カニナバラ果実油の基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | カニナバラ果実油 |
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医薬部外品表示名 | ローズヒップ油 |
INCI名 | Rosa Canina Fruit Oil |
配合目的 | エモリエント、感触改良 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
バラ科植物カニナバラ(∗1)(学名:Rosa canina 英名:dog rose)の果実から得られる油(植物油)です[1]。
∗1 カニナバラは「イヌバラ」や「ヨーロッパノイバラ」ともよばれます。
医薬部外品表示名は、
医薬部外品表示名 | 本質 |
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ローズヒップ油 | カニナバラ(Rosa canina L)またはエグランチンバラ (Rosa eglanteria)の種子を圧搾して得られる脂肪油 |
このように種子から得られる脂肪油と定義されていますが、化粧品表示名「カニナバラ果実油」の医薬部外品表示名として「ローズヒップ油」で申請(対応)されていることやカニナバラの果実と種子で構成成分の組成比率がほとんど変わらないことから、現時点では「カニナバラ果実油」「カニナバラ種子油」両方の情報を記載しています。
ただし、ページ内では情報元が正確にわかるようにカニナバラ種子油の情報であれば「カニナバラ種子油(または単に「種子油」)」と明記しています。
1.2. 物性・性状
カニナバラ果実油および種子油の物性・性状は(∗2)、
∗2 融点とは固体が液体になりはじめる温度のことです。またヨウ素価とは油脂を構成する脂肪酸の不飽和度を示すものであり、一般にヨウ素価が高いほど不飽和度が高い(二重結合の数が多い)ため、酸化を受けやすくなります。
状態 | 融点(℃) | ヨウ素価 |
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油状液体 | – | 170-190(乾性油) |
1.3. 脂肪酸組成および不鹸化物
カニナバラ果実油および種子油の脂肪酸組成は、一例として、
脂肪酸名 | 炭素数:二重結合数 | 比率(%) | |
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果実油 | 種子油 | ||
パルミチン酸 | C16:0 | 3.5 | 3.7 |
ステアリン酸 | C18:0 | 2.4 | 2.2 |
アラキジン酸 | C20:0 | 0.9 | 1.0 |
ベヘン酸 | C22:0 | 0.2 | 0.1 |
オレイン酸 | C18:1 | 20.3 | 14.8 |
リノール酸 | C18:2 | 51.7 | 54.8 |
リノレン酸 | C18:3 | 19.1 | 23.5 |
このような種類と比率で構成されていることが報告されています[4][5a]。
また、不鹸化物(∗3)はカニナバラ種子油の例となりますが、以下の表のように、
∗3 不鹸化物(不ケン化物)とは、脂質のうちアルカリで鹸化されない物質の総称です。水に不溶、エーテルに可溶な成分である炭化水素、高級アルコール、ステロール、色素、ビタミン、樹脂質などが主な不鹸化物であり、油脂においてはその含有量が特徴のひとつとなります。
不鹸化物 | 構成比 |
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トコフェロール(γ体が6割、α体が3割) | 約78mg/100g |
フィトステロール(主にβ-シトステロール) | – |
カロテノイド | 約22mg/100g |
などで構成されていることが報告されています[5b]。
カニナバラ果実油およびカニナバラ種子油のいずれにしても高度不飽和脂肪酸であるリノール酸を主成分としリノレン酸の含有量が多く、抗酸化物質であるトコフェロールを含有しているものの、総合的に自動酸化に対する安定性が低いと考えられます[5c]。
ただし、化粧品においてはトコフェロールに代表される酸化防止剤を添加することで酸化安定性が大幅に向上するため、一般にトコフェロールなどの酸化防止剤やトコフェロールの含有量の多い植物油脂と一緒に使用されます。
1.4. 分布と歴史
カニナバラ(イヌバラ)は、ヨーロッパから西アジアにかけて自生しており、一般に園芸用のバラの接ぎ木として栽培されるとともにその果実は菓子類などに用いられてきました[6a][7a]。
また、北ヨーロッパでは古くから乾燥させたローズヒップの果実をハーブティーとして愛飲し、物資が少なかった第二次世界大戦中のイギリスでは、ビタミンCの含有量が多いことから子どものビタミンC補給源としてローズヒップのシロップが提供されていた史実があり、このシロップは現在でも家庭でつくられていますが、現在は主に南米・チリで商業生産されています[6b][7b]。
2. 化粧品としての配合目的
- エモリエント効果
- 密着性による感触改良
主にこれらの目的でメイクアップ製品、化粧下地製品、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、日焼け止め製品、クレンジング製品、洗顔料、アウトバストリートメント製品、ネイル製品など様々な製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. エモリエント効果
エモリエント効果に関しては、カニナバラ種子油は閉塞性により皮膚の水分蒸発を抑え、その結果として皮膚に柔軟性や滑らかさを付与するエモリエント性を有していることから[8][9]、各種クリーム、乳液、メイクアップ製品、ヘアケア製品などに汎用されています。
2.2. 密着性による感触改良
密着性による感触改良に関しては、カニナバラ果実油は化粧膜を肌に強く密着させる効果に優れていることから、感触改良目的でリップ系化粧品、メイクアップ製品などに使用されています[10]。
3. 混合原料としての配合目的
