PCA-Naの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | PCA-Na |
---|---|
医薬部外品表示名 | DL-ピロリドンカルボン酸ナトリウム液 |
部外品表示簡略名 | DL-PCA・Na液 |
INCI名 | Sodium PCA |
配合目的 | 保湿、毛髪保護 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表されるピロリドンカルボン酸(pyrrolidone carboxylic acid:PCA)(∗1)のナトリウム塩です[1][2]。
∗1 ピロリドンカルボン酸(PCA:Pyrrolidone Carboxylic Acid)は、アミノ酸の一種であるグルタミン酸の代謝産生物であり、広義にはアミノ酸の一種であるといえます。
1.2. 化粧品以外の主な用途
PCA-Naの化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
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医薬品 | 湿潤剤、湿潤調整剤目的で外用剤の医薬品添加物として用いられます[3]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 水分量増加および柔軟持続性向上による保湿作用
- すすぎ時のきしみ感低減による毛髪保護作用
主にこれらの目的で、スキンケア製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、アウトバストリートメント製品、ボディ&ハンドケア製品、洗顔料、洗顔石鹸、シート&マスク製品、クレンジング製品、ボディソープ製品、ヘアカラー製品、まつげ美容液など様々な製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 水分量増加および柔軟持続性向上による保湿作用
水分量増加および柔軟持続性向上による保湿作用に関しては、まず前提知識として皮膚最外層である角質層の構造と役割および角質細胞におけるPCA-Naの役割について解説します。
直接外界に接する皮膚最外層である角質層は、以下の図のように、
水分を保持する働きもつ天然保湿因子を含む角質と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造になっており、この構造が保持されることによって外界からの物理的あるいは化学的影響から身体を守り、かつ体内の水分が体外へ過剰に蒸散していくのを防ぐとともに一定の水分を保持する役割を担っています[4][5]。
また、角質層において水分を保持する働きをもつ物質は、天然保湿因子(NMF:natural Moisturizing Factor)とよばれる低分子の水溶性物質であり、天然保湿因子は以下の表のように、
成分 | 含量(%) |
---|---|
アミノ酸 | 40.0 |
ピロリドンカルボン酸(PCA) | 12.0 |
乳酸 | 12.0 |
尿素 | 7.0 |
アンモニア、尿酸、グルコサミン、クレアチン | 1.5 |
ナトリウム(Na⁺) | 5.0 |
カリウム(K⁺) | 4.0 |
カルシウム(Ca²⁺) | 1.5 |
マグネシウム(Mg²⁺) | 1.5 |
リン酸(PO₄³⁻) | 0.5 |
塩化物(Cl⁻) | 6.0 |
クエン酸、ギ酸 | 0.5 |
糖、有機酸、ペプチド、未確認物質 | 8.5 |
アミノ酸、有機酸、塩などの集合体として存在しています[6]。
これらのうちアミノ酸は、以下の図のように、
表皮顆粒層に存在しているケラトヒアリン(∗2)が角質細胞に変化していく過程でフィラグリンと呼ばれるタンパク質となり、このフィラグリンがブレオマイシン水解酵素(bleomycin hydrorase)によって完全分解されることで産生されることが報告されています[7][8]。
∗2 ケラトヒアリンの主要な構成成分は、分子量300-1,000kDaの巨大な不溶性タンパク質であるプロフィラグリンであり、プロフィラグリンは終末角化の際にフィラグリンに分解されます。
ピロリドンカルボン酸(PCA)は、フィラグリンより産生されたアミノ酸の一種であるグルタミン酸が、さらにプロリンオキシダーゼという酵素によって変換されてできるアミノ酸代謝物ですが、皮膚のpH(5.0-6.0)においてはほとんどがナトリウム塩の形で存在し、PCA-Naとして保湿剤の役割を果たしています[9]
PCAとPCA-Naの保湿性は、以下の表をみるとわかるように、
物質 | 吸湿量(%) | |
---|---|---|
31%湿度 | 58%湿度 | |
PCA | < 1 | < 1 |
PCA-Na | 20 | 61 |
グリセリン(比較) | 13 | 35 |
PCAそのものにはほとんど保湿力(吸湿性)がなく、塩の形をとることで優れた保水性を示すことが明らかにされています[10]。
これは、塩(ナトリウム塩:NaCl)が柔軟持続性を有しており[11a]、塩化処理した場合に保湿剤同様の効果が発揮されるためであると考えられます。
PCA-Naは優れた保水性を有していますが、特徴的なのは、以下の表のように、
分類 | 保湿成分 | 結合水量(g) |
---|---|---|
有機酸塩 | 乳酸Na | 2.5 |
アミノ酸 | プロリン | 2.4 |
アミノ酸代謝物 | PCA-Na | 2.1 |
多価アルコール | グリセリン | 1.9 |
糖アルコール | ソルビトール | 1.5 |
