アデノシンの基本情報・配合目的・安全性

アデノシン

化粧品表示名 アデノシン
医薬部外品表示名 アデノシン
INCI名 Adenosine
配合目的 育毛 など

アデノシンは、資生堂の申請によって2004年に医薬部外品育毛有効成分として厚生労働省に承認された成分です。

1. 基本情報

1.1. 定義

以下の化学式で表されるアデニンとリボースから成るヌクレオシド(∗1)です[1]

∗1 ヌクレオシド(nucleoside)とは、塩基と糖が結合した化合物の一種であり、アデノシンの場合は塩基としてアデニン(adenine)が単糖であるリボース(ribose)と結合したヌクレオシドです。

アデノシン

1.2. 物性・性状

アデノシンの物性・性状は、

状態 結晶
溶解性 水に易溶、有機溶媒に不溶

このように報告されています[2a][3]

1.3. 分布

アデノシンは、既知の地球生物すべての細胞に存在する、生体エネルギー伝達物質であるATP(adenosine tri-phosphate:アデノシン三リン酸)や多くの酸化還元酵素の補酵素であるNAD(nicotinamide adenine dinucleotide:ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)およびFAD(flavin adenine dinucleotide:フラビンアデニンジヌクレオチド)の構成成分として存在しています[4]

2. 化粧品および医薬部外品としての配合目的

化粧品および医薬部外品(薬用化粧品)に配合される場合は、

  • FGF-7産生促進による育毛作用
  • 配合目的についての補足

主にこれらの目的で、育毛製品、メイクアップ製品、スキンケア製品、化粧下地製品、日焼け止め製品、マスク製品、ハンドケア製品など様々な製品に汎用されています。

以下は、化粧品および医薬部外品(薬用化粧品)として配合される目的に対する根拠です。

2.1. FGF-7産生促進による育毛作用

FGF-7産生促進による育毛作用に関しては、まず前提知識として毛髪の構造、毛周期およびFGF-7の役割について解説します。

以下の毛髪の構造をみてもらうとわかりやすいと思いますが、

毛髪の構造

毛髪は、毛細血管が蜜に分布し毛の栄養や発育を司る毛乳頭細胞から毛母細胞に栄養が供給され、栄養を受けた毛母細胞が細胞分裂を行い、分裂した片方が毛母にとどまり次の分裂に備え、残りの片方が毛の細胞(毛幹)となって角化していき、次々に分裂してできる新しい細胞によって表面に押し上げられるというメカニズムによって形成されています[5][6]

また、毛髪には周期があり、以下の毛周期図を見てもらうとわかりやすいと思いますが、

毛周期(ヘアサイクル)

成長期に入ると約2-6年の期間、毛幹(∗2)が伸び続け、その後に短い退行期が訪れることにより毛根が退縮し、やがて休止期となり毛髪が脱落、数ヶ月の休止期間の後に再度成長期に入って毛幹が伸びていくというサイクルを一生繰り返します[7]

∗2 毛幹とは、毛の皮膚から外に露出している部分のことであり、一般に毛と認識されている部位です。

休止期においては、抑制因子により毛乳頭も縮小しますが、消失することはなく休眠状態に保たれており、その後活性化因子が抑制因子よりも多くなると、その刺激により休止期毛包の一部が再び毛乳頭細胞と接触して分裂・増殖をはじめ、毛乳頭細胞を取り囲んで新しい毛球部を形成することによって次の毛周期がはじまると考えられています[8][9a]

成長期の毛乳頭細胞では、以下の増殖因子(情報伝達物質)が産生され、

慣用名 正式名 局在 作用
FGF-7 fibroblast growth factor-7 毛乳頭 毛母細胞増殖促進(毛髪伸長)
退行期移行阻害(成長期維持)
IGF-1 Inslin-like growth factor-1 毛乳頭 毛母細胞増殖促進(毛髪伸長)
退行期移行阻害(成長期維持)

毛母細胞の増殖に促進的に作用して成長期の維持に働いていることが知られています[9b][10][11]

一方で、何らかの原因によって毛周期のバランスが失われると、成長期の期間が短縮して休止期毛の比率が増加し、また組織学的には毛包の縮小、毛包を取り巻く毛細血管網の減少および毛乳頭の活性低下などにより、毛母細胞の分化・増殖能が低下し、その結果として毛髪が軟毛化(薄毛化)していく壮年性脱毛症(∗3)の症状が知られています[12][13]

∗3 壮年性脱毛症は男性型脱毛症のことですが、女性においても中年以降頭頂部を中心に薄毛化が起こることがあり、以前はこの状態を女性型脱毛症と呼び、男性型脱毛とは別の原因による脱毛症であると考えられていましたが、最近では女性型脱毛も体内の性ホルモンバランスの崩れなどにより男性ホルモンの働きが強くなった結果として生じると考えられてきており、男性型脱毛と女性型脱毛をまとめて壮年性脱毛と呼ぶことが提唱されているため、ここでは壮年性脱毛で統一します[14]

