(アジピン酸/ネオペンチルグリコール/無水トリメリト酸)コポリマーの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | (アジピン酸/ネオペンチルグリコール/無水トリメリト酸)コポリマー |
---|---|
INCI名 | Adipic Acid/Neopentyl Glycol/Trimellitic Anhydride Copolymer |
配合目的 | 皮膜形成 |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表されるアジピン酸、ネオペンチルグリコールおよび無水トリメリト酸の共重合体(∗1)(オイルフリーアルキド樹脂:ポリエステル樹脂)(∗2)です[1a][2a]。
∗1 重合体とは、複数の単量体(モノマー:monomer)が繰り返し結合し、鎖状や網状にまとまって機能する多量体(ポリマー:polymer)のことを指し、2種類以上の単量体(モノマー:monomer)がつながってできているものを共重合体(copolymer:コポリマー)とよびます。
∗2 アルキド樹脂とは、一般的には塗料に用いられる樹脂で油変性アルキド樹脂を指し、油をまったく含まないアルキド樹脂をオイルフリーアルキド樹脂として区別しています。オイルフリーアルキド樹脂は、多価アルコールと多塩基酸から合成され、油変性アルキド樹脂より耐候性、耐薬品性、耐溶剤性に優れており、かつ光沢性の高い塗膜を形成します。(アジピン酸/ネオペンチルグリコール/無水トリメリト酸)コポリマーにおいてはアジピン酸と無水トリメリト酸が多塩基酸、ネオペンチルグリコールが多価アルコールです[3][4]。
1.2. 物性・性状
(アジピン酸/ネオペンチルグリコール/無水トリメリト酸)コポリマーの物性・性状は、
状態 | 透明の液体または固体 |
---|---|
溶解性 | 水に微溶、すべての一般的な溶剤に可溶 |
2. 化粧品としての配合目的
- 皮膜形成
主にこれらの目的で、ネイル製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 皮膜形成
皮膜形成に関しては、(アジピン酸/ネオペンチルグリコール/無水トリメリト酸)コポリマーはオイルフリーアルキド樹脂であり、優れた光沢と接着性を有する皮膜を形成することから、爪に均一な皮膜を形成する目的でネイル製品に汎用されています[1b][5b]。
3. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2015-2016年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗3)。
∗3 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
4. 安全性評価
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[2c]によると、
- [ヒト試験] 52名の被検者に3.85%(アジピン酸/ネオペンチルグリコール/無水トリメリト酸)コポリマー溶液をパッチ適用し、パッチ除去後に試験部位の皮膚反応を評価したところ、この試験物質は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(Anonymous,2015)
- [ヒト試験] 113名の被検者に7.98%(アジピン酸/ネオペンチルグリコール/無水トリメリト酸)コポリマー溶液0.2mLを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を半閉塞パッチにて実施したところ、誘導期間において数名の被検者にほとんど知覚できない皮膚反応がみられたが、この試験物質は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではないと結論づけられた(RCTS Inc,2011)
- [ヒト試験] 213名の被検者に10%(アジピン酸/ネオペンチルグリコール/無水トリメリト酸)コポリマー溶液を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を半閉塞パッチにて実施したところ、この試験物質は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではないと結論づけられた(Clinical Research Laboratories Inc,2011)
- [ヒト試験] 108名の被検者に15%(アジピン酸/ネオペンチルグリコール/無水トリメリト酸)コポリマー溶液0.2mLを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を半閉塞パッチにて実施したところ、この試験物質は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではないと結論づけられた(Clinical Research Laboratories Inc,2006)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
4.2. 眼刺激性
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。
5. 参考文献
- ⌃ab日本化粧品工業連合会(2013)「(アジピン酸/ネオペンチルグリコール/無水トリメリト酸)コポリマー」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,125.
- ⌃abcM.M. Fiume, et al, et al(2020)「Safety Assessment of Trimellitic Anhydride Copolymers as Used in Cosmetics」International Journal of Toxicology(39)(3_suppl),74S-92S. DOI:10.1177/1091581820958690.
- ⌃峯 繁夫(1976)「オイルフリーアルキド樹脂の現状と将来」色材協会誌(49)(5),297-302. DOI:10.4011/shikizai1937.49.297.
- ⌃外村 貞一(1991)「アルキド樹脂」色材協会誌(64)(8),537-547. DOI:10.4011/shikizai1937.64.537.
- ⌃abKCI Ltd.(2021)「Resin for nail polish」Catalogue,15.