旧表示指定成分の解説と旧表示指定成分一覧
「旧表示指定成分」とは、消費者が医師からの情報をもとにアレルギー等の皮膚障害を起こすおそれのある製品の使用を自ら避けることを目的として1980年に厚生省(現 厚生労働省)によって指定された成分を指します[1a]。
ここでは現在における旧表示指定成分(表示指定成分)の変遷と捉え方を解説し、その後に旧表示指定成分一覧を掲載しておきます。
1. 旧表示指定成分の変遷とその捉え方
「旧表示指定成分」とは、体質によってアレルギーなど皮膚障害を起こすおそれのある成分を指しますが、理解を深めるために前提知識として食品のアレルギー表示について解説します。
食品には、食物アレルギー症状を引き起こすことが明らかになった食品のうち、特に発症数、重篤度から勘案して表示する必要性の高いものを「特定原材料」として表示が義務化されており、以下の7品目のいずれかを含む場合に製品のパッケージまたは包装に明記する必要があります[2a]。
品目 | |
---|---|
特定原材料 | えび、かに、小麦、そば、卵、乳、落花生(ピーナッツ) |
また、食物アレルギー症状を引き起こすことが明らかになった食品のうち、症例数や重篤な症状を呈する者の数が継続して相当数みられるが、特定原材料に比べると少ないものとして可能な限り表示することが推奨されたものを「特定原材料に準ずるもの」として、こちらは表示が義務化されていないものの可能な限り表示することが推奨されており、以下の21品目のいずれかを含む場合に製品のパッケージまたは包装に明記することが推奨されています[2b]。
品目 | |
---|---|
特定原材料に準ずるもの | アーモンド、あわび、いか、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、ごま、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン |
食品においては「特定原材料(表示義務)」と「特定原材料に準ずるもの(表示推奨)」の2段階に分類して表示が定められており、これらを食品のパッケージまたは包装に表示しておくことで、アレルギーを有する消費者がそれらの表示を見つけて使用を避けることができます。
その一方で、これらの食品にアレルギーをもたない消費者においては、アレルギーを目的にこれらの表示原材料を避ける必要がないことも体験的に理解してもらえると思います。
化粧品においては、2000年以前は化粧品に全成分表示が義務付けられておらず、その中で消費者が医師からの情報をもとにアレルギー等の皮膚障害を起こすおそれのある製品の使用を自ら避けることを目的に、1980年に厚生省(現 厚生労働省)によって告示された成分を「表示指定成分」とし、表示指定成分を化粧品に配合するときは容器または包装に明記することが義務付けられていました。
2001年4月には、製品に配合した全成分の表示が義務付けられたことから[1b]、表示指定成分の表示は廃止され、これらに指定された成分は現在「旧表示指定成分」と呼ばれています。
「旧表示指定成分」といっても実質的な安全性はそれぞれに異なっており、全成分表示の義務化以降の安全性が重視された化粧品市場において、皮膚障害の報告が比較的多いなど問題のある成分はほとんど使用されなくなる一方で、品質の向上、安全性データの蓄積および使用実績などを背景に、定められた配合範囲において安全性に問題がほとんどないと判断されたものに関しては、現在も化粧品に欠かせない成分として使用され続けています。
このような背景から、「旧表示指定成分」は、食品のアレルギーと同様にそれらの成分にアレルギーをもつ消費者は避けるべきである一方で、それらにアレルギーをもたない消費者にとっては安全性に問題なく使用できる成分であるという理解・解釈がより正確であると考えられます。
ただし、最初はそれらの成分にアレルギー反応または他の皮膚トラブルが起こるかどうかわからないため、二の腕などに製品を塗布し、48時間経過後に塗布箇所に発赤、腫れ、かゆみなどの皮膚反応(異変)が起こっていないか確認し、問題がなければ使用するという簡易的な自己アレルギーテストを実施することを推奨します。
皮膚反応(異変)が起こった場合は、すぐに塗布部位を洗浄し、それ以後の使用を控えることを推奨します。
アレルギー科またはアレルギー専門クリニックなどで専門的なアレルギーテストを受けることで、多くの場合は原因物質を特定することが可能です。
2. 参考文献
- ⌃ab厚生省(2000)医薬発第990号.
- ⌃ab“食品衛生の窓”(-)「一般用加工食品(アレルゲン)」,2021年11月13日アクセス.
