ビスジグリセリルポリアシルアジペート-2とは…成分効果と毒性を解説




・ビスジグリセリルポリアシルアジペート-2
[医薬部外品表示名]
・アジピン酸ジグリセリル混合脂肪酸エステル
化学構造的にジカルボン酸(∗1)の一種であるアジピン酸(∗2)と、脂肪酸として直鎖および中鎖脂肪酸であるカプリル酸、カプリン酸、直鎖および長鎖脂肪酸であるステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、分岐鎖および長鎖脂肪酸であるイソステアリン酸の混合ジグリセリルを結合して得られるジカルボン酸エステルです。
∗1 カルボン酸(carboxylic acid)とは、カルボキシ基(-COOH)を有する化合物のことをいい、鎖状のカルボン酸は脂肪酸ともいいます(文献2:1994)。「モノ(mono)」「ジ(di)」「トリ(tri)」はギリシャ語でそれぞれ「1」「2」「3」を意味しますが、ジカルボン酸(dicarboxylic acid)は、分子内にカルボキシ基(-COOH)を2個もつ有機化合物のことをいいます(文献3:1994)。
∗2 アジピン酸(adipic acid)とは、有機酸(カルボン酸)のうちジカルボン酸の一種であり、炭素数6(C6)の直鎖飽和脂肪酸です。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、リップ化粧品、メイクアップ製品、トリートメント製品、ヘアケア製品、スキンケア製品、クレンジング製品などに汎用されています。
抱水性エモリエント作用
抱水性エモリエント作用に関しては、一般的に抱水性の高い油剤はエモリエント効果が高いことが知られており、ビスジグリセリルポリアシルアジペート-2は適度な抱水性をはじめ、ラノリンに類似した粘度挙動や良好な展延性(∗3)を有することが報告されています(文献4:2014;文献5:-)。
∗3 展延性とは、柔軟に広がり、均等に伸びる性質のことで、薄く広がり伸びが良いことを指します。
このような機能性から、高いエモリエント効果、しっとり感付与目的でリップグロス、口紅、リップクリーム、アイシャドー、アイブロー、チーク、コンシーラー、トリートメント、ヘアパック、アイクリーム、フェイスクリームなどに汎用されています。
日本精化によって公開されたジカルボン酸エステルの抱水性比較検証によると、
ビスジグリセリルポリアシルアジペート-2は、ラノリンほどではないものの、適度な抱水性を示した。
このような検証結果が明らかにされており(文献5:-)、ビスジグリセリルポリアシルアジペート-2に適度な抱水性が認められています。
光沢付与
光沢付与に関しては、ビスジグリセリルポリアシルアジペート-2は屈折率(40℃で1.461)を有しており(文献4:2014:文献5:-)、ツヤ感の付与目的でとくにリップ化粧品に使用されています。
顔料分散
顔料分散に関しては、日本精化の技術情報によると、
ビスジグリセリルポリアシルアジペート-2は、ラノリンと同等の有意な顔料分散性が示された。
このような検証結果が明らかにされており(文献3:-)、ビスジグリセリルポリアシルアジペート-2に顔料分散効果が認められています。
顔料分散目的で化粧品に配合される場合は、口紅やリップスティックなどのリップ化粧品、アイシャドーやアイブロウまたはアイペンリスなどの目元用メイクアップ製品、また酸化チタンなどの紫外線散乱剤の分散目的で日焼け止め製品、チークやファンデーションなどのメイクアップ製品などに使用されます。
アジピン酸ジグリセリル混合脂肪酸エステルは、医薬部外品(薬用化粧品)への配合において配合上限があり、配合範囲は以下になります。
種類 | 配合量 |
---|---|
薬用石けん・シャンプー・リンス等、除毛剤 | 上限なし |
育毛剤 | 上限なし |
その他の薬用化粧品、腋臭防止剤、忌避剤 | 上限なし |
薬用口唇類 | 5.0 |
薬用歯みがき類 | 5.0 |
浴用剤 | 配合不可 |
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2012年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
ビスジグリセリルポリアシルアジペート-2の安全性(刺激性・アレルギー)について
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 皮膚刺激性(皮膚炎を有する場合):ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
- アクネ菌増殖性:ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
- [ヒト試験] 44名の被検者に5%ビスジグリセリルポリアシルアジペート-2を含むワセリンを24時間閉塞パッチ適用したところ、皮膚刺激は観察されず、この試験物質は皮膚刺激剤ではなかった(Anonymous,2011)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、皮膚刺激なしと報告されているため、皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。
– 皮膚炎を有する場合 –
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ(文献1:2013)によると、
- [ヒト試験] アトピー性皮膚炎12名と皮膚過敏症7名を含む50名の被検者に未希釈のビスジグリセリルポリアシルアジペート-2を48時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去24時間後に皮膚刺激性を評価したところ、1名の被検者は明確な紅斑が観察されたが、24時間後には消失した。この試験物質は皮膚刺激剤ではないと考えられた(Sasol Germany GmbH,2003)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、皮膚刺激なしと報告されているため、皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
- [動物試験] 3匹のウサギの片眼に未希釈のビスジグリセリルポリアシルアジペート-2を0.1mL点眼し、72時間まで眼刺激性を評価したところ、いくつか軽度の結膜刺激が観察されたが、すべての刺激は5日後には消失し、この試験物質は非刺激剤に分類された(Sasol Germany GmbH,1990)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、眼刺激なしと報告されているため、眼刺激性はほとんどないと考えられます。
皮膚感作性(アレルギー性)について
- [ヒト試験] 102名の被検者に36%ビスジグリセリルポリアシルアジペート-2を含む口紅製剤0.1mLを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、誘導期間において1名の被検者に中程度の紅斑がみられたが、チャレンジ期間においてほかの皮膚反応は観察されず、この試験物質は皮膚感作剤ではなかった(TKL Research Inc,2009)
- [動物試験] 20匹のモルモットに25%ビスジグリセリルポリアシルアジペート-2を含むワセリンを対象にMaximization皮膚感作性試験を実施したところ、この試験物質は非感作剤に分類された(Sasol Germany GmbH,1990)
と記載されています。
試験結果をみるかぎり、共通して皮膚感作性なしと報告されているため、皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
コメドジェニシティ(ニキビの原因となるアクネ菌の増殖促進性)について
- [動物試験] 4匹のウサギの右耳にビスジグリセリルポリアシルアジペート-2(0.5mL)を1日1回、週5日で4週間塗布し、コメドジェニックスコアを0-3のスケールで評価したところ、初回適用後に4匹すべてコメドジェニックスコア1に相当する角化症の増加が観察されたが、初日以外の残りすべての試験日でコメドジェニックスコアは0であり、この試験物質はノンコメドジェニックであると判断された(Sasol Germany GmbH,1988)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、アクネ菌増殖性なしと報告されているため、アクネ菌増殖性はほとんどないと考えられます。
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ビスジグリセリルポリアシルアジペート-2は、エモリエント成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
参考:エモリエント成分
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参考文献:
- Cosmetic Ingredient Review(2013)「Safety Assessment of Bis-Diglyceryl Polyacyladipate-2 and Bis-Diglyceryl Polyacyladipate-1 as Used in Cosmetics」International Journal of Toxicology(32)(5_Suppl),56S-64S.
- 大木 道則, 他(1994)「カルボン酸」化学辞典,301.
- 大木 道則, 他(1994)「ジカルボン酸」化学辞典,569-570.
- 日本精化株式会社(2014)「Plandool-DP」技術資料.
- 日本精化株式会社(-)「Plandool Series」技術資料.