加水分解エラスチンの基本情報・配合目的・安全性

化粧品表示名 加水分解エラスチン
INCI名 Hydrolyzed Elastin
配合目的 保湿感触改良、効果促進 など

1. 基本情報

1.1. 定義

エラスチンを酸、酵素または他の方法により加水分解して得られる加水分解物です[1]

1.2. 構造と物性

加水分解エラスチンは、分子量2,000-5,000程度のものを中心とした加水分解性タンパク質であり、水への溶解性が高く、アミノ酸組成としてはグリシンが全体の約30%を占め、グリシン、アラニンバリンプロリンを主要アミノ酸としているのが特徴です[2a]

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • 皮表水分保持による保湿作用
  • 潤滑性による感触改良
  • 機能性成分の効果促進作用

主にこれらの目的で、スキンケア製品、メイクアップ製品、化粧下地製品、ボディ&ハンドケア製品、日焼け止め製品、マスク製品、洗顔料、クレンジング製品、マスク製品など様々な製品に汎用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. 皮表水分保持による保湿作用

皮表水分保持による保湿作用に関しては、まず前提知識として皮膚最外層である角質層の構造と役割について解説します。

直接外界に接する皮膚最外層である角質層は、以下の図のように、

角質層の構造

水分を保持する働きもつ天然保湿因子を含む角質と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造になっており、この構造が保持されることによって外界からの物理的あるいは化学的影響から身体を守り、かつ体内の水分が体外へ過剰に蒸散していくのを防ぐとともに一定の水分を保持する役割を担っています[3][4]

また、角質層内の主な水分は、天然保湿因子(NMF)の分子に結合している結合水と水(液体)の形態をした自由水の2種類の状態で存在しており、以下の表のように、

角質層内の水の種類 定義
結合水 一次結合水 角質層の構成分子と強固に結合し、硬く乾燥しきった角質層の中にも存在する水です。
二次結合水 角質層の構成分子と非常に速やかに結合するものの、乾燥した状態でゆっくりと解離するような比較的弱い結合をしている水の分子のことをいい、温度や湿度など外部環境によって比較的容易に結合と解離を繰り返す可逆的な水です。
自由水 二次結合水の容量を超えて角質層が水を含んだ場合に液体の形で角質層内に存在する水であり、この量が一定量を超えると過水和となり、浸軟した(ふやけた)状態が観察されます。

それぞれこのような特徴を有しています[5a][6]

角質層の柔軟性は、水分量10-20%の間で自然な柔軟性を示す一方で、水分量が10%以下になると角層のひび割れ、肌荒れが生じると考えられており、種々の原因により角質層の保湿機能が低下することによって水分量が低下すると、皮膚表面が乾燥して亀裂、落屑、鱗屑などを生じるようになることから、角層に含まれる水分量が皮膚表面の性状を決定する大きな要因として知られています[5b]

このような背景から、肌荒れやバリア機能の低下やなどによって角層の水分量が低下している場合に、皮膚表面に水分を含んだ膜を形成し、皮膚の水分蒸散を防止することは、皮膚の乾燥、ひび割れ、肌荒れの予防や改善において重要なアプローチのひとつであると考えられています。

2001年にノエビアによって報告された加水分解エラスチンの保水性検証によると、

– 保水性試験 –

バイアル瓶に精製水100mLを入れ、開口部を0.45μmのメンブランフィルターで被った皮膚モデルのメンブランフィルター上にタラ由来加水分解エラスチンと対照として精製水をそれぞれ50mg滴下し、20分後に保持している水分量を測定し値を算出したところ、以下の表のように、

試料 pH 保水性
加水分解エラスチン 4.0 1.55
3.0 1.04
精製水 0.40

加水分解エラスチンは、精製水と比較して保水性を示すことがわかった。

このような検証結果が明らかにされており[7]、加水分解エラスチンに皮表水分保持による保湿作用が認められています。

また、加水分解コラーゲンと加水分解エラスチンの併用することで加水分解コラーゲン単独よりも高い保湿効果が得られることが報告されています[8a]

2.2. 潤滑性による感触改良

潤滑性による感触改良に関しては、加水分解エラスチンは保水性を有しており、他の保湿剤のべたつきをおさえて滑らかな感触を付与することから、感触を調整する目的で使用されています[2b][8b]

