マルトデキストリンの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | マルトデキストリン |
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INCI名 | Maltodextrin |
配合目的 | 乳化安定化、結合、賦形 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
デンプン(starch)を部分加水分解して得られるデンプンとマルトースの中間生成物であり、以下の化学式で表される重合度3-19のグルコースの重合体混合物(多糖)(∗1)かつ植物系水溶性高分子です[1a][2]。
∗1 重合体とは、複数の単量体(モノマー:monomer)が繰り返し結合し、鎖状や網状にまとまって機能する多量体(ポリマー:polymer)のことをいいます。マルトデキストリンとはグルコースを単量体とし、3-19の範囲でグルコースが重合した重合体のことを指します。
1.2. デンプン加水分解物の種類と物性
デンプンの加水分解物はDE(Dextrose Equivalent)の値(∗2)によって、
∗2 デンプンは完全に加水分解(糖化)するとすべてグルコース(ブドウ糖)となりますが、DE(Dextrose Equivalent)とは、デンプンを加水分解して得られた物質のブドウ糖の含有割合のことをいいます。デンプンのDE値は0であり、グルコースのDE値は100となり、デンプンの加水分解度合いによって中間生成物が命名されています。
デンプン加水分解物 | DE値 | 分子量 | 溶解性 | 粘度 | 粘着性 |
---|---|---|---|---|---|
デンプン | 0 | 大 ↓ 小 |
低 ↑ 高 |
高 ↓ 低 |
高 ↓ 低 |
デキストリン | 10以下 | ||||
マルトデキストリン | 10-20 | ||||
粉あめ | 20-35 | ||||
グルコース | 100 |
このように分類されており、加水分解度合いが高まるにつれて粘度や粘着性は下がり、一方で溶解性は高くなることが知られています[3]。
1.3. 化粧品以外の主な用途
マルトデキストリンの化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
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医薬品 | プレミックス成功成分として経口剤に用いられています[4a]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 乳化安定化
- 結合
- 賦形
主にこれらの目的で、メイクアップ製品、化粧下地製品、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、シート&マスク製品、洗顔料、クレンジング製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、ボディソープ製品、ヘアカラー製品など様々な製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 乳化安定化
乳化安定化に関しては、マルトデキストリンは吸着性および粘性を示し、疎水性粒子表面への物理的な吸着平衡(∗3)により乳化安定性を高めることから[5]、製品の乳化安定化目的で様々な製品に使用されています[1b]。
∗3 吸着される物質が界面から離れ吸着量が減少する現象を脱着といいますが、動力学的には界面では吸着される物質が吸着と脱着を繰り返し行っており、吸着量と脱着量が統計的に等しいまたは時間が無限に経過しても変化しない状態を吸着平衡といいます[6]。
2.2. 結合
結合に関しては、マルトデキストリンは粉体原料同士を皿状容器に圧縮成型するとき、粉体原料同士のくっつきをよくしたり、使用時に粉が周囲に飛び散るのを防ぐ目的で主にパウダー系メイクアップ製品などに用いられます[1b]。
2.3. 賦形
賦形に関しては、マルトデキストリンは医薬品の有効成分量および濃度を均一にしたり、有効成分だけでは分量が少なくそのままだと容量や重量が足りない場合に分量を増やす増量剤として用いられており[4b]、化粧品においても同様の目的で粉末原料やパウダー系製品などに使用されている可能性が考えられます。
3. 配合製品数および配合量範囲
配合製品数および配合量に関しては、海外の2013-2015年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗4)。
∗4 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
4. 安全性評価
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし-軽度
- 眼刺激性:ほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[7a]によると、
- [ヒト試験] 103名の被検者に2.45%マルトデキストリンを含むアイゲル0.1gを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、誘導期間において5名の被検者に軽度の紅斑がみられ、チャレンジ期間において1名の被検者にパッチ除去48時間で軽度の紅斑が観察されたが、このアイゲルはアレルギー性接触皮膚炎を誘発しなかった(Thomas J.Stephens & Associates Inc,1997)
このように記載されており、試験データをみるかぎり皮膚刺激は非刺激-軽度の範囲および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性は非刺激-軽度の皮膚刺激を引き起こす可能性があると考えられ、皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
4.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[7b]によると、
- [in vitro試験] 畜牛の眼球から摘出した角膜を用いて、角膜表面に2.45%マルトデキストリンを含むアイゲルを処理した後、角膜の濁度ならびに透過性の変化量を定量的に測定したところ(BCOP法)、非刺激性であると予測された(Thomas J.Stephens & Associates Inc,1996)
- [in vitro試験] 正常ヒト表皮角化細胞によって再構築された3次元培養角膜モデル(EpiOcular)を用いて、モデル角膜表面に2.45%マルトデキストリンを含むアイゲルを処理し、眼粘膜刺激性を評価したところ、眼刺激性は予測されなかった(Thomas J.Stephens & Associates Inc,1996)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。
5. 参考文献
- ⌃abcd日本化粧品工業連合会(2013)「マルトデキストリン」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,946.
- ⌃N.D.D. Carareto, et al(2010)「Water activity of aqueous solutions of ethylene oxide-propylene oxide block copolymers and maltodextrins」Brazilian Journal of Chemical Engineering(27)(1),173-181. DOI:10.1590/S0104-66322010000100015.
- ⌃佐々木 朋子(2018)「多糖類としての難消化デキストリンの特徴」,2021年9月29日アクセス.
- ⌃ab日本医薬品添加剤協会(2021)「マルトデキストリン」医薬品添加物事典2021,623.
- ⌃R. Ferrari, et al(2020)「Maltodextrin as stabilizer for emulsion polymerization: Adsorption and grafting behavior」Journal of Polymer Science(58)(12),1642-1654. DOI:10.1002/pol.20200083.
- ⌃安部 郁夫(2002)「吸着の化学」オレオサイエンス(2)(5),275-281. DOI:10.5650/oleoscience.2.275.
- ⌃abW.F. Bergfeld, et al(2015)「Safety Assessment of Polysaccharide Gums as Used in Cosmetics(∗5)」, 2021年9月30日アクセス.
∗5 PCPCのアカウントをもっていない場合はCIRをクリックし、表示されたページ中のアルファベットをどれかひとつクリックすれば、あとはアカウントなしでも上記レポートをクリックしてダウンロードが可能になります。