PGの基本情報・配合目的・安全性

PG

化粧品表示名 PG
医薬部外品表示名 プロピレングリコール
部外品表示簡略名 PG
INCI名 Propylene Glycol
配合目的 保湿保水防腐補助溶剤 など

1. 基本情報

1.1. 定義

以下の化学式で表される二価アルコール(多価アルコール)(∗1)です[1a][2a]

∗1 2個以上のヒドロキシ基(-OH)が結合したアルコールを多価アルコールといい(n個結合したものはn価アルコールともよばれる)、PGは2個のヒドロキシ基(-OH)が結合した二価アルコールです。

PG

1.2. 物性

PGの物性は、

融点(℃) 沸点(℃) 比重(d 20/20) 屈折率(n 20/D)
-59.6 188.2 1.0381 1.4326

このように報告されています[2b]

1.3. 化粧品以外の主な用途

PGの化粧品以外の主な用途としては、

分野 用途
食品 溶剤目的の製造用剤として着色料、香料、保存料、ビタミン類などに用いられています[3]
医薬品 安定・安定化、可塑、可溶・可溶化、基剤、結合、懸濁、コーティング、湿潤・湿潤調整、等張化、軟化、乳化、粘着・粘着増強、粘稠、賦形、分散、保存、無痛化、溶解・溶解補助目的の医薬品添加剤として経口剤、各種注射、外用剤、眼科用剤、耳鼻科用剤、口中用剤などに用いられています[4]

これらの用途が報告されています。

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • 角層水分量増加による保湿作用
  • 保水
  • 防腐補助
  • 溶剤

主にこれらの目的で、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ製品、化粧下地製品、スキンケア製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、アウトバストリートメント製品、ボディソープ製品、ボディ石鹸、洗顔料、洗顔石鹸、クレンジング製品、シート&マスク製品、日焼け止め製品、頭皮ケア製品、ヘアスタイリング製品、香水、ネイル製品、入浴剤など様々な製品に汎用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. 角層水分量増加による保湿作用

角層水分量増加による保湿作用に関しては、まず前提知識として皮膚最外層である角質層の構造と役割および天然保湿因子と水の関係について解説します。

直接外界に接する皮膚最外層である角質層は、以下の図のように、

角質層の構造

水分を保持する働きもつ天然保湿因子を含む角質と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造になっており、この構造が保持されることによって外界からの物理的あるいは化学的影響から身体を守り、かつ体内の水分が体外へ過剰に蒸散していくのを防ぐとともに一定の水分を保持する役割を担っています[5][6]

角質層において水分を保持する働きをもつ天然保湿因子(NMF:natural Moisturizing Factor)は低分子の水溶性物質であり、以下の表のように、

成分 含量(%)
アミノ酸 40.0
ピロリドンカルボン酸(PCA) 12.0
乳酸 12.0
尿素 7.0
アンモニア、尿酸、グルコサミン、クレアチン 1.5
ナトリウム(Na⁺) 5.0
カリウム(K⁺) 4.0
カルシウム(Ca²⁺) 1.5
マグネシウム(Mg²⁺) 1.5
リン酸(PO₄³⁻) 0.5
塩化物(Cl⁻) 6.0
クエン酸、ギ酸 0.5
糖、有機酸、ペプチド、未確認物質 8.5

アミノ酸、有機酸、塩などの集合体として存在しています[7a]

また、角質層内の主な水分は、天然保湿因子(NMF)の分子に結合している結合水と水(液体)の形態をした自由水の2種類の状態で存在しており、以下の表のように、

角質層内の水の種類 定義
結合水 一次結合水 角質層の構成分子と強固に結合し、硬く乾燥しきった角質層の中にも存在する水です。
二次結合水 角質層の構成分子と非常に速やかに結合するものの、乾燥した状態でゆっくりと解離するような比較的弱い結合をしている水の分子のことをいい、温度や湿度など外部環境によって比較的容易に結合と解離を繰り返す可逆的な水です。
自由水 二次結合水の容量を超えて角質層が水を含んだ場合に液体の形で角質層内に存在する水であり、この量が一定量を超えると過水和となり、浸軟した(ふやけた)状態が観察されます。