3. 旧表示指定成分一覧
同じ成分であっても、旧表示指定成分における表示名称と、全成分表示が義務付けられてからの表示名称が異なる場合があり、以下の表には「旧表示指定成分における表示名称」と「全成分表示における表示名称」の両方を記載しています。
成分名末尾の「○」には数字またはアルファベットが入ります。
No. | 旧表示指定成分での表示名称 | 全成分表示での表示名称 | 主な用途 |
---|---|---|---|
001 | 安息香酸及びその塩類 | 安息香酸及び安息香酸○ | 防腐殺菌剤 |
002 | イクタモール | イクタモール | 収れん剤 |
003 | イソプロピルメチルフェノール | シメン-5-オール | 防腐殺菌剤 |
004 | ウンデシレン酸及びその塩類 | ウンデシレン酸及びウンデシレン酸○ | 防腐殺菌剤 |
005 | ウンデシレン酸モノエタノールアミド | ウンデシレナミドMEA | 防腐殺菌剤 |
006 | エデト酸及びその塩類 | EDTA及びEDTA-○ | 金属イオン封鎖剤 |
007 | 塩化アルキルトリメチルアンモニウム | ベヘントリモニウムクロリド | 界面活性剤 (帯電防止剤) |
008 | 塩化ジステアリルジメチルアンモニウム | ジステアリルジモニウムクロリド | 界面活性剤 (帯電防止剤) |
009 | 塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム | ステアラルコニウムクロリド | 界面活性剤 (帯電防止剤) |
010 | 塩化ステアリルトリメチルアンモニウム | ステアルトリモニウムクロリド | 界面活性剤 (帯電防止剤) |
011 | 塩化セチルトリメチルアンモニウム | セトリモニウムクロリド | 界面活性剤など |
012 | 塩化セチルピリジニウム | セチルピリジニウムクロリド | 界面活性剤 (防腐殺菌剤) |
013 | 塩化ベンザルコニウム | ベンザルコニウムクロリド | 界面活性剤 (防腐殺菌剤) |
014 | 塩化ベンゼトニウム | ベンゼトニウムクロリド | 界面活性剤 (防腐殺菌剤) |
015 | 塩化ラウリルトリメチルアンモニウム | ラウリルトリモニウムクロリド | 界面活性剤 |
016 | 塩化リゾチーム | 塩化リゾチーム | 酵素類 |
017 | 塩酸アルキルジアミノエチルグリシン | アルキル(C12-14)ジアミノエチルグリシンHCl | 界面活性剤 (防腐殺菌剤) |
018 | 塩酸クロルヘキシジン | クロルヘキシジン2HCl | 防腐殺菌剤 |
019 | 塩酸ジフェンヒドラミン | ジフェンヒドラミンHCl | 消炎剤 |
020 | オキシベンゾン | オキシベンゾン-3 | 紫外線吸収剤、 安定化剤 |
021 | オルトフェニルフェノール | フェニルフェノール | 防腐殺菌剤 |
022 | カテコール | カテコール | 抗酸化剤など |
023 | カンタリスチンキ | マメハンミョウエキス | 毛根刺激剤 |
024 | グアイアズレン | グアイアズレン | 紫外線吸収剤、 消炎剤 |
025 | グアイアズレンスルホン酸ナトリウム | グアイアズレンスルホン酸Na | 消炎剤 |
026 | グルコン酸クロルヘキシジン | グルコン酸クロルヘキシジン | 防腐殺菌剤 |
027 | クレゾール | クレゾール | 防腐殺菌剤 |
028 | クロラミンT | クロラミンT | 防腐殺菌剤 |
029 | クロルキシレノール | クロルキシレノール | 防腐殺菌剤 |
030 | クロルクレゾール | クロルクレゾール | 防腐殺菌剤 |
031 | クロルフェネシン | クロルフェネシン | 防腐殺菌剤 |
032 | クロロブタノール | クロロブタノール | 防腐殺菌剤 |
033 | 5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン | メチルクロロイソチアゾリノン | 防腐殺菌剤 |
034 | 酢酸dl-α-トコフェロール | 酢酸トコフェロール | 抗酸化剤など |
035 | 酢酸ポリオキシエチレンラノリンアルコール | 酢酸ラネス-9, 酢酸ラネス-10 |
界面活性剤 |
036 | 酢酸ラノリン | 酢酸ラノリン | 基剤 |
037 | 酢酸ラノリンアルコール | 酢酸ラノリンアルコール | 基剤 |
038 | サリチル酸及びその塩類 | サリチル酸及びサリチル酸○ | 防腐殺菌剤 |
039 | サリチル酸フェニル | サリチル酸フェニル | 紫外線吸収剤 |
040 | ジイソプロパノールアミン | DIPA | 中和剤 |
041 | ジエタノールアミン | DEA | 中和剤 |
042 | シノキサート | シノキサート | 紫外線吸収剤 |
043 | ジブチルヒドロキシトルエン | BHT | 抗酸化剤 |
044 | 1,3-ジメチロール-5,5-ジメチルヒダントイン | DMDMヒダントイン | 防腐剤 |
045 | 臭化アルキルイソキノリニウム | ラウリルイソキノリニウムブロミド | 界面活性剤 (防腐殺菌剤) |
046 | 臭化セチルトリメチルアンモニウム | セトリモニウムブロミド | 界面活性剤 |
047 | 臭化ドミフェン | 臭化ドミフェン | 界面活性剤、 防腐殺菌剤 |
