares)の皮より得られるコラーゲン水溶液 |
このように、由来原料や物質の状態によって区別されており、化粧品表示名としてはすべて「水溶性コラーゲン」と表示されます。
1.2. 構造
コラーゲン分子は以下の図のように、
3本のペプチド鎖が3重らせん構造を成しており、各ペプチド鎖はアミノ酸組成として、
グリシン – アミノ酸X – アミノ酸Y
3個ごとにグリシン(Gly)を含む繰り返し構造をもつため、配列としては、
(Gly-X-Y)n
と表すことができます[3a]。
アミノ酸Xとアミノ酸Yの位置には、原理的に20種のアミノ酸すべてが存在できるため、組み合わせとしては400通りの可能性がありますが、実際に1%以上出現する配列は24通りであり、アミノ酸としては以下の表のように、
アミノ酸 | 含量(%) | |
---|---|---|
魚鱗由来 | 豚皮由来 | |
グリシン | 31.0-32.6 | 33.0 |
アラニン | 11.3-12.0 | 11.2 |
セリン | 3.2-4.1 | 3.6 |
トレオニン | 2.1-3.0 | 1.8 |
システイン | 0.4-0.5 | – |
メチオニン | 1.1-1.4 | 0.4 |
バリン | 2.0-2.3 | 2.6 |
ロイシン | 1.5-2.3 | 2.4 |
イソロイシン | 0.9-1.1 | 0.9 |
フェニルアラニン | 1.3-1.5 | 1.4 |
チロシン | 0.9-1.0 | 0.3 |
プロリン | 10.5-13.0 | 13.1 |
ヒドロキシプロリン | 8.5-9.3 | 9.1 |
リシン | 2.3 | 2.6 |
ヒスチジン | 1.1-1.8 | 0.4 |
アルギニン | 4.5 | 4.8 |
アスパラギン酸 | 4.0-4.5 | 33.0 |
グルタミン酸 | 6.9-7.8 | 7.2 |
由来を問わず、グリシンが約32%を占め、次いでプロリンおよびヒドロキシプロリンが約21%を、アラニンが約11%を占めています[4a][5][6]。
また、生体におけるコラーゲンは以下の図のように、
分子間架橋の形成部位かつコラーゲン分子両端の非らせん部位でもあるテロペプチドが存在しており、このテロペプチドはコラーゲン分子の主要な抗原部位となっていることが知られていますが、化粧品成分「水溶性コラーゲン」とはこのテロペプチド部位を酵素などで切断しアテロコラーゲンとすることで、抗原性(感作性)リスクを最小化するとともに可溶性(水溶性)を獲得したものをいいます[2b][3b]。
1.3. 物性
水溶性コラーゲンは、分子量30万の非加水分解性タンパク質であり、水に溶け、比較的湿度の影響を受けにくく、高い保水性と肌なじみのよさを特徴としています[3c]。
1.4. 分布
コラーゲンは、動物の結合組織を構成する繊維状タンパク質(膠原質)として存在しています[4b]。
1.5. 皮膚におけるコラーゲンの役割
皮膚におけるコラーゲンの役割に関しては、以下の皮膚構造図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、皮膚上層部は、
直接外界に接する皮膚最外層である角質層を含む表皮と、表皮を支える真皮から構成されていることが知られています。
表皮を下から支える真皮を構成する成分としては、細胞成分と線維性組織を形成する間質成分(細胞外マトリックス成分)に二分され、以下の表のように、
分類 | 構成成分 | |
---|---|---|
間質成分 | 膠原線維 | コラーゲン |
弾性繊維 | エラスチン | |
基質 | 糖タンパク質、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン | |
細胞成分 | 線維芽細胞 |
主成分である間質成分は、大部分がコラーゲンからなる膠原線維とエラスチンからなる弾性繊維、およびこれらの間を埋める基質で占められており、細胞成分としてはこれらを産生する線維芽細胞がその間に散在しています[7a][8]。
間質成分の大部分を占めるコラーゲンは、Ⅰ型コラーゲン(80-85%)とⅢ型コラーゲン(10-15%)が一定の割合で会合(∗2)することによって構成された膠質状繊維であり[9]、Ⅰ型コラーゲンは皮膚や骨に最も豊富に存在し、強靭性や弾力をもたせたり、組織の構造を支える働きが、Ⅲ型コラーゲンは細い繊維からなり、しなやかさや柔軟性をもたらす働きがあり、それぞれ皮膚のハリを支えています[7b][10]。
∗2 会合とは、同種の分子またはイオンが比較的弱い力で数個結合し、一つの分子またはイオンのようにふるまうことをいいます。
また、表皮においてもコラーゲンは存在しており、以下の表皮基底層拡大図をみてもらうとわかるように、
Ⅳ型コラーゲンは基底層の膜状構造の最下部で骨格の役割として、Ⅶ型コラーゲンは基底膜と真皮のⅠ型またはⅢ型コラーゲンを接合し基底膜と真皮をつなぎとめる役割として存在しています[11][12]。
2. 化粧品としての配合目的
- 皮表水分保持による保湿作用
- 潤滑性による感触改良
主にこれらの目的で、スキンケア製品、メイクアップ製品、化粧下地製品、ボディ&ハンドケア製品、マスク製品、洗顔料、洗顔石鹸、日焼け止め製品、クレンジング製品、シャンプー製品、コンディショナー製品など様々な製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 皮表水分保持による保湿作用
