加水分解卵殻膜の基本情報・配合目的・安全性

加水分解卵殻膜

化粧品表示名称 加水分解卵殻膜
医薬部外品表示名称 加水分解卵殻膜
医薬部外品表示名称(簡略名) 水解卵殻膜
化粧品国際的表示名称(INCI名) Hydrolyzed Egg Shell Membrane
配合目的 保湿抗老化 など

1. 基本情報

1.1. 定義

キジ科動物であるニワトリ(学名:Gallus gallus domesticus 英名:Chicken)の卵殻膜(∗1)を加水分解して得られる加水分解物です[1a]

∗1 卵殻膜とは、鶏卵の殻と白身の間にある0.07mmの薄膜であり、殻の内側に密着するように存在し、細胞内のイオン濃度、膜電位を保持・調整する役割のほか、外部からの細菌の侵入を防ぐとともに卵の内部へ酸素を供給する酸素透過性の役割を果たしています。

1.2. 構造と物性

加水分解卵殻膜は、3,000未満から10,000以上を分子量範囲とし、かつ水に不溶の卵殻膜を水溶性とした加水分解性タンパク質です[2a]

加水分解卵殻膜のアミノ酸組成比としては、一例として以下の表のように、

アミノ酸 組成比(%)
酵素処理 アルカリ処理
リシン 3.2 – 3.3 3.2
ヒスチジン 4.0 – 4.1 4.1
アルギニン 7.2 – 8.1 7.4
トリプトファン 0.0 – 3.3 3.2
アスパラギン酸 8.7 – 8.8 9.8
トレオニン 5.7 – 8.1 4.4
セリン 5.3 – 6.8 5.0
グルタミン酸 7.6 – 12.8 14.9
プロリン 9.8 – 10.2 10.8
グリシン 6.1 – 6.9 7.9
アラニン 3.0 – 8.6 3.2
システイン 6.8 – 7.9 2.5
メチオニン 1.1 – 3.8 4.4
バリン 6.9 – 7.1 7.9
イソロイシン 3.3 – 3.4 3.4
ロイシン 4.8 – 5.5 5.0
チロシン 1.9 – 2.2 1.5
フェニルアラニン 1.6 – 1.9 1.7

このような組成比が報告されており[2b]、酵素分解したものは毛髪に多く含まれるシステインの含有量が多くなることが特徴です。

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • 角層水分量増加による保湿作用

主にこれらの目的で、スキンケア化粧品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ化粧品、化粧下地製品、マスク製品、洗顔料、クレンジング製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、アウトバストリートメント製品など様々な製品に使用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. 角層水分量増加による保湿作用

角層水分量増加による保湿作用に関しては、まず前提知識として皮膚最外層である角質層の構造と役割および天然保湿因子と水の関係について解説します。

直接外界に接する皮膚最外層である角質層は、以下の図のように、

角質層の構造

水分を保持する働きもつ天然保湿因子を含む角質と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造になっており、この構造が保持されることによって外界からの物理的あるいは化学的影響から身体を守り、かつ体内の水分が体外へ過剰に蒸散していくのを防ぐとともに一定の水分を保持する役割を担っています[3][4]

角質層において水分を保持する働きをもつ天然保湿因子(NMF:natural Moisturizing Factor)は親水性の吸湿物質であり、以下の表のように、

成分 含量(%)
アミノ酸類 40.0
ピロリドンカルボン酸(PCA) 12.0
乳酸 12.0
尿素 7.0
アンモニア、尿酸、グルコサミン、クレアチン 1.5
ナトリウム(Na⁺) 5.0
カリウム(K⁺) 4.0
カルシウム(Ca²⁺) 1.5
マグネシウム(Mg²⁺) 1.5
リン酸(PO₄³⁻) 0.5
塩化物(Cl⁻) 6.0
クエン酸 0.5
糖、有機酸、ペプチド、未確認物質 8.5

アミノ酸、有機酸、塩などの集合体として存在しています[5]

また、角質層内の主な水分は、天然保湿因子(NMF)の分子に結合している結合水と水(液体)の形態をした自由水の2種類の状態で存在しており、以下の表のように、

角質層内の水の種類 定義
結合水 一次結合水 角質層の構成分子と強固に結合し、硬く乾燥しきった角質層の中にも存在する水です。
二次結合水 角質層の構成分子と非常に速やかに結合するものの、乾燥した状態でゆっくりと解離するような比較的弱い結合をしている水の分子のことをいい、温度や湿度など外部環境によって比較的容易に結合と解離を繰り返す可逆的な水です。
自由水 二次結合水の容量を超えて角質層が水を含んだ場合に液体の形で角質層内に存在する水であり、この量が一定量を超えると過水和となり、浸軟した(ふやけた)状態が観察されます。

