リナロールの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | リナロール |
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医薬部外品表示名 | リナロール |
INCI名 | Linalool |
配合目的 | 香料 |
リナロールはD体とL体の両方が存在しますが、一般に原料として用いられるのは合成のDL体であり、ここで記載される「リナロール」はD体とL体の混合物である「dl-リナロール」を指します。
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表される、不斉炭素原子(∗1)を1個もつイソプレンユニット(C5ユニット)が鎖状に2個結合したテルペノイド化合物(∗2)であり、モノテルペン(∗3)に分類される非環式モノテルペンアルコール(∗4)です[1][2]。
∗1 1分子中の炭素原子(C)に互いに異なる4個の原子または原子団が結合しているとき、この炭素原子を不斉炭素原子といい、分子中に不斉炭素原子が1個存在すると一対の光学異性体が存在し、リナロールではD体とL体になります。
∗2 二重結合をもち炭素数5個(C5)を分子構造とするイソプレンを分子構造単位(イソプレンユニット)とし、イソプレンが直鎖状に複数個(C5×n個)連結した後に環化や酸化など種々の修飾を経て生成する化合物のことです[3]。多くのテルペノイドは疎水性であり、リナロールもまた疎水性です。
∗3 イソプレン(C5)ユニットが2個連結した炭素数10個(C5×2)のテルペノイド化合物です。
∗4 モノテルペン構造に官能基としてヒドロキシ基(水酸基:-OH)が結合した化合物の総称です。
1.2. 分布
リナロールは、自然界において「d-リナロール:D体」と「l-リナロール:L体」の両方が存在し、D体はボア・ド・ローズ油(85-90%含有)、リナロエ油(60-75%含有)、コリアンダー油、オレンジ油などに、L体は芳樟葉油(85-90%含有)、ベルガモット油、レモン油などをはじめ多くの果実、野菜、スパイス類、コーヒー、茶などの香気成分中に存在しています[4a]。
1.3. 化粧品以外の主な用途
リナロールの化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
---|---|
食品 | レモンやオレンジなどの果実フレーバーとして着香目的で菓子類、清涼飲料などに広く用いられています[5]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- スズラン様花香の賦香
主にこれらの目的で、口紅製品、香水、ボディ&ハンドケア製品、スキンケア製品、クレンジング製品、アウトバストリートメント製品、トリートメント製品、シャンプー製品、ボディソープ製品、マスク製品、ボディ石鹸など様々な製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. スズラン様花香の賦香
スズラン様花香の賦香(∗5)に関しては、リナロールはスズラン様花香調(∗6)香気を有していることから、フローラル系調合香料として広く使用されています[4b][6]。
∗5 賦香(ふこう)とは、香りを付けるという意味です。
∗6 香調とは、香料分野においてはノート(note)とも呼ばれ、香りのタイプを意味します。リナロールは花の香りを有していることからフローラルノート(Floral note:花香調)に分類されます。
また、調合香料はそれらの揮発性から、
揮発性 | 分類 | 解説 | 保留時間 | 香調 |
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高
↑ 低 |
トップ ノート |
最初に感じ、そのものを印象づける香気 | 約30分 | シトラス グリーン フルーティ- ハーバル |
ミドル ノート |
香りの中心となる中盤に感じる香気 | 数時間 | フローラル | |
ラスト ノート |
最後まで残る重量感のある香気 | 数日-数週間 | ウッディ アンバー ムスク バルサム |
これら3つのステージに分類して表現されることが多く[7][8]、リナロールは中程度の揮発性のミドルノートであることから、香気の保留性(持続性)もあり、トップノートが揮発した後にとって代わる中心的な香気を担うのが特徴です[9]。
3. 安全性評価
- 食品添加物の指定添加物リストに収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 40年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:濃度20%以下においてほとんどなし
- 皮膚刺激性(皮膚炎を有する場合):濃度0.4%以下においてほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):濃度20%以下においてほとんどなし
- 皮膚感作性(皮膚炎を有する場合):濃度5%以下または酸化していないリナロールにおいてほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
3.1. 皮膚刺激性
Research Institute for Fragrance Materialsの安全性データ[10a]によると、
– 健常皮膚を有する場合 –
- [ヒト試験] 28名の被検者に20%リナロールを含むワセリンを48時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚刺激性を評価したところ、この試験物質は非刺激剤に分類された(Fujii et al,1972)
- [ヒト試験] 30名の被検者に2%リナロールを含む軟膏を24-72時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚刺激性を評価したところ、この試験物質は非刺激剤に分類された(Fujii et al,1972)
- [ヒト試験] 32名の被検者に4%リナロールを含むワセリンを48時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚刺激性を評価したところ、この試験物質は非刺激剤に分類された(Research Institute for Fragrance Materials,1976)
