t-フラバノンの基本情報・配合目的・安全性

t-フラバノン

医薬部外品表示名 t-フラバノン
配合目的 育毛

t-フラバノンは、花王の申請によって2002年に医薬部外品の育毛有効成分として厚生労働省に承認された成分です。

1. 基本情報

1.1. 定義

以下の化学式で表されるフラバノン誘導体です[1a]

t-フラバノン

2. 医薬部外品(薬用化粧品)としての配合目的

医薬部外品(薬用化粧品)に配合される場合は、

  • TGF-β阻害による育毛作用

主にこれらの目的で、育毛製品に使用されています。

以下は、医薬部外品(薬用化粧品)として配合される目的に対する根拠です。

2.1. TGF-β阻害による育毛作用

TGF-β阻害による育毛作用に関しては、まず前提知識として毛髪の構造、毛周期およびTGF-βの役割について解説します。

以下の毛髪の構造をみてもらうとわかりやすいと思いますが、

毛髪の構造

毛髪は、毛細血管が蜜に分布し毛の栄養や発育を司る毛乳頭細胞から毛母細胞に栄養が供給され、栄養を受けた毛母細胞が細胞分裂を行い、分裂した片方が毛母にとどまり次の分裂に備え、残りの片方が毛の細胞(毛幹)となって角化していき、次々に分裂してできる新しい細胞によって表面に押し上げられるというメカニズムによって形成されています[2][3]

また、毛髪には周期があり、以下の毛周期図を見てもらうとわかりやすいと思いますが、

毛周期(ヘアサイクル)

成長期に入ると約2-6年の期間、毛幹(∗1)が伸び続け、その後に短い退行期が訪れることにより毛根が退縮し、やがて休止期となり毛髪が脱落、数ヶ月の休止期間の後に再度成長期に入って毛幹が伸びていくというサイクルを一生繰り返します[4]

∗1 毛幹とは、毛の皮膚から外に露出している部分のことであり、一般に毛と認識されている部位です。

休止期においては、抑制因子により毛乳頭も縮小しますが、消失することはなく休眠状態に保たれており、その後活性化因子が抑制因子よりも多くなると、その刺激により休止期毛包の一部が再び毛乳頭細胞と接触して分裂・増殖をはじめ、毛乳頭細胞を取り囲んで新しい毛球部を形成することによって次の毛周期がはじまるため、通常は毛髪量は一定に保たれています[5][6]

一方で、なんらかの理由で生理的な範囲以上に脱毛が起こり毛髪量が減少する脱毛症が知られており[7a]、一般に広く知られている脱毛症として男性型脱毛症と女性型脱毛症があります。

男性型脱毛症とは、前頭部から頭頂部を主体に頭髪が次第に粗となる状態のことであり、これは毛周期における成長期が短縮し、成長期毛包が次第に小さくなり軟毛化する結果生じることが知られているのに対して、中年以降の女性において頭頂部を中心に薄毛化が起こる状態を女性型脱毛症と呼び、男性型脱毛症とは別の原因による脱毛症であると考えられていました[7b][8a]

ただし、最近では女性型脱毛症も体内の性ホルモンバランスの崩れなどにより男性ホルモンの働きが強くなった結果として生じると考えられてきており、男性型脱毛症と女性型脱毛症をまとめて壮年性脱毛症と呼ぶことが提唱されています[8b]

脱毛症における男性ホルモンの働きについては、以下の毛乳頭におけるテストステロン(男性ホルモン)の作用メカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、

毛乳頭におけるテストステロンの作用メカニズム

毛乳頭に分布する毛細血管から男性ホルモンであるテストステロン(testosterone)が毛乳頭に取り込まれ、取り込まれたテストステロンが5αリダクターゼという酵素の働きによってDHT(Dihydrotestosterone:ジヒドロテストステロン)に変化し、組織内の男性ホルモン受容体と結合し男性ホルモン作用を発現することによって、以下の表のように、

慣用名 正式名 局在 作用
TGF-β Transforming Growth Factor-β 毛包 毛母細胞を細胞死誘導(毛成長抑制)
退行期移行促進
DKK-1 dickkopf-1 毛包 Wntシグナル阻害(毛成長抑制)
退行期移行促進

これらの脱毛因子の産生および活性を促進し、その結果として退行期が誘導されることが毛成長の抑制(脱毛)への最初のステップとして知られています[7c][8c][9]

