アセチルヒアルロン酸Naの基本情報・配合目的・安全性

アセチルヒアルロン酸Na

化粧品表示名 アセチルヒアルロン酸Na
医薬部外品表示名 アセチル化ヒアルロン酸ナトリウム
INCI名 Sodium Acetylated Hyaluronate
配合目的 保湿 など

1. 基本情報

1.1. 定義

以下の化学式で表されるヒアルロン酸Naの繰り返し単位中に存在する4個のヒドロキシ基(-OH)のうち2.6-3.8個がアセチル基(-COCH3に置換されたヒアルロン酸誘導体です[1][2a]

アセチルヒアルロン酸Na

1.2. 物性

アセチルヒアルロン酸Naは、水溶性のの繰り返し単位中に存在する4個のヒドロキシ基(-OH)のうち2.6-3.8個を疎水性のアセチル基(-COCH3に置換することによってエタノールに溶けるようにし、さらにヒアルロン酸がもつ曳糸性(∗1)が低下したことによりぬめりがなくさっぱりとした使用感を有したものです[2b][3a]

∗1 曳糸性(えいしせい)とは、水あめやハチミツなどにみられる、液体が持つ糸を引く性質のことです。

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • 皮表水分保持および角質柔軟化による保湿作用

主にこれらの目的で、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ製品、化粧下地製品、洗顔料、クレンジング製品、マスク製品、日焼け止め製品など様々な製品に汎用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. 皮表水分保持および角質柔軟化による保湿作用

皮表水分保持および角質柔軟化による保湿作用に関しては、まず前提知識として皮膚最外層である角質層の構造と役割について解説します。

直接外界に接する皮膚最外層である角質層は、以下の図のように、

角質層の構造

水分を保持する働きもつ天然保湿因子を含む角質と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造になっており、この構造が保持されることによって外界からの物理的あるいは化学的影響から身体を守り、かつ体内の水分が体外へ過剰に蒸散していくのを防ぐとともに一定の水分を保持する役割を担っています[4][5]

また、角質層内の主な水分は、天然保湿因子(NMF)の分子に結合している結合水と水(液体)の形態をした自由水の2種類の状態で存在しており、以下の表のように、

角質層内の水の種類 定義
結合水 一次結合水 角質層の構成分子と強固に結合し、硬く乾燥しきった角質層の中にも存在する水です。
二次結合水 角質層の構成分子と非常に速やかに結合するものの、乾燥した状態でゆっくりと解離するような比較的弱い結合をしている水の分子のことをいい、温度や湿度など外部環境によって比較的容易に結合と解離を繰り返す可逆的な水です。
自由水 二次結合水の容量を超えて角質層が水を含んだ場合に液体の形で角質層内に存在する水であり、この量が一定量を超えると過水和となり、浸軟した(ふやけた)状態が観察されます。

それぞれこのような特徴を有しています[6a][7]

角質層の柔軟性は、水分量10-20%の間で自然な柔軟性を示す一方で、水分量が10%以下になると角層のひび割れ、肌荒れが生じると考えられており、種々の原因により角質層の保湿機能が低下することによって水分量が低下すると、皮膚表面が乾燥して亀裂、落屑、鱗屑などを生じるようになることから、角層に含まれる水分量が皮膚表面の性状を決定する大きな要因として知られています[6b]

このような背景から、肌荒れやバリア機能の低下やなどによって角層の水分量が低下している場合に、皮膚表面に水分を含んだ膜を形成し、皮膚の水分蒸散を防止することは、皮膚の乾燥、ひび割れ、肌荒れの予防や改善において重要なアプローチのひとつであると考えられています。

2000年に資生堂基盤研究センターによって報告されたアセチルヒアルロン酸Naの吸湿性および保水性検証によると、

– 吸湿性試験 –

乾燥したアセチルヒアルロン酸Na粉末と比較としてヒアルロン酸粉末を相対湿度32.8-93.6%下に置き、吸湿平衡に到達した120時間後に試料重量を測定したところ、以下のグラフのように、

アセチルヒアルロン酸Naの吸湿性

アセチルヒアルロン酸Naは、ヒアルロン酸と同様の吸湿挙動をとることがわかった。

– 保水性試験 –

4名の被検者にドデシル硫酸ナトリウム水溶液にて人工的に肌荒れを起こさせた後に、それぞれ濃度0.2%のヒアルロン酸Na、アセチルヒアルロン酸Naを配合した化粧水を1日1回7日間にわたって塗布し、塗布前後で皮表コンダクタンス(∗2)を測定したところ、以下のグラフのように、