2.3. 機能性成分の効果促進作用

機能性成分の効果促進作用に関しては、加水分解エラスチンは色素沈着抑制作用や抗老化作用を有する植物エキス、抗酸化作用を有する化合物や保湿作用をもつ保湿剤などと併用することで、それら単独による効果よりも高い改善効果を示すことが報告されています[9][10][11]

このような背景から、加水分解エラスチンが配合されている場合は機能性成分の効果発揮を促進する目的である可能性も考えられます。

3. 配合製品数および配合量範囲

配合製品数および配合量に関しては、海外の2016-2017年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗1)

∗1 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。

加水分解エラスチンの配合製品数と配合量の調査結果(2016-2017年)

4. 安全性評価

加水分解エラスチンの現時点での安全性は、

  • 20年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:ほとんどなし
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[12a]によると、

  • [ヒト試験] 52名の被検者に25%加水分解エラスチン(分子量:3,000)含有コーンオイルを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、いずれの被検者においても皮膚刺激および皮膚感作を誘発しなかった(CPTC Inc,1982)
  • [in vitro試験] 正常ヒト表皮角化細胞によって再構築された3次元培養表皮モデル(EpiDerm)を用いて、角層表面に魚由来加水分解エラスチン(4,000Da、濃度不明)を処理したところ、皮膚刺激は予測されなかった(Anonymous,2012)
  • [in vitro試験] 正常ヒト表皮角化細胞によって再構築された3次元培養表皮モデル(EpiDerm)を用いて、角層表面にタラ由来加水分解エラスチンを処理したところ、皮膚刺激は予測されなかった(Active Concepts,2013)

このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

4.2. 眼刺激性

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[12b]によると、

  • [動物試験] 6匹のウサギに未希釈の加水分解エラスチン(3,000Da)を点眼し、眼はすすがず、点眼後に眼刺激性を評価したところ、この試験物質は本質的に眼刺激剤ではなかった(Consumer Product Testing Co,1980)
  • [in vitro試験] 正常ヒト表皮角化細胞によって再構築された3次元培養角膜モデル(EpiOcular)を用いて、モデル角膜表面に未希釈のタラ由来加水分解エラスチンを処理したところ、眼刺激は予測されなかった(Active Concepts,2013)
  • [in vitro試験] 正常ヒト表皮角化細胞によって再構築された3次元培養角膜モデル(EpiOcular)を用いて、モデル角膜表面に魚由来加水分解エラスチン(2,000-4,000Da、濃度不明)を処理したところ、眼刺激は予測されなかった(Anonymous,2012)

このように記載されており、共通して眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。

5. 参考文献

  1. 日本化粧品工業連合会(2013)「加水分解エラスチン」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,294.
  2. ab日光ケミカルズ株式会社(2016)「ペプチドとタンパク質」パーソナルケアハンドブックⅠ,404-412.
  3. 朝田 康夫(2002)「保湿能力と水分喪失の関係は」美容皮膚科学事典,103-104.
  4. 田村 健夫・廣田 博(2001)「表皮」香粧品科学 理論と実際 第4版,30-33.
  5. ab日光ケミカルズ株式会社(2006)「水」新化粧品原料ハンドブックⅠ,487-502.
  6. 武村 俊之(1992)「保湿製剤の効用:角層の保湿機構」ファルマシア(28)(1),61-65. DOI:10.14894/faruawpsj.28.1_61.
  7. 株式会社ノエビア(2001)「皮膚外用剤」特開2001-48770.
  8. ab山之内 智(2012)「N-アセチルグルコサミン(天然由来)・加水分解エラスチンの機能について」Fragrance Journal(40)(8),81-84.
  9. 株式会社ノエビア(2001)「皮膚外用剤」特開2001-72569.
  10. 株式会社ノエビア(2001)「皮膚外用剤」特開2001-72570.
  11. 株式会社ノエビア(2001)「皮膚外用剤」特開2001-72571.
  12. abC.L. Burnett(2017)「Safety Assessment of Skin and Connective Tissue-Derived Proteins and Peptides as Used in Cosmetics(∗2)」, 2021年11月8日アクセス.
    ∗2 PCPCのアカウントをもっていない場合はCIRをクリックし、表示されたページ中のアルファベットをどれかひとつクリックすれば、あとはアカウントなしでも上記レポートをクリックしてダウンロードが可能になります。

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