壮年性脱毛症の原因としては、薄毛部由来の毛乳頭細胞ではFGF-7の発現量が非薄毛部と比較して約半分に減少していることが報告されていることから、壮年性脱毛症ではFGF-7発現量の減少により毛成長が抑制され、毛包が縮小している可能性が考えられています[15a]

このような背景から、FGF-7の産生を促進することは薄毛抑制・育毛アプローチのひとつとして重要であると考えられます。

2005年に資生堂によって報告されたアデノシンのFGF-7への影響検証およびヒト男性毛髪に対する有用性検証によると、

– in vitro:FGF-7産生促進作用 –

薄毛部毛乳頭細胞にアデノシンを2時間作用させ、リアルタイムRT-PCR法を用いてFGF-7遺伝子の発現量を定量し、非薄毛部毛乳頭細胞のFGF-7遺伝子発現量を100とした場合の発現量を定量したところ、以下のグラフのように、

アデノシンのFGF-7遺伝子発現量へ

薄毛部に対するアデノシンの添加は、未添加の約3倍のFGF-7遺伝子発現量を示した。

– ヒト使用試験 [男性] –

男性型脱毛を呈する102名(30-50歳)の被検者を2グループに分け、それぞれアデノシン配合ローションまたは陽性対照として
ニコチン酸アミド配合ローションを二重盲検法に基づいて1日2回6ヶ月間使用してもらった。

有効性評価は、医師による外観観察を中心に評価した全般改善度および薄毛部の毛髪を5mm角に毛刈りした部分をデジタルマイクロスコープで撮影した拡大画像にて測定した毛髪径および毛髪密度の変化によりおこなった。

全般改善度は、医師の頭部観察を基本に「著効」「中程度」「軽度」「軽微」「不変」「悪化」に分類したところ、アデノシン配合ローション使用グループ51名のうち41名(80.4%)に著効-軽度の改善がみられ、対照の50名中16名(32.0%)に対してグループ間で有意差(p<0.001)がみられた。

薄毛部の拡大画像からの評価は、アデノシン配合ローション使用グループでは使用前にうぶ毛が平均40%以上あったのに対して6ヶ月後では数%減少し、また太毛は23%から10%近く増加した。

毛髪密度に関しては、ローション使用前後で有意な差はみられなかった。

男性型脱毛は、毛包の減少ではなく毛包の縮小が原因であり、密度増加がなく、毛髪が太くなることにより薄毛が改善した結果は、男性型脱毛を効果的に改善・予防していると考えられた。

このような検証結果が明らかにされており[15b]、アデノシンにFGF-7産生促進作用および男性毛髪に対する育毛作用が認められています。

次に、2011年に資生堂リサーチセンター、徳島大学医学部皮膚科および徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部皮膚科学によって報告されたアデノシンのヒト女性毛髪に対する有用性検証によると、

– ヒト使用試験 [女性] –

女性型脱毛(female pattern hair loss:FPHL)と診断された30名の女性被検者(22-53歳、平均38.9歳)を程度が同等になるように15名ずつ2群に分け、片方に0.75%アデノシン配合ローションを、他方に未配合ローション(プラセボ)を二重盲検法に基づいて1日2回12ヶ月間頭皮に適用した。

有効性評価は、開始時、6および12ヶ月後に、医師による外観観察を中心に「改善」「やや改善」「不変」「やや悪化」「悪化」の5段階で評価した改善度評価および薄毛部の毛髪を6mm角に毛刈りした部分をビデオマイクロスコープで撮影した拡大画像にて測定した毛髪径および毛髪密度の変化によりおこなった。

皮膚科専門医による観察の結果、開始時との比較で12ヶ月後にアデノシン適用群で13名のうち11名に「やや改善」以上が認められたのに対し、プラセボ群では14名のうち5名のみであり、両群間の比較でアデノシン適用群で有意(p<0.024)な改善が認められた。

太毛率は、開始時に両群間で有意な差は認められなかったが、プラセボ群では12ヶ月間の観察中に開始時に比較して有意な低下を示した一方で、アデノシン適用群ではほぼ不変であったことから、12ヶ月後の試験終了時の両群間の比較ではアデノシン適用群で有意(p<0.041)に太毛率が高くなった。

このような検証結果が明らかにされており[16]、アデノシンに女性毛髪に対する育毛作用が認められています。

2.2. 配合目的についての補足

アデノシンは動物試験により血行促進作用が認められているほか、韓国では機能性化粧品のシワ改善成分として濃度0.04%での配合が認められていることから[17]、スキンケア製品、メイクアップ製品、化粧下地製品、マスク製品、ハンドケア製品などに使用されていますが、ヒト使用試験データがみあたらないため、みつかりしだい追補・再編集します。

