加水分解ヒアルロン酸の基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | 加水分解ヒアルロン酸 |
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医薬部外品表示名 | 加水分解ヒアルロン酸 |
INCI名 | Hydrolyzed Hyaluronic Acid |
配合目的 | 保湿 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
ヒアルロン酸を酸、酵素またはその他の方法で加水分解して得られるものであり、以下の化学式で表されるグルクロン酸(glucuronic acid:下図右)とN-アセチル-D-グルコサミン(N-Acetyl-D-glucosamine:下図左)が直鎖状に結合した構造の繰り返し単位で構成されたヒアルロン酸加水分解物です[1][2][3]。
1.2. 物性
加水分解ヒアルロン酸は、平均分子量1万以下(∗1)であり、ヒアルロン酸と比較して分子量が低いことから水溶液は水に近い粘性(低粘性)を示し、水への溶解性がさらに高いといった特徴があります[4]。
∗1 分子量分布は数百-数万です。
2. 化粧品としての配合目的
- 角層水分量増加による保湿作用
主にこれらの目的で、スキンケア製品、メイクアップ製品、化粧下地製品、シート&マスク製品、洗顔料、シャンプー製品、コンディショナー製品、トリートメント製品、アウトバストリートメント製品、ボディ&ハンドケア製品、クレンジング製品など様々な製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 角層水分量増加による保湿作用
角層水分量増加による保湿作用に関しては、まず前提知識として皮膚最外層である角質層の構造と役割および天然保湿因子と水の関係について解説します。
直接外界に接する皮膚最外層である角質層は、以下の図のように、
水分を保持する働きもつ天然保湿因子を含む角質と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造になっており、この構造が保持されることによって外界からの物理的あるいは化学的影響から身体を守り、かつ体内の水分が体外へ過剰に蒸散していくのを防ぐとともに一定の水分を保持する役割を担っています[5][6]。
角質層において水分を保持する働きをもつ天然保湿因子(NMF:natural Moisturizing Factor)は低分子の水溶性物質であり、以下の表のように、
成分 | 含量(%) |
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アミノ酸 | 40.0 |
ピロリドンカルボン酸(PCA) | 12.0 |
乳酸 | 12.0 |
尿素 | 7.0 |
アンモニア、尿酸、グルコサミン、クレアチン | 1.5 |
ナトリウム(Na⁺) | 5.0 |
カリウム(K⁺) | 4.0 |
カルシウム(Ca²⁺) | 1.5 |
マグネシウム(Mg²⁺) | 1.5 |
リン酸(PO₄³⁻) | 0.5 |
塩化物(Cl⁻) | 6.0 |
クエン酸、ギ酸 | 0.5 |
糖、有機酸、ペプチド、未確認物質 | 8.5 |
アミノ酸、有機酸、塩などの集合体として存在しています[7a]。
また、角質層内の主な水分は、天然保湿因子(NMF)の分子に結合している結合水と水(液体)の形態をした自由水の2種類の状態で存在しており、以下の表のように、
角質層内の水の種類 | 定義 | |
---|---|---|
結合水 | 一次結合水 | 角質層の構成分子と強固に結合し、硬く乾燥しきった角質層の中にも存在する水です。 |
二次結合水 | 角質層の構成分子と非常に速やかに結合するものの、乾燥した状態でゆっくりと解離するような比較的弱い結合をしている水の分子のことをいい、温度や湿度など外部環境によって比較的容易に結合と解離を繰り返す可逆的な水です。 | |
自由水 | 二次結合水の容量を超えて角質層が水を含んだ場合に液体の形で角質層内に存在する水であり、この量が一定量を超えると過水和となり、浸軟した(ふやけた)状態が観察されます。 |
角質層の柔軟性は、水分量10-20%の間で自然な柔軟性を示す一方で、水分量が10%以下になると角層のひび割れ、肌荒れが生じると考えられており、種々の原因により角質層の保湿機能が低下することによって水分量が低下すると、皮膚表面が乾燥して亀裂、落屑、鱗屑などを生じるようになることから、角層に含まれる水分量が皮膚表面の性状を決定する大きな要因として知られています[8b]。
このような背景から、角層の水分量が低下している場合に角層水分量を増加することは、皮膚の乾燥、ひび割れ、肌荒れの予防や改善において重要なアプローチのひとつであると考えられています。
2007年にキューピーによって報告された加水分解ヒアルロン酸の角層水分量への影響検証によると、
– ヒト使用試験 –
