ファルネソールの基本情報・配合目的・安全性

ファルネソール

化粧品表示名 ファルネソール
INCI名 Farnesol
配合目的 香料

1. 基本情報

1.1. 定義

以下の化学式で表される、イソプレンユニット(C5ユニット)が直鎖状に3個結合したテルペノイド化合物(∗1)であり、セスキテルペン(∗2)に分類される非環式セスキテルペンアルコール(∗3)です[1][2]

∗1 二重結合をもち炭素数5個(C5)を分子構造とするイソプレンを分子構造単位(イソプレンユニット)とし、イソプレンが直鎖状に複数個(C5×n個)連結した後に環化や酸化など種々の修飾を経て生成する化合物のことです[3]。多くのテルペノイドは疎水性であり、ファルネソールもまた疎水性です。

∗2 イソプレン(C5)ユニットが3個連結した炭素数15個(C5×3)のテルペノイド化合物です。

∗3 セスキテルペン構造に官能基としてヒドロキシ基(水酸基:-OH)が結合した化合物の総称です。

ファルネソール

1.2. 分布

ファルネソールは、自然界においてパルマローザ油、ペルーバルサム(∗4)、ネロリなどの精油に広く分布しています[4a]

∗4 バルサム(balsam)とは、樹脂が精油に混合または溶解した、強い香りを有する液体または粘稠物のことをいいます。

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • フローラル様香気の賦香

主にこれらの目的で、口紅製品、ボディ&ハンドケア製品、香水、スキンケア製品、クレンジング製品、アウトバストリートメント製品、トリートメント製品、シャンプー製品、ボディソープ製品、ボディ石鹸、メイクアップ製品など様々な製品に使用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. フローラル様香気の賦香

フローラル様香気の賦香(∗5)に関しては、ファルネソールは新鮮なグリーン香調(∗6)でフローラル様香気を有していることから、フローラル系調合香料として広く使用されています[4b][5][6]

∗5 賦香(ふこう)とは、香りを付けるという意味です。

∗6 香調とは、香料分野においてはノート(note)とも呼ばれ、香りのタイプを意味します。ファルネソールはグリーンノート(green note:グリーン香調)に分類されます。グリーン香調は緑葉を傷つけた時に感じる青くさい香りを指します。

また、調合香料はそれらの揮発性から、

揮発性 分類 解説 保留時間 香調

トップ
ノート
最初に感じ、そのものを印象づける香気 約30分 シトラス
グリーン
フルーティ-
ハーバル
ミドル
ノート
香りの中心となる中盤に感じる香気 数時間 フローラル
ラスト
ノート
最後まで残る重量感のある香気 数日-数週間 ウッディ
アンバー
ムスク
バルサム

これら3つのステージに分類して表現されることが多く[7][8]、ファルネソールは揮発性の高いトップノートであることから、香気の保留性(持続性)は低いですが、まず最初に鼻につき新鮮な青葉のような印象を与えるグリーン様香気が特徴です[9]

3. 安全性評価

ファルネソールの現時点での安全性は、

  • 40年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:ほとんどなし-わずか
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
  • 皮膚感作性(皮膚炎を有する場合):まれに皮膚感作を引き起こす可能性あり
  • 光毒性(光刺激性):ほとんどなし
  • 光感作性:ほとんどなし

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

ただし、皮膚炎を有する場合はごくまれに皮膚感作を引き起こす可能性が報告されているため、パッチテストなどで安全性を確認してからの使用を推奨します。

以下は、この結論にいたった根拠です。

3.1. 皮膚刺激性

Research Institute for Fragrance Materialsの安全性データ[10a]によると、

  • [ヒト試験] 25名の被検者に12%ファルネソールを含むワセリンを48時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚刺激性を評価したところ、いずれの被検者も皮膚刺激反応を示さなかった(Research Institute for Fragrance Materials,1975)
  • [ヒト試験] 25名の被検者に10%ファルネソールを含むワセリンを48時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚刺激性を評価したところ、いずれの被検者も皮膚刺激反応を示さなかった(Research Institute for Fragrance Materials,1976)
  • [ヒト試験] 101名の被検者に5%ファルネソールを含むワセリンを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、誘導期間においていずれの被検者も皮膚刺激反応を示さなかった(Research Institute for Fragrance Materials,2000)

このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。

3.2. 眼刺激性

Research Institute for Fragrance Materialsの安全性データ[10b]によると、

  • [動物試験] 6匹の動物の片眼に0.3%ファルネソールを含むダイズ油0.1mLを点眼し、点眼後に眼刺激性を評価したところ、8時間までわずかな腫れと発赤がみられたが、24時間までにそれらは消失した(Research Institute for Fragrance Materials,1976)

このように記載されており、試験データをみるかぎり濃度0.3%においてわずかな眼刺激が報告されていることから、一般に0.3%濃度以下において眼刺激性は非刺激-わずかな眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。

3.3. 皮膚感作性(アレルギー性)

Research Institute for Fragrance Materialsの安全性データ[10c]によると、

– 健常皮膚を有する場合 –

  • [ヒト試験] 50名の被検者に12%ファルネソールを含むワセリンを対象にMaximization皮膚感作性試験を実施したところ、2名の被検者は陽性反応を示したが、他の被検者はいずれも皮膚感作反応を示さなかった(Research Institute for Fragrance Materials,1975)
  • [ヒト試験] 75名の被検者に10%ファルネソールを含むワセリンを対象にMaximization皮膚感作性試験を実施したところ、6名の被検者は陽性反応を示したが、他の被検者はいずれも皮膚感作反応を示さなかった(Research Institute for Fragrance Materials,1976)
  • [ヒト試験] 51名の被検者に10%ファルネソールを含むワセリンを対象にMaximization皮膚感作性試験を実施したところ、いずれの被検者も皮膚感作反応を示さなかった(Research Institute for Fragrance Materials,1977)
  • [ヒト試験] 35名の被検者に12%ファルネソールを含むワセリンを対象にMaximization皮膚感作性試験を実施したところ、いずれの被検者も皮膚感作反応を示さなかった(Research Institute for Fragrance Materials,1978)
  • [ヒト試験] 103名の被検者に5%ファルネソールを含むワセリンを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、いずれの被検者も皮膚感作反応を示さなかった(Research Institute for Fragrance Materials,2000)
  • [ヒト試験] 101名の被検者に5%ファルネソールおよび0.2%トコフェロールを含むワセリンを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、いずれの被検者も皮膚感作反応を示さなかった(Research Institute for Fragrance Materials,2000)

– 皮膚炎を有する場合 –

  • [ヒト試験] 皮膚炎を有する182名の患者に4%ファルネソールを含むワセリンを対象にパッチテストを実施したところ、2名(1.1%)の患者が陽性反応を示した(Malten et al,1984)
  • [ヒト試験] 皮膚科に通院する2,021名の患者に5%ファルネソールを含むラノリンを対象にパッチテストを実施したところ、22名(1.1%)の患者が陽性反応を示した(Schnuch et al,2004)

このように記載されており、試験データをみるかぎり健常皮膚を有する場合かつ濃度10%未満において共通して皮膚感作なしと報告されているため、一般に健常皮膚を有する場合かつ濃度10%未満において皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

皮膚炎を有する場合は、濃度4%-5%範囲において試験対象者の1.1%に皮膚感作反応が報告されているため、一般に皮膚炎を有する場合においてはまれに皮膚感作を引き起こす可能性があると考えられます。

香料は、化粧品皮膚炎の原因の30%以上を占める最も頻度の高い原料ですが[11a]、原因を特定するためにすべての香料成分をパッチテストするのは不可能であり、通常は陽性頻度の高いアレルゲンを一度にパッチテストできるようにICDRG(International Contact Dermatitis Research Group:国際接触皮膚炎研究斑)標準アレルゲンの香料ミックスとして以下の成分が選定されています。

