アマチャエキスとは…成分効果と毒性を解説


・アマチャエキス
[医薬部外品表示名]
・アマチャエキス
ユキノシタ科植物アマチャ(学名:Hydrangea serrata thunbergii = Hydrangea macrophylla Seringe var. thunbergii)の葉から水、エタノール、BG、またはこれらの混液で抽出して得られる抽出物(植物エキス)です。
アマチャ(甘茶)は、本州の山間に自生し、長野県を主として富山県や岩手県などが栽培の大半を占めています(文献1:2011;文献2:1992)。
生の葉は苦く甘くありませんが、発酵させると葉に含まれている甘味成分の配糖体が酵素の作用で加水分解されショ糖(スクロース)の約1000倍の甘味を有するフィロズルシン(phyllodulcin)に変化します(文献3:2017)。
アマチャエキスは天然成分であることから、地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、
分類 | 成分名称 | |
---|---|---|
糖質 | 単糖 | グルコース、フルクトース |
スチルベン | フィロズルシン(甘味成分) |
これらの成分で構成されていることが報告されています(文献1:2011;文献4:1973;文献5:2013)。
甘茶(生薬名:甘茶)の化粧品以外の主な用途としては、食品分野において砂糖が普及する以前は甘味料として用いられていた歴史があり、現在では糖尿病患者の甘味料として用いられ、医薬品分野においては甘味料および矯味薬として家庭薬原料や口中清涼剤に用いられています(文献1:2011)。
また、釈迦の誕生日(4月8日)を祝う仏教行事である灌仏会(かんぶつえ)においては仏像に雨露の法雨の代わりとして甘茶を注ぐことが知られています(文献1:2011;文献6:2007)。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的でスキンケア製品、ボディケア製品、リップ化粧品、シート&マスク製品、洗顔料、ボディソープ製品などに使用されています。
休止期延長による抑毛作用
休止期延長による抑毛作用に関しては、まず前提知識として抑毛の定義および毛の成長メカニズムについて解説します。
体毛処理は、脱毛、剃毛、除毛、抑毛の4つに分類されますが、以下の表のように、
体毛処理 | 定義 |
---|---|
脱毛 | 毛根部分からムダ毛を抜くことであり、一般に物理的な力を利用する。 |
剃毛 | 表面に露出しているムダ毛を物理的に剃ることであり、物理的な力を利用する。 |
除毛 | 表面に露出している毛を除くことであり、一般に化学的作用を利用する。 |
抑毛 | ムダ毛の成長を抑制することであり、一般に化学的作用を利用する。 |
それぞれこのように定義されています。
毛の成長には周期があり、体毛(脇・腕・足)の毛周期については以下の毛周期図を見てもらうとわかりやすいと思いますが、
成長期に入ると約3-4ヶ月の期間、毛幹(∗1)が伸び続け、その後に毛根が退縮していく退行期が訪れ、やがて毛が脱落する休止期となり、3-6ヶ月の休止期間の後に再度成長期に入って毛幹が伸びていくというサイクルを一生繰り返します(文献7:2009)。
∗1 毛幹とは、毛の皮膚から外に露出している部分のことであり、一般に毛と認識されている部位です。
このような背景から、毛周期における休止期を延長し発毛を遅らせることは、抑毛において重要なアプローチのひとつであると考えられています。
2000年に一丸ファルコスによって報告されたのアマチャエキスの体毛への影響検証によると、
アマチャエキス塗布群は、明らかに毛の再生が遅れることが確認された。
次に、健康な10名の男女被検者(15-25歳)の両腕および両臑に除毛クリームを塗布して除毛した後、片側は精製水で洗浄し、残りの片側は乾燥固形分約1%アマチャエキス溶液を1日1回2ヶ月間にわたって適量塗布し、2ヶ月後に精製水で洗浄したのみの対照部位と比較した。
評価方法として「有効:除毛後、うぶ毛を若干生じた」「やや有効:除毛後、うぶ毛を若干多く生じた」「無効:除毛後、うぶ毛または成長毛が非常に多く生じた」これらを判定基準として評価したところ、以下の表のように、
試料 | 被検者数 | 有効 | やや有効 | 無効 |
---|---|---|---|---|
アマチャエキス溶液 | 10 | 3 | 5 | 2 |
洗浄のみ(対照) | 10 | 0 | 2 | 8 |
乾燥固形分1%アマチャエキス溶液塗布により、発毛を遅らせることができる抑毛効果が示された。
このような試験結果が明らかにされており(文献8:2000)、アマチャエキスに休止期延長による抑毛作用が認められています。
効果・作用についての補足 – 保湿作用について
アマチャエキスは皮膚柔軟作用(保湿作用)を有していると複数の事典に記載されており(文献9:2012;文献10:2020)、その皮膚柔軟作用が糖質に起因するものであること、スキンケア製品、メイクアップ製品、洗顔料、洗顔石鹸などに配合されている場合は皮膚柔軟目的で配合されていることが推察されます。
ただし、皮膚柔軟性・保湿性に関するin vitroやヒト有用性試験がみあたらないため、保湿作用の記載は保留とし、試験データがみつかりしだい追補します。
アマチャエキスの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績
- 皮膚一次刺激性:ほとんどなし
- 皮膚累積刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性について
- [動物試験] 3匹のウサギの剪毛した背部に固形分濃度0.5%アマチャエキス水溶液0.03mLを塗布し、塗布24,48および72時間後に紅斑および浮腫を指標として一次刺激性を評価したところ、いずれのウサギも紅斑および浮腫を認めず、この試験物質は皮膚一次刺激性に関して問題がないものと判断された
- [動物試験] 3匹のモルモットの剪毛した側腹部に固形分濃度0.5%アマチャエキス水溶液0.5mLを1日1回週5回、2週にわたって塗布し、各塗布日および最終塗布日の翌日に紅斑および浮腫を指標として皮膚刺激性を評価したところ、いずれのモルモットも2週間にわたって紅斑および浮腫を認めず、この試験物質は皮膚累積刺激性に関して問題がないものと判断された
と記載されています。
試験データをみるかぎり、共通して皮膚刺激なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。
皮膚感作性(アレルギー性)について
日本薬局方および医薬部外品原料規格2021に収載されており、20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
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アマチャエキスは抑毛成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
参考:抑毛成分
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参考文献:
- 鈴木 洋(2011)「甘茶(あまちゃ)」カラー版 漢方のくすりの事典 第2版,7.
- 林 輝明(1992)「ハーブの苦味と甘味の薬効」Fragrance Journal臨時増刊(12),116-123.
- 原島 広至(2017)「アマチャ(甘茶)」生薬単 改訂第3版,156-157.
- 金子 肇, 他(1973)「甘茶エキスの成分分析」日本農芸化学会誌(47)(10),605-609.
- 御影 雅幸(2013)「アマチャ」伝統医薬学・生薬学,183-184.
- 中村 誠宏, 他(2007)「甘茶成分thunberginol類の合成と抗アレルギー活性:構造活性相関および作用様式」天然有機化合物討論会講演要旨集(49),587-592.
- 中村 元信(2009)「毛周期と毛包幹細胞, 毛乳頭細胞」美容皮膚科学 改定2版,78-81.
- 一丸ファルコス株式会社(2000)「発毛抑制剤」特開2000-053538.
- 鈴木 一成(2012)「アマチャエキス」化粧品成分用語事典2012,226.
- 宇山 侊男, 他(2020)「アマチャエキス」化粧品成分ガイド 第7版,89.