ブドウ種子油の基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | ブドウ種子油 |
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医薬部外品表示名 | ブドウ種子油、グレープシードオイル |
INCI名 | Vitis Vinifera (Grape) Seed Oil |
配合目的 | エモリエント、基剤、加脂肪 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
ブドウ科植物ヨーロッパブドウ(学名:Vitis vinifera 英名:Common Grape)の種子から得られる脂肪油(植物油)です[1]。
1.2. 物性・性状
ブドウ種子油の物性・性状は(∗1)、
∗1 融点とは固体が液体になりはじめる温度のことです。またヨウ素価とは油脂を構成する脂肪酸の不飽和度を示すものであり、一般にヨウ素価が高いほど不飽和度が高い(二重結合の数が多い)ため、酸化を受けやすくなります。
状態 | 融点(℃) | ヨウ素価 |
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油状液体 | -10 – 24 | 107-143(乾性油) |
1.3. 脂肪酸組成および不鹸化物
ブドウ種子油の脂肪酸組成は、一例として、
脂肪酸名 | 脂肪酸の種類 | 炭素数:二重結合数 | 比率(%) |
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ミリスチン酸 | 飽和脂肪酸 | C14:0 | 0.2 |
パルミチン酸 | C16:0 | 11.1 | |
ステアリン酸 | C18:0 | 3.9 | |
パルミトレイン酸 | 不飽和脂肪酸 | C16:1 | 1.3 |
オレイン酸 | C18:1 | 21.2 | |
リノール酸 | C18:2 | 61.4 | |
リノレン酸 | C18:3 | 0.7 |
このような種類と比率で構成されていることが報告されており[3b]、またブドウ種子油には不鹸化物(∗2)として、以下の表のように、
∗2 不鹸化物(不ケン化物)とは、脂質のうちアルカリで鹸化されない物質の総称です。水に不溶、エーテルに可溶な成分である炭化水素、高級アルコール、ステロール、色素、ビタミン、樹脂質などが主な不鹸化物であり、油脂においてはその含有量が特徴のひとつとなります。
不鹸化物 | 構成比(mg/100g) |
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トコフェロール | 29-75 |
フィトステロール | 290-580 |
このような種類で構成されていることが報告されています[4a]。
ブドウ種子油は、不飽和脂肪酸であるリノール酸を主成分としていますが、他の植物油と比較してフィトステロールや抗酸化物質であるトコフェロールの含有量が多いことから、総合的に自動酸化に対する安定性が優れるといった特徴を有しています[4b]。
1.4. 分布と歴史
紀元前5000-6000年頃にはヨーロッパブドウの祖先種である「Vitis sylvestris」の栽培が黒海およびカスピ海沿岸地域で行われていたとされることから、現在ではこの地域がヨーロッパブドウの原産地であると考えられており、現在では西部系の品種群がイタリア、スペイン、フランスなどで、東部系の品種群が中国などでワイン、ジュース、缶詰、干しぶどうなど加工品用に栽培されています[5a][6a]。
もともと降雨の少ない地域に適しており、降雨の多い日本では栽培が難しいことが知られていますが、日本においては山梨県で800年以上前に「甲州ぶどう」という品種が発見され、この品種はヨーロッパブドウ(学名:Vitis Vinifera)と中国の野生種であるトゲブドウ(学名:Vitis davidii)との交雑により生じた品種であることが明らかにされており、現在においても山梨県で栽培されています[5b][6b]。
また、1930年代には民間の個人育種家によってヨーロッパブドウの品種を用いた交雑育種が始められ、現在はヨーロッパブドウの血を引く様々な品種が山梨県、長野県、山形県、岡山県をはじめ全国各地で栽培されています[6c]。
1.5. 化粧品以外の主な用途
ブドウ種子油の化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
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食品 | オリーブ油ほどクセがなく、あっさりとした風味とほのかに香る風味を特徴とし、食材の持ち味を活かす油としてドレッシングやマリネなど生食料理や炒め油、揚げ油として用いられています[7]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- エモリエント効果
- 油性基剤
- 加脂肪
主にこれらの目的でリップ系化粧品、メイクアップ製品、化粧下地製品、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、マスク製品、クレンジング製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、トリートメント製品、アウトバストリートメント製品、ボディソープ製品など様々な製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. エモリエント効果
エモリエント効果に関しては、ブドウ種子油は油っぽくないソフトで軽い使用感をもち、閉塞性により皮膚の水分蒸発を抑え、その結果として皮膚に柔軟性や滑らかさを付与するエモリエント性を有していることから[2b][8a][9]、各種クリーム、乳液、メイクアップ製品、ヘアケア製品などに汎用されています。
2.2. 油性基剤
