ラウロイルグルタミン酸ジ(コレステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)とは…成分効果と毒性を解説




・ラウロイルグルタミン酸ジ(コレステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)
[医薬部外品表示名称]
・N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(コレステリル・ベヘニル・オクチルドデシル)
化学構造的にアシルアミノ酸の一種であるラウロイルグルタミン酸(∗1)の2個のカルボキシ基(-COOH)に、アルコール成分として動物ステロールの一種であるコレステロール、分岐鎖を有するオクチルドデカノールおよび直鎖アルコールであるベヘニルアルコールの混合物が結合したアシルアミノ酸ステロールエステル(∗2)です。
∗1 ラウロイルグルタミン酸は、酸性アミノ酸の一種であるグルタミン酸と高級脂肪酸の一種であるラウリン酸のアミドです。
∗2 アシルアミノ酸塩は、高級脂肪酸にアミノ酸を導入した構造をもつ親水性の大きな界面活性剤ですが、アシルアミノ酸ステロールエステルは、アシルアミノ酸にステロールを含む油性成分をエステル結合し親油化させた油剤です。アミノ酸をもつことからわずかに親水性の性質を有していることから、厳密には親油性とわずかな親水性の両方を有した両親媒性分子ですが、単独では界面活性能を示さず、構造的に明らかに油であることから、両親媒性油剤と呼ばれることもあります。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、スキンケア製品、メイクアップ製品、ヘアケア製品、アウトバストリートメント製品などに使用されています。
抱水性および透湿性エモリエント作用
抱水性および透湿性エモリエント作用に関しては、ラウロイルグルタミン酸ジ(コレステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)は化学構造的に極性の高いグルタミン酸(アミノ酸部分)をターミナルとし、側鎖に油性成分を3-4個もつバルキー(∗3)な構造を有し、網目状のネットワークを形成していると考えられており、この構造によって水分は極性の高いアミノ酸部分が保持し、かつ網目状ネットワークは水分が透過しやすいことから、抱水性と透湿性(∗4)を兼ね備えていると考えられています(文献1:1993)。
∗3 バルキー(bulky)とは、嵩(かさ)が高い、分厚いという意味の英語です。
∗4 透湿性とは、内側から外側へ水蒸気が通り抜ける性質のことです。
また、体温付近の融点(∗5)を示すため、良好な展延性(∗6)を示し、またベタつかないという官能的特徴も有しています(文献1:1993)。
∗5 融点とは、固体が液体になりはじめる温度のことです。
∗6 展延性とは、柔軟に広がり、均等に伸びる性質のことで、薄く広がり伸びが良いことを指します。
抱水性に関しては、一般的に抱水性の高い油剤はエモリエント効果が高いことが知られており、1996年に味の素によって公開されたコレステリルエステル系油剤の抱水性比較検証によると、
化粧品成分表示名称 | 抱水力(%) |
---|---|
ラウロイルグルタミン酸ジ(コレステリル/ベヘニル/オクチルドデシル) | 600 |
ラウロイルグルタミン酸ジ(コレステリル/オクチルドデシル) | 500 |
ヒドロキシステアリン酸コレステリル | 163 |
ラノリン脂肪酸コレステリル | 108 |
コレステロール | 0 |
ワセリン | 4 |
白色ワセリンと比較して、コレステリルエステル系油剤は水を抱え込みやすい性質を示した。
とくにラウロイルグルタミン酸コレステリルエステル系油剤は、優れた抱水性を示した。
このような検証結果が明らかにされており(文献2:1996)、ラウロイルグルタミン酸ジ(コレステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)に優れた抱水性が認められています。
さらに、ラウロイルグルタミン酸ジ(コレステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)はあらゆる油性基剤に対して溶解性を示すことから、抱水性をもたない油性基剤に添加することで、以下の表のように、
油性基剤 | 添加濃度(%) | 抱水性(%) |
---|---|---|
ワセリン | 5 | 300 |
10 | 430 | |
ミネラルオイル | 5 | 480 |
10 | 500 | |
スクワラン | 5 | 270 |
10 | 560 | |
20 | 690 |
抱水性をもたない油性基剤の抱水力改善剤としての効果が認められています(文献1:1993)。
顔料分散
顔料分散に関しては、ラウロイルグルタミン酸ジ(コレステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)は顔料分散性に優れた効果が認められており(文献1:1993)、リップ化粧品、アイメイクアップ製品、ファンデーションなど顔料を多く用いるメイクアップ製品に使用されています。
疑似細胞間脂質補充によるバリア改善作用
疑似細胞間脂質補充によるバリア改善作用に関しては、まず前提知識として角質層における細胞間脂質の構造および役割について解説します。
