水溶性エラスチンの基本情報・配合目的・安全性

化粧品表示名称 水溶性エラスチン
化粧品国際的表示名称(INCI名) Soluble Elastin
配合目的 保湿 など

1. 基本情報

1.1. 定義

イノシシ科動物ブタ(学名:Sus scrofa domesticus)または魚類などの結合組織から得られる(∗1)不溶性エラスチン(弾性繊維)を可溶化した繊維状タンパク質です[1][2]

∗1 2001年に国内でもBSE(狂牛病)が問題視される中でウシ由来エラスチンの使用が控えられ、代替として主にブタや魚類などのエラスチンが使用されています。これらの代替生物は、熱変性温度(安定性)には多少の差異はありますが、効果に有意な違いはなく、全体的な理解として由来の差異は無視して解説します。

1.2. 構造

エラスチン繊維状タンパク質ですが、タンパク質を構成するアミノ酸組成としてはグリシンが全体の約30%を、グリシン、アラニンバリンプロリンで構成アミノ酸の80%以上を占めており、さらにエラスチン特有の架橋アミノ酸としてデスモシン(desmosine)やイソデスモシン(isodesmosine)を含むことを特徴としています[3a]

エラスチンを可溶化した水溶性エラスチンのアミノ酸組成としては、一例として以下の表のように、

アミノ酸 含量(mol相対比%)
ブタ由来 マグロ由来
アスパラギン酸 + アスパラギン 1.7 4.9
トレオニン 0.4 3.5
セリン 0.5 3.6
グルタミン酸 + グルタミン 4.2 7.3
グリシン 21.7 22.7
アラニン 19.7 10.8
バリン 10.3 7.7
メチオニン 0.2 0.4
イソロイシン 2.4 3.1
ロイシン 8.1 5.4
チロシン 2.0 3.1
フェニルアラニン 4.6 3.5
リシン 1.5 2.6
ヒスチジン 0.2 1.0
アルギニン 0.4 3.6
ヒドロキシプロリン 1.9 1.6
プロリン 19.4 15.2
デスモシン 0.33 0.02
イソデスモシン 0.35 0.06

ブタ由来とマグロ由来ではアミノ酸組成に大きな違いがみられ、とくにマグロ由来においてグリシン、アラニン、バリン、プロリンをはじめとする疎水性アミノ酸やエラスチン特有の架橋アミノ酸であるデスモシンとイソデスモシンの含量が低いことが報告されています[3b]

1.3. 分布

エラスチンは、自然界において主に哺乳動物や魚類の伸縮性や弾力性が求められる組織に存在しており、ヒト生体内では血管、靭帯、肺、皮膚をはじめ、心臓、消化管、眼球、生殖器、泌尿器耳鼻咽喉、乳腺、胸腺、リンパなどほぼ全身の臓器・組織に存在しています[4][5]

1.4. 皮膚におけるエラスチンの役割

以下の皮膚構造図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、皮膚上層部は、

皮膚の構造と皮膚の主要成分

直接外界に接する皮膚最外層である角質層を含む表皮と、表皮を支える真皮から構成されていることが知られています。

表皮を下から支える真皮を構成する成分としては、細胞成分と線維性組織を形成する間質成分(細胞外マトリックス成分)に二分され、以下の表のように、

分類 構成成分
間質成分 膠原線維 コラーゲン
弾性繊維 エラスチン
基質 糖タンパク質、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン
細胞成分 線維芽細胞

主成分である間質成分は、大部分がコラーゲンからなる膠原線維とエラスチンからなる弾性繊維、およびこれらの間を埋める基質で占められており、細胞成分としてはこれらを産生する線維芽細胞がその間に散在しています[6a][7a]

細胞間を満たす無定形成分である基質は、親水性が強く水分量の調整、水溶性物質の組織への浸透・拡散に重要な役割を果たすとともにコラーゲンやエラスチンと結合して繊維を安定化させることにより皮膚の柔軟性を保持しています[6b][7b]

エラスチンは、コラーゲンに比べると存在量が少なく、強靭でもありませんが、弾力性に優れ、伸展性があり、網目状に走っているコラーゲン繊維に規則的に巻き付くような状態でコラーゲン繊維同士をバネのように支え、皮膚の弾力を保つ役割を担っています[8][9]

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • 皮表水分保持による保湿作用

主にこれらの目的で、スキンケア化粧品、ボディケア製品、マスク製品などに使用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. 皮表水分保持による保湿作用