それぞれこのような特徴を有しています[7b][8a]

角質層の柔軟性は、水分量10-20%の間で自然な柔軟性を示す一方で、水分量が10%以下になると角層のひび割れ、肌荒れが生じると考えられており、種々の原因により角質層の保湿機能が低下することによって水分量が低下すると、皮膚表面が乾燥して亀裂、落屑、鱗屑などを生じるようになることから、角層に含まれる水分量が皮膚表面の性状を決定する大きな要因として知られています[8b]

このような背景から、角層の水分量が低下している場合に角層水分量を増加することは、皮膚の乾燥、ひび割れ、肌荒れの予防や改善において重要なアプローチのひとつであると考えられています。

PGは、化学構造に2個のヒドロキシ基をもつ二価アルコール(多価アルコール)であり、吸湿性を示し、やや粘稠な質感を付与するとともに角層に浸透しケラチンと水分子との間で仲介役を果たすことで保湿性を発揮することから、保湿剤として広く汎用されています[1b][9][10a][11a]

1969年に資生堂研究所によって報告されたPGの吸湿性検証によると、

– 吸湿性試験 –

各湿度における多価アルコールの吸湿性を比較検討したところ、以下のグラフのように、

保湿剤の各相対湿度における吸湿性への影響

50%相対湿度21-27℃における多価アルコールの吸湿性

多価アルコールは、低湿度下において吸湿性は低く、高湿度下において高い吸湿性を発揮する傾向が示された。

PGは、相対湿度50%においてグリセリンほど高い吸湿性は示さなかったものの、相対的に高い吸湿性が示された。

このような検証結果が明らかにされており[12a]、PGに50%以上の湿度下においてある程度の吸湿性が認められています。

次に、2009年に岩瀬コスファおよびデュポンによって報告されたPGの角層水分量への影響検証によると、

– ヒト使用試験 –

ヒト前腕内側部に10%多価アルコール水溶液と比較対照として精製水のみをそれぞれ5μL/c㎡塗布し、塗布前および塗布5分から60分後の角層コンダクタンス(∗2)を測定し、塗布前のコンダクタンスを1として塗布後経時的に得られたコンダクタンスの変化割合をもとめたところ、以下のグラフのように、

∗2 コンダクタンスとは、皮膚に電気を流した場合の抵抗(電気伝導度:電気の流れやすさ)を表し、角層水分量が多いと電気が流れやすくなり、コンダクタンス値が高値になることから、角層水分量を調べる方法として角層コンダクタンスを経時的に測定する方法が定着しています。

多価アルコールの角層水分量への影響

10%PG水溶液の塗布は、塗布直後においては角層水分増加量を向上させ、その後はBGやプロパンジオールと同様に経時的に水分量は緩やかに低くなる傾向を示した。

このような検証結果が明らかにされており[13a]、PGに角層水分量増加による保湿作用が認められています。

PGは増加した角層水分の保持力がほとんどありませんが、グリセリンを併用することで角層水分量の持続効果を発揮することが明らかにされています[13b]

2.2. 製品自体の保水

製品自体の保水に関しては、PGは高い吸湿性・保水性を有していることから、製品自体の水分を保留し、乳化系や可溶化系の安定性を保持する目的で様々な製品に配合されています[1b][12b]

2.3. 防腐補助

防腐補助に関しては、PGは濃度10%以上でグラム陰性菌(大腸菌、緑膿菌)に対して特異的に抗菌活性を示すことが知られており[14]防腐剤の配合量を低減する目的を兼ねた保湿剤として使用されています。

1999年に大阪府立大学農学部生物物理化学研究室、感光社およびマンダムの共同研究として報告された多価アルコール類の大腸菌に対する抗菌性検証によると、

– in vitro : 抗菌活性試験 –

抗菌性原料の強さを表すMIC(minimum inhibitory concentration:最小発育阻止濃度)を基準とし、化粧品に汎用される6種類の多価アルコールの大腸菌(Escherichia coli)に対する抗菌性を検討したところ、以下の表のように、