皮表水分保持による保湿作用に関しては、まず前提知識として皮膚最外層である角質層の構造と役割について解説します。
直接外界に接する皮膚最外層である角質層は、以下の図のように、
水分を保持する働きもつ天然保湿因子を含む角質と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造になっており、この構造が保持されることによって外界からの物理的あるいは化学的影響から身体を守り、かつ体内の水分が体外へ過剰に蒸散していくのを防ぐとともに一定の水分を保持する役割を担っています[13][14]。
また、角質層内の主な水分は、天然保湿因子(NMF)の分子に結合している結合水と水(液体)の形態をした自由水の2種類の状態で存在しており、以下の表のように、
角質層内の水の種類 | 定義 | |
---|---|---|
結合水 | 一次結合水 | 角質層の構成分子と強固に結合し、硬く乾燥しきった角質層の中にも存在する水です。 |
二次結合水 | 角質層の構成分子と非常に速やかに結合するものの、乾燥した状態でゆっくりと解離するような比較的弱い結合をしている水の分子のことをいい、温度や湿度など外部環境によって比較的容易に結合と解離を繰り返す可逆的な水です。 | |
自由水 | 二次結合水の容量を超えて角質層が水を含んだ場合に液体の形で角質層内に存在する水であり、この量が一定量を超えると過水和となり、浸軟した(ふやけた)状態が観察されます。 |
角質層の柔軟性は、水分量10-20%の間で自然な柔軟性を示す一方で、水分量が10%以下になると角層のひび割れ、肌荒れが生じると考えられており、種々の原因により角質層の保湿機能が低下することによって水分量が低下すると、皮膚表面が乾燥して亀裂、落屑、鱗屑などを生じるようになることから、角層に含まれる水分量が皮膚表面の性状を決定する大きな要因として知られています[15b]。
このような背景から、肌荒れやバリア機能の低下やなどによって角層の水分量が低下している場合に、皮膚表面に水分を含んだ膜を形成し、皮膚の水分蒸散を防止することは、皮膚の乾燥、ひび割れ、肌荒れの予防や改善において重要なアプローチのひとつであると考えられています。
2020年にニッピによって報告された水溶性コラーゲンの保水能および水分蒸散量への影響検証によると、
– 保水性試験 –
約2gの水、ゼラチン溶液、コラーゲン水溶液を時計皿にいれ、乾燥室に22時間放置後に重量を測定したところ、以下のグラフのように、
水溶性コラーゲン水溶液は、乾燥環境下において水およびゼラチンと比較して有意に水分の蒸散が抑制されることがわかった。
– 経表皮水分蒸散量(TEWL)測定試験 –
9名の被検者に水溶性コラーゲン、加水分解コラーゲン配合保湿剤を塗布し塗布1時間後の経表皮水分蒸散量の減少率を測定値し、この相対値をバリア能として算出したところ、以下のグラフのように、
水溶性コラーゲン配合保湿剤を塗布した場合は、未塗布の場合と比較して有意に経表皮水分蒸散量を減少させるバリア能を示した。
このような検証結果が明らかにされており[3d]、水溶性コラーゲンに皮表水分保持による保湿作用が認められています。
水溶性コラーゲンが抱え込む水のほとんどは結合水であり、また結合水量はコラーゲンの3重らせん構造に依存することが明らかにされています[3e]。
2.2. 潤滑性による感触改良
潤滑性による感触改良に関しては、水溶性コラーゲンは高い保水性を有しており、滑らかな感触を付与することから、感触を調整する目的で使用されています[17]。
3. 配合製品数および配合量範囲
配合製品数および配合量に関しては、海外の2016-2017年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗3)。
∗3 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
4. 安全性評価
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 40年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Review、川研ファインケミカルおよびテクノーブルライフサイエンス研究所の安全性データ[18a][19a][20a]によると、
- [ヒト試験] 100%ブタ皮由来水溶性コラーゲンを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、この試験物質は非刺激剤および非感作剤であった(川研ファインケミカル,2001)
- [ヒト試験] 40名の被検者の背部にキンメダイ由来水溶性コラーゲンを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、この試験物質は非刺激剤および非感作剤であった(テクノーブルライフサイエンス研究所,2002)
- [in vitro試験] 正常ヒト表皮角化細胞によって再構築された3次元培養表皮モデルを用いて大西洋タラ由来水溶性コラーゲン25,50,75,100または125μLを処理し、皮膚刺激性を評価したところ、この試験物質は非刺激剤に分類された(Active Concepts,2015)