以下の表皮最外層である角質層の構造をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
角質層は天然保湿因子を含む角質細胞と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造となっており、細胞間脂質は主に、
細胞間脂質構成成分 | 割合(%) |
---|---|
セラミド | 50 |
遊離脂肪酸 | 20 |
コレステロール | 15 |
コレステロールエステル | 10 |
糖脂質 | 5 |
このような脂質組成で構成されています(文献3:1995)。
これら細胞間脂質は以下の図のように、
疎水層と親水層を繰り返すラメラ構造を形成していることが大きな特徴であり、脂質が結合水(∗7)を挟み込むことで水分を保持し、角質細胞間に層状のラメラ液晶構造を形成することでバリア機能を発揮すると考えられており、このバリア機能は、皮膚内の過剰な水分蒸散の抑制および一定の水分保持、外的刺激から皮膚を防御するといった重要な役割を担っています。
∗7 結合水とは、たんぱく質分子や親液コロイド粒子などの成分物質と強く結合している水分であり、純粋な水であれば0℃で凍るところ、角層中の水のうち33%は-40℃まで冷却しても凍らないのは、角層内に存在する水のうち約⅓が結合水であることに由来しています(文献4:1991)。
一方で、皮膚が乾燥寒冷下に長時間曝露されるような外的要因やアトピー性皮膚炎のような内的要因により乾皮症(ドライスキン)が生じた場合は、角質層の機能低下により、角質層の水分保持能の低下およびバリア機能低下による経表皮水分蒸散量(transepidermal water loss:TEWL)の上昇が起こり(文献5:2004)、その結果として角質細胞や細胞間脂質が規則的に並ばなくなり、そこに生じた隙間からさらに水分が蒸散し、バリア機能・保湿機能が低下していくことが知られています(文献6:2002)。
このような背景から、低下したバリア機能を改善することは、ドライスキンの改善や皮膚の健常性を維持するために重要であると考えられます。
1996年に味の素によって公開されたコレステリルエステル系油剤のラメラ液晶形成能検証によると、
∗8 実際の表皮脂質複合体想定モデルを「A」、セラミドの代替として各コレステリルエステルを配合したモデル表皮脂質複合体を「B-D」、コレステロールを配合したモデルを「E」、白色ワセリンを配合したモデルを「F」とする。
No. | 化粧品成分表示名称 | 共通配合成分 | ラメラ液晶安定性 |
---|---|---|---|
A | セラミド | スクワレン、トリオレイン、コレステロールサルフェート、コレステロール、フォスファチジルエタノールアミン、プリスタン、脂肪酸・脂肪酸塩 | ○ |
B | ラウロイルグルタミン酸ジ(コレステリル/ベヘニル/オクチルドデシル) | ○ | |
C | ヒドロキシステアリン酸コレステリル | ○ | |
D | ラノリン脂肪酸コレステリル | ○ | |
E | コレステロール | ☓ | |
F | ワセリン | ☓ |
表皮脂質複合体想定モデルAとコレステリルエステルを含むB,C,Dのラメラ構造は室温においても安定であり、またモデルAとBは同様のX線小角散乱像を示していることから、類似したラメラ構造を形成していると考えられた。
一方、白色ワセリン、コレステロールを含むモデルでは室温付近で強固な結晶構造へと変化することを確認した。
このような検証結果が明らかにされており(文献2:1996)、ラウロイルグルタミン酸ジ(コレステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)にセラミド代替によるラメラ液晶形成能およびその安定化が認められています。
次に、1996年に味の素によって公開されたコレステリルエステル系油剤の荒れ肌における角質水分量および水分蒸散量への影響検証によると、
塗布24時間後に試験部位を洗浄し、25℃および相対湿度40℃の環境下に30分以上身体を順応させたのちに角質水分量および経表皮水分蒸散量を測定する工程を1日1回3日間適用し、油剤無塗布の場合と比較したところ、以下のグラフのように、
角層水分量への影響に関しては、油剤無塗布部位は荒れ肌処理により低下した角層水分量の回復を示さないのに対して、各油剤塗布部は経時的に角質水分量の増加を認めた。
3日目には、油剤無塗布部位と比較して白色ワセリン塗布部位は有意な差で角質水分量の増加を示し、さらにラウロイルグルタミン酸コレステリルエステル塗布部位は白色ワセリンと比較して有意な角質水分量の回復効果を示した。
経表皮水分蒸散量に関しては、油剤無塗布部位と比較して油剤塗布部位は経時的な回復を示したが、油剤の間に統計的有意差は得られなかった。
次に、荒れ肌に対するラウロイルグルタミン酸ジ(コレステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)を含む表皮脂質複合体モデルとセラミドNPを含む表皮脂質複合体モデルの角質水分量および経表皮水分蒸散量を白色ワセリンを対照として評価した。
その結果、ラウロイルグルタミン酸ジ(コレステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)を含む表皮脂質複合体モデルは白色ワセリンと比較して上グラフと同様に、角質水分量においては有意差を示し、経表皮水分蒸散量に有意差はみられなかった。
