月見草油の基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | 月見草油 |
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医薬部外品表示名 | 月見草油 |
INCI名 | Oenothera Biennis (Evening Primrose) Oil |
配合目的 | エモリエント など |
1. 基本情報
1.1. 定義
アカバナ科植物メマツヨイグサ(学名:Oenothera biennis 英名:evening primrose)の種子から得られる脂肪油(植物油)です[1]。
1.2. 物性・性状
月見草油の物性・性状は(∗1)、
∗1 融点とは固体が液体になりはじめる温度のことです。またヨウ素価とは油脂を構成する脂肪酸の不飽和度を示すものであり、一般にヨウ素価が高いほど不飽和度が高い(二重結合の数が多い)ため、酸化を受けやすくなります。
状態 | 融点(℃) | ヨウ素価 |
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油状液体 | – | 195-199(乾性油) |
1.3. 脂肪酸組成および不鹸化物
月見草油の脂肪酸組成は、一例として、
脂肪酸名 | 脂肪酸の種類 | 炭素数:二重結合数 | 比率(%) |
---|---|---|---|
パルミチン酸 | 飽和脂肪酸 | C16:0 | 6.2 |
ステアリン酸 | C18:0 | 1.8 | |
オレイン酸 | 不飽和脂肪酸 | C18:1 | 11.9 |
リノール酸 | C18:2 | 70.6 | |
γ-リノレン酸 | C18:3 | 9.5 |
このような種類と比率で構成されていることが報告されており[3b]、また月見草油には不鹸化物(∗2)として、以下の表のように、
∗2 不鹸化物(不ケン化物)とは、脂質のうちアルカリで鹸化されない物質の総称です。水に不溶、エーテルに可溶な成分である炭化水素、高級アルコール、ステロール、色素、ビタミン、樹脂質などが主な不鹸化物であり、油脂においてはその含有量が特徴のひとつとなります。
不鹸化物 | 構成比(mg/100g) | ||
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フィトステロール | β-シトステロール | 795.2 | 957.3 |
カンペステロール | 88.3 | ||
その他 | 73.8 | ||
トコフェロール | α-トコフェロール | 9.8 | 18.7 |
γ-トコフェロール | 7.8 | ||
δ-トコフェロール | 1.1 |
このような種類で構成されていることが報告されています[4][5]。
月見草油は、不飽和脂肪酸であるリノール酸を主成分とし、かつγ-リノレン酸を約9%含むことを特徴としており、またトコフェロールなど抗酸化物質の含有量が低いことなどから、総合的に自動酸化に対する安定性がかなり低いといった特徴を有していると考えられます。
ただし、化粧品においてはトコフェロールに代表される酸化防止剤を添加することで酸化安定性が大幅に向上するため、一般にトコフェロールなどの酸化防止剤やトコフェロールの含有量の多い植物油脂と一緒に使用されます。
1.4. 分布と歴史
月見草(イブニングプリムローズ)は、北アメリカを原産とし、アメリカの先住民族はその全草を食糧にし、また葉や根をハチミツで煮るシロップを打ち身用の湿布として、種の油を外傷や皮膚炎の治療薬として用いてきた歴史があり、現在ではヨーロッパをはじめ世界各地に分布しています[6][7][8]。
1.5. 化粧品以外の主な用途
月見草油の化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
---|---|
メディカルハーブ | 短期および長期の乾燥肌状態でのかゆみを和らげる目的で伝統的ハーブ経口剤として用いられています[9]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- エモリエント効果
主にこれらの目的で、メイクアップ製品、化粧下地製品、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、クレンジング製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、アウトバストリートメント製品など様々な製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. エモリエント効果
エモリエント効果に関しては、月見草油は皮膚親和性に優れており、閉塞性により皮膚の水分蒸発を抑え、その結果として皮膚に柔軟性や滑らかさを付与するエモリエント性を有していることから[10][11]、各種クリーム、乳液、メイクアップ製品、ヘアケア製品などに汎用されています。
2.2. 配合目的についての補足
月見草油に8-10%範囲で含まれるγ-リノレン酸は、以下の細胞膜の構造図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
脂肪酸鎖としてリノール酸とともに細胞の流動性と安定性を保持している細胞膜の構成成分であり、γ-リノレン酸が不足することと、アトピー性皮膚炎、湿疹、乾燥肌、経皮水分蒸散量の増加などの皮膚障害が関係していることが報告されています[12][13]。
このような背景から、皮膚炎を有する場合や加齢などにより皮膚の乾燥傾向を自覚している場合は、経口・経皮を問わずγ-リノレン酸を摂取することで皮膚状態の回復が期待できますが、健常な皮膚を有する場合はリノール酸からγ-リノレン酸を体内で合成できるため、積極的にγ-リノレン酸を外部から補う必要性は低いと考えられます[14a]。
また、月見草油はγ-リノレン酸を含むという点では特徴的ですが、その含有量が多いとはいえず、直接的に効果を発揮するというよりは、皮膚にγ-リノレン酸が不足していた場合に補うといった補助的な役割を担っていると考えられます[14b]。
3. 混合原料としての配合目的
月見草油は混合原料が開発されており、月見草油と以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | EPB – Evening Primrose Butter |
