ステアリルアルコールの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名称 | ステアリルアルコール |
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医薬部外品表示名称 | ステアリルアルコール |
化粧品国際的表示名称(INCI名) | Stearyl Alcohol |
配合目的 | 乳化安定化、感触改良、加脂肪 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表される、炭素数18で構成された一価アルコールかつ脂肪族アルコール(高級アルコール)です[1]。
1.2. 物性
ステアリルアルコールの物性は、
融点(℃) | 沸点(℃) | 溶解性 |
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57 | 217(19mmHg) | 水に不溶、有機溶媒に可溶 |
1.3. 分布
ステアリルアルコールは、自然界において鯨油、ヤシ油、パーム核油などに存在しています[4a]。
1.4. 化粧品以外の主な用途
ステアリルアルコールの化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
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医薬品 | 界面活性剤、潤沢、基剤、結合、懸濁・懸濁化、コーティング、乳化、粘稠、賦形、溶剤、溶解目的の医薬品添加剤として経口剤、外用剤、歯科外用剤および口中用剤用などに用いられています[5]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 乳化安定化
- 粘稠性向上による感触改良
- 加脂肪
主にこれらの目的で、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ製品、化粧下地製品、コンディショナー製品、トリートメント製品、アウトバストリートメント製品、ヘアカラー製品、シャンプー製品、ヘアスタイリング製品など様々な製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 乳化安定化
乳化安定化に関しては、ステアリルアルコールは化学構造的に炭素数18(C18)からなる直鎖構造の末端にあるヒドロキシ基(-OH)が親水活性を与え、油相と水相の界面においてその界面膜を強靭なものとすることから、乳化製品の経時的安定化目的でクリーム系製品、乳液などに汎用されています[6a][7a]。
セタノールと比較して親油性がやや強いため、どちらかというとW/O型乳化に優れます[4b]。
2.2. 粘稠性向上による感触改良
粘稠性向上による感触改良に関しては、ステアリルアルコールはセタノールと比較して親油性がやや強く、油性基剤の粘稠性(∗1)を向上する感触調整目的でスティック系メイクアップ製品やクリーム系製品に使用されています[6b]。
∗1 粘稠性(ねんちょうせい)とは、粘り(ねばり)のことであり、クリームや油性基剤の固さ・柔らかさを示します。粘稠性が高いほど固くなり、また流動性が低く(伸びにくく)なります。
2.3. 加脂肪
加脂肪に関しては、ステアリルアルコールは洗浄製品に加えることで泡をきめ細かくし、かつ過渡の脱脂を抑制することから[7b][8][9][10]、皮膚・毛髪の保護を兼ねた泡質改善目的で主に洗顔料、シャンプー製品などに使用されています。
3. 混合原料としての配合目的
ステアリルアルコールは、混合原料が開発されており、ステアリルアルコールと以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | PolyAquol 2W |
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構成成分 | ステアリン酸ポリグリセリル-2、ステアリン酸グリセリル、ステアリルアルコール |
特徴 | 耐塩性を有し、液晶を形成するO/W型乳化剤 |
原料名 | CERASYNT WM |
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構成成分 | ステアリン酸グリセリル、ステアリルアルコール、ラウリル硫酸Na |
特徴 | O/W型乳化剤 |
原料名 | CERASYNT LP |
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構成成分 | 水、ステアリン酸グリコール、ラウレス硫酸Na、ヘキシレングリコール、ラウリル硫酸Na、グリセリン、ステアリルアルコール |
特徴 | パール光沢を付与するO/W型乳化剤 |
原料名 | Emulgade A6 |
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構成成分 | セテアレス-6、ステアリルアルコール |
特徴 | 非イオン性O/W型乳化剤 |
原料名 | NIKKOL WAX-230 |
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構成成分 | アラキデス-20、ステアリルアルコール |
特徴 | 非イオン自己乳化型ワックス |
原料名 | NIKKOL ニコムルス LC |
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構成成分 | ベヘニルアルコール、ステアリルアルコール、PEG-20フィトステロール、セタノール、フィトステロールズ、ステアリン酸グリセリル、水添レシチン、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル |
特徴 | 様々な油性成分を乳化し、皮膚上で細胞間脂質と類似の安定なラメラ型液晶構造を形成しバリア機能を発揮する複合O/W型乳化剤 |
原料名 | NIKKOL ニコムルス LC-EF |
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構成成分 | ベヘニルアルコール、ステアリルアルコール、フィトステロールズ、ステアリン酸グリセリル、ミリスチン酸ポリグリセリル-10、水添レシチン、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル |
特徴 | 皮膚上で細胞間脂質と類似の安定なラメラ型液晶構造を形成しバリア機能を発揮する複合O/W型乳化剤 |
原料名 | EMACOL CD-8111 |
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構成成分 | ステアリルアルコール、ベヘントリモニウムメトサルフェート、クオタニウム-33、テトラエチルヘキサン酸ペンタエリスリチル |
特徴 | クセ毛ケア用トリートメント基剤 |
原料名 | NIKKOL ヘアカラー乳化剤 R |
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構成成分 | ステアラミドプロピルジメチルアミン、ステアリルアルコール、セテス-20、セテス-2 |
特徴 | 染料本来の染色性を引き出すカラーリンス用乳化剤 |
4. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の1985年および2002-2003年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
5. 安全性評価
- 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 40年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし-軽度
- 眼刺激性:ほとんどなし-最小限
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