それぞれこのような特徴を有しています[6a][7]

角質層の柔軟性は、水分量10-20%の間で自然な柔軟性を示す一方で、水分量が10%以下になると角層のひび割れ、肌荒れが生じると考えられており、種々の原因により角質層の保湿機能が低下することによって水分量が低下すると、皮膚表面が乾燥して亀裂、落屑、鱗屑などを生じるようになることから、角層に含まれる水分量が皮膚表面の性状を決定する大きな要因として知られています[6b]

このような背景から、角層の水分量が低下している場合に角層水分量を増加することは、皮膚の乾燥、ひび割れ、肌荒れの予防や改善において重要なアプローチのひとつであると考えられています。

加水分解卵殻膜は、3,000未満から10,000以上を分子量範囲としたもので、アミノ酸およびペプチドを主要成分とし、角層水分量増加による保湿作用を有していることから[1b][8]、保湿目的で様々な製品に配合されています。

ただし、加水分解卵殻膜単独での角層水分量への影響に関する適切なヒト試験データがみつけられておらず、みつかりしだい追補します。

2.2. Ⅲ型コラーゲン産生促進による小ジワ改善作用

Ⅲ型コラーゲン産生促進による小ジワ改善作用に関しては、まず前提知識として真皮の構造、光老化のメカニズムについて解説します。

真皮については、以下の真皮構造図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、

真皮の構造

表皮を下から支える真皮を構成する成分としては、細胞成分と線維性組織を形成する間質成分(細胞外マトリックス成分)に二分され、以下の表のように、

分類 構成成分
間質成分 膠原線維 コラーゲン
弾性繊維 エラスチン
基質 糖タンパク質、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン
細胞成分 線維芽細胞

主成分である間質成分は、大部分がコラーゲンからなる膠原線維とエラスチンからなる弾性繊維、およびこれらの間を埋める基質で占められており、細胞成分としてはこれらを産生する線維芽細胞がその間に散在しています[9a][10]

これら真皮構成成分において間質成分の大部分を占めるコラーゲンは、Ⅰ型コラーゲン(80-85%)とⅢ型コラーゲン(10-15%)が一定の割合で会合(∗2)することによって構成された膠質状繊維であり[11]、Ⅰ型コラーゲンは皮膚や骨に最も豊富に存在し、強靭性や弾力をもたせたり、組織の構造を支える働きが、Ⅲ型コラーゲンは細い繊維からなり、しなやかさや柔軟性をもたらす働きがあり、それぞれ皮膚のハリを支えています[9b][12]

∗2 会合とは、同種の分子またはイオンが比較的弱い力で数個結合し、一つの分子またはイオンのようにふるまうことをいいます。

一方で、一般に紫外線を浴びる時間や頻度に比例して、間質成分であるコラーゲン、エラスチン、ムコ多糖類への影響が大きくなり、シワの形成促進、たるみの増加など老化現象が徐々に進行することが知られています[13]

20代あたりまでは間質成分の合成が活発であるため、紫外線照射によってこれらが破壊されてもダメージが蓄積されずシワやたるみの形成に至らないと考えられますが、過剰および長期にわたって紫外線環境に曝されている場合は、加齢とともに間質成分の産生能が低下していくに従って間質成分の産生・分解系バランスが崩れていき、主な皮膚老化現象としてシワが形成されていくと考えられています[14]

このような背景から、紫外線の曝露によって形成された小ジワを減少・改善することは、皮膚老化現象の抑制において重要であると考えられています。

2018年にアルマードによって報告された加水分解卵殻膜の小ジワに対する影響検証によると、

– 抗シワ評価試験 –

左右の目尻に小ジワを有する12人の女性被検者(30-59歳)の片側目尻部位に2%加水分解卵殻膜配合美容液を、残りの片側に対照として加水分解卵殻膜を未配合とした同様の美容液を、それぞれ1日3回2週間にわたって連続使用してもらった。

評価については、日本香粧品学会により策定された「新規効能取得のための抗シワ製品評価ガイドライン」に基づき、使用前と使用2週間後に目視によるシワグレード判定として、

グレード0:シワなし
グレード1:不明瞭な浅いシワが僅かに認められる
グレード2:明瞭な浅いシワが僅かに認められる
グレード3:明瞭な浅いシワが認められる
グレード4:明瞭な浅いシワの中に、やや深いシワが僅かに認められる
グレード5:やや深いシワが認められる
グレード6:明瞭な深いシワが認められる
グレード7:著しく深いシワが認められる

この8段階評価と、シワ部位のレプリカを30度の角度をつけた斜め上方から光をあて、生じた影の画像におけるシワ由来の影の面積が解析領域に占める割合をシワ面積率として変化量を評価したところ、以下のグラフのように、