このような背景から、TGF-βを阻害することは薄毛・脱毛抑制アプローチのひとつとして重要であると考えられます。

2005年に花王によって報告されたt-フラバノンのTGF-βに対する影響検証によると、

– in vitro : TGF-β阻害作用 –

毛乳頭細胞と表皮細胞の混合培養に各濃度のt-フラバノンを添加し、2日後の培養上清中のTGF-β量をELISA法を用いて測定したところ、以下のグラフのように、

t-フラバノンのTGF-β2への影響

TGF-β1、TGF-β2ともに変化が認められなかった。

活性型TGF-β1は検出限界以下であったが、TGF-β2は濃度依存的な減少傾向がみられたため、活性型TGF-β2のタンパクをウェスタンブロット法を用いて測定したところ、以下のグラフのように、

t-フラバノンの活性型TGF-β2への影響

1000nM t-フラバノンは、活性型TGF-β2を有意(p<0.01)に抑制することがわかった。

活性型のみが減少したことから、t-フラバノンはTGF-β2タンパクの合成に対する効果は有さず、TGF-β2の活性化段階に作用することが示唆された。

このような検証結果が明らかにされており[10a]、t-フラバノンにTGF-β阻害作用が認められています。

次に、2003年および2005年に花王によって報告されたt-フラバノンのヒト毛髪に対する有用性検証によると、

– ヒト使用試験 [男性] –

初期から中期の男性型脱毛を呈する131名の男性被検者を2グループに分け、一方にt-フラバノン配合育毛剤を、他方にt-フラバノン未配合製剤(プラセボ)を二重盲検法に基づいて30週間使用してもらった。

改善度評価については、試験開始時および30週間使用後の頭頂部写真を比較した発毛効果および硬毛数変化などの所見に基づいて、3人の皮膚科専門医により「改善」「やや改善」「不変」「悪化」の4段階で判定したところ、以下の表のように、

試料 人数 改善 やや改善 不変 悪化
t-フラバノン 64 7 27 24 6
製剤のみ(プラセボ) 67 1 11 29 26

t-フラバノン配合育毛剤使用グループの「やや改善」以上の割合が53.1%、プラセボ製剤の割合が17.9%となり、t-フラバノン配合育毛剤の改善効果はプラセボ製剤と比較して有意(p<0.01)であった。

– ヒト使用試験 [女性] –

明らかに分け目の部分の頭皮が透けて見える程度の薄毛を呈する23名の女性被検者を2グループに分け、一方にt-フラバノン配合育毛剤を、他方にt-フラバノン未配合製剤(プラセボ)を二重盲検法に基づいて1日2回24週間使用してもらった。

評価については、使用前後の頭頂部の写真判定と、試験開始時と終了時に伸びた毛髪を根元から切断して回収した毛髪の重量を測定することで判定した。

その結果、24週間使用後の平均毛髪重量は、プラセボ製剤使用グループでは減少傾向であり、一方でt-フラバノン配合育毛剤使用グループで有意(p<0.01)に増加した。

写真判定においては、軽度改善度以上はt-フラバノン配合育毛剤使用グループで13名のうち8名、プラセボ製剤使用グループで10名のうち3名であり、t-フラバノン配合育毛剤の改善効果がプラセボ製剤よりも優れていた。

このような検証結果が明らかにされており[1b][10b]、t-フラバノンに育毛作用が認められています。

3. 安全性評価

t-フラバノンの現時点での安全性は、

  • 2002年に医薬部外品有効成分に承認
  • 2003年からの使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)

このような結果となっており、医薬部外品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

3.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)

2002年に医薬部外品有効成分に承認されており、2003年からの使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がみあたらないため、医薬部外品配合量および通常使用下において、一般に皮膚刺激および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

3.2. 眼刺激性

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。

4. 参考文献

  1. ab堀田 光行・芋川 玄爾(2003)「t-フラバノンの育毛効果」Fragrance Journal(31)(2),33-40.
  2. 朝田 康夫(2002)「毛髪の構造と働きは」美容皮膚科学事典,346-347.
  3. 朝田 康夫(2002)「毛髪をつくる細胞は」美容皮膚科学事典,347-349.
  4. 中村 元信(2009)「毛周期と毛包幹細胞, 毛乳頭細胞」美容皮膚科学 改定2版,78-81.
  5. 板見 智(1999)「毛の発育制御機構解明における最近の進歩と育毛剤」日本化粧品技術者会誌(33)(3),220-228. DOI:10.5107/sccj.33.3_220.
  6. 前田 憲寿(2020)「発毛・毛髪再生総論」毛髪再生の最前線<普及版>,1-15.
  7. abc斎藤 典充, 他(2009)「脱毛症」美容皮膚科学 改定2版,642-647.
  8. abc松崎 貴(2003)「脱毛症の生物学」最新の毛髪科学,47-53.
  9. S. Inui & S. Itami(2013)「Androgen actions on the human hair follicle: perspectives」Experimental Dermatology(22)(3),168-171. DOI:10.1111/exd.12024.
  10. ab笹嶋 美智代(2005)「t-フラバノンの育毛メカニズム」Fragrance Journal(33)(12),36-43.

TOPへ