5.1. 皮膚刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[11a]によると、
- [ヒト試験] 80名の被検者に100%ステアリルアルコールを24時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚刺激性を評価したところ、1名の被検者に軽度の皮膚刺激がみられたが、他の被検者はいずれも皮膚刺激を示さなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1973)
- [ヒト試験] 824名の被検者に30%ステアリルアルコールを含む軟膏を単回パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚刺激性を評価したところ、6名の被検者に皮膚刺激がみられたが、他の被検者はいずれも皮膚刺激を示さなかった(North American Contact Dermatitis Group,1979)
- [ヒト試験] 27名の被検者に17%ステアリルアルコールを含む制汗剤を対象に21日間の累積刺激性試験を実施したところ、この試験物質は本質的に皮膚累積刺激剤ではなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1979)
- [ヒト試験] 9名の被検者に8%ステアリルアルコールを含むクリームを対象に21日間の累積刺激性試験を実施したところ、この試験物質は本質的に皮膚累積刺激剤ではなかった(Hill Top Research, 1979)
このように記載されており、試験データをみるかぎり非刺激-軽度の皮膚刺激が報告されているため、一般に皮膚刺激性は非刺激-軽度の皮膚刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
5.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[11b]によると、
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼に各原料会社から提供された4つの100%ステアリルアルコールのサンプルを適用し、適用後に眼刺激スコア0-110のスケールで眼刺激性を評価したところ、3つのサンプルで3日目までの眼刺激スコアは最大で5、残りの1つのサンプルの眼刺激スコアは0であり、この試験物質は非刺激剤または最小限の眼刺激剤であった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1973)
このように記載されており、試験データをみるかぎり非刺激-最小限の眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は非刺激-最小限の眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
5.3. 皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[11c][12]によると、
– 健常皮膚を有する場合 –
- [ヒト試験] 52名の被検者に17%ステアリルアルコールを含む制汗剤を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、最小限の皮膚刺激がみられたが、この試験物質は皮膚感作剤ではなかった(Hill Top Research,1979)
- [ヒト試験] 45名の被検者に17%ステアリルアルコールを含む制汗剤を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、最小限-軽度の皮膚刺激がみられたが、この試験物質は皮膚感作剤ではなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1979)
- [ヒト試験] 50名の被検者に14%ステアリルアルコールを含む制汗剤を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、この試験物質は皮膚感作剤ではなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1980)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚感作なしと報告されているため、一般に健常な皮膚を有する場合において皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
– 皮膚炎を有する場合 –
– 個別事例 –
- [個別事例] 2005年4月に女性会社員(29歳)の両手に乾燥症状があり、A社10%尿素クリームを毎日外用したが、徐々に瘙痒をともなう紅斑、亀裂がひろがったため、6月に近医皮膚科を受診した。パスタロン10ローションの処方を受け、毎日3-4回外用したものの改善しないため、精査治療目的のために48時間閉塞パッチを実施した。結果はICDRG(International Contact Dermatitis Research Group:国際接触皮膚炎研究グループ)基準でA社尿素クリームが48時間および72時間後で+および++であり、パスタロン10ローションは48時間および72時間後で+および+であった。この結果をうけ、各成分のパッチテストを実施したところ、30%セタノールは48時間および72時間後で+および++であり、30%ステアリルアルコールは48時間および72時間後で+および+であり、30%セバシン酸ジエチルは48時間および72時間後で+および++であった。これらの成分を健常な皮膚を有する4名にパッチテストしたところ、陰性であった。これらの結果から、セタノール、ステアリルアルコールおよびセバシン酸ジエチルによるアレルギー性接触皮膚炎と診断した(杉浦 真理子 他,2006)
このように記載されており、個別事例のみですが1例の皮膚感作事例が報告されています。
6. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「ステアリルアルコール」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,550.
- ⌃大木 道則, 他(1989)「1-オクタデカノール」化学大辞典,356.
- ⌃有機合成化学協会(1985)「1-オクタデカノール」有機化合物辞典,182.
- ⌃ab日光ケミカルズ株式会社(1982)「アルコール類」化粧品製剤実用便覧,131-137.
- ⌃日本医薬品添加剤協会(2021)「ステアリルアルコール」医薬品添加物事典2021,320-321.
- ⌃ab広田 博(1997)「一価アルコール」化粧品用油脂の科学,75-79.
- ⌃ab日光ケミカルズ株式会社(2016)「アルコール」パーソナルケアハンドブックⅠ,44-55.
- ⌃日油株式会社(2019)「高級アルコール」化粧品用・医薬品用製品カタログ,36.
- ⌃日光ケミカルズ株式会社(1982)「過脂肪剤」化粧品製剤実用便覧,17.
- ⌃田村 隆光(2009)「界面活性剤水溶液の泡膜特性」オレオサイエンス(9)(5),197-210. DOI:10.5650/oleoscience.9.197.
- ⌃abcR.L. Elder(1985)「Final Report on the Safety Assessment of Stearyl Alcohol,Oleyl Alcohol,and Octyl Dodecanol」Journal of the American College of Toxicology(4)(5),1-29. DOI:10.3109/10915818509078685.
- ⌃杉浦 真理子, 他(2006)「セタノール,ステアリルアルコール,セバシン酸ジエチルによるアレルギー性接触皮膚炎」アレルギー(55)(3-4),455. DOI:10.15036/arerugi.55.455_3.