多価アルコール 大腸菌に対するMIC(%)
PG 11.19 ± 0.45
BG 10.95 ± 0.53
グリセリン 25.74 ± 1.38
ペンチレングリコール 2.50 ± 0.17
DPG 9.78 ± 0.45

PGは濃度10%以上で大腸菌に対する生育阻止作用を示した。

このような検証結果が明らかにされており[15]、PGにグラム陰性菌に対する抗菌作用が認められています。

2.4. 溶剤

溶剤に関しては、PGはエタノール香料など極性物質の溶解性が高いことから溶解補助剤として広く用いられています[10b][11b]

3. 配合製品数および配合量範囲

配合製品数および配合量に関しては、海外の2009年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。

PG(プロピレングリコール)の配合製品数と配合量の調査結果(2009年)

4. 安全性評価

PGの現時点での安全性は、

  • 食品添加物の指定添加物リストに収載
  • 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 50年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:濃度68.06%以下においてほとんどなし
  • 眼刺激性:ほとんどなし
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
  • 皮膚感作性(皮膚炎を有する場合):濃度5%以下においてほとんどなし、濃度30%においてまれに皮膚感作を引き起こす可能性あり
  • 光感作性:ほとんどなし

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

ただし、皮膚炎を有する場合においては濃度が高くなるとまれに皮膚感作を引き起こす可能性があるため、注意が必要であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[16a]によると、

– 健常皮膚を有する場合 –

  • [ヒト試験] 20名患者に69.15%PGを含むデオドラント製剤の単回24時間皮膚一次刺激性試験を実施し、PII(Primary Irritation Index:皮膚一次刺激性指数)を0.0-8.0のスケールで評価したところ、PIIは0.25であり、ほとんど非刺激性であると結論付けられた(M. Menning,1997)
  • [ヒト試験] 20名患者に68.06%PGを含むデオドラント製剤の単回皮膚一次刺激性試験を実施し、PII(Primary Irritation Index:皮膚一次刺激性指数)を0.0-8.0のスケールで評価したところ、PIIは0.13であり、ほとんど非刺激性であると結論付けられた(M. Menning,1998)
  • [ヒト試験] 12名患者に68.06%PGを含むデオドラント製剤の単回閉塞パッチ試験を3または24時間で実施し、PII(Primary Irritation Index:皮膚一次刺激性指数)を0.0-8.0のスケールで評価したところ、PIIは3時間で1.1、24時間で1.2であり、わずかな紅斑が認められた(H. Tanojo,1999)
  • [ヒト試験] 26名の男性患者に35%PGを含むデオドラント製剤の30日間連用試験を実施したところ、皮膚刺激および皮膚感作を誘発する可能性はないと結論付けられた(Clinical Research Laboratories,-)
  • [ヒト試験] 40名の女性患者に65.2%PGを含むデオドラント製剤の30日間連用試験を実施したところ、皮膚刺激および皮膚感作を誘発する可能性はないと結論付けられた(Clinical Research Laboratories,2006)
  • [ヒト試験] 26名の男性患者に65.8%PGを含むデオドラント製剤の4週間連用試験を実施したところ、皮膚刺激および皮膚感作を誘発する可能性はないと結論付けられた(Clinical Research Laboratories,2006)

– 皮膚炎を有する場合 –

  • [ヒト試験] 2000年-2004年の間に、接触性皮膚炎を有する308名の患者にヨーロッパ標準シリーズにおいてPGを含むいくつかの化学物質のパッチテストを実施したところ、5%PGを含むワセリンはいずれの患者にも陽性反応を引き起こさなかった(A. Boyvat,2005)
  • [ヒト試験] 1996年-2006年の間に接触性皮膚炎を有する23,359名の患者にNACDG(North American Contact Dermatitis Group:北米接触皮膚炎共同研究班)パッチテストを実施したところ、30%PG水溶液は810名(3.5%)の患者で陽性反応を示した。ただし、PGのみに陽性反応を示したのは135名(0.6%)であり、残りの患者は他の感作物質(香料ミックスなど)の付随反応と考えられた(E.M. Warshaw et al,2009)

