加水分解コンキオリンの基本情報・配合目的・安全性

加水分解コンキオリン

化粧品表示名 加水分解コンキオリン
医薬部外品表示名 加水分解コンキオリン液
部外品表示簡略名 水解コンキオリン液、パールカルクエキス
INCI名 Hydrolyzed Conchiolin Protein
配合目的 ヘアコンディショニング感触改良 など

1. 基本情報

1.1. 定義

ウグイスガイ科二枚貝アコヤガイ(学名:Pinctada fucata martensii 英名:Akoya Pearl Oyster)の真珠層に含まれるコンキオリンを加水分解して得られる加水分解物です[1]

1.2. 構造と物性

加水分解コンキオリンは、不溶性タンパク質であるコンキオリンを水溶性とし、平均分子量600-2,200を主要とする水溶性ポリペプチドです[2a][3]

真珠層に含まれるコンキオリンのアミノ酸組成(∗1)は一例ですが、

∗1 加水分解していないコンキオリンのアミノ酸組成です。

アミノ酸 アミノ酸組成(g/タンパク質100g)
ロイシン 9.2
フェニルアラニン 1.1
バリン 2.1
チロシン 2.7
メチオニン 0.4
アラニン 14.0
グルタミン酸 3.1
トレオニン 0.6
アスパラギン酸 6.2
セリン 5.4
グリシン 24.3
アルギニン 7.2
リシン 7.4
ヒスチジン 0.5
システイン 12.2

このように報告されており[4]天然保湿因子(NMF)に類似したアミノ酸組成であることが知られています。

1.3. 分布と歴史

アコヤガイ(阿古屋貝)は、太平洋岸では房総半島、日本海岸では山形県を分布北限とし、南は奄美大島まで分布する日本特産種であり、主に真珠養殖に利用される真珠母貝のひとつです[5]

真珠は、90%以上の無機成分(∗2)と6%のコンキオリンおよび1%の水分で構成されており[6]、世界各地で伝統的に宝石として重宝されてきただけでなく[7]、真珠の真珠層を削って微粒子にした真珠粉は古来より漢方や化粧料として利用されてきた歴史があり、16世紀に中国で著された薬学書である「本草綱目」には、肌に潤いを与え、顔色を良くするとして記載されています[8]

∗2 無機成分としては、主に90%以上の炭酸カルシウムを主体にシリカやマグネシウムが微量含まれています。

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • なめらかさおよびツヤ向上によるヘアコンディショニング作用
  • 潤滑性による感触改良

主にこれらの目的で、シャンプー製品、コンディショナー製品、トリートメント製品、メイクアップ製品、化粧下地製品、スキンケア製品、シート&マスク製品、洗顔料、ボディ&ハンドケア製品、まつげ美容液、ヘアカラー製品、アウトバストリートメント製品、ネイル製品、入浴剤など様々な製品に汎用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. なめらかさおよびツヤ向上によるヘアコンディショニング作用

なめらかさおよびツヤ向上によるヘアコンディショニング作用に関しては、まず前提知識として毛髪の構造と毛髪ダメージとその原因について解説します。

毛髪の構造については、以下の毛髪構造図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、

毛髪の構造

キューティクル(毛小皮)とよばれる5-10層で重なり合った平らかつうろこ状の構造からなる厚い保護外膜が表面を覆い、キューティクル内部は紡錘状細胞から成り繊維体質の大部分を占めるコルテックス(毛皮質)およびメデュラ(毛髄質)とよばれる多孔質部分で構成されています[9a]

また、細胞膜複合体(CMC:Cell Membrane Complex)がこの3つの構造を接着・結合しており、毛髪内部の水分保持や成分の浸透・拡散の主要通路としての役割を担っています[9b]

これら毛髪構造の中でキューティクルは、摩擦、引っ張り、曲げ、紫外線への曝露などの影響による物理的かつ化学的劣化に耐性をもち、その配列が見た目の美しさや感触特性となります[10a]

一方で、キューティクルはシャンプーや毎日の手入れなどの物理的要因、あるいはヘアアイロン、染毛・脱色、パーマなど化学的要因によるダメージに対して優れた耐性を有しているものの、以下の図をみてもらうとわかるように、

毛髪状態の違い

これらのダメージが重なり合い繰り返されるうちに劣化していき、最終的にキューティクルのめくれ上がりや毛髪繊維の弱化につながることが知られています[10b][11]

このような背景から、損傷したキューティクルを平らに寝かせてなめらかにすることやツヤを向上させることは、毛髪の外観や感触の改善において重要なアプローチのひとつであると考えられています。

2019年に丸善製薬によって報告された加水分解コンキオリンの毛髪の外観や感触に対する影響検証によると、

– 毛髪摩擦力測定試験 –

アジア人の健常毛および損傷毛を0.1および0.5%加水分解コンキオリン溶液に10分間浸漬させ、タオルドライ後に25℃・湿度50%で24時間放置し、また0.25%BG溶液で同様に処理した毛髪を比較対照とした。