15名の被検者(25-50歳)の前腕部に1%加水分解ヒアルロン酸(平均分子量6,000)水溶液、1%ヒアルロン酸Na(分子量140万)水溶液、蒸留水をそれぞれ1mL染み込ませたガーゼを48時間貼付し、ガーゼ除去直後、1および4日後に試験部位の皮膚水分量を測定した。
水分量の測定は、貼付直前、貼付終了直後、貼付終了1日および4日経過時に行い、被検者5名の平均数値を算出したところ、以下の表のように、
試料 | 角層水分量(μS) | |||
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貼付前 | 貼付終了 直後 |
貼付終了 1日経過 |
貼付終了 4日経過 |
|
加水分解ヒアルロン酸 | 7 | 54 | 38 | 15 |
ヒアルロン酸Na | 10 | 6 | 11 | 10 |
蒸留水 | 5 | 8 | 4 | 6 |
1%加水分解ヒアルロン酸水溶液は、1%ヒアルロン酸水溶液または蒸留水を貼付した場合と比較して、皮膚の水分量を多くかつ持続的に保持できることが確認された。
とくに、ガーゼを剥がした後においても皮膚の水分量を持続的に保持できることがわかった。
このような検証結果が明らかにされており[9]、加水分解ヒアルロン酸に角層水分量増加による保湿作用が認められています。
3. 混合原料としての配合目的
加水分解ヒアルロン酸は混合原料が開発されており、加水分解ヒアルロン酸と以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | HyaInno 1% Solution |
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構成成分 | 水、ヒアルロン酸Na、加水分解ヒアルロン酸Na、ヒアルロン酸、加水分解ヒアルロン酸、ヒアルロン酸クロスポリマーNa |
特徴 | 高分子から低分子まで5種類のヒアルロン酸を独自の割合で配合した複合保湿剤 |
4. 安全性評価
- 15年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:濃度30%以下においてほとんどなし
- 眼刺激性:濃度10%以下においてほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
キューピーの安全性データ[10a]によると、
- [動物試験] 剪毛したウサギの皮膚に加水分解ヒアルロン酸(平均分子量1万以下)粉末を直接塗布し、塗布後に皮膚刺激性を評価したところ、この試験物質は軽度の皮膚刺激剤であった
- [動物試験] 剪毛したウサギの皮膚に30%加水分解ヒアルロン酸(平均分子量1万以下)水溶液を連用し、連用後に皮膚累積刺激性を評価したところ、この試験物質はこの試験条件下において刺激剤ではなかった
- [ヒト試験] 被検者に1%加水分解ヒアルロン酸(平均分子量1万以下)水溶液を対象にパッチテストを実施したところ、いずれの被検者においても皮膚反応はみられなかった
このように記載されており、試験データをみるかぎり濃度30%以下において共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
4.2. 眼刺激性
キューピーの安全性データ[10b]によると、
- [動物試験] ウサギの眼に10%加水分解ヒアルロン酸(平均分子量1万以下)水溶液を点眼し、点眼後に眼刺激性を評価したところ、この試験物質は非刺激剤であった
このように記載されており、試験データをみるかぎり濃度10%以下において眼刺激なしと報告されているため、一般に濃度10%以下において眼刺激性はほとんどないと考えられます。
5. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「加水分解ヒアルロン酸」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,304.
- ⌃大木 道則, 他(1989)「ヒアルロン酸」化学大辞典,1833.
- ⌃有機合成化学協会(1985)「ヒアルロン酸」有機化合物辞典,710.
- ⌃大門 奈央(2020)「低分子ヒアルロン酸の機能」機能性化粧品と薬剤デリバリー,216-221.
- ⌃朝田 康夫(2002)「保湿能力と水分喪失の関係は」美容皮膚科学事典,103-104.
- ⌃田村 健夫・廣田 博(2001)「表皮」香粧品科学 理論と実際 第4版,30-33.
- ⌃ab武村 俊之(1992)「保湿製剤の効用:角層の保湿機構」ファルマシア(28)(1),61-65. DOI:10.14894/faruawpsj.28.1_61.
- ⌃ab日光ケミカルズ株式会社(2006)「水」新化粧品原料ハンドブックⅠ,487-502.
- ⌃キューピー株式会社(2007)「新規な低分子ヒアルロン酸および/またはその塩、ならびにこれを用いた化粧料、医薬組成物および食品組成物」再表2007-099830.
- ⌃abキューピー株式会社(2016)「化粧品用機能性ヒアルロン酸」技術資料.