このように記載されており、試験データをみるかぎり健常な皮膚を有する場合かつ濃度68.06%以下において共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

皮膚炎を有する場合においては、濃度5%において皮膚感作なし、濃度30%において陽性反応が報告されているため、濃度30%において皮膚感作を引き起こす可能性があると考えられます。

4.2. 眼刺激性

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[16b]によると、

  • [動物試験] 6匹のウサギの片眼の結膜嚢にPGを1滴単回または3日連続注入し、眼はすすがず、最終注入の1,2,3および7日後に眼刺激性を評価したところ、単回注入において1日目にわずかな結膜充血が認められたが2日目までに解消し、3日連続注入においては眼刺激スコアを0-550のスケールで評価したところ19であり、眼刺激スコアの閾値である65を大幅に下回った。点眼数を複数に増やしても眼刺激スコアは38であり、やはり眼刺激の閾値を下回った(A. Shirwaikar,1995)

このように記載されており、ほぼ眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。

4.3. 光感作性

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[16c]によると、

– 光接触性皮膚炎を有する場合 –

  • [ヒト試験] 2年間以上にわたって光接触皮膚炎を有する82名の被検者にPGを含む日焼け止め製剤を対象に光感作性試験を実施した。被検者の背中に製剤を塗布してから24時間後に試験部位にUVA(5J/c㎡)を照射し、24および72時間後に光感作性を評価したところ、この製剤は光感作または接触アレルギー反応を誘発しなかった(E. Rodriguez,2006)

このように記載されており、試験データをみるかぎり光感作なしと報告されているため、一般に光感作性はほとんどないと考えられます。

5. 参考文献

  1. ab日本化粧品工業連合会(2013)「PG」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,69-70.
  2. abc有機合成化学協会(1985)「プロピレングリコール」有機化合物辞典,882.
  3. 樋口 彰, 他(2019)「プロピレングリコール」食品添加物事典 新訂第二版,313-314.
  4. 日本医薬品添加剤協会(2021)「プロピレングリコール」医薬品添加物事典2021,531-532.
  5. 朝田 康夫(2002)「保湿能力と水分喪失の関係は」美容皮膚科学事典,103-104.
  6. 田村 健夫・廣田 博(2001)「表皮」香粧品科学 理論と実際 第4版,30-33.
  7. ab武村 俊之(1992)「保湿製剤の効用:角層の保湿機構」ファルマシア(28)(1),61-65. DOI:10.14894/faruawpsj.28.1_61.
  8. ab日光ケミカルズ株式会社(2006)「水」新化粧品原料ハンドブックⅠ,487-502.
  9. 平尾 哲二(2017)「保湿 温故知新」日本香粧品学会誌(41)(4),277-281. DOI:10.11469/koshohin.41.277.
  10. ab日光ケミカルズ株式会社(1977)「多価アルコール類」ハンドブック – 化粧品・製剤原料 – 改訂版,76-94.
  11. ab日光ケミカルズ株式会社(2016)「多価アルコール」パーソナルケアハンドブックⅠ,95-101.
  12. ab尾沢 達也(1969)「保湿剤(Humectant)」ファルマシア(5)(10),685-690. DOI:10.14894/faruawpsj.5.10_685.
  13. ab馬奈木 裕美・賀来 群雄(2009)「植物由来プロパンジオールの特性と化粧品への応用」Fragrance Journal(37)(5),61-64.
  14. 浅賀 良雄(2019)「化粧品の防腐技術」Q&A181 化粧品の微生物試験ガイドブック – 防腐設計,製造工程管理から出荷検査,クレーム対策まで – ,1-27.
  15. A. Aono, et al(1999)「Calorimetric Study of the Antimicrobial Action of Various Polyols Used for Cosmetics and Toiletries」熱測定(26)(1),2-8. DOI:10.11311/jscta1974.26.2.
  16. abcM.M. Fiume, et al(2012)「Safety Assessment of Propylene Glycol, Tripropylene Glycol, and PPGs as Used in Cosmetics」International Journal of Toxicology(31)(5_suppl),245S-260S. DOI:10.1177/1091581812461381.

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