各毛髪のすべりやすさを摩擦感テスターにて平均摩擦係数(∗3)を測定したところ、以下のグラフのように、

∗3 摩擦とは、触れ合っている物体と物体のうち片方が運動しようとする時または運動している時、その運動を妨げようとする現象のことをいい、摩擦には静止した物体との間にはたらく「静摩擦(静止摩擦)」と互いに対して運動している「動摩擦(運動摩擦)」の2つの領域があります。たとえば斜面上の物体が滑り落ちずにその場に止まることができるのは静止摩擦力のはたらきであり、氷の上を滑るカーリングの石はそれを減速させるような動摩擦力を受けます。毛髪において摩擦係数は、その数値が高いほど摩擦力が高い(平滑性や柔軟性が低い)ことを示し、その数値が低いほど摩擦力が低い(平滑性や柔軟性が高い)ことを示します。

毛髪のなめらかさに対する加水分解コンキオリンの効果

0.5%加水分解コンキオリン溶液はBG溶液と比較して平均摩擦係数が有意に低く、滑り性(手触り感)が良好であることがわかった。

– 毛髪光沢評価試験 –

アジア人の健常毛および損傷毛を0.1および0.5%加水分解コンキオリン溶液で処理後に25℃・湿度50%で24時間放置し、また0.25%BG溶液で同様に処理した毛髪を比較対照とした。

各毛髪の反射光を測定し、ツヤを評価したところ、以下のグラフのように、

毛髪のツヤに対する加水分解コンキオリンの効果

0.1および0.5%加水分解コンキオリン溶液はBG溶液と比較して有意にツヤを改善し、毛髪を美しく輝かせる作用が確認された。

このような試験結果が明らかにされており[12]、加水分解コンキオリンになめらかさおよびツヤ向上によるヘアコンディショニング作用が認められています。

2.2. 潤滑性による感触改良

潤滑性による感触改良に関しては、加水分解コンキオリンは皮膚との親和性が高く、しっとり感を付与することから、感触を調整する目的で様々な製品に使用されています[13][14]

3. 混合原料としての配合目的

加水分解コンキオリンは混合原料が開発されており、加水分解コンキオリンと以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。

原料名 プランテージ<リンクル>
構成成分 BG、カンゾウ葉エキス、トウキ根エキススイカズラ花エキス加水分解コンキオリンハトムギ種子エキス
特徴 コラーゲン産生促進作用、基底膜成分産生促進作用、抗酸化作用、保湿・バリア機能向上作用、エラスチン産生促進作用など多角的な作用により抗シワ効果が確認された5種類の生薬由来成分混合液

4. 配合製品数および配合量範囲

化粧品に対する実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2012年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗4)

∗4 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。

加水分解コンキオリンの配合製品数と配合量の比較調査(2012年)

5. 安全性評価

加水分解コンキオリンの現時点での安全性は、

  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 30年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

5.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)

高分子ペプチドが感作物質とされており[2b]、一般に加水分解コンキオリンは高分子ペプチドを除去したものが使用されています。

医薬部外品原料規格2021に収載されており、30年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

5.2. 眼刺激性

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。

6. 参考文献

  1. 日本化粧品工業連合会(2013)「加水分解コンキオリン」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,300.
  2. ab御木本製薬株式会社(1987)「化粧品原料の製造方法」特開昭62-223104.
  3. 株式会社生和化成(2021)「Promois PEARL-PF」製品リスト.
  4. S. Tanaka, et al(1960)「Biochemical Studies on Pearl. IX. Amino Acid Composition of Conchiolin in Pearl and Shell」Bulletin of the Chemical Society of Japan(33)(4),543-545. DOI:10.1246/bcsj.33.543.
  5. 波部 忠重(1957)「真珠とそれを採る貝類」水産増殖(3)(4),34-35. DOI:10.11233/aquaculturesci1953.3.4_34.
  6. 田中 正三・波多野 博行(1957)「真珠の化学」水産増殖(3)(4),38-45. DOI:10.11233/aquaculturesci1953.3.4_38.
  7. 山田 篤美(2017)「「宝石」の王者としての真珠の歴史」平成29年度 宝石学会(日本)講演論文要旨,6. DOI:10.14915/gsj.39_0_6.
  8. 李 時珍(1931)「眞珠」新註校定 国訳本草綱目<第11冊>,79-85.
  9. abクラーレンス・R・ロビンス(2006)「毛形態学的構造および高次構造」毛髪の科学,1-68.
  10. abデール・H・ジョンソン(2011)「毛髪のコンディショニング」ヘアケアサイエンス入門,77-122.
  11. クラーレンス・R・ロビンス(2006)「シャンプー、髪の手入れ、ウェザリング(風化)による毛髪ダメージおよび繊維破断」毛髪の科学,293-328.
  12. 橋井 洋子(2019)「加水分解コンキオリン及び加水分解シルクの毛髪ツヤ改善作用について」Fragrance Journal(47)(6),47-54.
  13. 御木本製薬株式会社(1991)「化粧品原料及びこれを含む化粧品」特開平05-043444.
  14. 鈴木 一成(2012)「加水分解コンキオリン」化粧品成分用語事典2012,178.

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