保湿剤の中でも多量の結合水(∗3)を保持する特性があり、温度や湿度の影響にほとんど関係なく水分を保持できることです[12]。
∗3 結合水とは、たんぱく質分子や親液コロイド粒子などの成分物質と強く結合している水分です。純粋な水であれば0℃で凍るところ、角層中の水が-40℃まで冷却しても凍らないのは、角層内に存在する水のうち約33%が結合水であることに由来しています[13]。
このような背景から、角質層の水分保持にPCA-Naが重要な役割を果たしていると考えられています。
1989年に慶応義塾大学理工学部と川研ファインケミカルの合同研究によって報告された吸湿性・保湿性試験によると、
– 吸湿性試験 –
ヒアルロン酸Na、PCA-Naおよび乳酸Naの吸湿性・保湿性を検討するために、相対湿度を43%または81%とした20℃の恒温室中に、それぞれの含水試料(乾燥した試料に乾燥重量の10%の水を添加したもの)0.5gを放置し、経時的に吸湿率(水分増加率)を測定したところ、以下のグラフのように、
PCA-Naは、どちらの湿度においても経時変化において顕著な吸湿性・保水性を示した。
PCA-Naおよび乳酸Naは低分子であり、高分子のヒアルロン酸Naに比べると即応性は高くないが、徐々に吸水が起こり、40時間後にはどちらもヒアルロン酸Na以上の吸湿性が認められた。
このような検証結果が明らかにされており[14]、また角層構成タンパク質にPCA-Naを添加することにより高い水分保持効果を発揮することから[15]、PCA-Naに水分量増加および柔軟持続性向上による保湿作用が認められています。
PCA-Na単独配合でも効果は得られるものの、他の保湿剤の機能との相乗効果を兼ねた組み合わせが重要とされており[11b]、天然保湿因子の構成成分であることから、一般的に他の天然保湿因子構成成分と一緒に配合されます。
1982年に報告された味の素の技術情報によると、PCA-Naとプロリンが相互作用を示し、優れた保湿作用を示すことが明らかとなっています[16]。
2.2. すすぎ時のきしみ感低減による毛髪保護作用
すすぎ時のきしみ感低減による毛髪保護作用に関しては、まず前提知識としてすすぎ時のきしみ感と毛髪の損傷の関係について解説します。
すすぎ時のきしみ感は、カルシウムイオンやマグネシウムイオンなどの二価金属イオンが原因であり、セッケンが洗浄主剤として用いられない理由としてはセッケンが水道水中の二価金属イオンと水不溶性の塩を形成しやすいことが挙げられます[17]。
また、きしみ感の発現メカニズムには界面活性剤のカルシウム塩やマグネシウム塩など水に不溶性の塩の生成が関与しており、コンディショニング性の低いシャンプーで洗髪した場合は、毛髪間の摩擦が大きくなり、使用感としてはもつれ感やきしみ感を感じることになり、この毛髪間の摩擦が大きくなると、結果的に毛髪損傷の増大につながります[18][19a]。
このような背景から、すすぎ時に毛髪に過剰な摩擦がかからないことが、毛髪を保護するために重要であると考えられています。
1995年に味の素によって報告されたPCA-Naの毛髪すすぎ時におけるきしみ感への影響検証によると、
– ヒト使用評価試験 –
シャンプーに保湿剤を添加した場合、すすぎ時のきしみ感に変化があるかどうかを検討した。
まず単純化するために、ヘアシャンプーの主剤としてアニオン界面活性剤であるラウレス硫酸Naに、保湿剤として汎用性の高いBG、グリセリン、PCA-Naをそれぞれ活性剤に対して1:1になるように過剰に添加した処方で官能評価をおこなったところ、以下のグラフのように、
PCA-Naを添加した場合は、きしみ感が低減したことがわかった。
一方で、BGまたはグリセリンを添加した場合は、きしみ感が増長する傾向を示した。
– 毛髪摩擦力測定試験 –
実施用濃度での効果を比較するため、ラウレス硫酸Naは1%濃度とし、各保湿剤の濃度を0.25%に設定してラウレス硫酸Naのみの動摩擦係数値を「1」として相対動摩擦係数比を算出したところ、以下のグラフのように、
今回使用した保湿剤の中で、PCA-Naが最も優れたきしみ感低減効果を示した。
一方でPCA-Naと同じ天然保湿因子であり、PCA-Naと同等の優れた吸湿性・保水性を有する乳酸Naは、きしみ感の改善効果を示さなかった。
また、一般には吸湿性・保水性が低いといわれているソルビトールは、PCA-Naほどではないものの、きしみ感を改善する効果を有することがわかった。
これらの結果からラウレス硫酸Na系では、保湿剤自体の吸湿性・保水性という物性ときしみ感改善効果の間には相関関係はないことが確認された。
毛髪のすすぎ時のきしみ感改善効果とは、すすぎ後に毛髪上に残存した保湿剤が保持する水と保湿剤自体がもつ潤滑剤的な特性に関与するものであると予想されるが、主剤の界面活性剤の種類によって変化する可能性があるため、他のいくつかの界面活性剤にPCA-Naを添加した場合のきしみ感改善効果を検討したところ、以下のグラフのように、
PCA-Naは、ラウレス硫酸Naと同じ高級アルコール系界面活性剤であるラウリル硫酸Naをはじめ、アミノ酸系界面活性剤であるココイルメチルアラニンNaやタウリン系界面活性剤であるラウロイルメチルタウリンNaに添加した場合でも同様にきしみ感の低減効果を示した。
最後に配合品(市販品)のシャンプー(主剤:ラウレス硫酸TEA,配合量不明)にPCA-Naを2.5%添加した場合のきしみ感を評価したところ、添加しない場合と比較してすすぎ時のきしみ感が改善されることが明らかとなった。
この結果から、PCA-Naは配合品に添加した場合でもすすぎ時のきしみ感を改善する効果を有することがわかった。