3. 混合原料としての配合目的

アデノシンは混合原料が開発されており、アデノシンと以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。

原料名 NLT AdenoSphere 2.0 (ECO)
構成成分 アデノシンレシチンBG
特徴 コラーゲン合成による抗シワ効果を発揮する、アデノシンを含むナノリポゾーム

4. 配合製品数および配合量範囲

実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2018-2020年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗4)

∗4 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。

アデノシンの配合製品数と配合量の調査結果(2018-2020年)

5. 安全性評価

アデノシンの現時点での安全性は、

  • 2004年に医薬部外品有効成分に承認
  • 2005年からの使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし-わずか
  • 眼刺激性:ほとんどなし-わずか
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし

このような結果となっており、化粧品および医薬部外品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

5.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[2b]によると、

  • [ヒト試験] 10名の被検者に0.2%アデノシンを含む製剤を48時間閉塞パッチ適用し、、パッチ除去1,24および48時間後に皮膚刺激性を評価したところ、1時間で1名の被検者にわずかな紅斑がみられたが、ほかの被検者においてはいずれも皮膚刺激はみられなかった(Anonymous,2019)
  • [ヒト試験] 205名の被検者に0.2%アデノシンを含む製剤を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を半閉塞パッチにて実施したところ、いずれの被検者においても皮膚感作はみられず、この試験製剤は皮膚感作剤ではなかった(Anonymous,2019)

このように記載されており、試験データをみるかぎり皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

皮膚刺激性については、ごくまれにわずかな紅斑反応が報告されていることから、一般に非刺激-わずかな皮膚刺激を引き起こす可能性があると考えられます。

5.2. 眼刺激性

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[2c]によると、

  • [in vitro試験] 鶏卵の漿尿膜を用いてアデノシン(濃度不明)を処理したところ(HET-CAM法)、わずかな刺激性が予測された(Norwegian Food Safety Authority,2012)
  • [動物試験] 3匹のウサギの片眼に100%アデノシン100mgを適用し、眼はすすがず、OECD405テストガイドラインに基づいて適用後に眼刺激性を評価したところ、この試験物質は眼刺激剤ではなかった(European Chemicals Agency,2019)

このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して非刺激-わずかな眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は非刺激-わずかな眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。

6. 参考文献

  1. 日本化粧品工業連合会(2013)「アデノシン」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,141.
  2. abc P. Cherian(2020)「Safety Assessment of Adenosine Ingredients as Used in Cosmetics(∗5)」, 2022年7月24日アクセス.
    ∗5 PCPCのアカウントをもっていない場合はCIRをクリックし、表示されたページ中のアルファベットをどれかひとつクリックすれば、あとはアカウントなしでも上記レポートをクリックしてダウンロードが可能になります。
  3. 有機合成化学協会(1985)「アデノシン」有機化合物辞典,40-41.
  4. 大木 道則, 他(1989)「アデノシン」化学大辞典,52.
  5. 朝田 康夫(2002)「毛髪の構造と働きは」美容皮膚科学事典,346-347.
  6. 朝田 康夫(2002)「毛髪をつくる細胞は」美容皮膚科学事典,347-349.
  7. 中村 元信(2009)「毛周期と毛包幹細胞, 毛乳頭細胞」美容皮膚科学 改定2版,78-81.
  8. 板見 智(1999)「毛の発育制御機構解明における最近の進歩と育毛剤」日本化粧品技術者会誌(33)(3),220-228. DOI:10.5107/sccj.33.3_220.
  9. ab前田 憲寿(2020)「発毛・毛髪再生総論」毛髪再生の最前線<普及版>,1-15.
  10. S. Werner, et al(1994)「The function of KGF in morphogenesis of epithelium and reepithelialization of wounds」Science(266)(5186),819-822. DOI:10.1126/science.7973639.
  11. N. Weger & T. Schlake(2005)「IGF-I Signalling Controls the Hair Growth Cycle and the Differentiation of Hair Shafts」Journal of Investigative Dermatology(125)(5),873-882. DOI:10.1111/j.0022-202x.2005.23946.x.
  12. 横山 大三郎(1995)「男性型脱毛症と育毛有効成分」油化学(44)(4),28-35. DOI:10.5650/jos1956.44.266.
  13. 斎藤 典充, 他(2009)「脱毛症」美容皮膚科学 改定2版,642-647.
  14. 松崎 貴(2003)「脱毛症の生物学」最新の毛髪科学,47-53.
  15. ab田島 正裕・中沢 陽介(2005)「新育毛有効成分・アデノシン」Fragrance Journal(33)(6),13-18.
  16. 江浜 律子, 他(2011)「女性の薄毛とアデノシンによる改善効果」日本化粧品技術者会誌(45)(1),35-40. DOI:10.5107/sccj.45.35.
  17. 株式会社資生堂(2004)「S-AXエッセンス」審査報告書.

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