香料ミックスの種類 成分名称
香料ミックスNo.1
(Fragrance Mix Ⅰ)
ケイ皮アルコール、ケイ皮アルデヒド、α-アミルシンナムアルデヒド、オイゲノール、イソオイゲノール、ヒドロキシシトロネラール、ゲラニオール、オークモスアブソリュート
香料ミックスNo.2
(Fragrance Mix Ⅱ)
ヒドロキシメチルペンチルシクロヘキセンカルボキシアルデヒド(HICC)、シトラールファルネソールシトロネロール、α-ヘキシルシンナム、クマリン

国内の標準アレルゲンシリーズ(ジャパニーズスタンダードアレルゲン)として使用されるのは、香料の中で最も陽性頻度の高い香料ミックスNo.1であり、香料ミックスNo.1は香料アレルギーの70%-80%を占めている(検出できる)と報告されています(∗7)[11b]

∗7 ジャパニーズスタンダードアレルゲンシリーズによるパッチテストを受けたもののうち、香料ミックスNo.1での陽性率は1999年で5%、2003年で4%、2016年で5.3%となっています[11c][12a]

香料No.1で感作成分が特定できない場合に、さらにICDRGが選定した香料ミックスNo.2を加えると、香料アレルギーのスクリーニングの検出率が上昇します[12b]

ファルネソールは、香料ミックスNo.2に選定されていることから、高い皮膚感作性を有しているように認識しそうになりますが、香料における感作物質の70%-80%が香料ミックスNo.1であり、香料ミックスNo.1で感作物質が見つからない場合の感作原因物質のひとつであるため、試験データにも反映されているように、感作物質ではあるものの陽性率の高い香料ではないと考えられます。

3.4. 光毒性(光刺激性)および光感作性

Research Institute for Fragrance Materialsの安全性データ[10d]によると、

  • [動物試験] モルモットを用いて10%ファルネソールを含むワセリン0.5mLを1日1回適用した後にUVライト(320nm)を30秒間照射する手順を2週間にわたって実施したところ、この試験物質は光刺激剤ではなかった(Research Institute for Fragrance Materials,1983)
  • [動物試験] モルモットを用いて10%ファルネソールを含むワセリン0.5mLを1日1回適用した後にUVライト(320nm)を30秒間照射する手順を21日間にわたって繰り返し実施したところ、この試験物質は光感作剤ではなかった(Research Institute for Fragrance Materials,1983)

このように記載されており、試験データをみるかぎり光刺激および光感作なしと報告されていることから、一般に光毒性(光刺激性)および光感作性はほとんどないと考えられます。

4. 参考文献

  1. 日本化粧品工業連合会(2013)「ファルネソール」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,829.
  2. 大木 道則, 他(1989)「ファルネソール」化学大辞典,1944-1945.
  3. 池田 剛(2017)「モノテルペン」エッセンシャル天然薬物化学 第2版,120-124.
  4. ab合成香料編集委員会(2016)「ファルネソール」増補新版 合成香料 化学と商品知識,108-109.
  5. 印藤 元一(1975)「合成香料各論」香料の実際知識,68-158.
  6. 光井 武夫(2001)「合成香料」新化粧品学,125-128.
  7. 兼井 典子(2003)「香りの化学」化学と教育(51)(2),86-88. DOI:10.20665/kakyoshi.51.2_86.
  8. 長谷川香料株式会社(2013)「フレグランスの分類と原料」香料の科学,124-127.
  9. 駒木 亮一(1993)「化粧品と香り」繊維製品消費科学(34)(5),208-213. DOI:10.11419/senshoshi1960.34.208.
  10. abcdD. Belsito, et al(2008)「A toxicologic and dermatologic assessment of cyclic and non-cyclic terpene alcohols when used as fragrance ingredients」Food and Chemical Toxicology(46)(11),S1-S71. DOI:10.1016/j.fct.2008.06.085.
  11. abc高山 かおる, 他(2020)「接触皮膚炎診療ガイドライン2020」日本皮膚科学会雑誌(130)(4),523-567. DOI:10.14924/dermatol.130.523.
  12. ab皆本 景子(2010)「化粧品,医薬部外品成分中の皮膚感作性物質と接触皮膚炎」日本衛生学雑誌(65)(1),20-29. DOI:10.1265/jjh.65.20.

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