セテアリルアルコールの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | セテアリルアルコール |
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医薬部外品表示名 | セトステアリルアルコール |
部外品表示簡略名 | セテアリルアルコール |
INCI名 | Cetearyl Alcohol |
配合目的 | 乳化安定化、感触改良、加脂肪 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表される、セタノールおよびステアリルアルコールで構成された一価アルコールかつ脂肪族アルコール(高級アルコール)の混合物(∗1)です[1]。
∗1 一般にステアリルアルコール50-70%とセタノール20-35%かまたはそれぞれ1:1の混合物です[2a]。
1.2. 物性
セテアリルアルコールの物性は、
融点(℃) | 沸点(℃) | 溶解性 |
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46-56 | – | 水に不溶、有機溶媒に可溶 |
1.3. 分布
セテアリルアルコールは、自然界においてマッコウ鯨油などに存在しています[2c]。
1.4. 化粧品以外の主な用途
セテアリルアルコールの化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
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医薬品 | 基剤、乳化、賦形目的の医薬品添加剤として経口剤、外用剤に用いられています[4]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 乳化安定化
- 粘稠性調整による感触改良
- 加脂肪
主にこれらの目的で、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ製品、化粧下地製品、日焼け止め製品、パック&マスク製品、コンディショナー製品、トリートメント製品、アウトバストリートメント製品、クレンジング製品、シャンプー製品、洗顔料、ヘアスタイリング製品、ネイル製品など様々な製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 乳化安定化
乳化安定化に関しては、セテアリルアルコールは乳化剤-高級アルコール-水の系においてその結晶がラメラ液晶構造を形成する温度条件下で網目状のゲル構造をとることから、O/W型乳化製品の経時的安定化目的でクリーム系製品、乳液、メイクアップ製品などに汎用されています[5a]。
セタノールやステアリルアルコールも同様の目的で用いられていますが、これらを単独で用いるよりも混合されたセテアリルアルコールのほうがその作用が強いと報告されています[5b]。
2.2. 粘稠性調整による感触改良
粘稠性調整による感触改良に関しては、セテアリルアルコールは油性基剤の粘稠性(∗2)を調整する感触調整目的でスティック系メイクアップ製品やクリーム系製品に使用されています[6]。
∗2 粘稠性(ねんちょうせい)とは、粘り(ねばり)のことであり、クリームや油性基剤の固さ・柔らかさを示します。粘稠性が高いほど固くなり、また流動性が低く(伸びにくく)なります。
2.3. 加脂肪
加脂肪に関しては、セテアリルアルコールは洗浄製品に加えることで泡をきめ細かくし、かつ過渡の脱脂を抑制することから[7][8][9]、皮膚・毛髪の保護を兼ねた泡質改善目的で主に洗顔料、シャンプー製品などに使用されています。
3. 混合原料としての配合目的
セテアリルアルコールは混合原料が開発されており、セテアリルアルコールと以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | Emulgade 1000 NI | HLB | 6.0 |
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構成成分 | セテアリルアルコール、セテアレス-20 | ||
特徴 | 稠度付与特性を有する非イオン性自己乳化剤 |
原料名 | Lanette N | HLB | 7.0 |
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構成成分 | セテアリルアルコール、セテアリル硫酸Na | ||
特徴 | アニオン性O/W型自己乳化剤 |
原料名 | Emulgade PL68/50 | HLB | 7.5 |
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構成成分 | セテアリルグルコシド、セテアリルアルコール | ||
特徴 | ラメラ構造の形成を促進する乳化剤 |
原料名 | Emulgade SE-PF | HLB | 8.5 |
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構成成分 | ステアリン酸グリセリル、セテアレス-20、セテアレス-12、セテアリルアルコール、パルミチン酸セチル | ||
特徴 | 稠度付与特性を有するO/W型自己乳化剤 |
原料名 | Emulgade F | HLB | 10.5 |
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構成成分 | セテアリルアルコール、PEG-40ヒマシ油、セテアリル硫酸Na | ||
特徴 | 稠度付与特性を有するアニオン性自己乳化剤 |
原料名 | EMULIUM KAPPA MB | HLB | 11.0 |
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構成成分 | (キャンデリラ/ホホバ/コメヌカ)ポリグリセリル-3エステルズ、ステアリン酸グリセリル、セテアリルアルコール、ステアロイルラクチレートNa | ||
特徴 | 保湿効果に優れ、リッチでクリーミィな感触を付与するO/W型乳化剤 |
原料名 | Emulgade CM |
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構成成分 | イソノナン酸セテアリル、セテアレス-20、セテアリルアルコール、ステアリン酸グリセリル、グリセリン、セテアレス-12、パルミチン酸セチル |
特徴 | O/W型エマルジョン濃縮物 |
原料名 | EMULIUM DOLCEA MB |
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構成成分 | セテアリルアルコール、ステアリン酸グリセリル、ホホバエステル、ヒマワリ種子ロウ、ステアロイルグルタミン酸Na、ポリグリセリン-3、水 |
特徴 | O/W型乳化剤 |
原料名 | SUPREME |
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構成成分 | コメヌカ油脂肪酸ポリグリセリル-3、セテアリルアルコール、ステアリン酸スクロース |
特徴 | 100%植物由来のO/W型乳化剤 |
原料名 | NATRAGEM EW |
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構成成分 | ステアリン酸グリセリル、(パルミチン酸/コハク酸)ポリグリセリル-6、セテアリルアルコール |
