(トシルアミド/ホルムアルデヒド)樹脂の基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | (トシルアミド/ホルムアルデヒド)樹脂 |
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INCI名 | Tosylamide/Formaldehyde Resin |
配合目的 | 皮膜形成 |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表されるトルエンスルホンアミドとホルムアルデヒドから得られる重合体(∗1)(トルエンスルホンアミド樹脂)です[1a][2a]。
∗1 重合体とは、複数の単量体(モノマー:monomer)が繰り返し結合し、鎖状や網状にまとまって機能する多量体(ポリマー:polymer)のことを指し、2種類以上の単量体(モノマー:monomer)がつながってできているものを共重合体(copolymer:コポリマー)とよびます。
1.2. 性状
(トシルアミド/ホルムアルデヒド)樹脂の性状は、
状態 | 固体 |
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このように報告されています[3a]。
2. 化粧品としての配合目的
- 皮膜形成
主にこれらの目的で、ネイル製品に使用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 皮膜形成
皮膜形成に関しては、(トシルアミド/ホルムアルデヒド)樹脂はネイルエナメルの主成分として用いられるニトロセルロースとの相溶性がよく、製品の流動性を向上させて爪への塗りやすさが増すと同時に爪への密着性を増し、光沢および耐水性を有した皮膜を形成することから、皮膜を形成する目的でネイル製品に使用されています[1b][3b][4a]。
3. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の1986年および2002-2004年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
4. 安全性評価
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし-わずか
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
- 光毒性(光刺激性):ほとんどなし
- 光感作性:ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[2b]によると、
- [ヒト試験] 50名の被検者の無傷および擦過した皮膚に10%(トシルアミド/ホルムアルデヒド)樹脂を含むジメチルフタレート溶液を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、この試験物質は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(Industrial Biology Research and Testing Laboratories,1985)
- [ヒト試験] 18名の被検者に9.6%(トシルアミド/ホルムアルデヒド)樹脂を含むネイルエナメル溶液を単回閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚刺激性を評価したところ、この試験物質は皮膚刺激剤ではなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1980)
- [ヒト試験] 97名の被検者に6%(トシルアミド/ホルムアルデヒド)樹脂を含むネイルストレングスナー溶液を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、誘導期間において2名の被検者で軽度の紅斑がみられたが、試験期間を通じていずれの被検者も皮膚感作反応はみられなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1978)
- [ヒト試験] 148名の被検者に5%(トシルアミド/ホルムアルデヒド)樹脂を含むネイルカラー溶液を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、試験期間を通じていずれの被検者においても皮膚刺激および皮膚感作反応はみられなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1980)
- [ヒト試験] 8,093名の患者に様々な化粧品成分を対象に48時間パッチテストを実施したところ、16名の患者は(トシルアミド/ホルムアルデヒド)樹脂(濃度不明)に皮膚反応を示した(H.J. Eiermann et al,1982)
– 個別事例 –
- [個別事例] (トシルアミド/ホルムアルデヒド)樹脂を含む様々なネイルラッカーを使用した3名の女性が首、顔および/またはまぶたに皮膚炎を発症したため、パッチテストを実施したところ、いずれの女性も(トシルアミド/ホルムアルデヒド)樹脂に陽性反応を示した(A. Fisher,1981)
このように記載されており、試験データをみるかぎりほとんど共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
個別事例において皮膚感作が発症した要因については、(トシルアミド/ホルムアルデヒド)樹脂は乾燥させた状態では皮膚に対する感受性が低下し、アレルゲンとしては非常に弱くなりますが、乾燥するまでの液状では指や足の爪領域で感作が起こることはめったにないものの、皮膚に触れると接触感作の原因物質となる可能性があると考えられており[2c]、個別の症例はこれに該当すると感がえられます。
4.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[2d]によると、
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼に(トシルアミド/ホルムアルデヒド)樹脂粉末100mgを適用し、眼はすすがず、適用1,24,48および72時間に眼刺激性を評価したところ、1,24および48時間で結膜の軽度の紅斑および軽度-中程度のめやにがみられたが、72時間ですべて解消された。角膜および虹彩への影響は認められなかった。この試験物質はわずかな眼刺激剤であると結論づけられた(Younger Laboratories Inc,1974)
- [動物試験] 3匹のウサギの片眼に80%(トシルアミド/ホルムアルデヒド)を含むブチルアルコールおよび酢酸ブチル混合液0.1mLを点眼し、点眼1,24,48および72時間に眼刺激性を評価したところ、1,24および48時間で結膜のわずかな紅斑およびめやにがみられたが、72時間ですべて解消された。角膜および虹彩への影響は認められなかった。この試験条件下においてこの試験物質はわずかな眼刺激剤であると結論づけられた(Younger Laboratories Inc,1974)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通してわずかな眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は非刺激-わずかな眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
4.3. 光毒性(光刺激性)および光感作性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[2e]によると、
- [ヒト試験] 30名の被検者に7%(トシルアミド/ホルムアルデヒド)樹脂を含むネイルカラー溶液を対象に光感作試験を伴うHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、この試験物質は光毒性剤および光感作剤ではなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association1,1979)
このように記載されており、試験データをみるかぎり光刺激および光感作なしと報告されているため、一般に光毒性(光刺激性)および光感作性はほとんどないと考えられます。
4.4. 安全性についての補足
トルエンスルホンアミド系樹脂は、国内においてホルマリンの溶出といった疑念からアレルギーや一次刺激性といった安全性の懸念がもたれたことから、業界の自主規制を背景に1972年から10年以上使用されていなかった時期がありましたが、1986年に欧米からの要請もあり、安全性データやホルマリン試験法の結果などをもとに厚生省で審議された結果、爪エナメルに限って使用することは問題ないと結論付けられ[4b][5]、現在に至るまで爪エナメルに限って問題なく使用されています。
5. 参考文献
- ⌃ab日本化粧品工業連合会(2013)「(トシルアミド/ホルムアルデヒド)樹脂」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,677-678.
- ⌃abcdeR.L. Elder(1986)「Final Report on the Safety Assessment of Toluenesulfonamide/Formaldehyde Resin」Journal of the American College of Toxicology(5)(5),471-490. DOI:10.3109/10915818609141921.
- ⌃abKCI Ltd.(2021)「Resin for nail polish」Catalogue,15.
- ⌃ab八木田 喜昭(1989)「メーキャップ化粧品の原材料基準」色材協会誌(62)(11),673-682. DOI:10.4011/shikizai1937.62.673.
- ⌃柴谷 順一・渡辺 博(1990)「最近の化粧品用樹脂の動向」色材協会誌(63)(4),217-225. DOI:10.4011/shikizai1937.63.217.