このような検証結果が明らかにされており[19b]、PCA-Naにすすぎ時のきしみ感低減による毛髪保護作用が認められています。
3. 混合原料としての配合目的
PCA-Naは混合原料が開発されており、PCA-Naと以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | PRODEW 300 |
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構成成分 | 乳酸Na、PCA-Na、ソルビトール、プロリン、メチルパラベン、プロピルパラベン |
特徴 | 皮膚のNMFをモデルベースとしPCA-Naとプロリンの相乗効果により優れた湿潤保湿能を有する保湿剤 |
原料名 | PRODEW 400 |
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構成成分 | ベタイン、PCA-Na、ソルビトール、セリン、グリシン、グルタミン酸、アラニン、リシン、アルギニン、トレオニン、プロリン、メチルパラベン、プロピルパラベン、水 |
特徴 | 皮膚のNMFをモデル化した保湿剤 |
原料名 | PRODEW 500 |
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構成成分 | PCA-Na、乳酸Na、アルギニン、アスパラギン酸、PCA、グリシン、アラニン、セリン、バリン、プロリン、トレオニン、イソロイシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、水 |
特徴 | 毛髪のNMFをモデル化した保湿剤 |
原料名 | LACTIL |
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構成成分 | 水、乳酸Na、PCA-Na、グリシン、フルクトース、尿素、ナイアシンアミド、イノシトール、安息香酸Na、乳酸 |
特徴 | 皮膚のNMFをモデル化した保湿剤 |
原料名 | AquaSpeed |
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構成成分 | スイカ果実エキス、リンゴ果実エキス、ヒラマメ果実エキス、PCA-Na、乳酸Na、グリセリン、水 |
特徴 | 角層水分量の増加および保湿持続性に優れることから乾燥による小ジワに対しての改善効果にアプローチする3種の植物抽出液および2種の天然保湿因子(NMF)の混合液 |
原料名 | AMC Advancesd Moisture Complex NP |
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構成成分 | グリセリン、水、PCA-Na、尿素、トレハロース、ヘキシレングリコール、ポリクオタニウム-51、トリアセチン、カプリリルグリコール、ヒアルロン酸Na |
特徴 | 水分結合特性を有する集中保湿の複合体 |
4. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の1995-1996年および2014年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗4)。
∗4 表の中の製品タイプのリーブオン製品というのは付けっ放し製品という意味で、主にスキンケア製品やメイクアップ製品などを指し、リンスオフ製品というのは洗浄系製品を指します。
5. 安全性評価
- 薬添規2018規格の基準を満たした成分が収載される医薬品添加物規格2018に収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 1980年代からの使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 皮膚刺激性(皮膚炎を有する場合):ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
- 光毒性(光刺激性):ほとんどなし
- 光感作性:ほとんどなし
- アクネ菌増殖性:ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
5.1. 皮膚刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ[20a]によると、
– 健常皮膚を有する場合 –
- [ヒト試験] 13名のボランティアの額、頬、首および背中に6.25,12.5,25および50%PCA-Na水溶液を解放パッチ適用し、試験部位を5分間隔で40分間観察したところ、被検者の3名は12.5%以上の濃度で背中に紅斑を生じ、2名の被検者は6.25%に反応したが、これらは最初の5分以内に観察され、30分までには消失しており、額、頬、の皮膚には刺激が認められなかった(Larmi et al,1989)
- [ヒト試験] 46名のボランティアの左上腕に30%PCA-Naを1日1回14日間にわたって適用し、6日目と14日目に採点したところ、試験期間中に刺激の兆候は観察されなかった(Ajinomoto Co Inc,1972)
- [ヒト試験] 46名の男性ボランティアの背中の左側に4,8,16および32%PCA-Na水溶液を閉塞パッチ下で適用し、一方で陰性対照部位に蒸留水、5%ポリエチレングリコールおよび5%グリセリンで処理した。パッチ除去3時間後に採点したところ、平均刺激スコアは陰性対照部位と有意に異ならなかった。被検者の1名はすべての濃度で紅斑を有し、別の被検者は4および8%の濃度で紅斑を示したが、16および32%では部分的な紅斑のみであった(Ajinomoto Co Inc,1972)