特徴 | べたつきが少なく感触のよいO/W型乳化剤 |
原料名 | MONTANOV 82 |
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構成成分 | セテアリルアルコール、ヤシ油アルキルグルコシド |
特徴 | あらゆる油性成分を安定に乳化するO/W型乳化剤 |
原料名 | Natura-Tec Crystal Cream |
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構成成分 | ポリステアリン酸スクロース、セテアリルアルコール、オリーブ油不けん化物 |
特徴 | スクロースエステルズとオリーブ油不けん化物をベースとしたO/W型乳化剤 |
原料名 | symbiomuls GC MB |
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構成成分 | クエン酸ステアリン酸グリセリル、セテアリルアルコール、カプリル酸グリセリル |
特徴 | 抗菌活性を高める効果により防腐剤の量を減らすことができるO/W型乳化剤 |
原料名 | Mimiskin |
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構成成分 | グリセリン、ミリスチン酸ミリスチル、セテアレス-12、ステアリン酸グリセリル、セテアリルアルコール、セチルリン酸K |
特徴 | べたつきのない通気性に優れた皮膜を形成するスキンコンディショニング剤 |
原料名 | Avocadol |
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構成成分 | ダイズ油、ダイズステロール、ラウリン酸ヘキシル、アボカド油、セテアリルアルコール |
特徴 | ステロールを豊富に含有する植物性バター |
原料名 | Biochemica Argan Shine |
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構成成分 | 水添野菜油、アルガニアスピノサ核油、セテアリルアルコール、アーモンド油 |
特徴 | アルガンオイル、水添野菜油、セテアリルアルコールおよびアーモンド油を混合した固形油脂 |
原料名 | CRODAFOS CP10 |
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構成成分 | セテス-10リン酸、セテアリルアルコール |
特徴 | 撥水性のある皮膚保護膜を形成するアニオン性乳化剤 |
原料名 | CRODAFOS CP20 |
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構成成分 | セテス-20リン酸、セテアリルアルコール |
特徴 | 撥水性のある皮膚保護膜を形成するとともに活性成分をすばやく放出するO/W型乳化剤 |
4. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の1988年および2005-2006年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
5. 安全性評価
- 薬添規2018規格の基準を満たした成分が収載される医薬品添加物規格2018に収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 40年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし-軽度
- 眼刺激性:ほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
5.1. 皮膚刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[3b]によると、
- [動物試験] 6匹のウサギに3%セテアリルアルコールを含むクリームを5日間にわたって8時間閉塞パッチ適用したところ、この試験物質は軽度の皮膚刺激剤に分類された(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1980)
このように記載されており、試験データをみるかぎり軽度の皮膚刺激が報告されているため、一般に皮膚刺激性は非刺激-軽度の皮膚刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
5.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[3c]によると、
- [動物試験] 9匹のウサギの片眼に3%セテアリルアルコールを含むクリーム0.1mLを点眼し、3匹のウサギは30秒後に眼をすすぎ、残りの6匹は眼をすすがず、点眼後に眼刺激性を評価したところ、この試験物質は非刺激剤に分類された(Stillmeadow Inc,1980)
このように記載されており、試験データをみるかぎり眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性ほとんどないと考えられます。
5.3. 皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[3d]によると、
- [ヒト試験] 25名の被検者に3%セテアリルアルコールを含むクリームを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、この試験物質は皮膚感作剤ではなかった(Ivy Research Laboratories Inc,1980)
このように記載されており、試験データをみるかぎり皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
6. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「セテアリルアルコール」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,602.
- ⌃abc田村 健夫・廣田 博(2001)「高級アルコール」香粧品科学 理論と実際 第4版,117-120.
- ⌃abcdR.L. Elder(1988)「Final Report on the Safety Assessment of Cetearyl Alcohol,Cetyl Alcohol, lsostearyl Alcohol,Myristyl Alcohol, and Behenyl Alcohol」Journal of the American College of Toxicology(7)(3),359-413. DOI:10.3109/10915818809023137.
- ⌃日本医薬品添加剤協会(2021)「セトステアリルアルコール」医薬品添加物事典2021,351-352.
- ⌃ab広田 博(1997)「一価アルコール」化粧品用油脂の科学,75-79.
- ⌃鈴木 一成(2012)「セトステアリルアルコール」化粧品成分用語事典2012,46-47.
- ⌃日油株式会社(2019)「高級アルコール」化粧品用・医薬品用製品カタログ,36.
- ⌃日光ケミカルズ株式会社(1982)「過脂肪剤」化粧品製剤実用便覧,17.
- ⌃田村 隆光(2009)「界面活性剤水溶液の泡膜特性」オレオサイエンス(9)(5),197-210. DOI:10.5650/oleoscience.9.197.