- [ヒト試験] 84名の被検者に0.05%-0.5%リナロールを含むクリームを24-48時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去30分後に皮膚刺激性を評価したところ、この試験物質は非刺激剤に分類された(Takenaka et al,1986)
– 皮膚炎を有する場合 –
- [ヒト試験] 皮膚炎を有する84名の患者に0.4%リナロールを含むエタノールを24-48時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚刺激性を評価したところ、この試験物質は非刺激剤に分類された(Fujii et al,1972)
このように記載されており、試験データをみるかぎり健常皮膚を有する場合かつ濃度20%以下において共通して皮膚刺激なしと報告されているため、一般に健常皮膚を有する場合かつ濃度20%以下において皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。
皮膚炎を有する場合は、濃度0.4%以下において皮膚刺激なしと報告されているため、一般に皮膚炎を有する場合かつ濃度0.4%以下において皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。
3.2. 眼刺激性
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。
3.3. 皮膚感作性(アレルギー性)
Research Institute for Fragrance Materialsの安全性データ[10b]によると、
– 健常皮膚を有する場合 –
- [ヒト試験] 25名の被検者に20%リナロールを含むワセリンを対象にmaximization皮膚感作性試験を実施したところ、この試験物質は非感作剤に分類された(Research Institute for Fragrance Materials,1970)
- [ヒト試験] 25名の被検者に8%リナロール製剤を対象にmaximization皮膚感作性試験を実施したところ、この試験物質は非感作剤に分類された(Greif,1967)
- [ヒト試験] 25名の被検者に20%リナロール製剤を対象にmaximization皮膚感作性試験を実施したところ、この試験物質は非感作剤に分類された(Ishihara et al,1986)
– 皮膚炎を有する場合 –
- [ヒト試験] 化粧品アレルギーを有する179名の患者に30%リナロールを含むワセリンを対象にパッチテストを実施したところ、いずれの患者も皮膚反応を示さなかった(De Groot et al,1985)
- [ヒト試験] 化粧品アレルギーを有する119名の患者に10%リナロールを含むワセリンを対象にパッチテストを実施したところ、1名の患者が陽性反応を示した(De Groot et al,1988)
- [ヒト試験] 接触性皮膚炎を有する1,200名の患者に5%リナロールを含むワセリンを対象にパッチテストを実施したところ、いずれの患者も皮膚反応を示さなかった(Santucci et al,1987)
- [ヒト試験] 香料に過敏な皮膚反応を有する218名の患者に5%リナロールを含むワセリンを対象にパッチテストを実施したところ、いずれの患者も皮膚反応を示さなかった(Larsen et al,2002)
- [ヒト試験] 皮膚炎を有する1,511名の患者にリナロール製剤(濃度不明)を対象にパッチテストを実施したところ、酸化リナロールに20名(1.3%)が、リナロール・ヒドロペルオキシドに16名(1.1%)が陽性反応を示し、酸化していないリナロールは非常に弱い感作剤であった(Matura et al,2005;Sköld et al,2005)
- [ヒト試験] 皮膚炎を有する1,511名の患者にリナロール製剤(濃度不明)を対象にパッチテストを実施したところ、酸化リナロールに25名(1.7%)が陽性反応を示した(Sköld et al,2006)
このように記載されており、試験データをみるかぎり健常皮膚を有する場合かつ濃度20%以下において共通して皮膚感作なしと報告されているため、一般に健常皮膚を有する場合かつ濃度20%以下において皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
皮膚炎を有する場合は、濃度5%以下または酸化していないリナロールにおいて共通して皮膚感作なしと報告されているため、一般に濃度5%以下または酸化していないリモネンの場合において皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
4. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「リナロール」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,1074.
- ⌃有機合成化学協会(1985)「リナロオール」有機化合物辞典,1081.
- ⌃池田 剛(2017)「モノテルペン」エッセンシャル天然薬物化学 第2版,120-124.
- ⌃ab合成香料編集委員会(2016)「リナロール」増補新版 合成香料 化学と商品知識,75-76.
- ⌃樋口 彰, 他(2019)「リナロオール」食品添加物事典 新訂第二版,377-378.
- ⌃奥田 治, 他(2000)「単離香料および合成香料」香料と化粧品の科学,31-49.
- ⌃兼井 典子(2003)「香りの化学」化学と教育(51)(2),86-88. DOI:10.20665/kakyoshi.51.2_86.
- ⌃長谷川香料株式会社(2013)「フレグランスの分類と原料」香料の科学,124-127.
- ⌃駒木 亮一(1993)「化粧品と香り」繊維製品消費科学(34)(5),208-213. DOI:10.11419/senshoshi1960.34.208.
- ⌃abD. Belsito, et al(2008)「A toxicologic and dermatologic assessment of cyclic and non-cyclic terpene alcohols when used as fragrance ingredients」Food and Chemical Toxicology(46)(11),S1-S71. DOI:10.1016/j.fct.2008.06.085.