- [ヒト試験] 18名のボランティアに2%PCA-Naを含む製剤を用いて4日間の累積刺激試験を実施したところ、陰性だった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1990)
- [動物試験] 10匹のモルモットの剃毛した胴に2,4,8,16,32および50%PCA-Na水溶液を1日1回14日間適用し、適用期間の14日間とさらに適用後14日間観察したところ、いずれの濃度においても刺激は観察されなかった(Ajinomoto Co Inc,1994)
- [動物試験] 30匹のモルモットの擦り剥いた皮膚に5%PCA-Naを1日1回3日間適用したところ、非刺激性であった(Ajinomoto Co Inc,1994)
– 皮膚炎を有する場合 –
- [ヒト試験] 湿疹性皮膚炎患者47名の背中に0.2%PCA-Naを閉塞パッチ下で48時間適用し、パッチ除去24および48時間後に採点したところ、有意な刺激の証拠は認められなかった(Ajinomoto Co Inc,1972)
このように記載されており、試験データをみるかぎり実使用されている配合濃度範囲において共通して皮膚刺激なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。
5.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ[20b]によると、
- [動物試験] 6匹のウサギの右結膜嚢に50%PCA-Na水溶液0.1mLを点眼し、3匹のウサギは点眼2~4秒後にすすぎ、残りの3匹はすすがずそのままにし、24,48,72,96および168時間後にそれぞれの眼を採点したところ、処置群および対照群のいずれのウサギにおいても非常に軽度の炎症が観察されたが、これらの兆候は72または96時間の観察では沈静化していたため、非刺激性と分類された(Ajinomoto Co Inc,1994)
- [動物試験] 軽度の結膜炎が点眼1時間後に観察されたが24時間後には消失した(UCIB,1990)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。
5.3. 皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ[20c]によると、
- [ヒト試験] 25名のボランティアに2%PCA-Naを含む製剤0.1gを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、試験期間を通じて皮膚刺激は観察されず、皮膚感作の証拠も示さなかった(Ivy Laboratories,1991)
- [ヒト試験] 39名の被検者の背中の3箇所に4,8,16および32%PCA-Naを閉塞パッチ下で適用し、1つは24時間後に採点し、残りの2つは48時間後に採点したところ、皮膚感作の有意な証拠は観察されなかった(Ajinomoto Co Inc,1972)
- [動物試験] 2,4,8,16,32および50%PCA-Na水溶液を14日間連続で適用した2週間後に10匹のモルモットの右乳房領域に5%PCA-Na水溶液を適用し、48および72時間後に採点したところ、感作の兆候は観察されなかった(Ajinomoto Co Inc,1994)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚感作性なしと報告されているため、一般に皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
5.4. 光毒性(光刺激性)および光感作性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ[20d]によると、
- [ヒト試験] 感作試験の24時間チャレンジパッチの24時間後にUVライトを50秒間照射し、一方で48時間チャレンジパッチを終えた被検者にも同様にUVライトを照射し、照射24時間後に採点したところ、両方においてUV照射後の刺激の増加は観察されず、むしろ刺激は消散していたため、この試験物質は光刺激および光感作を示さないと結論づけられた(Ajinomoto Co Inc,1991)
- [動物試験] 10匹のモルモットの剃毛した背中に1%PCA-Na水溶液を1,4,および7日目に適用し、それぞれのモルモットにUVライトを1日から10日目まで照射し、適用部位を4日目および10日目に採点したところ、光刺激の兆候は認められなかった(Ajinomoto Co Inc,1994)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して光刺激および光感作なしと報告されているため、一般に光毒性(光刺激性)および光感作性はほとんどないと考えられます。
5.5. アクネ菌の増殖性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ[20e]によると、
- [動物試験] 6匹のウサギの右耳に50%PCA-Na溶液を週に5日2週間にわたって適用し、左耳は対照として放置したところ、毛嚢脂腺の数に有意差は認められなかった(UCIB,1987)
このように記載されており、試験データをみるかぎりニキビの原因となる毛嚢脂腺の数に影響なしと報告されているため、一般にアクネ菌増殖性はほとんどないと考えられます。
6. 参考文献
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