油性基剤に関しては、ブドウ種子油は油っぽくないソフトで軽い使用感をもつことから、油性基剤としてマッサージオイル、サンオイル、ヘアオイルなどオイル製品を中心に使用されています[8b]。
2.3. 加脂肪
加脂肪に関しては、ブドウ種子油はシャンプーや石鹸に加えることで泡をきめ細かくし、かつ過渡の脱脂を抑制することから、皮膚・毛髪の保護を兼ねた泡質改善目的で石鹸や洗浄製品に使用されています[2c][10][11]。
3. 混合原料としての配合目的
ブドウ種子油は混合原料が開発されており、ブドウ種子油と以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | GSB-Douro Valley Grape Seed Butter |
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構成成分 | ブドウ種子油、水添野菜油 |
特徴 | ブドウ種子油と水添野菜油を混合した融点50-60℃のグレープシードバター |
原料名 | EMACOL CD-9055 |
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構成成分 | マカデミア種子油、メドウフォーム油、コメ胚芽油、ヘーゼルナッツ油、シア脂油、アボカド油、ホホバ種子油、ツバキ種子油、ブドウ種子油、アーモンド油、月見草油、カニナバラ果実油 |
特徴 | 植物油12種の可溶化液・エモリエント剤 |
原料名 | EMACOL CD-9422 |
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構成成分 | スクワラン、マカデミア種子油、メドウフォーム油、コメ胚芽油、ヘーゼルナッツ油、シア脂油、アボカド油、ホホバ種子油、ツバキ種子油、ブドウ種子油、アーモンド油、月見草油、カニナバラ果実油 |
特徴 | オリーブスクワランと植物油12種の植物由来エマルション・エモリエント剤 |
4. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2017年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗3)。
∗3 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
5. 安全性評価
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 40年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
5.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[12]によると、
- [ヒト試験] 105名の被検者に39%ブドウ種子油を含むシェービングローション0.2mLを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、この試験物質は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(TKL Research,2010)
- [ヒト試験] 105名の被検者に90%ブドウ種子油を含むフレグランスオイルを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を半閉塞パッチにて実施したところ、この試験物質は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(Clinical Research Laboratories,2010)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
5.2. 眼刺激性
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。
6. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「ブドウ種子油」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,845.
- ⌃abc日光ケミカルズ株式会社(2016)「油脂」パーソナルケアハンドブックⅠ,1-19.
- ⌃ab鈴木 修, 他(1990)「油脂およびろうの性状と組成」油脂化学便覧 改訂3版,99-137.
- ⌃ab田村 健夫・廣田 博(2001)「油脂」香粧品科学 理論と実際 第4版,94-100.
- ⌃ab佐藤 明彦(2017)「日本における生食用ブドウの栽培動向とその遺伝的背景」日本食品科学工学会誌(64)(5),273-277. DOI:10.3136/nskkk.64.273.
- ⌃abc杉田 浩一, 他(2017)「ぶどう」新版 日本食品大事典,695-698.
- ⌃杉田 浩一, 他(2017)「グレープシードオイル」新版 日本食品大事典,247-248.
- ⌃ab広田 博(1997)「乾性油」化粧品用油脂の科学,11-15.
- ⌃平尾 哲二(2006)「乾燥と保湿のメカニズム」アンチ・エイジングシリーズ No.2 皮膚の抗老化最前線,62-75.
- ⌃日光ケミカルズ株式会社(1982)「過脂肪剤」化粧品製剤実用便覧,17.
- ⌃田村 隆光(2009)「界面活性剤水溶液の泡膜特性」オレオサイエンス(9)(5),197-210. DOI:10.5650/oleoscience.9.197.
- ⌃C.L. Burnett, et al(2017)「Safety Assessment of Plant-Derived Fatty Acid Oils」International Journal of Toxicology(36)(3_suppl),51S-129S. DOI:10.1177/1091581817740569.