ポリクオタニウム-39の基本情報・配合目的・安全性

ポリクオタニウム-39

化粧品表示名 ポリクオタニウム-39
医薬部外品表示名 アクリルアミド・アクリル酸・塩化ジメチルジアリルアンモニウム共重合体液
部外品表示別名 アクリル酸・塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリルアミドコポリマー液
INCI名 Polyquaternium-39
配合目的 起泡補助刺激緩和帯電防止

1. 基本情報

1.1. 定義

以下の化学式で表されるアクリル酸(∗1)、第四級アンモニウム塩であるジメチルジアリルアンモニウムクロリドおよびアクリルアミドを重合して得られる三元共重合体(∗2)(両性高分子)(∗3)です[1][2]

∗1 アクリル酸(化学式:CH2=CHCOOH)とは、最も簡単な不飽和カルボン酸であり、水、エタノール、エーテルに易溶です。アクリル酸は適当な重合開始剤または酵素などの作用により容易に重合し、ポリアクリル酸となります。この重合体はカルボキシ基を多数もつことから非常に親水性が高くなります。

∗2 重合体とは、複数の単量体(モノマー:monomer)が繰り返し結合し、鎖状や網状にまとまって機能する多量体(ポリマー:polymer)のことを指し、2種類以上の単量体(モノマー:monomer)がつながってできているものを共重合体(copolymer:コポリマー)とよびます。またポリクオタニウム-39は3種類の単量体の共重合体であり、3種類の単量体の共重合体は三元共重合体(terpolymer:ターポリマー)ともよびます。

∗3 両性高分子とは、分子内に分子内に陰イオン界面活性能(アニオン性)と陽イオン界面活性能(カチオン性)を併せ持った高分子化合物(ポリマー:polymer)のことです。

ポリクオタニウム-39

1.2. 性状

ポリクオタニウム-39の性状は、

状態 無色-淡黄色の粘性液体

このように報告されています[3a][4a]

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • 起泡力および泡密度の増強
  • 刺激緩和作用
  • 帯電防止効果

主にこれらの目的で、洗顔料、洗顔石鹸、ボディソープ製品、シャンプー製品、クレンジング製品、アウトバストリートメント製品、コンディショナー製品、トリートメント製品などに使用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. 起泡力および泡密度の増強

起泡力および泡密度の増強に関しては、ポリクオタニウム-39は両性高分子であり、広範囲のイオン性およびpHに適応し、洗浄剤の泡立ちを良くするとともに泡密度を増強(よりクリーミィな泡を生成)することから[3b][4b]、主に洗顔料、洗顔石鹸、ボディソープ製品、シャンプー製品、クレンジング製品などに使用されています。

2.2. 刺激緩和作用

刺激緩和作用に関しては、ポリクオタニウム-39は両性高分子であり、液体洗浄系製品の皮膚に対する刺激を緩和・軽減する作用が認められていることから[3c]、主にシャンプー製品、ボディソープ製品などに使用されています。

2.3. 帯電防止効果

帯電防止効果に関しては、まず前提知識として帯電防止について解説します。

以下の図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、

毛髪状態の違い

パーマやブリーチ処理、紫外線などによってダメージを受けた毛髪やシャンプーをすすいだ毛髪は負(-:マイナス)に帯電し、キューティクルの鱗片が開いていますが、帯電防止成分は正(+:プラス)の電荷をもつことから負に帯電した毛髪に吸着し、キューティクル表面に溜まった負(-:マイナス)の電荷を中和することにより隣接するキューティクル同士の静電反発を低減する(静電気の発生を抑制する)ことが知られています[5a][6][7]

そして、その結果としてキューティクルが平に寝るようになり、きしみやキューティクルの摩擦抵抗が抑えられ、シャンプー後の毛髪の滑り性が改善するとともにもつれや絡まりを防ぐことが知られています[5b]

ポリクオタニウム-39は両性高分子であり、毛髪の表面に吸着し静電気を抑制してパサつきを抑え、乾燥した毛髪に対して良好な櫛通り性を付与することから[3d][4c]、主にアウトバストリートメント製品、コンディショナー製品、トリートメント製品などに使用されています。

3. 配合製品数および配合量範囲

アクリルアミド・アクリル酸・塩化ジメチルジアリルアンモニウム共重合体液は、医薬部外品(薬用化粧品)への配合において配合上限があり、配合範囲は以下になります。

種類 配合量
薬用石けん・シャンプー・リンス等、除毛剤 5.0
育毛剤 5.0
その他の薬用化粧品、腋臭防止剤、忌避剤 5.0
薬用口唇類 配合不可
薬用歯みがき類 配合不可
浴用剤 配合不可
パーマネント・ウェーブ用剤 5.0