カニナバラ果実油は混合原料が開発されており、カニナバラ果実油と以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | NIKKOL NATURAL OILS SSQ |
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構成成分 | スクワラン、マカデミア種子油、ホホバ種子油、オリーブ果実油、カニナバラ果実油 |
特徴 | シュガースクワランと4種類の植物油をブレンドした混合植物油 |
原料名 | EMACOL CD-9055 |
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構成成分 | マカデミア種子油、メドウフォーム油、コメ胚芽油、ヘーゼルナッツ油、シア脂油、アボカド油、ホホバ種子油、ツバキ種子油、ブドウ種子油、アーモンド油、月見草油、カニナバラ果実油 |
特徴 | 植物油12種の可溶化液・エモリエント剤 |
原料名 | EMACOL CD-9422 |
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構成成分 | スクワラン、マカデミア種子油、メドウフォーム油、コメ胚芽油、ヘーゼルナッツ油、シア脂油、アボカド油、ホホバ種子油、ツバキ種子油、ブドウ種子油、アーモンド油、月見草油、カニナバラ果実油 |
特徴 | オリーブスクワランと植物油12種の植物由来エマルション・エモリエント剤 |
4. 配合製品数および配合量範囲
ローズヒップ油は、医薬部外品(薬用化粧品)への配合において配合上限があり、配合範囲は以下になります。
種類 | 配合量 |
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薬用石けん・シャンプー・リンス等、除毛剤 | 上限なし |
育毛剤 | 上限なし |
その他の薬用化粧品、腋臭防止剤、忌避剤 | 上限なし |
薬用口唇類 | 0.60 |
薬用歯みがき類 | 0.60 |
浴用剤 | 上限なし |
染毛剤 | 上限なし |
パーマネント・ウェーブ用剤 | 上限なし |
化粧品に対する実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2017年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗4)。
∗4 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
5. 安全性評価
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績(旧称「ローズヒップ油」から換算)
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
5.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[11]によると、
- [ヒト試験] 108名の被検者に0.39%カニナバラ果実油を含むスキンケアクリームを対象に皮膚一次刺激性試験を実施したところ、この試験物質は皮膚一次刺激剤ではなかった(Institut D’Expertise Clinique,2010)
- [ヒト試験] 106名の被検者に0.39%カニナバラ果実油を含むスキンケアクリームを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、この試験物質は皮膚累積刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(Institut D’Expertise Clinique,2010)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
5.2. 眼刺激性
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。
6. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「カニナバラ果実油」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,310.
- ⌃日光ケミカルズ株式会社(2016)「油脂」パーソナルケアハンドブックⅠ,1-19.
- ⌃広田 博(1997)「乾性油」化粧品用油脂の科学,11-15.
- ⌃Renata Nowak(2005)「Fatty acids composition in fruits of wild rose species」Acta Societatis Botanicorum Poloniae(74)(3),229-235. DOI:10.5586/asbp.2005.029.
- ⌃abcS. Turan, et al(2018)「Bioactive lipids, antiradical activity and stability of rosehip seed oil under thermal and photo-induced oxidation」Grasas y Aceites(69)(2),e248. DOI:10.3989/gya.1114172.
- ⌃ab鈴木 洋(2011)「ローズヒップ」カラー版健康食品・サプリメントの事典,203-204.
- ⌃ab北野 佐久子(2005)「ローズ・ヒップ」基本 ハーブの事典,235-246.
- ⌃鈴木 一成(2012)「ローズヒップ油」化粧品成分用語事典2012,19-20.
- ⌃平尾 哲二(2006)「乾燥と保湿のメカニズム」アンチ・エイジングシリーズ No.2 皮膚の抗老化最前線,62-75.
- ⌃宇山 侊男, 他(2020)「カニナバラ果実油」化粧品成分ガイド 第7版,55.
- ⌃C.L. Burnett, et al(2017)「Safety Assessment of Plant-Derived Fatty Acid Oils」International Journal of Toxicology(36)(3_suppl),51S-129S. DOI:10.1177/1091581817740569.