- [in vitro試験] 正常ヒト表皮角化細胞によって再構築された3次元培養表皮モデルを用いて牛由来100%水溶性コラーゲンを処理し、皮膚刺激性を評価したところ、この試験物質は非刺激剤に分類された(Active Concepts,2015)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
4.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Review、川研ファインケミカルおよびテクノーブルライフサイエンス研究所の安全性データ[18b][19b][20b]によると、
- [in vitro試験] 正常ヒト表皮角化細胞によって再構築された3次元培養角膜モデルを用いて大西洋タラ由来水溶性コラーゲン25,50,75,100または125μLを処理し、眼粘膜刺激性を評価したところ、この試験物質は最小限の眼刺激剤に分類された(Active Concepts,2015)
- [in vitro試験] 正常ヒト表皮角化細胞によって再構築された3次元培養角膜モデルを用いて牛由来100%水溶性コラーゲンを処理し、眼粘膜刺激性を評価したところ、この試験物質は非刺激剤に分類された(Active Concepts,2015)
- [動物試験] ウサギを用いてブタ皮由来水溶性コラーゲンの眼粘膜刺激性を評価したところ、この試験物質は最小限の眼刺激剤であった(川研ファインケミカル,2001)
- [動物試験] 3匹のウサギを用いてキンメダイ由来水溶性コラーゲンの眼粘膜刺激性を評価したところ、この試験物質は非刺激剤であった(テクノーブルライフサイエンス研究所,2002)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通してほぼ眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。
5. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「水溶性コラーゲン」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,541.
- ⌃ab伊藤 博, 他(2001)「コラーゲンの安全性確保について」Fragrance Journal(29)(11),47-51.
- ⌃abcde服部 俊治・桑葉 くみ子(2020)「化粧品とコラーゲン」コラーゲンの製造と応用展開Ⅱ,143-166.
- ⌃ab大木 道則, 他(1989)「コラーゲン」化学大辞典,814.
- ⌃奥山 健二(2020)「コラーゲンの分子構造」コラーゲンの製造と応用展開Ⅱ,1-12.
- ⌃株式会社成和化成(2007)「魚鱗由来加水分解コラーゲン」特開2007-326869.
- ⌃ab朝田 康夫(2002)「真皮のしくみと働き」美容皮膚科学事典,28-33.
- ⌃清水 宏(2018)「真皮」あたらしい皮膚科学 第3版,13-20.
- ⌃D.R. Keene, et al(1987)「Type Ⅲ collagen can be present on banded collagen fibrils regardless of fibril diameter」Journal of Cell Biology(105)(5),2393-2402. DOI:10.1083/jcb.105.5.2393.
- ⌃村上 祐子, 他(2013)「加齢にともなうⅢ型コラーゲン/Ⅰ型コラーゲンの比率の減少メカニズム」日本化粧品技術者会誌(47)(4),278-284. DOI:10.5107/sccj.47.278.
- ⌃清水 宏(2018)「表皮基底膜:表皮と真皮の結合」あたらしい皮膚科学 第3版,5-7.
- ⌃大塚 藤男(2011)「表皮の接着」皮膚科学 第9版,7-9.
- ⌃朝田 康夫(2002)「保湿能力と水分喪失の関係は」美容皮膚科学事典,103-104.
- ⌃田村 健夫・廣田 博(2001)「表皮」香粧品科学 理論と実際 第4版,30-33.
- ⌃ab日光ケミカルズ株式会社(2006)「水」新化粧品原料ハンドブックⅠ,487-502.
- ⌃武村 俊之(1992)「保湿製剤の効用:角層の保湿機構」ファルマシア(28)(1),61-65. DOI:10.14894/faruawpsj.28.1_61.
- ⌃井原水産株式会社(2013)「化粧品用水溶性コラーゲンおよび該コラーゲンを含有する化粧品」特開2013-001664.
- ⌃abW.F. Bergfeld, et al(2017)「Safety Assessment of Skin and Connective Tissue-Derived Proteins and Peptides as Used in Cosmetics(∗4)」, 2021年10月31日アクセス.
∗4 PCPCのアカウントをもっていない場合はCIRをクリックし、表示されたページ中のアルファベットをどれかひとつクリックすれば、あとはアカウントなしでも上記レポートをクリックしてダウンロードが可能になります。 - ⌃ab鈴木 邦夫(2001)「豚皮由来コラーゲンについて」Fragrance Journal(29)(11),59-64.
- ⌃ab大澤 豊, 他(2002)「海洋性コラーゲンの開発とその特性」Fragrance Journal(30)(6),113-118.