実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2011年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗4)

∗4 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。

ポリクオタニウム-39の配合製品数と配合量の比較調査結果(2011年)

4. 安全性評価

ポリクオタニウム-39の現時点での安全性は、

  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 20年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:ほとんどなし
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
  • 発がん性:なし

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[8a]によると、

  • [ヒト試験] 154名の被検者にポリクオタニウム-39を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、誘導期間において2名の被検者に無視できる程度の紅斑がそれぞれ1および2回みられたが、試験期間を通じて他のいずれの被検者においても有害な皮膚反応がみられず、この試験物質は実質的に皮膚刺激および皮膚感作を誘発しないと結論付けられた(Product Investigations Inc,1994)
  • [動物試験] 6匹のウサギの健常な皮膚にポリクオタニウム-39を対象に皮膚刺激性試験を実施したところ、PII(Primary Irritation Index:皮膚一次刺激性指数)は0であり、この試験物質は非刺激剤に分類された(MB Research laboratories Inc,1991)

このように、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

4.2. 眼刺激性

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[8b]によると、

  • [動物試験] 6匹のウサギの眼にポリクオタニウム-39を点眼し、点眼後に眼刺激性を評価したところ、いずれのウサギの眼も刺激反応はなく、試験期間を通じて正常であり、この試験物質はウサギの眼に対して非刺激剤に分類された(MB Research laboratories Inc,1991)

このように報告されており、試験データをみるかぎり眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。

4.3. 発がん性

ポリクオタニウム-39は、アクリル酸、第四級アンモニウム塩であるジメチルジアリルアンモニウムクロリドおよびアクリルアミドを重合して得られる共重合体ですが、このうちアクリルアミドは大量に食べたり、吸ったり、触れたりした場合に神経障害を起こすことが確認されているほか、IARC(International Agency for Research on Cancer:国際がん研究機関)ではグループ2A(動物実験の結果からヒトにおそらく発がん性がある物質)に分類されています[9a][10a]

また、スウェーデン食品庁とストックホルム大学が、揚げたり、焼いたりした馬鈴薯加工品(ポテトチップスやフライドポテトなど)などに、おそらく発がん性があるアクリルアミドが高濃度に含まれる可能性があることを2002年に世界で初めて発表し、これを機に欧米諸国を中心として食品に関するアクリルアミドの調査研究やアクリルアミドを低減するための取組みが進められている実態があります[9b][10b]

こういった情報を背景に、アクリルアミドを含むポリクオタニウム-39にも発がん性リスクの懸念が推測されるかもしれませんが、健康への影響および発がん性が問題となるのはあくまでも単量体(分子1個)のアクリルアミドのみです。

高分子であるポリクオタニウム-39は構造的に有意に吸収されないこと、アクリルアミドが不純物として存在することはあるが1ppm未満と以前に確立された制限を大幅に下回っており毒性学的意義がないことから、2016年に化粧品において現在の配合量範囲および通常使用下において安全に使用できるとの結論が報告されています[8c]

5. 参考文献

  1. 日本化粧品工業連合会(2013)「ポリクオタニウム-39」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,911.
  2. J. Jachowicz(2004)「Co(Diallyldimethyl Ammonium Chloride-Acrylic Acid-Acrylamide)」Analysis of Polymers for Cosmetics,199-200.
  3. abcdLubrizol Advanced Materials, Inc.(2020)「Conditioning Polymer」Product Catalog,32.
  4. abcセンカ株式会社(2021)「コスモートVシリーズ」製品データシート.
  5. abデール・H・ジョンソン(2011)「コンディショニング剤」ヘアケアサイエンス入門,81-99.
  6. 佐藤 直紀(2006)「シャンプー・リンスの機能と最新の技術」機能性化粧品の開発Ⅱ,109-122.
  7. 田村 健夫・廣田 博(2001)「ヘアリンスの主剤とその作用」香粧品科学 理論と実際 第4版,456-460.
  8. abcW. Johnson Jr(2016)「Safety Assessment of Polyquaternium-22 and Polyquarternium-39 as Used in Cosmetics」International Journal of Toxicology(35)(3_Suppl),47S-53S. DOI:10.1177/1091581816669116.
  9. ab農林水産省(2018)「アクリルアミドとは何か」,2023年3月21日アクセス.
  10. ab農林水産省(2018)「アクリルアミドの健康影響」,2023年3月21日アクセス.

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