∗2 コンダクタンスとは、電気を流した場合の抵抗(電気伝導度:電気の流れやすさ)を表し、水分量が多いと電気が流れやすくなり、コンダクタンス値が高値になることから、物質における水分量を調べる方法としてコンダクタンスを経時的に測定する方法が定着しています。

アセチルヒアルロン酸Naの保水性

アセチルヒアルロン酸Naを配合した化粧水の塗布は、ヒアルロン酸Naと同等以上の水分保持量を示した。

– ヒト使用試験 –

保水性試験の中で経表皮水分蒸散量を測定したところ、以下のグラフのように、

アセチルヒアルロン酸Naの経表皮水分蒸散抑制効果

アセチルヒアルロン酸Naを配合した化粧水の塗布は、ヒアルロン酸と比較して同等以上に皮膚からの水分の損失を抑制することがわかった。

このような検証結果が明らかにされており[3b]、アセチルヒアルロン酸Naに吸湿による水分保持能が認められています。

アセチルヒアルロン酸Naは、吸水性や健常な皮膚における保水性はヒアルロン酸Naと同等ですが、肌荒れなどでバリア機能が低下し角層に浸透した場合においては、ヒアルロン酸Na以上に角層中の結合水量を増加させることが報告されており、このアセチルヒアルロン酸Na保水量の増加は角層との間の疎水性相互作用によるものであると考えられています[8a]

次に、1998年に資生堂基盤研究センターによって報告されたアセチルヒアルロン酸Naの角質柔軟効果検証によると、

– 角質柔軟効果測定試験 –

角質層シートを連続動的粘弾性測定装置にセットした上で試料溶液塗布前の弾性率を1.0とし、各試料を角質層シートに塗布した後に弾性率の経時変化を2時間まで計測したところ、以下のグラフのように、

アセチルヒアルロン酸Naの角質柔軟効果

を塗布した場合、水分浸透により角質層はいったん柔軟化するものの、水分の蒸発にともない徐々に初期値に戻ってくる挙動を示すのに対して、アセチルヒアルロン酸は塗布2時間後でも角質層を柔らかい状態で維持していることがわかった。

このような検証結果が明らかにされており[2c]、アセチルヒアルロン酸Naに角質層の柔軟化効果が認められています。

この角質柔軟効果のメカニズムは、アセチルヒアルロン酸Naが疎水基であるアセチル基を導入していることにより、皮膚表面に対する吸着性・親和性が向上し、角質表面に効率的に保持され、その結果として角層内部から蒸発してくる水分をより多く捕捉するというものであると考えられています[8b]

3. 安全性評価

アセチルヒアルロン酸Naの現時点での安全性は、

  • 20年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

3.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)

20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

3.2. 眼刺激性

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。

4. 参考文献

  1. 日本化粧品工業連合会(2013)「アセチルヒアルロン酸Na」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,137.
  2. abc岡 隆史・梁木 利男(1998)「アセチル化ヒアルロン酸」高分子(47)(10),762. DOI:10.1295/kobunshi.47.762.
  3. ab岡 隆史・梁木 利男(2000)「角質柔軟効果に優れた新規保湿剤アセチル化ヒアルロン酸の開発と化粧品への応用」マテリアルライフ(12)(4),184-188. DOI:10.11338/mls1989.12.184.
  4. 朝田 康夫(2002)「保湿能力と水分喪失の関係は」美容皮膚科学事典,103-104.
  5. 田村 健夫・廣田 博(2001)「表皮」香粧品科学 理論と実際 第4版,30-33.
  6. ab日光ケミカルズ株式会社(2006)「水」新化粧品原料ハンドブックⅠ,487-502.
  7. 武村 俊之(1992)「保湿製剤の効用:角層の保湿機構」ファルマシア(28)(1),61-65. DOI:10.14894/faruawpsj.28.1_61.
  8. ab岡 隆史(2006)「高分子保湿剤スーパーヒアルロン酸」高分子(55)(10),802-805. DOI:10.1295/kobunshi.55.802.

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