加水分解卵殻膜の小ジワ改善作用

シワグレードでは、加水分解卵殻膜を未配合とした美容液塗布部位は2.58から2.08に変化したものの有意差はなかったのに対して、加水分解卵殻膜配合美容液塗布部位は2.91から1.83へと有意に変化した。

シワ面積率では、加水分解卵殻膜を未配合とした美容液塗布部位の変化率が0.69だったのに対して加水分解卵殻膜配合美容液塗布部位は-1.80と有意に減少した。

これらの結果から、2%加水分解卵殻膜配合美容液の2週間塗布により、シワの減少に裏打ちされた小ジワを目立たなくする効果を発揮すると考えられた。

このような試験結果が明らかにされており[15a]、加水分解卵殻膜に小ジワ改善作用が認められています。

加水分解卵殻膜にはⅢ型コラーゲンの産生促進作用が明らかにされていますが[16a][17]、加水分解卵殻膜の小ジワ改善作用はⅢ型コラーゲン産生促進作用だけによるものではなく、他のメカニズムも含む複合的なメカニズムである可能性が言及されています[15b]

3. 安全性評価

加水分解卵殻膜の現時点での安全性は、

  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 20年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:ほとんどなし
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

3.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)

キューピーの安全性データ[16b]によると、

  • [ヒト試験] 被検者(人数不明)に加水分解卵殻膜(濃度不明)を対象にパッチテストを実施したところ、いずれの被検者も皮膚反応はみられなかった
  • [動物試験] ウサギ(数不明)の皮膚に加水分解卵殻膜(濃度不明)を適用し、適用後に皮膚一次刺激性を評価したところ、この試験物質は非刺激剤に分類された
  • [動物試験] モルモットに皮膚に加水分解卵殻膜(濃度不明)を対象に皮膚感作性試験を実施したところ、いずれも陰性であった

このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

3.2. 眼刺激性

キューピーの安全性データ[16c]によると、

  • [動物試験] ウサギ(数不明)の眼に加水分解卵殻膜(濃度不明)を適用し、適用後に眼刺激性を評価したところ、この試験物質は非刺激剤に分類された

このように記載されており、試験データをみるかぎり眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。

4. 参考文献

  1. ab日本化粧品工業連合会(2013)「加水分解卵殻膜」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,307.
  2. abキューピー株式会社(2018)「卵殻膜加水分解物」特開2018-177713.
  3. 朝田 康夫(2002)「保湿能力と水分喪失の関係は」美容皮膚科学事典,103-104.
  4. 田村 健夫・廣田 博(2001)「表皮」香粧品科学 理論と実際 第4版,30-33.
  5. I Horii, et al(1989)「Stratum corneum hydration and amino acid content in xerotic skin」British Journal of Dermatology(121)(5),587-592. DOI:10.1111/j.1365-2133.1989.tb08190.x.
  6. ab日光ケミカルズ株式会社(2006)「水」新化粧品原料ハンドブックⅠ,487-502.
  7. 武村 俊之(1992)「保湿製剤の効用:角層の保湿機構」ファルマシア(28)(1),61-65. DOI:10.14894/faruawpsj.28.1_61.
  8. 鈴木 一成(2012)「加水分解卵殻膜」化粧品成分用語事典2012,173.
  9. ab朝田 康夫(2002)「真皮のしくみと働き」美容皮膚科学事典,28-33.
  10. 清水 宏(2018)「真皮」あたらしい皮膚科学 第3版,13-20.
  11. D.R. Keene, et al(1987)「Type Ⅲ collagen can be present on banded collagen fibrils regardless of fibril diameter」Journal of Cell Biology(105)(5),2393-2402. DOI:10.1083/jcb.105.5.2393.
  12. 村上 祐子, 他(2013)「加齢にともなうⅢ型コラーゲン/Ⅰ型コラーゲンの比率の減少メカニズム」日本化粧品技術者会誌(47)(4),278-284. DOI:10.5107/sccj.47.278.
  13. 朝田 康夫(2002)「急性と慢性の皮膚障害とは」美容皮膚科学事典,195.
  14. 大林 恵, 他(1998)「植物抽出物の細胞外マトリックス分解酵素に対する阻害作用」日本化粧品技術者会誌(32)(3),272-279. DOI:10.5107/sccj.32.272.
  15. ab株式会社アルマード(2018)「加水分解卵殻膜成分を含むシワ改善用組成物」特開2018-188405.
  16. abcキューピー株式会社(2018)「化粧品用・食品用卵殻膜素材」技術資料.
  17. Eri Ohto-Fujita, et al(2011)「Hydrolyzed eggshell membrane immobilized on phosphorylcholine polymer supplies extracellular matrix environment for human dermal fibroblasts」Cell and Tissue Research(345),177-190. DOI:10.1007/s00441-011-1172-z.

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