また、ラウロイルグルタミン酸ジ(コレステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)を含む表皮脂質複合体モデル塗布部とセラミドを含む表皮脂質複合体モデル塗布部には有意差は認められず、同等の効果を示すものと考えた。
このような検証結果が明らかにされており(文献2:1996)、ラウロイルグルタミン酸ジ(コレステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)に表皮脂質複合体と同等の角層水分量増加および経表皮水分蒸散抑制効果が認められています。
ラウロイルグルタミン酸コレステリルエステルがセラミドと同等の効果を有するメカニズムは、化学構造的にセラミドと共通するアミド結合を有し、極性基周辺の立体電子的な環境がセラミドのものと似ているためであると考えられています(文献2:1996)。
また、ラウロイルグルタミン酸ジ(フィトステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)配合乳液の塗布により角層のラメラ液晶構造の改善が報告されていることから(文献7:2011)、同様の構造をもつラウロイルグルタミン酸コレステリルエステルの作用メカニズムは、セラミド代替細胞間脂質モデル(疑似細胞間脂質)としての細胞間脂質の物理的な補充・補強であると考えられます(∗9)。
∗9 植物ステロールであるフィトステリル(フィトステロールズ)と動物ステロールであるコレステリル(コレステロール)は、植物から得られるか動物から得られるかの違いはありますが、構造および皮膚に対する作用などは類似していることから、ラウロイルグルタミン酸ジ(フィトステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)とラウロイルグルタミン酸ジ(コレステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)は、同様の性質を有していると考えられます。
ラウロイルグルタミン酸ジ(コレステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)の安全性(刺激性・アレルギー)について
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 1990年代からの使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
- [ヒト試験] 被検者(人数不明)にラウロイルグルタミン酸ジ(コレステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)を対象にパッチ試験を実施したところ、いずれの被検者も陰性であった
- [動物試験] ウサギ(数不明)を用いてラウロイルグルタミン酸ジ(コレステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)を対象に皮膚刺激性試験を実施したところ、この試験物質は皮膚刺激剤ではなかった
- [動物試験] モルモット(数不明)を用いてラウロイルグルタミン酸ジ(コレステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)を対象に皮膚感作性試験を実施したところ、この試験物質は皮膚感作剤ではなかった
と記載されています。
試験データをみるかぎり、皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
- [動物試験] ウサギ(数不明)を用いてラウロイルグルタミン酸ジ(コレステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)を対象に眼刺激性試験を実施したところ、この試験物質は眼刺激剤ではなかった
と記載されています。
試験データをみるかぎり、眼刺激なしと報告されているため、眼刺激性はほとんどないと考えられます。
∗∗∗
ラウロイルグルタミン酸ジ(コレステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)はエモリエント成分、バリア改善成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
∗∗∗
参考文献:
- 三上 直子, 他(1993)「アミノ酸系エモリエント剤N-アシルグルタミン酸コレステリルエステル(AGCE)の有用性」日本化粧品技術者会誌(27)(3),474-479.
- 石井 博治, 他(1996)「コレステリル誘導体類の荒れ肌に対する水分保持機能回復効果」日本化粧品技術者会誌(30)(2),195-201.
- 芋川 玄爾(1995)「皮膚角質細胞間脂質の構造と機能」油化学(44)(10),751-766.
- G. Imokawa, et al(1991)「Stratum corneum lipids serve as a bound-water modulator」Journal of Investigative Dermatology(96)(6),845-851.
- 石田 賢哉(2004)「光学活性セラミドの開発と機能」オレオサイエンス(4)(3),105-116.
- 朝田 康夫(2002)「保湿能力と水分喪失の関係は」美容皮膚科学事典,103-104.
- 日本精化株式会社(2011)「Plandool LG1」技術資料.