皮表水分保持による保湿作用に関しては、まず前提知識として皮膚最外層である角質層の構造と役割について解説します。

直接外界に接する皮膚最外層である角質層は、以下の図のように、

角質層の構造

水分を保持する働きもつ天然保湿因子を含む角質と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造になっており、この構造が保持されることによって外界からの物理的あるいは化学的影響から身体を守り、かつ体内の水分が体外へ過剰に蒸散していくのを防ぐとともに一定の水分を保持する役割を担っています[10][11]

また、角質層内の主な水分は、天然保湿因子(NMF)の分子に結合している結合水と水(液体)の形態をした自由水の2種類の状態で存在しており、以下の表のように、

角質層内の水の種類 定義
結合水 一次結合水 角質層の構成分子と強固に結合し、硬く乾燥しきった角質層の中にも存在する水です。
二次結合水 角質層の構成分子と非常に速やかに結合するものの、乾燥した状態でゆっくりと解離するような比較的弱い結合をしている水の分子のことをいい、温度や湿度など外部環境によって比較的容易に結合と解離を繰り返す可逆的な水です。
自由水 二次結合水の容量を超えて角質層が水を含んだ場合に液体の形で角質層内に存在する水であり、この量が一定量を超えると過水和となり、浸軟した(ふやけた)状態が観察されます。

それぞれこのような特徴を有しています[12a][13]

角質層の柔軟性は、水分量10-20%の間で自然な柔軟性を示す一方で、水分量が10%以下になると角層のひび割れ、肌荒れが生じると考えられており、種々の原因により角質層の保湿機能が低下することによって水分量が低下すると、皮膚表面が乾燥して亀裂、落屑、鱗屑などを生じるようになることから、角層に含まれる水分量が皮膚表面の性状を決定する大きな要因として知られています[12b]

このような背景から、肌荒れやバリア機能の低下やなどによって角層の水分量が低下している場合に、皮膚表面に水分を含んだ膜を形成し、皮膚の水分蒸散を防止することは、皮膚の乾燥、ひび割れ、肌荒れの予防や改善において重要なアプローチのひとつであると考えられています。

2002年に一丸ファルコスによって報告された水溶性エラスチンの経表皮水分蒸散量への影響検証によると、

– ヒト使用試験:経表皮水分蒸散抑制作用 –

5人の男女被検者の前腕屈曲部に乾燥固形分濃度0.0001%ブタ由来水溶性エラスチン水溶液、ブタ由来水溶性コラーゲン水溶液または対照として精製水を1日3回塗布し、3回目の塗布後に24℃および相対湿度50%環境下で1時間安定させた後、経表皮水分蒸散量を2秒間隔で3分間測定した全数値の平均値を経表皮水分蒸散量として算出したところ、以下のグラフのように、

水溶性エラスチンの経表皮水分蒸散抑制作用

水溶性エラスチンは、水溶性コラーゲンと同等に経表皮水分蒸散を抑制し、保水作用を示すことがわかった。

このような検証結果が明らかにされており[14]、水溶性エラスチンに皮表水分保持による保湿作用が認められています。

3. 安全性評価

水溶性エラスチンの現時点での安全性は、

  • 40年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

3.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)

エラスチンはヒト皮膚内にも存在しており、15年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般に皮膚刺激および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

3.2. 眼刺激性

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。

4. 参考文献

  1. 日本化粧品工業連合会(2013)「水溶性エラスチン」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,541.
  2. 薬科学大辞典編集委員会(2013)「エラスチン」薬科学大辞典 第5版,206.
  3. ab井上 亜沙子(2017)「動物組織由来水溶性エラスチンの精製及び応用に関する基礎研究」 hdl:10228/00006802.
  4. 二宮 善文(2013)「細胞外マトリックス」イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書29版,691-712.
  5. 大山 俊郎(1992)「序論」弾性繊維-病態生理と疾患,1-11.
  6. ab朝田 康夫(2002)「真皮のしくみと働き」美容皮膚科学事典,28-33.
  7. ab清水 宏(2018)「真皮」あたらしい皮膚科学 第3版,13-20.
  8. 大塚 藤男(2011)「真皮」皮膚科学 第9版,32-44.
  9. 霜川 忠正(2008)「弾性繊維」BEAUTY WORD 皮膚科学用語編,380-381.
  10. 朝田 康夫(2002)「保湿能力と水分喪失の関係は」美容皮膚科学事典,103-104.
  11. 田村 健夫・廣田 博(2001)「表皮」香粧品科学 理論と実際 第4版,30-33.
  12. ab日光ケミカルズ株式会社(2006)「水」新化粧品原料ハンドブックⅠ,487-502.
  13. 武村 俊之(1992)「保湿製剤の効用:角層の保湿機構」ファルマシア(28)(1),61-65. DOI:10.14894/faruawpsj.28.1_61.
  14. 一丸ファルコス株式会社(2002)「化粧料組成物」特開2002-205913.

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