048 | ショウキョウチンキ | ショウキョウエキス | 毛根刺激剤 |
049 | ステアリルアルコール | ステアリルアルコール | 基剤・乳化安定助剤 |
050 | セタノール | セタノール | 基剤・乳化安定助剤 |
051 | セチル硫酸ナトリウム | セチル硫酸Na | 界面活性剤 |
052 | セトステアリルアルコール | セテアリルアルコール | 基剤 |
053 | セラック | セラック | 皮膜形成剤 |
054 | ソルビン酸及びその塩類 | ソルビン酸及びソルビン酸○ | 防腐殺菌剤 |
055 | チモール | チモール | 防腐殺菌剤 |
056 | 直鎖型アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム | ドデシルベンゼンスルホン酸○ | 界面活性剤 (洗浄剤) |
057 | チラム | チラム | 防腐殺菌剤 |
058 | デヒドロ酢酸及びその塩類 | デヒドロ酢酸○ | 防腐殺菌剤 |
059 | 天然ゴムラテックス | ゴムラテックス | 基剤・接着剤 |
060 | トウガラシチンキ | トウガラシエキス及びトウガラシ果実エキス | 毛根刺激剤 |
061 | dl-α-トコフェロール | トコフェロール | 抗酸化剤など |
062 | トラガント | トラガント | 増粘剤 |
063 | トリイソプロパノールアミン | TIPA | 中和剤 |
064 | トリエタノールアミン | TEA | 中和剤 |
065 | トリクロサン | トリクロサン | 防腐殺菌剤 |
066 | トリクロロカルバニリド | トリクロカルバン | 防腐殺菌剤 |
067 | ニコチン酸ベンジル | ニコチン酸ベンジル | 消炎剤 |
068 | ノニル酸バニリルアミド | ヒドロキシメトキシベンジルペラルゴナミド | 毛根刺激剤 |
069 | パラアミノ安息香酸エステル | ○PABA | 紫外線吸収剤 |
070 | パラオキシ安息香酸エステル | パラベン | 殺菌防腐剤 |
071 | パラクロルフェノール | クロロフェノール | 防腐殺菌剤 |
072 | パラフェノールスルホン酸亜鉛 | フェノールスルホン酸亜鉛 | 収れん剤 |
073 | ハロカルバン | クロフルカルバン | 防腐殺菌剤 |
074 | 2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール | ドロメトリゾール | 紫外線吸収剤 |
075 | ピロガロール | ピロガロール | 色材原料、 防腐殺菌剤 |
076 | フェノール | フェノール | 防腐殺菌剤 |
077 | ブチルヒドロキシアニソール | BHA | 抗酸化剤 |
078 | プロピレングリコール | PG | 保湿剤など |
079 | ヘキサクロロフェン | ヘキサクロロフェン | 防腐殺菌剤 |
080 | ベンジルアルコール | ベンジルアルコール | 調合香料の原料など |
081 | 没食子酸プロピル | 没食子酸プロピル | 抗酸化剤 |
082 | ポリエチレングリコール (平均分子量が600以下の物) |
PEG-○(○は12以下) | 基剤 |
083 | ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩類 | ラウレス硫酸○ | 界面活性剤 |
084 | ポリオキシエチレンラノリン | PEG-○ラノリン | 界面活性剤 |
085 | ポリオキシエチレンラノリンアルコール | ラネス-○ | 界面活性剤 |
086 | ホルモン | エストラジオール、 エストロン(エチニルエストラジオール) |
ホルモン |
087 | ミリスチン酸イソプロピル | ミリスチン酸イソプロピル | 基剤 |
088 | 2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン | メチルイソチアゾリノン | 殺菌防腐剤 |
089 | NN”-メチレンビス[N’-(3-ヒドロキシメチル-2.5-ジオキソ-4-イミダゾリジニル)ウレア] (別名:イミダゾリジニルウレア) |
イミダゾリジニルウレア | 防腐剤 |
090 | ラウリル硫酸塩類 | ラウリル硫酸○ | 界面活性剤 |
091 | ラウロイルサルコシンナトリウム | ラウロイルサルコシンNa | 界面活性剤 (殺菌・防腐剤) |
092 | ラノリン | ラノリン | 基剤 |
093 | 液状ラノリン | 液状ラノリン | 基剤 |
094 | 還元ラノリン | 水添ラノリン | 基剤 |
095 | 硬質ラノリン | ラノリンロウ | 基剤 |
096 | ラノリンアルコール | ラノリンアルコール | 基剤 |
097 | 水素添加ラノリンアルコール | 水添ラノリンアルコール | 基剤 |
098 | ラノリン脂肪酸イソプロピル | ラノリン脂肪酸イソプロピル | 基剤 |
099 | ラノリン脂肪酸ポリエチレングリコール | ラノリン脂肪酸PEG-○ | 基剤 |
100 | レゾルシン | レゾルシン | 殺菌防腐剤 |
101 | ロジン | ロジン | 粘着剤、 皮膜形成剤 |
102 | 医薬品等に使用することができるタール色素を定める省令(昭和41年厚生省令第30号)に掲げるタール色素 | 化粧品用色材 |