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構成成分 | 月見草油、水添野菜油 |
特徴 | 月見草油と水添野菜油を混合した融点50-60℃のイブニングプリムローズバター |
原料名 | EMACOL CD-9055 |
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構成成分 | マカデミア種子油、メドウフォーム油、コメ胚芽油、ヘーゼルナッツ油、シア脂油、アボカド油、ホホバ種子油、ツバキ種子油、ブドウ種子油、アーモンド油、月見草油、カニナバラ果実油 |
特徴 | 植物油12種の可溶化液・エモリエント剤 |
原料名 | EMACOL CD-9422 |
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構成成分 | スクワラン、マカデミア種子油、メドウフォーム油、コメ胚芽油、ヘーゼルナッツ油、シア脂油、アボカド油、ホホバ種子油、ツバキ種子油、ブドウ種子油、アーモンド油、月見草油、カニナバラ果実油 |
特徴 | オリーブスクワランと植物油12種の植物由来エマルション・エモリエント剤 |
4. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2017年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗3)。
∗3 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
5. 安全性評価
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
5.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[15]によると、
- [ヒト試験] 600名の被検者に1.99%月見草油を含むファンデーションを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、この試験物質は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(Orentreich Research Corporation,2007)
このように記載されており、試験データをみるかぎり皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
5.2. 眼刺激性
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。
6. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「月見草油」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,648-649.
- ⌃abc日光ケミカルズ株式会社(2016)「油脂」パーソナルケアハンドブックⅠ,1-19.
- ⌃ab鈴木 修, 他(1990)「油脂およびろうの性状と組成」油脂化学便覧 改訂3版,99-137.
- ⌃S.Montserrat-de la Paz, et al(2014)「Phytochemical characterization of potential nutraceutical ingredients from Evening Primrose oil (Oenothera biennis L.)」Phytochemistry Letters(8),158-162. DOI:10.1016/j.phytol.2013.08.008.
- ⌃Beibei Zhao, et al(2019)「Fatty Acid, Triacylglycerol and Unsaponifiable Matters Profiles and Physicochemical Properties of Chinese Evening Primrose Oil」Journal of Oleo Science(68)(8),719-728. DOI:10.5650/jos.ess19091.
- ⌃林 真一郎(2016)「イブニングプリムローズ」メディカルハーブの事典 改定新版,14-15.
- ⌃>ジャパンハーブソサエティー(2018)「イブニングプリムローズ」ハーブのすべてがわかる事典,32.
- ⌃鈴木 洋(2011)「月見草」カラー版健康食品・サプリメントの事典,112.
- ⌃European Medical Agency(2018)「Evening primrose oil」EMA/422144/2018.
- ⌃宇山 侊男, 他(2020)「月見草油」化粧品成分ガイド 第7版,64.
- ⌃平尾 哲二(2006)「乾燥と保湿のメカニズム」アンチ・エイジングシリーズ No.2 皮膚の抗老化最前線,62-75.
- ⌃K.L. Campbell(1990)「Fatty acid supplementation and skin disease」Veterinary Clinics of North America: Small Animal Practice(20)(6),1475-1486. DOI:10.1016/S0195-5616(90)50156-4.
- ⌃B. Melnik & G. Plewig(1991)「Atopic dermatitis and disturbances of essential fatty acid and prostaglandin E metabolism」Journal of the American Academy of Dermatology(25)(5),859-860. DOI:10.1016/S0190-9622(08)80989-9.
- ⌃ab田中 稔久(2002)「γ-リノレン酸を化粧品に配合した時の効果」Fragrance Journal(30)(8),86-88.
- ⌃C.L. Burnett(2017)「Safety Assessment of Plant-Derived Fatty Acid Oils」International Journal of Toxicology(36)(3_suppl),51S-129S. DOI:10.1177/1091581817740569.